大人のための「絵本の読み方」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回のテーマは「絵本をどう読むか」です。

以前の記事絵本をどう選ぶか。そして、どう読んであげるかの続きになります。

 

本当は前の記事で、具体的な読み方について書きたかったんですが、心構え的な話だけで長くなってしまったので。

絵本をどう読めばいいのか? という疑問に対しては、絵本の性質上、二種類の答えが必要になります。

 

それは「一人で読む」場合と「二人以上で読む」場合です。

 

つまり、「大人が自分で読む」読み方と「子どもに読んであげる」読み方は別の物だということです。

 

絵本を大人が一人で読むなんて……」って思いますか?

いえいえどうして、絵本って相当面白いメディアですよ。

 

読み聞かせる側に心からの楽しみと歓びがあれば、それは子どもにもちゃんと伝わります。

豊かな読み聞かせ体験をしようと思うなら、大人の側が絵本を好きになることが、何よりもの近道でしょう。

 

絵本には読み方があります。

文字が読めればいい、というものではないんです。

 

別に格式ばった作法の話ではありませんが、漫画だって、慣れていないとちゃんと物語に入っていけませんからね。

実際、漫画文化が普及していない外国には、漫画を読めない人が結構いるようです。

 

絵本を楽しむためには、まず、「絵をじっくりと読む」ことです。

ただ絵画のように鑑賞するんじゃなく、絵の中に物語を「読む」んです。

 

これは漫画好きの人なら、そう難しいことではないでしょう。

基本的に、絵本は文章がすべてを語っているわけではなく、かなりの部分を想像で補完しなくてはなりません。

それが絵を読むということです。

 

そういう意味で、絵本の絵は「文章のおまけ」ではありません。

文と対等、もしくはそれ以上の関係にあります。

 

大人はつい、テキストのみを読んで絵本の内容を理解した気になりがちですが、それでは作品の半分、あるいはそれ以下しか読んだことにはなりません。

 

表紙から見返し、本文、裏表紙に至るまでじっくりと絵を見れば、そこに様々な物語を読めるはずです。

 

例えば、何気なく描かれた部屋のカット。

そこにあるインテリアから、そこに住む人がどんな人物か、どんな暮らしぶりをしているのか、想像して楽しめます。

壁に貼ってあるポスター、本棚に並んでいる本のタイトル、家具の種類やサイズ……手掛かりは無数にあります。

 

また、作者のちょっとした遊び心で描かれたものを見つけると、何やら自分宛てのメッセージを受け取ったような気にすらなるものです。

映画でもドラマでも、こういうことはあるでしょう?

登場人物が身に付けているものや、使っているものが気になったり。

小説だと、この手は使えません。

↑「14ひきのひっこし」より。

文中では語られないが、キャラクターそれぞれの行動や役割分担などがしっかり描かれている。

↑「ピヨピヨスーパーマーケット」より。

陳列棚に並べられた商品が細密に描かれている。また、駄々をこねる子どもたちなど、本筋と関係のない物語も、サブ・ストーリー的に読むことができる。

↑「おおかみと7ひきのこやぎ」より。

戸棚をよく見ると、写真立てらしきものが。本文には登場しないが、これがこやぎたちの父親では? と想像できる、作者の遊び心。

 

……などなど、ほんの一部の例を挙げましたが、映画と違って、1シーンごとをじっくり鑑賞できるのも、絵本の特徴です。

すぐれた絵本ほど、不必要な文章は削られ、無意味な絵は描かれません。

 

さて、そうやって想像を広げてゆけば、文には語られない登場人物の性格、思考、感情などが見えてきます。

さらに、作者の意図、思想、隠されたメッセージなども捉えられるようになってきます。

 

この手の「深読み」は読者の自由であり、ひとりひとりの解釈に正解も不正解もありません。

「よい絵本」をあえて定義するならば、こうした「無限の解釈の可能性」という「余地」を残しているかどうかが挙げられると思います。

 

私自身、このブログで色んな絵本を紹介する中で、勝手な解釈をあれこれ述べていますが、それらはあくまで個人的な「読み」であり、正解などではありません(当たり前ですけど、念のため)。

「こういう読み方もあるよ」と提示することで、「絵本って面白そう」と、一人でも多くの方に思ってもらいたいだけです。

 

ですから、「スーホの白い馬」とか「スイミー」とかが、国語の教科書に載ることは、それ自体はいいんですが、

この物語を通じて作者は何を言いたいのか

この場面において、主人公はどんな感情を持ったのか

なんていうお定まりの「読解問題」などに落とし込んで、単一の「正解」を当てはめてしまうようなことは、本当に馬鹿らしいことだし、もっと強く言えば、作品に対する冒涜だと思います。

 

第一、教科書用に編纂した時点で、それはすでに絵本として死んでいます。

絵本はその大きさ・形・色・構成・テキストの位置と配分・紙の質などの要素すべてが合わさって、初めてひとつの作品となります。

 

また漫画を例に出しますが、海外に行った時、向こうで出版された日本の漫画を読んだことがあります。

その国では本は左開きなので、本来と逆のページ進行に変更されていました。

 

そうすると、まあ読みにくいこと。

単に慣れの問題ではなく、絵の向きが逆になると、スピード感が失われたり、作者の本来の意図が破壊されたりするのです。

 

絵本も然り。

3びきのやぎのがらがらどん」で有名な絵本作家・マーシャ・ブラウンさんは、作品ごとに、その物語に合う画材・技法・レタリング・印刷・製本までを考えて制作に臨むといいます。

ですから、彼女の絵本は、ぱっと見ただけでは、同じ作者のものだと気づかないことがあります。

 

そうしたことを知ると、絵本をただの「子ども用の本」などと軽んじることはできなくなります。

 

私は、病院の待合室などで、絵本コーナーの絵本を真剣に読んでいたりします。

まあ……周りの目がまったく気にならないと言えば嘘になりますが。

 

絵本は大人が読んでも面白い、ということをもっと広めて、堂々と大人が絵本を読める時代が来ることを祈る次第です。

 

また長くなってしまいました。

今度は、子どもへ読み聞かせる場合の読み方について、近いうちに書きたいと思います。

 

関連記事≫絵本の紹介「14ひきのひっこし」

≫絵本の紹介「ピヨピヨスーパーマーケット」

≫絵本の紹介「おおかみと7ひきのこやぎ」

 

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絵本の紹介「ティッチ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介する絵本は「ティッチ」です。

作・絵:パット・ハッチンス

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1975年4月25日

 

ハッチンスさんはイギリス出身で、ニューヨーク滞在中に発表した「ロージーのおさんぽ」で絵本界デビューしました。

明るい色彩と、多くを語らない文章で、子どもを引き付ける展開の作品が特徴。

 

この「ティッチ」は、兄弟のおはなしです。

ティッチは小さな末っ子。

兄さんと姉さんはいろいろと大きくていいものを持っていますが、ティッチが持っているのは小さなものばかり。

 

おもちゃも、自転車も、楽器も……。

 

そのたびにティッチの不満そうな顔と、兄さんたちの得意げな顔が描かれます。

セリフはありませんが、心情は十分に伝わってきます。

最後に、兄さんが大きなショベルで、姉さんの大きな植木鉢に土を入れ、ティッチが小さな種を植えると……。

その種は芽を出し、ぐんぐん大きく育ちます。

小さな種と、成長途上にある小さな末っ子を重ね合わせたラストシーンです。

 

★      ★      ★

 

時代とともに家族の在り方が変われば、当然兄弟関係も変化します。

ティッチのように、兄弟間での劣等意識を持つ末っ子は、現在でもたくさんいるのでしょうか。

 

例えば父親が力を持ち、子どもが父親に恐怖を感じるような家庭は、今ではずいぶん減ったでしょう。

もっとも、その代わりに、別の歪みが家庭を支配しているケースが増えたように感じますが。

 

なんにせよ、「劣等感」というものは非常に厄介で、できれば子どもに植え付けたくない感情です。

下手をすると人生の長きに渡って悪影響を及ぼし続けますから。

 

でも、この絵本に描かれているように、子どもにそういう負の感情を抱かせる要因は、家庭にこそ充満しているのです。

 

あんたはまだ小さいんだから

お母さんが代わりにやってあげる

危ないから、やめなさい

そんな何気ないひとつひとつの言葉が、子どもの心に刺さってはいないでしょうか。

 

子どもの自尊心を損なわないことは、とても難しいですが、非常に重要なことだと思います。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

兄さんたちのドヤ顔が過ぎる度:☆☆☆

 

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絵本の紹介「飼育係長」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、一度見たら忘れられないインパクトの絵本、「飼育係長」です。

作・絵:よしながこうたく

出版社:長崎出版

発行日:2008年2月11日

 

作者のよしながさんは福岡出身のイラストレーター。

初めての絵本「給食番長」が大人気となり、以後、「わんぱく小学校シリーズ」として続編を次々に刊行。

 

この「飼育係長」はその2作目に当たります。

 

何と言っても、絵が衝撃的。

ちょっと自己主張が強すぎる画風に、敬遠される方もいるかもしれません。

 

登場する動物たちは、可愛いというよりも不気味だし、画面の隅々でうごめく小さな動物たち(これを探すのも楽しみの一つですが)は、「どこの星の生物?」だし。

 

でも、内容はわりとテーマがはっきりした、オーソドックスな絵本だったりします。

わんぱく小学校1年2組の個性あふれる生徒たち。

今回は動物大好き、飼育係の「まさお」が主役。

 

動物園からの遠足の帰り、まさおのリュックに動物の子が潜り込んでいました。

まさおはこの子を「シマ子ブタ」だと言い張り、こっそり学校で飼うことにします。

「しまぷー」と名付けた子ブタに、まさおは毎日たくさんエサをあげますが、夏休みの終わり、しまぷーは巨大な姿に成長、キバまで生えてきます。

 

どうやらブタではなく、イノシシだった模様。

でも、まさおは相変わらず小屋の中でエサをやり続けます。

 

そしてある日、しまぷーは飼育小屋から脱走してしまいます。

 

探し回っても見つからず、仕方なくまさおたちは動物園に行き、園長に打ち明けます。

園長は、動物を飼育することの難しさや責任について、まさおたちに説いて聞かせます。

エサをあげればいいってもんじゃないんですよね。

そこで、しまぷーと感動の再会。

しまぷーは狭い小屋を抜け出して、動物園に戻ってきたのでした。

 

★      ★      ★

 

絵は個性的でも、メッセージは明確。

そしてこのシリーズのもう一つの特徴は、「福岡」という作者の地元を強力に押し出した「ご当地絵本」であること。

 

標準語の本文の他に、博多弁バージョンの文がついた、方言バイリンガル絵本なのです。

面白い試みだと思いますが、私としては、むしろ標準語は完全に排除して、博多弁一本で勝負して欲しかったです。

 

子どもが幼いうちからの英語教育に熱心な方が、子どもが方言を覚えることを嫌がるのは奇妙な気がします。

「多様な言語文化」を学ぶことが目的なら、どんどん方言を教えても問題ないはずです。

何よりも、子どもは方言が大好きですし。

 

標準語版がいらないという理由のひとつは、ページにおける活字の配分を少なくしてほしいからです。

だって、絵の情報量が凄いから。

どうしても字が邪魔に感じてしまうんですよね。

どうせなら手書き字体のほうが、この絵にはしっくり来るような気がしますが、どうでしょうかね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆(博多弁に馴染みがない人の場合)

地元愛度:☆☆☆☆☆

 

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