絵本の紹介「こんとあき」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

現在、我が家の絵本棚には1200冊以上の絵本が並んでいます。

それだけの数があると、何度でも読んでもらえる絵本も絞られてきます(もちろん、選考者は息子です)。

 

今回紹介する「こんとあき」は、そんな熾烈なレギュラー争いを勝ち抜いた一冊です。

作・絵:林明子

出版社:福音館書店

発行日:1989年6月30日

 

林さんの絵本を紹介するのはこれで3度目ですが、彼女の作品の中では私自身もこれが一番のお気に入りです。

相変わらず、絵が上手い。

 

特に、子どもの表情と、肌の質感がたまりません。

ほっぺたを触りたくなります。

 

内容としては、女の子とぬいぐるみの友情物語、という体裁ではありますが、その中に実に様々な要素が詰め込まれていて、しかもそれが無理なく絶妙に調和されており、何層にも深みのある絵本となっています。

 

おばあちゃんに赤ちゃんのおもりを頼まれて「さきゅうまち」からやってきた、きつねのぬいぐるみの「こん」。

あき」というのが赤ちゃんの名前。

ふたりはいつでもいっしょに遊んで、あきはだんだん大きくなり、こんはだんだん古くなります。

ある日、とうとうこんの腕がほころびてしまいます。

だいじょうぶ、だいじょうぶ

さきゅうまちに かえって、おばあちゃんに なおしてもらってくる

と、出かけようとするこんに、あきはついて行くことにします。

こんとあきは特急列車に乗り、「さきゅうえき」に向かいます。

途中で弁当を買いに行ったこんがドアにしっぽを挟まれるトラブルに遭いながらも、ふたりは「さきゅうえき」に到着します。

 

ちょっとだけ砂丘を見たい、とあきが言い、ふたりは砂丘に足跡をつけます。

そこでもトラブルが起こり、こんは野良犬にくわえられ、連れ去られてしまいます。

 

あきはどうにか砂に埋められたこんを見つけ出し、背中におぶって、おばあちゃんのうちへ向かいます。

こんは小さな声で「だいじょうぶ、だいじょうぶ」としか言わなくなってしまいます。

とうとうおばあちゃんのうちに辿り着いたあきは、おばあちゃんの胸に飛び込んで、

おばあちゃん、こんを なおして!

と懇願します。

 

おばあちゃんはふたりを家に入れ、こんのあちこちをしっかり縫い付け、仕上げにお風呂に入れて、「できたてのように きれいな きつね」にしてくれます。

 

★     ★     ★

 

息子はいろいろな絵本のキャラクターになりきりますが、この絵本では必ず「こん」になります(私は「あき」にされます)。

いつもあきの先に立って彼女をリードする、ちょっと背伸びしたようなこんが、子どもの目にもとても魅力的に映るのだと思います。

 

逆に、親の目から読むと、各ページごとのあきの表情の変化が胸に響きます。

表紙の、こんを見る優しい顔。

汽車の席で、こんの帰りを待つ不安げな顔。

こんといっしょにお弁当を食べている時の無防備な顔。

砂丘で犬に遭遇した時の怯えた顔。

 

そして何よりも、砂に埋まったこんを抱き上げた時の顔と、見開きでこんをおぶって砂の山を下って行く姿は、何度見ても涙が出そうになります。

 

設定は一風変わっていますが、これは王道の「冒険成長物語」です。

あきの成長は、「行間を読む」ような仕方で「絵を読む」ことで伝わってきます。

 

さらに、この絵本を味わい深いものにしているのは、いつもの林さんの遊び心。

駅や汽車に登場する人物をよく見ると、林さんの他の作品からの友情出演があったり、なぜかチャップリンがいたり、「不思議の国のアリス」や「ピーターラビット」のキャラクターがいたり。

 

それに、「さきゅう」はどう見ても鳥取砂丘。

あげどんべんとう」(レシピが存在します)にも鳥取名物の豆腐入りちくわが入っています。

林さんのご両親(表紙の優しそうな老夫婦のモデルらしいです)が鳥取県出身ということで、いわば「ご当地絵本」としての側面も持っているんです。

 

まだまだ語りたいことはいろいろありますが、きりがないのでこのへんで。

とにかく、読んだことのない方は一度読んでみてください。

 

ラストの「よかった!」を読むとき、いつも子どもと心が一つになれます。

幸せになれる絵本です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

こんの存在感度:☆☆☆☆☆

 

林明子さんの他の作品記事

≫絵本の紹介「はじめてのおつかい」

≫絵本の紹介「おつきさまこんばんは」

 

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絵本の紹介「アンパンマンのサンタクロース」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

クリスマス絵本特集第8回は、「アンパンマンのサンタクロース」(作・絵:やなせたかし、フレーベル館)を紹介します。

初期のころの絵本とアニメ版のアンパンマンとの差異については、以前の記事で書きました。

 

≫絵本の紹介「あんぱんまん」

 

この「アンパンマンのサンタクロース」が出版されたのは1981年ですが、そのころにはすっかり人気も確立し、表記も平仮名からカタカナの「アンパンマン」となり、ばいきんまん、しょくぱんマン、カレーパンマンなどのレギュラー勢も定着し、安定しなかったアンパンマンの頭身も、無事2頭身に収まっています。

 

それでもまだまだ、アニメ版にはないシュールさは健在です。

クリスマスの準備中、助けを呼ぶ声を聞いて、飛び出すアンパンマン。

雪山に埋もれていた「くまの サンタクロース」とトナカイを救出します。

 

くまのサンタさんは一命をとりとめたものの、しもやけで動けません。

そこで、ジャムおじさんはアンパンマン・しょくぱんマン・カレーパンマンのうちの誰かをサンタクロースの代理に立てようとします。

だれが いちばん サンタクロースが にあうかなあ?

選ばれたのはアンパンマン。

ホイップで付けひげ。

それにしても、このしょくぱんマンの不満そうな顔、秀逸です。

 

そして、こどもたちへプレゼントを配りに飛び立つアンパンマン。

そのシーンが……

適当すぎるだろ。

 

そして案の定、半分も配り終えていないうちにプレゼントが足りなくなってしまうという自滅っぷり。

このあたりのダメさ加減が、アニメ版の優等生キャラとは一線を画すところ。

 

困っているアンパンマン(自業自得)を助けに来るのは、なんと本物のサンタクロース。

しょくぱんマンたちも手伝って、無事にプレゼントを配り終えましたとさ。

めでたしめでたし。

 

……ところで、「くまの サンタクロース」って何だったんでしょう。

ほんものの サンタクロース」は人間のおじいさんです。

つまり、この世界において、サンタさんは複数いることになります。

ノンタン!サンタクロースだよ」的な設定なのでしょうが、説明は一切ありません。

それに、くまのサンタも人間サンタも、プレゼントの管轄は同じようです。

 

謎だ……。

しかし、そんなアバウト設定も、絵本版アンパンマンのいいところ。

 

≫絵本の紹介「ノンタン!サンタクロースだよ」

 

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絵本の紹介「ぐりとぐらのおきゃくさま」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

クリスマス絵本特集第5回は、おなじみ超ロングセラーシリーズより、「ぐりとぐらのおきゃくさま」(文:中川李枝子、絵:山脇百合子、福音館書店)を紹介します。

マント姿がかわいいぐり&ぐら。

ぐりとぐら」シリーズについての考察は過去記事をお読みください。

 

≫絵本の紹介「ぐりとぐら」

 

シリーズ屈指の人気を誇るこの作品ですが、ミステリー絵本仕立てになっているのが特徴です。

そう、子どもにとって、これは初めての「推理探偵」物語になるかもしれません。

事件は謎の足跡から。

これは おとしあなじゃない。 あしあとだぞ

うん、たしかに ながぐつの あとだ

きつねかな

きつねより おおきいよ

と、ちゃんと論理的推理を進めるぐりとぐら。

足跡を追跡していくと、なぜか自分たちの家にたどり着きます。

謎が謎を呼ぶ展開。

 

玄関には巨大な長靴が、そして部屋に入ると、真っ赤なオーバー、真っ白な襟巻、真っ赤な帽子が次々に見つかります。

ヒントが小出しされるところも、ミステリーの王道です。

 

お客様は寝室にもいない、お風呂にもいない。

その時、カステラを焼くいい匂いがしてきて、2ひきが台所へ飛んでいくと、真っ赤なズボンのおじいさんが、でっかいクリスマスケーキを焼いていたのでした。

もちろん、お客様の正体はあのお方なわけですが、このおじいさん、妙に顔が若々しく、最後に衣装をフル装備するまで、一目で「サンタさん」と判別するのは難しくなっています。

そして結局最後まで「サンタクロース」という単語は出てきません。

 

もちろん、これらはすべて作者の二人による計算です。

状況証拠を積み重ねて真実に近づいていく「謎解き」の楽しみを、丁寧に構築しているのです。

 

もう一度表紙に戻ってください。

タイトルは「ぐりとぐらのおきゃくさま」。

モミの木の絵はあるけれども、飾りつけがあるわけでもなく、これが「クリスマスの絵本」であることは、初見ではわかりません。

ちゃんとネタバレにも気を使っているんですね。

 

そして、最後まで文中で明らかにされないおじいさんの正体は、子どもに「自分だけが解き明かした真実」という歓びを与えます(単なる不法侵入者のおじいさんかもしれないじゃないか、という大人の突っ込みは無視)。

 

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絵本の紹介「あんぱんまん」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

我が家では、滅多にテレビをつけません。

別に見たいものがないということもありますが、子どもが2歳くらいになるまでは、液晶画面を見せるのはやめようと思っていたからです。

やはり、テレビの音や光は、赤ちゃんには刺激が強すぎると思うのです。

 

赤ちゃんが、圧倒的な情報量のテレビ画面に釘付けになるのは当たり前です。

それを、「喜んでいるから」「楽だから」と、テレビやスマホに子守りをさせるという風潮は少し心配です。

 

赤ちゃんの健全な五感の発達という面から考えれば、静かな部屋で抱っこしながら絵本を読み聞かせる以上の仕事を、電子機器が代わってくれるとは思えません。

 

今回紹介するのは、アニメ版とはかなり違う、原作絵本としての「あんぱんまん」です。

大人気ですよね、アンパンマン。

ですが、初期の絵本とアニメキャラクターとしてのアンパンマンには、ずいぶんと相違があります。

これは「アンパンマン」シリーズの第一作ですが、何が違うといって、この頭身。

背、高い。

このボディにアンパンの顔が乗っかっている姿は、シュールの一言。

これで首が無くなったら、ただのホラー絵にも見えてしまう。

でも、ちゃんと縮みます。

 

まだ「ばいきんまん」も、ほかのパン仲間も登場しません。

ただ、あんぱんまんがお腹を空かせた人々に「さあ、ぼくのかおを たべなさい」と迫るだけ(結構怖い)のおはなし。

ジャムおじさんにも名前がありません。

 

アニメ版は、原作の持つこのシュールさや、あんぱんまんの飄々としたキャラクターが失われていて、個人的には好きではありません。

あんぱんまんは単なる良い子の正義の味方ではありません。

そこには、本来、作者のやなせさんの「正義」に対する考えが込められていたはずなのです。

 

戦争で従軍体験したやなせさんは、「正義」の裏にある暴力性を痛感し、単純な「正義」という言葉を疑問視するようになっていました。

やなせさんは、普遍的な「正義」とは、「ひもじいものに食べ物を分け与える」行為だと考えました。

そして、自ら体を張ってその「正義」を代行するヒーローとして、「あんぱんまん」が誕生したのです。

 

仕方のないことかもしれませんが、アニメ版からはそういう背景は一切感じられませんし、商業的に、子どもが喜びそうなことを詰め込んだ作品になっています(それが悪いとは思いませんが)。

アニメの「アンパンマン」で育った子どもは、この絵本を見てどう感じるでしょうか。

「なにかちがう」と敬遠するでしょうか。

けれど、いつの時代も、子どもの目は確かです。

本当にすぐれた絵本は、必ず正当な評価を受け、選ばれ、読み継がれていくものだと思います。

 

 

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絵本の紹介「ぞうのババール」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は「ぞうのババール」を紹介します。

1931年に発表されて以来の人気シリーズで、アニメ化もされています。

主人公であるババールが、ジャングルからパリへ逃亡し、そしてぞうの王国を作って王様となり、子どもを育て……といった壮大なスケールのファンタジーですが、これはその子どものころの話を描いたシリーズ第一作です。

 

しかし、一部では批評の的にもされています。

内容が政治的で、植民地政策を肯定するように捉えられるというのです。

 

私はその点はあまり深く考えずに読みましたが、それとは別のところで引っかかる部分がありました。

それは後述するとして、まずはざっとストーリーを追いましょう。

ジャングルで母親と幸せに暮らしていたババールですが、母親はある日狩人の銃弾によって斃れてしまいます。

ババールは必死に逃げて、パリの街へたどり着きます。

 

初めての街に興奮するババール。

そこで「ぞうのきもちなら なんでもわかる 大がねもちの おばあさん」に出会って、服や車を買ってもらい、何不自由ない暮らしを手に入れます。

しかし、やはりジャングルが恋しいババール。

そこへ、いとこのアルチュールとセレストが訪ねてきます。

 

ババールは彼らとともにジャングルに帰ることにします。

ちょうどそのころ、ジャングルでは王様ぞうが毒キノコにあたって死んでしまい、後継者問題が浮上していました。

そこへきれいな服を着て、立派な車に乗って帰ってきたババールを見たぞうたちは、彼を新しい王様にすることにします。

 

ババールはセレストを妃として迎え入れ、盛大な結婚式のあと、気球に乗って新婚旅行に出かけます。

 

……と、ここまでが第一作のおはなし。

 

どうです、この清々しいまでのご都合主義。

 

ぞうのきもちなら なんでもわかる 大がねもちの おばあさん」に、欲しいものは何でも買ってもらえるんですよ。

ジャングルが恋しくなると、どこでどう知ったか、いとこたちが遊びに来て、ジャングルに帰ると、ちょうどそのタイミングで王様が死んで、周りが勝手にババールを新王として奉ってくれるんですよ。

 

もちろん、絵本にはご都合主義も大いに認められていますが、さすがにここまでくるとギャグの領域です。

絵もかわいいし、楽しくて幸せなお話なんですが……。

 

私が引っかかったのは、やはり冒頭の母親ぞうの死です。

突然に訪れる不幸。

それも、子どもにとって最も重大で最も悲しい、母親の死です。

それが、あんなに軽いタッチで、あまりにもあっさりと描かれているのは、どういうことでしょう。

 

それだけの衝撃のあとで、ババールはこれまたあっさりと街の面白さに我を忘れ、浪費を楽しんでいるのです。

それも子どもの特権と言えばそうなのですが……。

 

ともかく、私にとっては、母親の死についての冷淡さが、そのあとのご都合主義を、子どものための物語というより、大人の、ややブラックなユーモアに見せてしまうように思えたのです。

 

しかし、この絵本の裏側を調べて、その気持ちは変わりました。

 

作者のジャン・ド・ブリュノフさんには、マチューとロランという二人の子どもがいました。

幼い二人を楽しませるために、妻のセシルさんが作った小さな象のおはなしを原点にして、「ババール」が生まれたのです。

 

実は、ブリュノフさんは当時、結核にかかり、自らの余命がいくらもないことを知っていたそうです。

そんな状況で誕生した「ババール」シリーズは、1931年の第一作から、1937年にブリュノフさんがわずか37歳で亡くなるまでに、ほとんど一年に一冊というペースで描かれ続けたのです。

 

彼を創作に駆り立てたものは、まだ幼い二人の子どもを残してこの世を去らなくてはならない父親としての、命がけのメッセージではないでしょうか。

 

そう考えてみると、あの少々趣味の悪いユーモアに思えた「ババール」におけるご都合主義の数々が、違ったものに見えてきたのです。

 

人生には、突然の、避けようもない不幸が存在する。

しかしそれでもなお、人生は楽しく、幸せに満ち溢れている。

だから、不幸に打ちひしがれることなく、人生を思い切り楽しみなさい。

 

ブリュノフさんが死の間際まで描き続けた「ババール」に込められたのは、そのような、子どもたちへの極上のエールだったのではないでしょうか。

 

 

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