2018.07.18 Wednesday
【絵本の紹介】「よるのびょういん」【257冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は写真絵本を持ってきました。
「よるのびょういん」です。
作:谷川俊太郎
写真:長野重一
出版社:福音館書店
発行日:1985年2月15日(こどものとも傑作集)
タイトルで誤解しないよう言っておきますけど、ホラー要素はありませんよ。
上質なドキュメンタリー形式のフィクション絵本です。
文は詩人・谷川俊太郎さん。
写真を撮影しているのは記録映画「1964年東京オリンピック」に参加した長野重一さん。
同映画には谷川さんも脚本家として参加されています。
病院の仕事を紹介する絵本は色々とありますが、これは少年の緊急手術というストーリーを付け、俳優たちによる演技をモノクロフィルムに映すという手法を取ることで、いわゆる科学絵本や知識絵本とは一線を画す、緊迫感と絶妙なユーモアの感じられる特異な作品に仕上がっています。
朝からお腹が痛いと言っていた少年「ゆたか」が、夜中に高熱を出します。
父親は新聞社の夜勤という設定で、母親が救急車を呼ぶことになります。
熱でぼうっとなりながらも、初めての救急車に興奮するゆたか。
病院に着くと当直の先生が颯爽と白衣に腕を通しながら階段を駆け下りてきます。
「すぐに しゅじゅつだ!」
ドキドキする展開。
要所要所に病院の仕事や機械などが登場し、子どもの「知りたい欲」をくすぐります。
一方、ゆたかの父親は母親から連絡を受けますが、ここでも夜の新聞社での仕事を垣間見ることができ、「輪転機」などのワードもさりげなく差し込まれます。
谷川さん、わかってらっしゃる。
手術が続く中、夜の病院で働く人々が写されます。
看護婦さんやボイラーマン、集中治療室の様子など。
病院とは、お医者さんと看護婦さんだけの職場ではないのです。
ゆたかの手術は無事に終わり、ほっとした空気が流れます。
★ ★ ★
ゆたかの病気は要するに盲腸で、深刻なものではないのですが、お腹を切るのですから、子どもたちにとってはドキドキするような本物の手術であることには変わりありません。
恐怖を感じさせることなく、この非日常のハラハラ感を演出できるのは、モノクロ写真の力と、谷川さんの文の力にあります。
「ずいぶん おんぼろもうちょうだけど、きねんに うちへ もってかえるかい」
と冗談を飛ばす先生や、
「まえから おれが いってたろう、ぶどうの たねは はきださないと もうちょうになるって」
と、真剣な様子で言う父親。
緊張感漂う全編において、ふっと肩の力を抜けるような、絶妙なユーモアが秀逸です。
ちなみに谷川さんによる写真絵本では他に「なおみ」という作品がありますが、これもホラーではないのですが、こちらは人形の写真のインパクトが強烈過ぎて「怖すぎる」絵本として一部で有名です。
谷川さんとしては不本意でしょうけど。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
ブドウの種で盲腸になるのは迷信ですよ度:☆☆☆☆☆
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