2019.01.21 Monday
【絵本の紹介】「もん太と大いのしし」【298冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今年は亥年ということで、イノシシの登場する絵本を紹介したいと思います。
本当はこれを新年一発目に持ってくる予定だったんですが、バーニンガムさんの訃報があって、色々と後回しになっちゃいました。
馬場のぼるさんによる「もん太と大いのしし」です。
作・絵:馬場のぼる
出版社:ポプラ社
発行日:1975年8月
馬場さんと言えば何と言っても「11ぴきのねこ」シリーズが有名ですね。
ちなみにこのブログでも取り上げた「11ぴきのねことあほうどり」の記事が、「ナースときどき女子」というサイトの絵本特集企画で紹介されました。
≫「大人も子どもも絵本の世界に。ナースの心を温める絵本レビュー特集」
「11ぴき」は絵本史に残る傑作ですが、「11ぴき」があまりにも有名すぎて、馬場さんの他作品は意外と知られていなかったりします。
けど、もちろん馬場さんは他の作品も多く手掛けていますし、どれもそれぞれの面白さがあります。
この「もん太と大いのしし」は、絵本としてはやや長めで、ストーリーには少年漫画的な熱さと清々しさが溢れています。
「11ぴき」とはまた違った馬場さんの魅力に触れることのできる一冊で、ぜひ一度目を通していただきたい作品です。
「むかしむかし、かきの木とうげの 山おくに」矢でも通さない固い背中の大いのししが棲んでいました。
いつからいるのか誰も知らない、ある種山の神様のような存在です。
そのふもとの村の「もん太」という若者が、ある日鳥を狩りに来て、ばったり噂の大いのししに遭遇します。
とんでもない大きさの大いのししに見とれてしまうもん太ですが、我に返って弓をつがえ、射かけます。
ところが、大いのししは矢を跳ね返して平然としています。
おまけに不敵な笑みを浮かべ、
「まあ、なんだ、しっかり がんばりな」
と、逆にもん太を激励する余裕っぷり。
村に帰り、
「あの大しょうを射とめるには、もっと つよい弓が ひけるようにならねば だめだな」
と呟くもん太を、かんすけたちが笑います。
喧嘩になったところを、「長者のおきちばあさま」がやってきて、若者たちをさらに煽ります。
大いのししを射とめた者には馬をくれると言うのです。
俄然やる気になったかんすけたちは計略を使って大いのししを岩で押し潰そうと企みますが、もん太は「やるなら、男らしく」弓で射とめろ、と制止します。
もみ合いの末、岩が転げ落ちてしまいますが、大いのししは頭突きで岩をふっ飛ばしてしまいます。
すっかり毒気を抜かれた格好のもん太たちですが、おきちばあさまはもん太を励まし、石うすを使った弓の稽古を薦めます。
やがて冬が来て、ある雪の晩、突然もん太のうちを大いのししが訪ねてきます。
驚くもん太に構わず、大いのししは囲炉裏端に上がり込んで横になって寝てしまいます。
一体どうして大いのししがここに来たのか、もん太にはさっぱりわかりません。
次の朝目を覚ますと、大いのししはおらず、その足跡を発見した村人たちが大騒ぎ。
黙って大いのししを行かせたもん太は村人から責められてしまいます。
村にまでやってくるとなると放っておくわけにはいかず、村人たちは大いのしし討伐隊を結成し、峠へ向かいます。
彼らの前に姿を見せた大いのししは、襲い掛かるわけでもなく、狙い易いように背中を向けて座り込みます。
そこへ一斉に弓が射かけられますが、まるで歯が立ちません。
しかし、その時一本の矢が鋭く唸りを上げ、大いのししの肩に突き刺さります。
「むむっ、もん太だな……」
大いのししは崖から転がり落ち、沼に沈んで消えます。
見事に大いのししを射とめ、おきちばあさまから褒められても、もん太はどうも気分が晴れません。
どうして嬉しくないのか、自分にもわからないのです。
ところがそれからしばらくして、もん太は偶然山であの大いのししに再会します。
「大しょう、いきてたのかい」
肩にもん太の射た矢を突き刺したままの大いのししは相変わらず不敵に笑って、
「これは なかなか きいたぞ、もん太」
「おかげで わしの かたのこりも すっかり なおっちまって、いいあんばいだぞ」
これを聞いたもん太は笑い出し、大いのししも笑いながら悠々と去って行くのでした。
★ ★ ★
いやあ、気持ちいいくらい男の子の世界です。
友情・努力・勝利。
少年漫画には良きライバルの存在が必須ですが、この大いのししのキャラクターの深みのあること。
彼ともん太との会話が実にいい。
大いのししは物語的にはもん太の「父親」です。
もん太にとって大きく、強く、越えがたい存在であり、いつか乗り越えるべき壁でもあります。
しかし心のどこかでは、いつまでも越えられない壁であり続けて欲しい気持ちもあり、それが少年の感情を複雑化し、それによって彼は成熟へと導かれるのです。
子どもにとって、憧れの大人から対等に扱われ、敬意を示されることは、何事にも代えがたい喜びです。
そしてその経験が子どもの精神の成長に大きく影響します。
もん太の弓を問題にしなかった大いのししが、ひとり温泉に漬かりながらもん太を思い出し、「あの矢は よかったぞお」と呟くシーンは、何だかにやりとしてしまいます。
男の子にとって、こんなにも自尊心をくすぐられる場面はないでしょう。
背中を見せて無防備に眠る大いのししに矢を射かけられないもん太、そのことを村人に責められてしまうもん太。
ついに大いのししを射抜くも、どこか寂しい気持ちになるもん太、すべてを理解して笑うもん太。
遥か高いところに聳え立っていた大いのししと、男同士理解し合えたこの瞬間、もん太は大人の階梯を上り出したのです。
息子を持つ父親として、そしてひとりの男として、こんな関係性には何歳になっても胸が熱くなります。
眩しいばかりの男の子絵本です。
推奨年齢:7歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
大いのししの余裕と貫禄度:☆☆☆☆☆
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■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「200冊分の絵本の紹介記事一覧」
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