【絵本の紹介】「もん太と大いのしし」【298冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年は亥年ということで、イノシシの登場する絵本を紹介したいと思います。

本当はこれを新年一発目に持ってくる予定だったんですが、バーニンガムさんの訃報があって、色々と後回しになっちゃいました。

 

馬場のぼるさんによる「もん太と大いのしし」です。

作・絵:馬場のぼる

出版社:ポプラ社

発行日:1975年8月

 

馬場さんと言えば何と言っても「11ぴきのねこ」シリーズが有名ですね。

ちなみにこのブログでも取り上げた「11ぴきのねことあほうどり」の記事が、「ナースときどき女子」というサイトの絵本特集企画で紹介されました。

≫「大人も子どもも絵本の世界に。ナースの心を温める絵本レビュー特集」

 

「11ぴき」は絵本史に残る傑作ですが、「11ぴき」があまりにも有名すぎて、馬場さんの他作品は意外と知られていなかったりします。

けど、もちろん馬場さんは他の作品も多く手掛けていますし、どれもそれぞれの面白さがあります。

 

この「もん太と大いのしし」は、絵本としてはやや長めで、ストーリーには少年漫画的な熱さと清々しさが溢れています。

「11ぴき」とはまた違った馬場さんの魅力に触れることのできる一冊で、ぜひ一度目を通していただきたい作品です。

 

むかしむかし、かきの木とうげの 山おくに」矢でも通さない固い背中の大いのししが棲んでいました。

いつからいるのか誰も知らない、ある種山の神様のような存在です。

 

そのふもとの村の「もん太」という若者が、ある日鳥を狩りに来て、ばったり噂の大いのししに遭遇します。

とんでもない大きさの大いのししに見とれてしまうもん太ですが、我に返って弓をつがえ、射かけます。

ところが、大いのししは矢を跳ね返して平然としています。

おまけに不敵な笑みを浮かべ、

まあ、なんだ、しっかり がんばりな

と、逆にもん太を激励する余裕っぷり。

 

村に帰り、

あの大しょうを射とめるには、もっと つよい弓が ひけるようにならねば だめだな

と呟くもん太を、かんすけたちが笑います。

 

喧嘩になったところを、「長者のおきちばあさま」がやってきて、若者たちをさらに煽ります。

大いのししを射とめた者には馬をくれると言うのです。

 

俄然やる気になったかんすけたちは計略を使って大いのししを岩で押し潰そうと企みますが、もん太は「やるなら、男らしく」弓で射とめろ、と制止します。

もみ合いの末、岩が転げ落ちてしまいますが、大いのししは頭突きで岩をふっ飛ばしてしまいます。

 

すっかり毒気を抜かれた格好のもん太たちですが、おきちばあさまはもん太を励まし、石うすを使った弓の稽古を薦めます。

やがて冬が来て、ある雪の晩、突然もん太のうちを大いのししが訪ねてきます。

驚くもん太に構わず、大いのししは囲炉裏端に上がり込んで横になって寝てしまいます。

一体どうして大いのししがここに来たのか、もん太にはさっぱりわかりません。

 

次の朝目を覚ますと、大いのししはおらず、その足跡を発見した村人たちが大騒ぎ。

黙って大いのししを行かせたもん太は村人から責められてしまいます。

 

村にまでやってくるとなると放っておくわけにはいかず、村人たちは大いのしし討伐隊を結成し、峠へ向かいます。

彼らの前に姿を見せた大いのししは、襲い掛かるわけでもなく、狙い易いように背中を向けて座り込みます。

そこへ一斉に弓が射かけられますが、まるで歯が立ちません。

しかし、その時一本の矢が鋭く唸りを上げ、大いのししの肩に突き刺さります。

むむっ、もん太だな……

大いのししは崖から転がり落ち、沼に沈んで消えます。

 

見事に大いのししを射とめ、おきちばあさまから褒められても、もん太はどうも気分が晴れません。

どうして嬉しくないのか、自分にもわからないのです。

 

ところがそれからしばらくして、もん太は偶然山であの大いのししに再会します。

大しょう、いきてたのかい

肩にもん太の射た矢を突き刺したままの大いのししは相変わらず不敵に笑って、

これは なかなか きいたぞ、もん太

おかげで わしの かたのこりも すっかり なおっちまって、いいあんばいだぞ

 

これを聞いたもん太は笑い出し、大いのししも笑いながら悠々と去って行くのでした。

 

★      ★      ★

 

いやあ、気持ちいいくらい男の子の世界です。

友情・努力・勝利。

 

少年漫画には良きライバルの存在が必須ですが、この大いのししのキャラクターの深みのあること。

彼ともん太との会話が実にいい。

 

大いのししは物語的にはもん太の「父親」です。

もん太にとって大きく、強く、越えがたい存在であり、いつか乗り越えるべき壁でもあります。

しかし心のどこかでは、いつまでも越えられない壁であり続けて欲しい気持ちもあり、それが少年の感情を複雑化し、それによって彼は成熟へと導かれるのです。

 

子どもにとって、憧れの大人から対等に扱われ、敬意を示されることは、何事にも代えがたい喜びです。

そしてその経験が子どもの精神の成長に大きく影響します。

 

もん太の弓を問題にしなかった大いのししが、ひとり温泉に漬かりながらもん太を思い出し、「あの矢は よかったぞお」と呟くシーンは、何だかにやりとしてしまいます。

男の子にとって、こんなにも自尊心をくすぐられる場面はないでしょう。

 

背中を見せて無防備に眠る大いのししに矢を射かけられないもん太、そのことを村人に責められてしまうもん太。

ついに大いのししを射抜くも、どこか寂しい気持ちになるもん太、すべてを理解して笑うもん太。

 

遥か高いところに聳え立っていた大いのししと、男同士理解し合えたこの瞬間、もん太は大人の階梯を上り出したのです。

息子を持つ父親として、そしてひとりの男として、こんな関係性には何歳になっても胸が熱くなります。

 

眩しいばかりの男の子絵本です。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

大いのししの余裕と貫禄度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「もん太と大いのしし

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「ちいさなねこ」【279冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は絵本界、いや児童文学会の重鎮中の重鎮、石井桃子さんによる絵本を紹介します。

戦後日本の絵本は、様々な方々の尽力と貢献によって発展しました。

 

その中でも船頭的役割を担ったのが、瀬田貞二さんと石井桃子さんだったと思います。

私を含め、今の親の世代で、およそ石井さんのお世話にならなかった人が存在するでしょうか。

 

まだ絵本が子どものおもちゃ程度に認識されていた時代に、石井さんは優れた海外の絵本や児童文学を次々に翻訳されました。

ピーターラビットの絵本」も、「ちいさなうさこちゃん」も、「ちいさいおうち」も、「くまのプーさん」も、石井さんがいなければ私たちにこんなになじみ深いものにはなっていなかったでしょう。

 

それだけ多くの名作の翻訳を手掛けてきた石井さんの創作した絵本が、面白くないわけがありません。

1963年に「こどものとも」で発表して以来、今も子どもたちに読まれ続けている「ちいさなねこ」。

作:石井桃子

絵:横内襄

出版社:福音館書店

発行日:1967年1月20日(こどものとも傑作集)

 

内容は、わりとシンプルで短いものです。

大人が読むと、何の感慨もなしに読み飛ばしてしまうかもしれません。

 

しかし、ここには子どもが夢中になるリアルなストーリー展開と、そして何度でも繰り返したくなる完璧な構成があります。

横内さんの精緻な絵、石井さんの的確な文、それらが絵本の本質部分をしっかりと捉えているからこそ、いくら古くなろうともこの絵本は子どもたちにとって魅力的であり続けるのです。

 

ちいさな ねこ、おおきな へやに ちいさな ねこ

という最初の見開きで、子猫の周囲の余白を効果的に使っています。

 

そして子猫は縁側から庭に下り、外の世界へ向かって走り出します。

おかあさんねこが みていないまに、ひとりで でかけて だいじょうぶかな

石井さんの語りかけるような文により、読者は子猫を心配し、同時に子猫に自身を投影してワクワクします。

子どもに捕まり、通りで自動車に轢かれそうになり……(町並みの古臭さよ)。

ハラハラドキドキの連続。

そして怖いもの知らずの子猫の活躍は痛快の一言。

自分よりずっと大きな犬にも怯みません。

爪で鼻をひっかいて、怒った犬に追いかけられ、木の上に逃げます。

 

そしてここで絶対的存在のおかあさんねこが登場します。

あそんでいる こどもの そばを とおりぬけ、じどうしゃを よけて

と、ここでさりげなく子猫との違いを描いています。

何という安心感でしょう。

 

さらには木の下で大きな犬を追い払う頼もしさ。

いたずらな子猫を有無を言わせず口にくわえ、危なげなく帰宅します。

この子猫可愛い。

 

最後におかあさんねこのおっぱいを飲む子猫の姿を描き、お話は終わります。

このラストシーンがあるからこそ子どもは安心し、子猫の冒険を幸せな気持ちで楽しむことができるのです。

 

★      ★      ★

 

この子猫は、石井さんが昔拾って育てた、怪我をした子猫がモデルになっているそうです。

 

小さな動物が、ちょっとした冒険に出て、そして帰ってくるという話型は、幼児絵本のひとつの王道です。

同じ形式の絵本は「こすずめのぼうけん」や「アンガスとあひる」などがあります。

 

≫絵本の紹介「こすずめのぼうけん」

≫絵本の紹介「アンガスとあひる」

 

この絵本を「親の言うことを聞かずに一人で出かけると、危ない目に遭う」という「教訓」として読み聞かせるのは自由ですが、そうした捉え方ははっきり言って的外れです。

子どもにとって、自分の分身と思える主人公の冒険と活躍、そして最終的に安心できる場所への帰還という物語をたくさん読んでもらうことは、これからの人生にとって非常に重要な力となるのです。

 

2008年に亡くなられた石井さんは、享年なんと101歳。

彼女が生涯を通して子どものために成された仕事の数々を思う時、私は自然と頭が下がってしまうのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆

おかあさんねこの貫禄度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ちいさなねこ

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【絵本の紹介】「ベンジャミン・バニーのおはなし」【270冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は世界で一番愛されているうさぎ「ピーターラビット」シリーズより、「ベンジャミン・バニーのおはなし」を紹介します。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1971年11月1日

 

このシリーズは私も個人的に大好きでして、全作品を取り上げたい気持ちなのですが、こればっかりやるわけにもいかず、いつになるやら。

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

≫絵本の紹介「パイがふたつあったおはなし」

 

さて、「ピーターラビットの絵本」は、同じ世界を舞台にした様々なキャラクターの活躍を描くシリーズです。

「ピーターラビットの」とタイトルは付けられていても、ピーターが登場しない作品のほうが多いです。

 

しかし、意外なところでキャラクター同士の繋がりがあったり、ストーリーには絡まなくてもイラストのみに登場するキャラクターがいたり。

こういう群像劇っぽいシリーズは、絵本では珍しいような気がします。

 

この「ベンジャミン・バニーのおはなし」は、シリーズ2作目にあたり、唯一前回からの流れを引き継いで展開される物語になっています。

つまり、「ピーターラビットのおはなし」で、マグレガーさんの畑に侵入したピーターが散々な目に遭い、靴も上着もなくして逃げ帰ってきた後のお話です。

ベンジャミン・バニーはピーターのいとこ。

ピーターのお母さんの兄の息子にあたります。

 

ほっぷ・すきっぷ・あんどじゃんぷ」をしながら登場。

ベンジャミンはおばさんであるピーターの母親は苦手のようですが、ピーターとは仲良し。

 

元気なく赤い木綿のハンカチにくるまっているピーターから、先日の災難について聞き出します。

ベンジャミンは、マグレガーさんたちが馬車で出かけている隙にピーターの服を取り返しに行こうと考えます。

 

二人は連れ立ってマグレガーさんの畑に侵入します。

かかしに着せられていたピーターの上着と靴はすぐに回収できました。

すっかり怯えていて、終始そわそわしているピーターに対し、ひどい目に遭ったことないベンジャミンは怖いもの知らずといった様子で、畑から玉ねぎを失敬し、おみやげにしようとしたり、レタスをつまみ食いしたりします。

 

そしてゆうゆうと帰ろうとした時、二人はマグレガーさんの猫に遭遇してしまいます。

ベンジャミンはとっさに自分とピーターに大きなかごをかぶせ、隠れます。

 

ところが猫が近づいてきて、そのかごの上に乗って昼寝を始めてしまいます(5時間も!)

 

ここで救世主のごとく登場するのが、ベンジャミン・バニーのお父さん。

その名もベンジャミン・バニー氏。

 

くわえパイプに、手には短い鞭を持ち、猫などまったく問題にしない堂々たる態度でやってくると、いきなり猫に飛びかかって温室に蹴り込んで戸に鍵をかけて閉じ込めてしまいます。

ベンジャミンたちはかごから助け出されますが、ベンジャミン・バニー氏に鞭でお尻をぶたれてしまいます。

絵を見ると、ピーターも一緒にぶたれています。

 

二人はお尻を押さえて泣きながら、ベンジャミン・バニー氏はたまねぎの入ったハンケチを持ってゆうゆうと、マグレガーさんの畑を後にします。

 

ピーターのお母さんは、ピーターが上着と靴を取り戻してきたことを喜び、ピーターは叱られずに済みます。

 

★      ★      ★

 

ピーターもベンジャミンも、作者のポターさんが飼っていたうさぎの名前です。

ことに、ポターさんは「興奮しやすく、快活で、愚かしく見えるほどに人懐こくてセンチメンタルで、見下げ果てた臆病者」と日記に評してあるベンジャミンを可愛がっていたようです。

本物のベンジャミン・バニーについては、ポターさんの日記上に愉快なエピソードがいくつも残されています。

 

そして、頼もしくも恐ろしい父親ベンジャミン・バニー氏ですが、息子たちが成人した後のエピソード「キツネどんのおはなし」では、息子の嫁に叱られる子どもっぽいおじいちゃんになってしまいます。

そのあたりの変化も、シリーズ通しての発見の楽しみです。

 

イラストの美しさは言うに及ばず、テキストにおいても相変わらずポターさんの筆は冴えわたっており、必要なこと以外は何も語りません。

その一方で、前回は描かれなかったピーター一家の暮らしぶりなどが描かれ、ピーターのお母さんが「うさぎの毛の手ぶくろ」や「そで口かざり」を編んだり、せんじ薬や「うさぎたばこ」(ラベンダーのこと)を売ったりして生計を立てていることなどがわかります。

 

そこでさらりと「わたしも、まえに、ばざーで、ひとくみ かったことがあります」とポターさんは言うのです。

こんなふうに、このシリーズでは時折作者自身が作中に登場します。

 

このたった一言で、この世界は単なる空想ではないことが読者に伝わります。

ポターさんは「現実に」ピーターたちと会って、関りを持っているのです。

マグレガーさんからは追いかけ回され、パイにされてしまいそうになるうさぎたちは、一方で人間相手に商売をしているのです。

 

この一文に、大人は戸惑い、子どもたちはワクワクさせられるのです。

ポターさんの絵本の凄みは、このようなさりげない一文にも秘められているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ベンジャミン・バニー氏無双度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ベンジャミン・バニーのおはなし

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【絵本の紹介】「沖釣り漁師のバート・ダウじいさん」【261冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は「沖釣り漁師のバート・ダウじいさん」を紹介します。

作・絵:ロバート・マックロスキー

訳:渡辺茂男

出版社:童話館

発行日:1995年4月25日

 

以前にほるぷ出版より刊行されていたものの復刻版で、現在は童話館から出版されています。

発表は1963年。

 

ロバート・マックロスキーさんと言えばロングセラー「かもさんおとおり」が有名ですね。

 

≫絵本の紹介「かもさんおとおり」

 

「かもさんおとおり」はモノクロ画でしたが、今作では鮮やかな色彩が楽しめます。

特に船やクジラの体内に用いられているピンクが効果的です。

 

この前紹介した「海は広いね、おじいちゃん」に引き続き、これもまた「老人と海」な絵本です。

おじいちゃんと言えば海。

 

≫絵本の紹介「海は広いね、おじいちゃん」

 

ちょっと長めの話で、洒落た表現もたくさん出てくるので、夏休みの読書感想文などにもオススメです。

 

バート・ダウじいさんは引退した沖釣り漁師。妹のリーラと暮らしています。

船を2艘持っていて、1艘は花壇にしています。

もう1艘が特にお気に入りの「潮まかせ」号。

 

かなり古い船ですが、バートじいさんは大切にしていて、しょっちゅうペンキを塗って穴をふさいでいます。

ペンキ塗りの仕事の余りで塗るので、カラフルな船になっています。

 

ある朝、バートじいさんは仲良しのかもめと一緒に、「潮まかせ」で沖釣りに行きます。

そこで釣り糸に引っかかったのが、なんとクジラ。

危うく船ごと沈められそうになりながら、じいさんはどうにかクジラをなだめて針を外し、絆創膏を貼ってやります。

が、いつの間にか空模様が怪しくなり、嵐が近づいていることを示しています。

 

このままでは突風にあおられて沈められてしまうと思ったバートじいさんは一計を案じます。

それはクジラの胃袋に一時避難すること。

で、クジラに頼んで呑み込んでもらいます。

今度は出るために、ペンキを撒き、クジラにしゃっくりをさせます。

無事に飛び出した「潮まかせ」が着水したのはクジラの群れの中。

バートさんが他のクジラにも絆創膏を巻いてやると、クジラたちは大変に喜び、一斉に潮を吹くのでした。

 

★      ★      ★

 

マックロスキーさんはアメリカ絵本の黄金時代を築いた作家の一人とされ、「かもさんおとおり」でもそうでしたが、その作風には「古き良きアメリカ」のテイストが色濃く表れています。

 

バートさんの人柄、リーラとの掛け合い、おしゃべりかもめとの交情、町の人々など、作者が心から楽しんで描いていることがよくわかります。

ピンチの連続の中でも常にジョーク混じりの粋なセリフを飛ばすバートじいさんは、いかにもアメリカ男です。

 

読み終わると、まるでアメリカ映画を一本鑑賞したような気分になります。

ちなみに絵を見ればわかりますが、「潮まかせ」の原文は「TIDELY-IDLEY」。

これまた洒落たネーミングになっています。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

生き生きした人物造形度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「あんぱんまんとばいきんまん」【258冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はお久しぶりに国民的アイドルに登場してもらいましょう。

あんぱんまんとばいきんまん」です。

作・絵:やなせたかし

出版社:フレーベル館

発行日:1979年7月

 

例によってまだ平仮名表記の、初期「あんぱんまん」です。

そしてついに今回、あの名悪役「ばいきんまん」が初登場します。

 

初期あんぱんまんの特徴やアニメとの差異、作者のやなせさんの想いなどをつづった過去記事も読んでみてくださいね。

≫絵本の紹介「あんぱんまん」

≫絵本の紹介「アンパンマンのサンタクロース」

 

さて、「ひもじい人に食べ物を(文字通り)身を削って分け与える」という、やなせさんの考える「正義」の具現として生み出されたヒーローあんぱんまん。

(ちなみにデザインは「月おとこ」にインスピレーションを受けたそうです)。

 

≫絵本の紹介「月おとこ」

 

第一作「あんぱんまん」では、砂漠や森で彷徨う人々に顔を食べさせるだけの(連れ帰ってはくれないんですね)お話でした。

私は大好きですが、少々シュールが過ぎて、ホラーテイストすら漂わせるデビューでした。

 

やなせさん自身、「何かが足りない」と試行錯誤を重ねた末、悪役ライバルとして「ばいきんまん」を登場させ、なおかつなんと「あんぱんまん」を巨大化させて戦わせるという王道ヒーローものに作品を転向させます。

 

あまつさえ、「顔を食べさせる」というあんぱんまん最大のコンセプトさえカット。

大丈夫なのかやなせさん。

 

しかしこれが結果的には大当たり。

以後、「ばいきんまん」は主役を凌ぐほどの人気者に成長してゆくことになります。

 

ついに名前が判明した「ジャムおじさん」(まだバタコさんも未登場)が、なんだか具合悪そうに座り込んでいます。

おじさん あんこが くさりますよ

とあんぱんまん。

こういうセリフ回しに、まだまだ飄逸なあんぱんまんのキャラクターが見えます。

 

あんぱんまんは工場の上空を覆う黒い雲を調べるため、飛び出します。

ここでばいきんまん登場。

触覚とか、微妙に現在とデザインが違います。

 

テレビであんぱんまんを見つけると、

なんだ、こいつは あんパンの おばけか?

と、紫色の光を放って、あんぱんまんを墜落させます。

 

あんぱんまんは地上に叩きつけられ、中身が出るなど、人間だったらかなりグロいことになります。

大泣きしながら工場に帰るあんぱんまん(この辺りの性格もアニメ版とは結構違います)。

 

さあ、ジャムおじさんは怒り心頭、具合が悪いのも忘れて「ジャイアントあんぱんまん」を作り始めます。

おおきくて かたくて ぜったいに つぶれない」という、とても食べることのできない「ジャイアントあんぱんまん」。

ボディはどうなってるの?

ボディもチェンジしてたら、あんぱんまんのアイデンティティってどうなるの?

そんな疑問は無視して、ジャイアントあんぱんまんはばいきんまんにリベンジ完了。

黒い雲を吹き飛ばし、青空を取り戻します。

 

戦いの終わったジャイアントあんぱんまんは元のサイズの食べられるあんぱんまんに戻り(ボディは?)、「せかいじゅうの おなかの すいた こどもたちを たすける ため」飛んでいくのでした。

 

★      ★      ★

 

やなせさん、悩んだんでしょうねえ……。

こうして改めて読み返してみると、第一作「あんぱんまん」とは結構違った方向へテコ入れしてるのがわかります。

 

何気に助ける相手が「こどもたち」に限定されちゃってるし。

しかしまあ、あんぱんまんのキャラクターや、せっかくできたジャイアントあんぱんまんが工場から出られずに屋根をふっ飛ばして外に出るところなど、シュールな味はそのままです。

 

私も子どもの頃はこの絵本の展開に興奮した記憶がありますし、やっぱり子どもが喜ぶものを追及した結果の作品転向であり、そしてそれは大成功と言うべきでしょう。

 

でも、初期の八頭身あんぱんまんのことも忘れないでやってくださいね。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

色々と衝撃的度:☆☆☆☆☆

 

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