【絵本の紹介】「ゆきがやんだら」【207冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは酒井駒子さんの「ゆきがやんだら」です。

作・絵:酒井駒子

出版社:学研教育出版

発行日:2005年12月8日

 

酒井さんの絵本は、もうこのブログで何度も取り上げていますし、その超絶画力についても毎回のように言及しています。

≫絵本の紹介「ぼく おかあさんのこと・・・

≫絵本の紹介「きつねのかみさま

≫絵本の紹介「くまとやまねこ

 

絵の専門知識はないのですが、酒井さんの独特のざらざらした質感はマチエールといって、絵の具の凹凸を活かした表現法らしいです。

私はまだ酒井さんの原画を見たことがないのですが、原画ならそのあたりがよくわかると思います。

 

さて、この「ゆきがやんだら」は、雪が降った時の、子どもの瑞々しいドキドキ・ワクワク感を静謐な絵と文で描き出した作品です。

生活風景が何となく80〜90年代っぽく、私たち親世代が読むと、自分の子どもの頃を思い出してノスタルジックな気分に浸れます。

雪が降ったから、園もお休み。

灰色がかった暗い画面が、外界から切り離された非日常感を漂わせます。

 

主人公のうさぎの男の子は雪遊びをしたがりますが、お母さんが風邪を心配して、雪が止むまで外に出ては駄目だと言います。

出張中のお父さんは今日帰宅するはずでしたが、雪で飛行機が飛ばないため、帰ってこれません。

 

買い物にも行けないので、お母さんはうさぎくんとトランプ遊びをします。

ベランダから外を見ても、ただ静かな銀世界。

ぼくと ママしか いないみたい、せかいで

といううさぎくんの言葉からは、寂しさや心細さよりも、雪に降り込められることでむしろ母親との距離が近づいたような気持ちが感じられます。

 

夜になって、窓の外を見ると、雪が止んでいます。

外に出たがるうさぎくんに、お母さんは少し笑って、

いいわ、ちょっとだけね

雪に足跡をつけ、おだんごを作っていると、鼻水が出てきて、うさぎくんとお母さんは家に帰ります。

あした……、あしたね……

パパも かえって くるよ。ゆき やんだから―――

 

★      ★      ★

 

おや、このうさぎの親子は、「ぼく おかあさんのこと・・・」で登場したキャラクターではありませんか。

出版社も違うし、続編という扱いではなさそうですが。

 

どちらも心温まるお話ですが、作品の持つ雰囲気はわりと違っていて、「ぼく おかあさんのこと・・・」ではポップな色使いでコミカルな印象もありますが、この絵本では、全体に抑えた色彩で、美しさと静けさが強調されています。

 

何より、お母さんが優しい。

 

だから「ぼく おかあさんのこと・・・」で登場した、怒ってばかりの母親とは別キャラのように見えるかもしれませんが、この作品でお母さんが見せる子どもへの理解と寛容さは、やっぱり「雪」の力だと思います。

 

静かで白い世界に子どもと二人で佇んでいると、自然と優しい気持ちになるのでしょう。

あるいは、お母さんもまた、自分の子どもの頃を思い出しているのでしょう。

 

雪には、人と人を近づける力があるのかもしれません。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

うさぎくんの愛おしさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ゆきがやんだら

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【絵本の紹介】「子うさぎましろのお話」【206冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

少し早めのオフィスの大掃除やら本棚の整理やらをしていると、家のPCとエアコンが同時に壊れ、妻と息子が同時に風邪を引くという、師走らしいドタバタな日々を送っております。

そんなこんなで、ブログ更新もちょっと滞っていましたね。

 

今回はクリスマス絵本の名作「子うさぎましろのお話」を紹介します。

文:佐々木たづ

絵:三好碩也

出版社:ポプラ社

発行日:1970年1月

 

もともと佐々木さんの童話集にあった一篇を絵本化した作品です。

主人公の「ましろ」は、クリスマスのプレゼントをもっと欲しくて、小さな嘘をついてしまいます。

そこから生まれる「罪の意識」と、それをどう浄化するかの物語。

 

ましろの住む北の国の動物たちは、サンタさんの家が近いこともあり、毎年クリスマスには一番にプレゼントを貰えます。

もちろん、ましろも。

けれど、ましろはもっと何か欲しくなってしまい、あることを思いつきます。

それは、別のうさぎになりすまして、もう一度サンタさんからプレゼントを貰うという策略。

ましろは体にスミを塗り、黒いうさぎに変身して、サンタさんのもとへ。

 

サンタさんはすぐにそれがましろだとわかりましたが、気づかないふりをして、袋に残っていた一粒の種と、自分のサンドイッチをましろに渡します。

うまく行ったことにましろは喜びますが、体のスミを落とそうとしても落ちません。

そこでだんだん自分のしたことを後悔し、罪の意識に震えます。

 

サンドイッチは食べてしまったので、せめて小さな種だけでも神様にお返しするつもりで、モミの木の林の中に、種を埋めます。

雪の中で穴を掘っているうちに、体のスミは落ち、もとの白うさぎに戻っていました。

 

ましろが埋めた種は春になって芽を出し、大きなモミの木に育ちます。

そしてまた12月。

 

ましろのモミの木は、きらきら輝き、おもちゃやお菓子を枝に実らせていたのです。

ましろは驚き、サンタさんに報告に行きます。

そして、去年からの本当のことを全部話します。

サンタさんは優しくましろを撫でてくれます。

 

モミの木のおもちゃや絵本やお菓子は、取っても取っても次々生えてきます。

北の国の動物たちはサンタさんを手伝って、そのクリスマスの贈り物の用意をするのでした。

 

★      ★      ★

 

作者の佐々木さんは緑内障で失明されています。

そのためでしょう、このお話でとりわけ印象的なのは、モミの木から響く「ベルの、すきとおるような ひびき」です。

 

ベルの響きが、「もう すぐ、イエスさまの おたんじょうび」と言っているという表現からは、目の不自由な方に特有の聴覚の繊細さを感じます。

 

さて、子どもは成長過程で、嘘をつくことを覚えます。

もっとたくさんの悪質な嘘をついている大人に、それを責める資格はないでしょう。

 

ところが、大人は自分の子が嘘をついたとわかると、血相を変えて咎めだてたり、どこまでも追い詰めたりします。

それで子どもは自分の身を守ろうと、さらに嘘を重ねてしまいます。

そのうち、何が本当の心なのか、自分でもわからなくなったりします。

 

このお話に登場するサンタさんが素晴らしいのは、ましろの嘘を見抜きながら、それを責めないことです。

何故なら、押し付けられた罪悪感が、子どもの真の成長にとって害悪でしかないことを知っているからです。

 

サンタさんはましろの成長を信じて待つことのできる、本物の大人です。

 

子どもを自由にさせておくと、どんどん悪い方向へ向かってしまうと考えている大人が大勢います。

昔も今も、その数は大して変わってないのかもしれません。

 

しかし、本当の道徳とは、大人が子どもに与えるものではありません。

第一、子どもよりよっぽど汚い私たちが、一体どんな顔で「これが道徳だよ」と示せばいいのでしょうか。

 

子どもは教えられずとも、心の奥に聖なるものを備えています。

子どもだけではなく、すべての人間の内には、「もう一人の自分」がいます。

曇りのない目で内面を覗けば、必ずいます。

そこから響く声は、世の大人たちがもっともらしく諭す道徳などより、遥かに道徳的です。

 

大切なのは、ましろのように子どもが自分でその内奥の声に気づくことです。

その声に従うことがどれほど気分が良く、生命を輝かせることか。

 

大人はすでに、「もう一人の自分」の声を無視することに慣れてしまっています。

でも、せめてクリスマスくらいは、そういう「聖なるもの」の響きを感じようとしてみてもいいのではないでしょうか。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

響きの美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「げんきなマドレーヌ」【188冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「げんきなマドレーヌ」です。

作・絵:ルドウィッヒ・ベーメルマンス

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1972年11月20日

 

パリの、つたの からんだ ある ふるい やしきに

で始まる、世界中で大人気「マドレーヌ」シリーズの第一作。

 

内容に入る前に、まずは作者のベーメルマンスさんについて。

ベーメルマンスさんは1898年オーストリアで生まれます。

6歳の時、父親が愛人と駆け落ちします。

 

この出来事は幼いベーメルマンスさんに少なからぬショックと影響を与えたようですが、かといって彼は父親を恨んでいたわけではなさそうです(後年、再会した父親に支援までしています)。

しかし、母親の故郷ドイツで、ベーメルマンスさんは反抗的で手に負えない子どもとして、周囲を心配させました。

ついには、おじから2つの道を選ぶように宣告されます。

更生施設に入るか、アメリカへ行くか。

 

ベーメルマンスさんは後者を選びました。

 

アメリカへ渡ったベーメルマンスさんは、リッツカールトンホテルで働き始めます。

彼はそこで目にするものをスケッチし、風刺の目を磨きました。

 

やがてアパートの日よけに描いた故郷の風景がメイ・マッシ―という編集者の目に留まり、子どもの本を描くことを薦められます。

そして彼が作った2作目の子どもの本が、この「げんきなマドレーヌ」となり、たちまち大人気となるのです。

パリの寄宿舎に暮らす、12人の女の子の物語。

2れつになって、パンを たべ

2れつになって、はを みがき

2れつになって、やすみました

なにごとにも おどろかない」先生のミス・クラベルに連れられて、「ふっても、てっても」9時半に散歩に出かけます。

 

マドレーヌは12人の中で一番のおちびさんですが、活発な女の子。

でも、ある日の真夜中、マドレーヌが起き上がって目を泣きはらしています。

 

盲腸炎と診断され、救急車で病院に運ばれ、手術を受けます。

 

十日後、お見舞いに来た寄宿舎の女の子たちが見たものは、「おもちゃに キャンデーに にんぎょうのいえ」。

それに、マドレーヌのお腹の手術の傷。

すっかりマドレーヌが羨ましくなってしまった11人は、寄宿舎に戻ってから、夜中にみんなで、

もうちょうを きって、ちょうだいよー

と大声で噓泣きするのでした。

 

★      ★      ★

 

絵が最高に素敵です。

表紙のエッフェル塔の他、各場面においてオペラ座やノートルダム寺院、ルーヴル美術館などのパリの名所が美しく描かれています(巻末に解説付き)。

 

それらと、当時は低く見られていた漫画のシンプルな技法をミックスさせ、多くを語らないリズミカルで詩的な文章で仕上げています。

冗長なセリフを抑制し、短い文と絵のみで必要なことをすべて伝える技術は、絵本としての質そのものに関わってきます。

 

そしてなおかつ、最も重要で難しい「子どもの目で物語る」ことにも、見事なまでに成功しています。

われわれは子どものために書いているんです。幼稚な者にではなく

これは、ベーメルマンスさんが前述の編集者・メイ・マッシ―さんにあてたメモの言葉です。

「マドレーヌ」が世界中の子どもたちに支持されるのも頷けるではありませんか。

 

最後に、ベーメルマンスさんがホテルでボーイをしていた頃のエピソードを紹介します。

彼はいつものようにメニューの裏側にお客の姿をスケッチしていました。

それは非常に滑稽で風刺的で、おまけにとても本人に似ていました。

 

ところが、そのメニューを、接客係がお客当人に見せてしまったのです。

お客は怒り、それがまたホテルの一番の上客であったために、ベーメルマンスさんはホテル経営者のケラー氏に呼び出され、こっぴどく罵られます。

 

しかしケラー氏はその後で、画商の友人2人に例の絵を見せ、

この子には才能があるかね?

と尋ねました。

すると2人は口をそろえて、

あるね

と答えたそうです。

 

ケラー氏はベーメルマンスさんを宴会係に配属し、空いている宴会場をスタジオに使って絵を描くことを薦めました。

ベーメルマンスさんは自叙伝で、このケラー氏を「生涯の恩人」であると書いています。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

12人の識別困難度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ちらかしぼうや」【186冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子どものお片付け、苦労している方も多いと思います。

私は元来がだらしない人間なので、部屋が散らかっていてもわりに平気なのですが、妻は潔癖ぎみで、雑然とした状態に耐えられない性質です(おかげで結婚してから、ずいぶん教育されました)。

 

息子が生まれる前に、夫婦で育て方について話し合った時、原則として「自由にさせてやる」方針を固めました。

つまり、少なくとも家の中では、やりたい放題にさせてあげる、ということです。

しかし、私はともかく、妻にそれができるかどうか、少々心配でした。

 

さて、息子が自分で動けるようになってくると、予想通り、散らかし放題。

おもちゃは箱ごとひっくり返す、壁に落書きする、BOXティッシュは全部引っ張り出す……。

 

案の定、妻はイライラし出して、「少しくらいは片付けさせよう」と言い出しました。

でも、その「少しくらい」を息子は嫌がります。

大きい箱を用意して、そこに全部入れるだけ、という状態にしてやっても、それすらしません。

 

息子を見ていると、幼い子どもというものは「お片付け」が「できない」というより「キライ」なのかもしれないと思えてきます。

しかし、もう少し考えてみると、子どもが嫌がっているのは「お片付け」そのものではなく、「片付けようとする大人」の姿なのかもしれません。

 

いつまでも遊んでいたい気持ちに水を差すような、「終わり」を告げる行為のように思えるのかもしれません。

自分の子ども時代を思い起こしてみれば、私は母親が掃除機をかけ出すと、なんでかわからないけど不快な気持ちになったりしたものです。

 

さて、今回紹介するのは「ちらかしぼうや」です。

作・絵:ジャン・オームロッド

訳:ほしかわなつこ

出版社:童話館

発行日:2005年9月20日

 

17×16の小さな絵本です。

翻訳出版されたのは2005年ですが、1985年の作品です。

 

とても短く、文も少ないので、赤ちゃん絵本と言えますが、これはむしろ大人にオススメします。

散らかった部屋を、お父さんが片付けて行きます。

その後ろから、子どもが次々に片付けたものを散らかして行きますが、お父さんは気づきません。

この手の絵本には珍しく、お母さんが登場しません。

そして片付けをするお父さんは女性的ではなく、ゴリゴリのヒゲ面のおっさんです。

 

お父さんが片付けたものを散らかして行くぼうやは、明らかにわざとやっていて、時々読者の方を向いて悪戯っぽく笑います。

あるいは、ぼうやの目線の先にはお母さんがいるのかもしれません。

とすると、これはお母さんが見た父子の一場面という体の絵本なのかも。

 

さて、いよいよラストになって、お父さんはぼうやの悪戯に気づきます。

そして、

おや おや! なんてことだ。ほんとに、おまえは、ちらかしぼうやだな!

と怖い顔になります。

さあ、叱られ&反省タイムかと思いきや、ラストのページでお父さんは最高に素晴らしい転換を見せます。

笑顔でぼうやを抱きしめ、

いいとも いいとも

もういちど、さいしょから はじめるさ

 

感動!

 

★      ★      ★

 

子どもに対し、どう接するべきか。

私にとって、この短い絵本は、そのひとつの手本となっています。

 

子どもは何度も何度も同じことを繰り返します。

まるで、何かを試しているように。

同じ絵本を、何度でも繰り返して読んでもらいたがり、単純な遊びを何度でも繰り返したがります。

 

それに対し、一切嫌な顔をせずに応じてあげられるか。

このお父さんのように、「いいとも いいとも」と言えるか。

 

時々、私は息子に試されているような気持ちになります。

本当に、無条件に、自分を愛してくれているのか

と。

 

「愛されているかどうか」は、子どもにとって何よりも重要なことです。

その確信こそが、長い人生において、生き抜くための礎となるからです。

 

お父さんに抱かれたぼうやの満ち足りた笑顔は、まさに望むものを手に入れた幸せな表情です。

しかしきっとまた、ぼうやはお父さんを試し始めるでしょう。

何度も、何度でも。

 

推奨年齢:1歳〜

読み聞かせ難易度:☆

素敵なお父さん度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「キミちゃんとかっぱのはなし」【185冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はちょっと知名度は低いかもしれませんが、五味太郎さんも絶賛しておられる傑作絵本を紹介します。

キミちゃんとかっぱのはなし」です。

作:神沢利子

絵:田畑精一

出版社:ポプラ社

発行日:1977年2月

 

一言で言えば「主人公の少女がかっぱにナンパされる」という、異色のファンタジーです。

 

それだけでも十分に独創的なんですが、作者の神沢さんが凄いのは、舞台や時代設定が限定的であること。

一般に、絵本は息の長いメディアですので、舞台や時代を限定することを避ける傾向があります。

しかし、この物語は「ヨコハマ」と、はっきり場所を特定しています。

 

さらに、キミちゃん一家は、ハシケで荷物の積み下ろしの仕事をする水上生活者として描かれます。

ハシケは「艀」と書き、大型船から荷物の積み下ろしをする小型の運搬船。

もう今ではいなくなってしまいましたが、1960年代くらいまでは、このハシケに住居を構え、職場兼居住空間にしている水上生活者が多くいたそうです。

 

そういう、現代ではなおさら伝わりにくい設定をあえて選んだところに、神沢さんの勇気を感じます。

しかし、そこに登場する現代的(?)かっぱのキャラクターや、キミちゃんとの会話における筆力は圧倒的で、馴染みの薄い設定を生き生きと想像させてくれるのはさすがの一言。

 

田畑さんの絵も秀逸で、特にかっぱの表情、仕草、すべてが神沢さんの文とぴったり融合して、分離不可能にまでなっています。

 

さて、内容を見てみましょう。

 

前述の通り、ハシケの上に住むキミちゃん。

両親が仕事している間は、「ムク」というぬいぐるみの犬を抱いて遊んでいます。

 

そこへ、水中からかっぱが現れます。

かっぱはキミちゃんの気を引こうと、自分の家の自慢をします。

おらの うちには コーヒーも ある。ジュースも ある

パイナップルも、それから、ダイズも、てつの スクラップも あるんだぞ

スクラップを自慢するあたり、男の子です。

 

ハマの かっぱは、キュウリだって ピックルスに して たべるんだぞ

しかしそれらは全部、船から水の中に落ちたもの。

キミちゃんはかっぱの誘いに応じません。

なかなかガードの固い女の子なのです。

 

それからしばらくして、かっぱはまたキミちゃんの前に姿を現します。

今度は貯まったコーヒーでコーヒー屋を出す計画を話し、

キミちゃん きてくれるか

と言います。

するとキミちゃんは、

そうね、エスカレーターの ある コーヒー屋なら いいわ

エスカレーターの ついている コーヒー屋でないと、わたし、ぜったい いかないから

末恐ろしい小悪魔ぶり。

エスカレーターを知らないかっぱは戸惑います。

 

その後、キミちゃんが父親とデパートに行ってエスカレーターに乗っていると……。

人間の恰好をしたかっぱが、一生懸命にすました顔をして、向かいのエスカレーターに乗っているのでした。

 

それから後、キミちゃんはまだかっぱに会っていません。

代わりに、いつか海に落としたぬいぐるみのムクが、本物の犬になって帰ってきました。

 

かっぱはどうしているのか。

きっと、エスカレーターのあるコーヒー屋を作ってキミちゃんに来てもらうために、一生懸命に働いているのかもしれないと、キミちゃんは思うのでした。

 

★      ★      ★

 

かっぱとキミちゃんの会話が素敵。

背伸びして、自分を良く見せたい男の子と、安く見られたくない女の子の駆け引き。

 

キミちゃんに馬鹿にされまいと頑張るかっぱの姿が健気です。

ほのぼのしていて、甘酸っぱくて、ユーモラスで。

これは上質な児童文学だと思います。

もっとたくさんの人に知ってもらいたい。

 

やや文が多めですが、我が家の息子には3歳のころに読み聞かせ、なかなか好印象でした。

最近になってもう一度読んでみると、かっぱが自慢する「アスパラガスの缶詰」がどんなものか食べてみたいと言い出しました。

 

食卓に出してやると、一口食べて夢は壊れたようでした。

次は「ピックルス」に興味があるようです。

結果は見えてますが。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

キミちゃんの小悪魔度:☆☆☆☆☆

 

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