【絵本の紹介】「ウィリーとともだち」【376冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

何度も書いていることですが、私の息子には友だちと呼べる相手がひとりもいません。

同年代の子どもと遊ぶ機会はほとんどなく、親以外の大人とコミュニケーションする機会もありません。

別にそれを問題と思ってはなくて、小学校に通いだしてから徐々に他者との関わりを学んでいけばいいと考えていたのですが、休校状態が続く現状ではそれも叶わなくなってしまいました。

 

しかし、そもそも友だちとは何か、なぜ必要なのか、そういう根本的なことを考えてみてもいいかもしれません。

友だち、友情をテーマにした絵本はたくさんありますが、そうした意識も時代とともに変化するものであり、我々は自分自身の価値観を前提にして「子どもにとって友だちは絶対に必要不可欠なものだ」と決めてかかるべきではないような気もします。

 

特に、いわゆる友だちを作るのが苦手な子、一人遊びのほうが好きな子を見るとすぐに心配して手を回そうとする大人たちは、一度よくその子どもを観察するべきです。

そもそも大人たち、世間のそうした価値観が無言の同調圧力となって、まるで友だちがいないことは人間的劣等であるかのように子どもに思わせてしまうのではないでしょうか。

 

さて、今回紹介するのはアンソニー・ブラウンさんの「ウィリーとともだち」です。

作・絵:アンソニー・ブラウン

訳:あきのしょういちろう

出版社:童話館

発行日:1996年9月10日

 

ブラウンさんといえばゴリラ、そしてサル好きで有名です。

デフォルメはされているけど毛の一本一本までリアルな絵は実に特徴的。

そしてモダン。

 

その性質上、超時間的作品が多くなる絵本の中に、意図的に現代的要素を描くというのは割に難しいものです。

それは単に絵の中に現代的な物(スマホとか)が登場するとかいう話ではなくて、登場人物の内面に普遍的な、別の言い方をすれば無難な性質だけを付与するのではなく、時代の気分を含ませるかどうかということです。

 

この「ウィリーとともだち」の主人公ウィリーは作者の別作品にも登場するキャラクターですが、その造形は従来的な絵本の主人公としては異質です。

シャツにネクタイ、カーディガン、コーデュロイパンツに革靴という学生スタイルに身を包み、ポケットに手を突っ込み、伏し目がちで背中を丸めて歩くウィリー。

 

学校では孤立しており、他のみんなには友だちがいるのに、自分はひとりぼっちであることに思い悩んでいます。

そんなある日、ウィリーは公園でひとりのゴリラとぶつかります。

彼の名は「ヒュー・ジェイプ」。

 

ヒューは大きな体ですが優しいゴリラで、ウィリーと互いにぶつかったことを謝り、ベンチに座って会話をします。

そこに「バスター・ノーズ」というえらいファッションをしたゴリラが現れ、ウィリーに向かって凄みます。

でも、ヒューのひとにらみで退散。

 

仲良くなったウィリーとヒューは動物園や図書館へ行き、楽しい時を過ごします。

図書館を出ようとしたとき、ヒューは机の上に蜘蛛を発見し、慄きます。

蜘蛛が大の苦手なんですね(おそらく、公園で走っていたのも蜘蛛から逃げていたのでしょう)。

ウィリーは蜘蛛を捕まえ、離れたところに移してやります。

 

ヒューは喜び、そしてウィリーも自分が友だちの役に立てたことに深い喜びを見出します。

二人は握手を交わし、次の日も会うことを約束するのでした。

 

★      ★      ★

 

ウィリーの繊細な劣等感や承認欲求は別作品「こしぬけウィリー」でも顕著であり、シティボーイ的なやさしさと弱さを持つ主人公が、周囲のマッチョイズムに圧を感じるという構図は「ウィリーとともだち」と共通しています。

 

登場人物がみんなゴリラである中で、ウィリーだけがチンパンジーであることも効果的です。

ファッションを含め、上記のようなウィリーのキャラクターの大部分を絵によって語らせる作者の力量とセンスは瞠目に値します。

 

絵本を注意深く読まない大人たちは、この作品を単に「互いに協力し合える友だちがいるのは素晴らしいことだ」という定型に落とし込みたがりますが、重要なのはウィリーが感じる「圧」なのです。

 

ウィリーはもちろん寂しさを感じ、友だちを求めてはいるのですが、彼にそれを欲望させているものは何かと考えると、それは「だれにも、友だちがいるように みえました」という劣等感なのです。

そして自分の学生時代などを思い返せば、実のところ友だちを求める気持ちの少なくない部分に「友だちがいない・少ないと周囲に見られたくない」という圧力が加わっていたような気がします。

 

現代人は何でも一人でやるほうが気が楽であることを隠さなくなってきており、無理に友だちを作ったり人付き合いをしたりしない若者が増えてきています。

恋愛や結婚も然りです。

 

その是非は別問題として、この流れは人々がこれまでの圧力や精神的不自由さから解放されたがっていることの現れだと思います。

人間は過去に戻ろうとしたり、現状に留まろうとしたりしながらも、「自由になること」を志向します。

 

自分を知り、押し付けられた価値観や道徳から自由になったとき、それでもなお残る「他者と繋がりたい」という気持ちに気づいたときこそ、本当の友だち関係を築くチャンスなのではないでしょうか。

 

推奨年齢:7歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

動物園のシーンが衝撃的すぎる度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ウィリーとともだち

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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休校中の登校日と課題について

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

COVID-19の影響により、私の住む大阪市でも小学校などの休校状態が続いていますが、先日学校から連絡があり、今週末に1年生の登校日を設定したというんですね。

感染防止のために3組に分かれて、入学オリエンテーションも兼ねた登校日ということだそうです。

 

えーと。

まだ緊急事態宣言が続いてるし、休校も続いてますね。

何が改善されて、登校してもいいことになったんでしょうか。

 

とりあえず、息子は行かせませんが、妻が一人で様子を見に行くことにしました。

休み中の課題提出と、新たな課題を受け取らなければなりません。

先生方も大変でしょうからいちいち咎めたくないんですけど、課題にしろオンライン授業にしろ、疑問が多いです。

 

例えば1年生の場合、私がびっくりしたのは、TVの幼児教育番組を見せて学校生活を学ばせるという課題(?)です。

いや、私はこれまで自分も一切TVをつけないで、息子になるべくTVを見せないように努力してきたんですけど。

しかもその番組、全然おもしろくない。

 

ちなみにプリント課題は「線を引きましょう」とか「数の多いほうはどちらでしょう」といった内容ですが、息子は一応やることはやるけど、全部自分流にアレンジを加えないと収まりません。

で、こんな感じになります↓

途中からただ数字を書くのに飽きたのか、アートな飾り数字にしてしまってます。

書き損じたら消しゴム使わないで勝手にひとマスずらして進めるし。

他のプリントも要所に自分でイラストを描き加えたり、フリーダム。

先生になんか言われるかな。言われても気にしませんけど。

 

妻が学校の様子を見たいというのは、どの程度感染予防をしっかりしているかというところです。

親の気持ちとして、「全体の感染者数が減っている」というのは別に安心材料にはなりません。

 

「万が一にでも感染した場合、速やかに必要な処置と治療を受けられる」かどうかが重要なのです。

子どもの重症化率や死亡率が低いといわれたって、そんなもので安心できる親はいるのでしょうか。

 

現に、死亡した子どもがいる以上、その確率が0.1%だろうと、私は怖い。

呼吸困難になった感染患者が何日も検査を受けさせてもらえずに自宅で待たされたという話がありますが、自分の子どもが苦しんでいるのに治療を受けさせてやれないなど、考えるだに地獄です。

 

もちろん、生きていくことは常に不安定なものです。

運不運に左右される人生を、いちいち怯えていては生きていけないと思います。

でも、この場合、子どもを感染リスクのある場所に行かせるかどうかというのは、親の判断に委ねられています。

「国が、自治体が大丈夫と言ったから」と言ったって、それで感染したとしても、最悪の事態が起こったとしても、誰も責任を取ってはくれません。

登校日に関する文面をよく読んでみると、学校側の責任を回避するように書かれています。

つまり結局は「自己責任」にされるのです。

 

それでもなお、天秤にかけて、リスクを取らなければならない場面もあるでしょう。

しかし、今回の「登校日」にその価値があるかどうかといえば、私は全然ないと思うのです。

 

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【絵本の紹介】「どこいったん」【375冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのはジョン・クラッセンさんの衝撃作「どこいったん」です。

作・絵:ジョン・クラッセン

訳:長谷川義史

出版社:クレヨンハウス

発行日:2011年12月5日

 

結構話題になった作品ですので、聞いたことのある人も多いでしょう。

現代的に洗練されたデザインととぼけたタッチ。

大阪弁丸出しのタイトルに、なんだかホンワカしたぬくもりを感じて手に取った大人たちを次々に奈落へ落した問題作です。

 

あ、先に言っときますけど、私は絵本に関してはネタバレを気にしませんのであしからず。

絵本というのはネタが割れようが関係なく、何度も繰り返して読むものです。

子どもたちの読み方がその規範です。

 

じゃあ内容を読みましょうか。

テキストはいたってシンプルですが、長谷川義史さんによる大阪弁翻訳が非常にマッチしてて、いい味を出しています。

長谷川さんは「いいからいいから」などで人気の絵本作家さん。

翻訳はこれが初挑戦だそうですが、いい仕事されてます。

 

表紙のくまが自分のぼうしを探しています。

ぼくのぼうし どこいったん?

と他の動物たちに聞いて回るのですが、みんな知らない、もしくは頓珍漢な答え。

でもその中に、明らかに怪しいうさぎが混じってるのですね。

赤くてとんがったぼうしをかぶり、くまにぼうしのことを尋ねられると動揺して「し、しらんよ」「ぼうしなんか とってへんで」「ぼくに きくのん やめてえな」と挙動不審全開。

 

それを「さよか」で得心するくまの抜けっぷりが笑いを誘います。

結局ぼうしを見つけられず、落胆するくま。

しかし、シカに「どんな ぼうし?」と尋ねられ、「あこうて とんがってて……」と答えかけ、はっと思い当たります。

ここでバックにはどきっとするような赤が使われます。

くまは急いでうさぎのところへ駆け戻り、「ぼくの ぼうし とったやろ」。

そしてテキストのないカット。

この間……。

 

次のページではくまは無事にぼうしを取り戻していますが、うさぎの姿はありません。

そこでりすが「うさぎ どこいったん?」と質問すると、今度はくまが挙動不審となり、「し、しらんよ」「うさぎなんか しらんで」「うさぎなんか さわったことも ないで」とオドオド答えるのです。

 

しかしよく見るとくまが座っているのはさっきまでうさぎがいた場所。

草は折れ、葉が散らばり……。

 

★      ★      ★

 

ああー、なるほどね」とうなずくものの、はっきり言って怖い。

絵本では割と珍しいブラックジョークです。

面白いし絵も素敵だけど、やっぱり子どもに見せるのを躊躇してしまう人もいるでしょう。

 

翻訳出版するにあたって出版社側もそこのところで悩んだのでしょう、その結果として長谷川さんの大阪弁訳を選んだのはうまい案だと思います。

絵本原文はかなりシンプルなテキストのようで、長谷川さんはそれを意訳し、ユーモラスに仕立てています。

くまのキャラクターもよりすっとぼけた親しみやすいものとなり、おかげでラストの怖さがだいぶ緩和されています。

 

……もっとも、人によっては「余計にじわじわ怖い」かもしれませんが。

 

原文はシンプル、と言いましたが、ラストシーンでははっきりと「EAT」という単語を使ってまして、うさぎがくまに食べられたことは明白なんですね。

翻訳版ではそこをぼかしている分、かえって小さい子どもが「うさぎ、どこいったん?」と不思議に思って質問してくるかもしれません。

 

もっとも、子どもはうさぎがどこに行ったかを知っても、大人が危惧するほどに衝撃を受けないでしょう。

「なるほど」という納得感のほうが勝つからです。

もちろん子どもによっては怖くなってしまうかもしれませんが、直接的な残虐描写があるわけではないので、さほど心配することはないと思います(もっと有害なものは現代にあふれています)。

 

この絵本はニューヨークタイムズ2011年絵本ベスト10に選ばれ、続編的作品の「ちがうねん」(This Is Not My Hat)は2013年のコールデコット賞に輝きました。

絵本の自由度、可能性というものは時代とともに広がっていくものです。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆(ネイティブ関西弁話者有利)

実際に嘘がばれた時にこんな感じになる奴はいる度:☆☆☆☆☆

 

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