【絵本の紹介】「マドレーヌといぬ」【213冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

まだやりますよ、戌年「犬の絵本」紹介。

今回は私も大好きな一冊「マドレーヌといぬ」です。

作・絵:ルドウィッヒ・ベーメルマンス

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1973年5月10日

 

パリの古い寄宿舎で過ごす元気な12人の女の子たち。

いちばんおちびさんだけど活発なマドレーヌを主人公とした人気のシリーズ。

第一作「げんきなマドレーヌ」は以前に紹介しました。

作者ベーメルマンスさんの生い立ちやエピソードなどにも触れていますので、ぜひ併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「げんきなマドレーヌ」

 

この「マドレーヌといぬ」はシリーズ2作目にしてベーメルマンスさんにとっては3作目の子ども向け絵本です。

この作品で見事にコールデコット賞(アメリカ絵本界最高の賞)に輝いています。

 

修道院とか寄宿舎とか言っても、今ではあまり想像できなくなりました。

そう言う私も、子どもの頃に読んだ児童文学でしか知りませんが。

 

小さな女の子たちとシスターの清らかな生活。

何となく、身寄りのない子どもを集めた孤児院をイメージしてしまうのですが、ここで登場するのは「よい むすめたち」だそうで、わりと「いいとこの子」っぽいです。

 

ベーメルマンスさんの奥さんは元修道女で、「マドレーヌ」の名も、彼女の名前に由来しています。

 

さて、今作の導入部は1作目「げんきなマドレーヌ」の冒頭のダイジェスト版のような構成になっています。

せんせいの ミス・クラベルは、なにごとにも おどろかない ひとでした

の、マドレーヌが橋の欄干に上って歩くカットも、ほぼそのまま。

 

ところが、ここで事件が。

マドレーヌが足を踏み外し、川に落っこちます。

たちまち大騒ぎ。

かわいそうに マドレーヌが、すんでに おぼれるというところ

に、一匹の勇敢な犬(♀)が、川に飛び込み、救助してくれます。

 

みんなはその犬を屋敷に連れ帰り、「ジュヌビエーブ」という名を付けて可愛がります。

 

半年がたち、5月1日が近づくと(ってことは、マドレーヌが川に落ちたのは真冬の季節ですね。さぞ冷たかったでしょう)、みんなはソワソワしだします。

その日は学校検査の日で、評議員たちがぞろぞろ寄宿舎にやってきて細かくチェックを入れるのです。

 

そこで隠れていたジュヌビエーブが見つかってしまい、委員長曰く、

こんな ざっしゅけんを かわいがるなんて、よい むすめたちの おひんが さがります

ということで、追い出されてしまいます。

命の恩人(犬)を追い出されて、怒ったマドレーヌは椅子に飛び乗り、

いいんちょうどの! おぼえていなさい!

ジュヌビエーブほど、えらい いぬは ないわ。あなたには、てんばつが くだりますから!

と叫びます。

 

このシーン、ほんとにカッコイイ。

そしてなんとこれが1作目から通しての、主人公マドレーヌの初セリフなのです。

 

しかし、いくらマドレーヌが怒っても、大人の力には逆らえません。

評議員たちが帰ってから、ミス・クラベルと12人はジュヌビエーブを捜しに出ます。

この捜索シーンで、例によってパリの名所が素敵な絵で描かれます。

 

けれども、肝心のジュヌビエーブは見つからずじまい。

がっかりしてみんなは屋敷に戻ります。

 

しかしその夜、ミス・クラベルが外を見ると、街灯の灯りの下で吠えているジュヌビエーブの姿が。

もちろんマドレーヌたちは大喜び&誰がジュヌビエーブと寝るかで大喧嘩。

 

ここでも1作目のラストをなぞったカットと文。

そして最後に、ミス・クラベルもびっくりの出来事が。

 

★      ★      ★

 

カトリックや修道女の価値観に対する賛否は様々でしょうが、幼い子どもたちにとって「寮生活」というのは、どこか憧れを覚える響きには違いありません。

 

そして、ホテル勤務で磨かれた作者一流の風刺の目は、ここでも鋭く光っています。

お高く止まった評議委員長の「おひんが さがります」からの「さっさと うせろ! ごろつきめ!」とか。

 

でも、これはひとつには訳者・瀬田貞二さんの言葉選びの妙でもあります。

今時の絵本ではお目にかかれないような日本語表現の数々も素敵です。

 

ちなみに、瀬田さん自身もこの作品がお気に入りのようでして、自身が文を手掛けた絵本「きょうはなんのひ?」(林明子:絵)では、まみこの一番好きな絵本として「マドレーヌといぬ」が登場しています。

 

≫絵本の紹介「きょうはなんのひ?」

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

マドレーヌの決め台詞のかっこよさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「マドレーヌといぬ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「ハリーのセーター」【212冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

戌年の始めに犬の登場する絵本を紹介しようと思って本棚を漁ってみましたが、いやあ、多い多い。

以前から「絵本に最もよく登場する動物」ランキングというものを誰か作ってくれないかなー、などと思っている私ですが(自分でやるのは時間がなくて……)、印象だけで言えばやっぱり犬と猫が多い気がしますね。

 

あと、ネズミとゾウ。

キツネは海外でもよく出てきますが、タヌキはやっぱり日本以外では見ませんね。

 

さて、今回紹介するのは大人気「どろんこハリー」シリーズより、「ハリーのセーター」です。

文:ジーン・ジオン

絵:マーガレット・ブロイ・グレアム

訳:渡辺茂男

出版社:福音館書店

発行日:1983年5月20日

 

シリーズ1作目については、以前に取り上げましたので、そちらも併せてどうぞ。

 

≫絵本の紹介「どろんこハリー」

 

天真爛漫なヒーロー・ハリーが、今回も読者をハラハラさせつつ、ある種の痛快さも感じさせてくれます。

 

誕生日に、おばあちゃんからプレゼントを贈られたハリー。

届いた包みを開ける様子が、本文開始より前に扉の3pを使って説明されているところは、シリーズ通してのお約束的構成。

 

プレゼントの中身は、バラもようのセーター。

けれど、ハリーはこの柄が気に入りません。

 

そこで、隙を見てセーターを捨てようとしますが……。

どこに捨てても、親切な人が拾って追いかけてきてしまいます。

不満げなハリー。

 

結局どこにも捨てることができず、庭で座り込んでいたハリーは、セーターから毛糸が一本出ていることに気が付きます。

引っ張ると毛糸はどんどん伸びます。

そこへ1羽の鳥が滑空してきて、毛糸の端をくわえ、飛び去ります。

見る見るうちに毛糸はほどけ、ハリーのセーターは一本の毛糸になってしまいます。

 

喜ぶハリーですが、折悪しくおばあちゃんが家に遊びに来ることに。

当然家族はもらったセーターを探しますが、どこにもありません。

 

やがておばあちゃんが到着すると、ハリーは散歩をせがみます。

おばあちゃんたちを引っ張って、ハリーはあの鳥が飛び去った公園を目指します。

するとそこには……。

なんと、ハリーのセーターで鳥の巣ができています。

ハリーが、セーターを あのとりに あげたのよ!

と喜ぶ子どもたち。

おばあちゃんもハリーも、そして鳥も、みんな笑顔の大団円。

 

次のクリスマスにおばあちゃんから贈られた新しいセーターは、ハリーも気に入って満足するのでした。

 

★      ★      ★

 

ハリーの百面相が面白い。

特に、捨てたセーターを持ってこられた時の、ムスッとした表情が可愛らしくて秀逸です。

3度目に届けてくれた男の子の親切心しかない顔と、飼い主の子どもたちの「またか!」という怒った顔も相まって、非常にユーモラス。

 

せっかく頂いたプレゼントを捨てるなんてひどい気もしますが、ハリーにとっては「気に入らない」という自分の心のままに行動しているだけなのです。

以前の記事でも触れたとおり、「自分の心に対する嘘のなさ」こそがハリーの最大の魅力です。

そしてハリーは「子ども」そのものでもあります。

 

子どもの「嘘」を厳しく咎める大人がいますが、本当に深刻なのは口先の嘘ではなく、自らの心に対する嘘です。

 

それに、ハリーはプレゼントは気に入らないけど、おばあちゃんのことは大好きなのです。

ですから、おばあちゃんが家に来ると聞くと、セーターのことを考えて「しっぽを ちょろん」と垂らします。

 

セーターを捨ててしまいたい気持ちも、おばあちゃんが好きな気持ちも、どちらも真実。

「子ども」はいずれこの葛藤を経て大人になります。

その時に、どれだけ自分の心と行動を一致させてきたかによって、どういう大人になるかが分かれるのだと思います。

 

私はハリーを見るとき、ふと自分の心の中に「子どもの自分」の目を感じることがあります。

その自分は、決して自分自身への嘘を許してくれないのです。


推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

鳥のセーター模様の再現力度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ハリーのセーター

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【絵本の紹介】「アンジュール ある犬の物語」【211冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今日から本格的にお仕事という方も多いと思います。

休みボケしそうですが、気持ちを新たに、新年最初の絵本紹介といきましょう。

 

ここはやっぱり戌年にちなんで、犬の絵本を持ってきました。

アンジュール ある犬の物語」です。

作・絵:ガブリエル・バンサン

出版社:BL出版

発行日:1986年5月1日

 

しかし、張り切ってタイトル紹介したはいいけど、考えてみればあんまり新年一発目に読むような景気のいいお話でもないんですね、これ。

地味だし、暗いし、悲しいし。

見てください、表紙の犬の寂しげな姿。

 

でも、まごうことなき傑作絵本です。

それに、絵本というものの原点とも言うべき要素を持つ作品でもあるので、あえて選びました。

 

まず、このお話にはテキストがありません。

完全に絵のみの、まさに「絵本」です。

 

さらにその絵も、黒鉛筆一本で描かれたモノクロデッサン風カット。

たったそれだけで、文の力も借りず、迫真の物語世界を構築している点に驚嘆します。

冒頭、一匹の犬が車から道端に投げ捨てられるという、衝撃のカットから始まります。

犬は突然の仕打ちに驚き、走り去る車を必死に追いかけます。

 

しかし、無情にも車は見えなくなってしまいます。

 

犬は匂いを辿り、追跡を続けますが、夢中になって道路へ飛び出したせいで、避けようとした車同士がぶつかり合い、炎上事故に。

犬はおののくように現場から離れ、長いさすらいを始めます。

もはや飼い主の車は完全に見失い、途方に暮れて遠吠えし、がっくりと肩を落として道を歩きます。

 

やがて日は暮れ、犬は町に流れ着きますが、ここでも邪険にあしらわれます。

居場所のない犬の前に、これも独りぼっちのように見える男の子が現れます。

近づいてくる男の子に、疲れ切った犬は顔を摺り寄せます。

 

★      ★      ★

 

一見荒々しいデッサンですが、犬の表情、肢体、構図、実に計算されていて、胸に迫るものがあります。

読み進めていくうち、見ているのが辛いほどの犬の絶望と慟哭が伝わってきて、しかしそれでも目を離せない。

 

車から突き落とされる犬の衝撃と困惑と悲嘆。

そして、恐ろしい大事故を引き起こしたことにより、読者はこの犬が社会的にも居場所がなくなったことを知らされるのです。

 

徹底した拒絶と孤独。

作者の筆は、容赦なく冷酷な現実を突きつけます。

 

最後の少年との出会いだけが救いなのですが、それすらも、何もかもが一瞬で転換するハッピーエンドではありません。

 

この少年は荷物を抱え、独りぼっちのようです。

彼がこの犬に引き寄せられたのは、同じ孤独な魂を感じたからでしょうが、寄る辺ない二人がこれからどんな暮らしを送るのか、果たして救いはあるのか、そうしたことは読者の想像に委ねられます。

 

そういう無限の解釈可能性を残す点も、この絵本が名作たるゆえんだと思います。

見る人一人ひとりの心に、深い何かを残さずにはおかない作品なのです。

 

「アンジュール」とは、フランス語で「ある一日」という意味で、タイトル通り、これはある犬の長い一日を描いた絵本ということになるのでしょう。

読み聞かせるには、字がないので、ただ黙ってページをめくるだけになってしまい、少々難しいです。

 

もちろん、子どもと内容について語らいながら読んでもいいのですが、この凄絶な静寂世界にふさわしい言葉を見つけるのは至難です。

ある程度の年齢の子どもに読むか、あるいは一人で読むのがいいかもしれませんね。

 

推奨年齢:小学生高学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

飼い主非道度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「アンジュール ある犬の物語

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