【絵本の紹介】「羊男のクリスマス」【290冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

12月になりましたね。

色々と忙しい時期ですが、健康には気を付けて、気分良く新年を迎える準備をしましょう。

 

さて、今回もクリスマス絵本を取り上げます。

村上春樹さんと佐々木マキさんによる共作絵本「羊男のクリスマス」です。

作:村上春樹

絵:佐々木マキ

出版社:講談社

発行日:1985年11月25日

 

村上さんについては、今さらここで説明するまでもないでしょう。

毎回ノーベル文学賞の候補に挙げられる世界的人気作家で、絵本の翻訳の仕事もされています。

その独自の作風と文体、不思議な世界は多くの読者を魅了する一方、「難解」「意味不明」という批評の的にもされがちです。

 

私自身は村上作品にさほど通暁しているわけではないので、彼の作家性について語るのは自信がありません。

ただ、個人的には小説であれ、絵本であれ、映画や音楽であれ、「難解なもの」は嫌いではありません。

 

一見すると単純だけど読みかたによっては複雑な構造の絵本というものは実は結構たくさんあります。

そうした作品を読むとき、読者一人一人の「読み」が試されることになります。

そのスリリングさがひとつの楽しみだし、作品について誰かと語りたくなる要素でもあります。

 

村上さんの作品の人気の理由は、そうした点にもあるのではないでしょうか。

もちろん、いわゆるミステリーと違い、村上作品の多くは結末がはっきりしない「オープンエンド」で、「謎」についての「答え合わせ」ができないというフラストレーションは残ります。

 

けれども、単一の読解に落とし込めないからこそ、その作品は多くの読者に対して開かれているとも言えます。

絵本の読み方だって、解釈に正解も不正解もないし、どう読んだってそれは読者の自由な権利なのです(面白い読み方とつまらない読み方はありますけど)。

 

さて、そんな一筋縄では行かない村上さんをして、「ぼくにとっての永遠の天才少年」と言わしめたのが、我らが(?)佐々木マキさんです。

以前の記事でも触れましたが、佐々木さんの前身は漫画家で、それもとびきりヘンテコで実験的な漫画を描いていました。

一種の狂気すら感じるその前衛的作品に、1960年代の若者たちから熱烈な支持者が続出しました。

 

≫絵本の紹介「やっぱりおおかみ」

 

村上さんもそんな若者の一人で、大学時代に佐々木さんのデザインしたビートルズのポスターを街角から盗んでしまったほど。

そして自身が作家となった時、「風の歌を聴け」という最初の小説の挿絵を是非にと佐々木さんに依頼したのでした。

 

そんな村上さんですから、佐々木さんと共作で絵本を作ることになった時、まずは「何でもいいから絵を描いてください」「その絵を見て話を考えます」と佐々木さんに言ったそうです。

そこで佐々木さんが描いたのは「灯台の近くで眠っているクジラ」と「等身大のテディベアが女の子とたわむれている」絵。

そこから村上さんが作り出した物語が「羊男のクリスマス」というわけです(クジラもテディベアも出てこないけど)。

 

ちょっと前置きが長くなり過ぎたので、手早く内容に入りましょう。

絵本と言っても漢字は普通に出てくるし、文章も長いです。

 

クリスマスのための音楽の作曲を依頼された「羊男」。

しかし、家主に妨害され、クリスマスまであと四日となっても曲はできません。

 

そこへ「羊博士」が現れ、羊男が作曲できないのは、クリスマス・イブに穴の開いたドーナツを食べたことによる呪いのせいだと教えます。

そこで羊男は羊博士の指示に従い、呪いを解くための穴を掘り、そこに定められた時刻に落ちます。

 

落ちた先で、羊男は次々に奇妙な人物に遭遇します。

顔がねじれた「ねじけ」、双子の姉妹、「海ガラス」、「なんでもなし」……。

ちょっと意地悪だったり不条理だったりする彼らとのやり取りを経て、羊男は呪いを解くための旅を続けます。

 

辿り着いた先に待っていたのは「聖羊上人」。

そして今まで出会った人々が一堂に会し、羊男に「クリスマスおめでとう!」と叫びます。

 

なんとこれまでの冒険はすべて仕組まれたもの。

羊男はクリスマスパーティーに招待されていたのです。

彼はそこでピアノを弾き、とても幸せな時間を過ごします。

 

目が覚めると、羊男は自分の部屋のベッドにいました。

そしてクリスマス・カードが届きます。

 

羊男世界がいつまでも平和で幸せでありますように

 

★      ★      ★

 

羊男」というキャラクターは村上さんの他作品にも登場しますが、その正体はいまいち不明です。

この世界には「羊男協会」なるものがあり、「羊男」たちはある種の義務のように羊の毛皮の衣装を着ているようです。

 

「なんで?」というところの説明はありません。

その不条理さが村上ワールド。

 

これは羊男が「穴に落ちる」話ですが、人生において我々は度々「穴に落ち」ます。

神ならぬ我々には、どういう因果で自分が「穴に落ちた」のかを知ることはできません。

表面上の理由は色々と考え付くでしょう。

しかし、本当のところはわからないのです。

 

ですから、聖羊上人がどうして穴に落ちたのか、という羊男の質問に答えは返ってこないのです。

自分では「何も悪いことしてないのに」呪われてしまうこともあるのです。

 

人生の不幸や不条理に「なんで自分だけが……」と嘆きたくなることは仕方のないことです。

けれど、理由を求め続けるのをいったん諦め、とにかく自分の状況を観察し、行動し、異質に思える他者と触れ合ってみると、「穴の中」にも意外な優しさや親切や幸せが発見できるかもしれません。

 

羊男の旅が私たちに教えてくれるのは、そんなささやかな幸せに至るためのヒントのように思います。

 

推奨年齢:小学校高学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

主食がドーナツ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「羊男のクリスマス

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「くんちゃんとふゆのパーティー」【289冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私が住んでいる大阪では、積もるほどに雪が降ることは本当に珍しく、息子はまだ積雪を見たことがありません。

けれども様々な絵本から雪遊びの知識はたくさん得ていますので、今年は色々と(勝手に)計画を立てている様子。

 

12月のカレンダーを見たら、いつの間にか息子が「そり」の予定を書き込んでました。

どうやら12月には必ず雪が積もるものと思っているらしい。

 

他にも巨大な雪だるまを作るとか、かまくら(2階建て・滑り台付き)を作るとか、期待は膨らむ一方。

これはもう、スキー場にでも連れて行くしかないかもしれません。

 

さて、今回は優しい冬の絵本「くんちゃんとふゆのパーティー」を紹介します。

作・絵:ドロシー・マリノ

訳:新井有子

出版社:ペンギン社

発行日:1981年11月

 

天真爛漫な「くまのくんちゃん」シリーズ。

以前に「くんちゃんのはじめてのがっこう」を取り上げました。

 

≫絵本の紹介「くんちゃんのはじめてのがっこう」

 

豊かな自然に囲まれた一軒家で、優しく理解のある両親から愛情を受けて健やかに育つくんちゃんの物語。

本当にこのシリーズは「健やか」という言葉がぴったりきます。

 

寒い季節がやってきて、冬ごもりの支度を始めるくんちゃん一家。

でも、くんちゃんは冬ごもりなんかしたくありません。

何故なら、まだ雪を見たことがないから。

 

それを聞いてお父さんは、くんちゃんが雪を見られるように、冬ごもりは少し先延ばしにすることにします。

子どもに理解のあるお父さん。

 

そのお父さんはよその家の屋根直しを手伝いに出かけます。

その後、ついに雪が降ってきます。

 

大喜びで雪と触れ合うくんちゃん。

雪を掴まえようとしたり、足跡を付けたり、雪だるまを作ったり。

雪が積もると食べるものがなくなるという小鳥たちのために、木の枝に食べ物を結び付けたり、しまりすやうさぎたちを呼んでパーティーを開いたりする、優しいくんちゃん。

 

そして、自分の家でも冬のパーティーをして、お父さんをびっくりさせようと考えます。

斧でもみの木を切り倒すくんちゃん。

小さくてもさすがはくま。

力持ちです。

飾りつけをし、クッキーを焼いて待っていると、真っ白な雪ぐまのようになったお父さんが帰ってきます。

 

お父さんは袋からくんちゃんとお母さんへのお土産を出し、家族は楽しい夕飯。

くんちゃんは幸せな夢を見ながら眠りにつくのでした。

 

★      ★      ★

 

黒ペンのタッチに赤が映えます。

「クリスマス」という言葉は出てきませんけど、くんちゃんが作るのは明らかにクリスマスツリーだし、大きな袋をかついで帰ってくるお父さんはサンタさんのようです。

 

マリノさんの描くイラストは、ラフなようでいて本当に繊細です。

くんちゃんの仕草や立ち方など、くまの特徴を維持しつつ人間の男の子そのものに見えます。

 

両親のくんちゃんを見つめる表情からは深い愛情が伝わってきて、思わず我が身を振り返ってしまいます。

寒いけど、面倒だけど、出費がかさむけど、やっぱりこの冬は雪遊びを経験させてやらないとなあ。

しかしいざとなったら、うちの息子は雪の冷たさと寒さにくじけて、早々に逃げ帰るんじゃなかろうか……。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

お母さん美人度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「くんちゃんとふゆのパーティー

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【絵本の紹介】「ババールとサンタクロース」【288冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに「ぞうのババール」シリーズの続きをやりましょう。

ババールとサンタクロース」です。

作・絵:ジャン・ド・ブリュノフ

訳:矢川澄子

出版社:評論社

発行日:1974年12月30日

 

この「ババールとサンタクロース」はシリーズ5作目にして、ブリュノフさんの遺作となります。

私もこの大河ロマン的絵本を綴ってきて、とうとうここまで来たかと感慨ひとしおです。

過去記事も併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「ぞうのババール」

≫絵本の紹介「ババールのしんこんりょこう」

≫絵本の紹介「おうさまババール」

≫絵本の紹介「ババールのこどもたち」

 

幼くして母親を亡くし、逃亡の果てに良き理解者や伴侶と出会い、ついにはぞうの国の王となったババール。

いくつもの試練を乗り越えたババールは、三人の子どもに恵まれ、幸せな安定した暮らしを手に入れます。

 

そして今回は、こざるのゼフィールが人間の世界で「サンタクロース」と呼ばれるおじいさんの存在を知り、アルチュールとババールの子どもたちにその素敵な話を聞かせるところから始まります。

 

彼らはさっそく、自分たちもクリスマスにプレゼントがもらえるよう、サンタクロースに手紙を出します。

けれど返事は来ず、がっかり。

 

そんな彼らを見たババールは、自らサンタクロースに会って直談判しようと決意します。

 

身分を隠し、一人旅に出るババール。

サンタクロースの手掛かりを求める彼の前に、様々な登場人物が現れ、協力してくれます。

サンタクロースについての文献を手に入れ、学者に解読してもらい、犬の協力を得て、サンタクロースのいるらしき「プリムネストエ」に向かいます。

 

そこでやっと本物のサンタクロースの家に辿り着きます。

サンタクロースは地下に住んでおり、アリの巣のようなその内部が図解されます。

実に楽しいシーンです。

 

さて、サンタクロースは忙しくてとてもぞうの国までは回り切れないとのこと。

そこでババールはクリスマスまでの休暇として、サンタクロースをぞうの国へ招待することにします。

 

ひこうせん サンタとくべつごう」に乗り、ぞうの国に帰還するババール。

サンタクロースはぞうたちの熱烈な歓迎を受け、ゆっくりとバカンスを楽しみます。

 

そのお礼として、サンタクロースはババールにサンタクロースの衣装とおもちゃの袋を渡します。

ババール自身がサンタとなって、ぞうの国の子どもたちにプレゼントを配るのです。

もちろんクリスマスは子どもたちはみんな大喜び。

サンタクロースはクリスマスツリーを届けてくれ、来年からは毎年ぞうの国にも来てくれることを約束して帰って行くのでした。

 

★      ★      ★

 

今回は絵本界最強クラスのご都合主義パワーは抑えられ、ババールはなかなかに苦労します。

その象徴として、例の大金持ちのおばあさんが登場しません。

彼女ならサンタクロースに対するコネも持ってそうなのに。

 

つまり、もうババールは完全に大人なのです。

自らの力で人生を切り拓く力を持っているのです。

 

その力の根源は、これまでのシリーズで繰り返し描かれてきた「落ち着いた態度」「均衡の取れた感情」「理性的な対処」といった「正のパワー」です。

不治の病に侵されたブリュノフさんは、最後の最後まで、子どもたちへのこれらのメッセージを送り続けたのです。

 

彼の死後、残された原稿をもとに、息子のロランさんがこの絵本を完成・出版しました。

そしてそれ以降も、「ババール」シリーズはロランさんの手によって描かれ続けています。

 

この間紹介した「マドレーヌ」シリーズが、作者の孫の手によって引き継がれたのと同じです。

 

≫絵本の紹介「マドレーヌのクリスマス」

 

奇しくも、作者の最後の作品がクリスマスにまつわるものという点まで共通しています。

 

ジョン・ベーメルマンスさんもロラン・ド・ブリュノフさんも、自分が子どもの頃から親しみ続けてきた偉大で楽しい絵本シリーズが終わってしまうことに耐えられなかったのでしょう。

作者の魂は作品と共に生き続け、また次の世代へと受け継がれていきます。

 

「正のバトン」を受け取った者は、それを正しく次のランナーに渡す使命感を呼び起こされます。

そんな風にして、ブリュノフさんが命を削って描いた「ぞうのババール」は、今もなお、世界中の子どもたちの生きる力となっているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

サンタ家の断面図の楽しさ度:☆☆☆☆☆

 

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