【絵本の紹介】「もりたろうさんのじどうしゃ」【226冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

高齢者にいかにして免許を返納してもらうか、という昨今の風潮に真っ向から逆らった(1969年の作品ですが)素敵な絵本を紹介します。

もりたろうさんのじどうしゃ」です。

作:大石真

絵:北田卓史

出版社:ポプラ社

発行日:1969年6月

 

大石真さんと北田卓史さんの共作では、他に「チョコレート戦争」や「さとるのじてんしゃ」などがあります。

大石さんは同じ児童文学作家の寺村輝夫さんと親交が深く、寺村さんの才能を最初に見出したのも彼でした。

 

≫絵本の紹介「ぞうのたまごのたまごやき」

 

北田さんは可愛いけれどちょっと無機質な目をしたキャラクターイラストが特徴。

乗り物の出てくる作品が多いです。

 

郵便局に勤めるもりたろうさんは、毎日毎日徒歩で郵便を宅配しています。

今では考えられませんが。

 

いいお年のもりたろうさんにはなかなか辛いお仕事のようで、自動車での郵便配達を夢見ています。

60歳で定年になると、「これから じどうしゃを ならうぞ」。

 

もう仕事をしなくていいのに。

どうやら、自動車を運転すること自体に憧れていた様子。

奥さんは心配しますが、もりたろうさんは教習所に通い始めます。

苦労の末、ついに免許を取得。

 

早速中古車を買いに行きますが、どれも高くて手が出ません。

すると、一番隅っこに格安の「おんぼろの じどうしゃ」を見つけます。

もりたろうさんは自分でおんぼろじどうしゃを修理し、ペンキを塗り替え、綺麗に洗います。

 

ある日、息子夫婦と孫に会いに、もりたろうさんは自動車で町まで出かけることにします。

途中で怪我をした犬を道連れに、自動車は町に辿り着きます。

 

しかし、自動車の水を汲みにもりたろうさんが離れた隙に、二人組の銀行ギャングが逃げてきます。

無人のおんぼろ自動車を見て、これ幸いと乗り込むギャングたち。

ところが中にいた犬にかぶりつかれ、自動車ごと川にはまってしまいます。

 

ギャングたちはお縄となり、一件落着。

もりたろうさんは銀行員たちに感謝されますが、大切な自動車が廃車となってがっかり。

 

でも、次の朝・・・。

 

★      ★      ★

 

ロングセラー絵本には、いつ読んでも古さを感じさせない作品が多い一方、この「もりたろうさんのじどうしゃ」のように、はっきりと時代を感じさせる作品もあります。

 

それは単に古い型の自動車が登場するからではなく、自動車(機械)と人間の関わり方を描いているからだと思います。

おんぼろの中古車をもりたろうさんが大切に磨き上げるシーンは私も特にお気に入りですが、こういう風に愛車と情緒的に関わる男性は、昔に比べれば随分と減ったのではないでしょうか。

 

今時の車は、乗り手が自分でメンテナンスするような部分はほとんどありません。

自動車は商品であり、欠陥があればメーカーが修理するか、買い替えるかです。

そしてまた、そうやって消費サイクルが回るほうが、業界にとっても都合がいいようです。

ずっと同じ自動車を丁寧に大事に乗り続けると、かえって部品代やら修理費のほうが高くついたり。

 

でも、中古車バーゲンの片隅に、ろくに手入れもされずに放り出されていたおんぼろ自動車を買い取り、自らの手で大事に補修したもりたろうさんの嬉しそうな表情は素敵です。

北田さんがあとがきで書いているように、川に落としてしまったのは本当に残念です。

 

この絵本は人と車が情を通わせることのできた時代の名残りを感じさせ、それが大人の男にとってはある種のノスタルジィを呼び起こすのかもしれません。

 

古い絵本を色々と読み比べてみると、時代が変わっても普遍的なものと、時代と共に目まぐるしく変わっていくものの違いを見ることができます。

そして改めて、

なにを あんなに あわてて いるのだろう

というもりたろうさんのセリフが、やけに象徴的に聞こえるのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

レトロ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「もりたろうさんのじどうしゃ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「おんちょろちょろ」【225冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は日本の民話絵本「おんちょろちょろ」を紹介します。

再話:瀬田貞二

絵:梶山俊夫

出版社:福音館書店

発行日:1970年2月1日(こどものとも)

 

「おんちょろ経」「ねずみ経」などのタイトルで、地方ごとに少しずつ細部が違う形で伝わっています。

しかしその秀逸なユーモア、痛快さ、伏線回収の見事さは全国共通です。

 

一人の男の子が道に迷ってしまうところから物語が始まります。

日が暮れてしまい、男の子は山のふもとの一軒家で、一晩泊めてもらおうとします。

 

その家のじいさんとばあさんは男の子を見て、お寺の小僧さんだと思い込み、親切にもてなしてくれます。

男の子は違うとも言えず、そのまま小僧になりすまします。

ご飯がすむとばあさんは、男の子に、「うちの ほとけさまに、ひとつ おきょうを あげてくださらんか

 

困った男の子は仕方なしに仏壇の前に座って手を合わせ、ちょうど壁の隅から出てきたねずみを見て、そのねずみの行動を即興のお経に仕立てて読み上げます。

おんちょろちょろ、でてこられそろ

おんちょろちょろ、のぞきもうされそろ

おんちょろちょろ、ささやきもうされそろ

おんちょろちょろ、ばちあたりそろ

おんちょろちょろ、でていかれそろ

 

こんなでたらめなお経でもじいさんとばあさんは有難がって、繰り返し唱えます。

次の日、男の子を町まで送ってあげた後も、じいさんとばあさんは毎日仏壇の前で「おんちょろちょろ」。

 

さて、そこへ三人組のどろぼうが忍び寄ります。

けれど、そこへじいさんとばあさんの「おんちょろちょろ、でてこられそろ」が聞こえたので、どろぼうたちはぎくりとします。

障子の破れ穴から中を窺うと、「のぞきもうされそろ」。

 

こちらの動きをすべて見通しているかのような言葉に、どろぼうたちはいよいよ驚き、小さな声で相談していると、「ささやきもうされそろ」。

いっそ二人を殺害してしまおうか、と言うと「ばちあたりそろ」。

どろぼうたちは震え上がって退散してしまいます。

 

じいさんたちは何も知らずに、「でていかれそろ」。

 

★      ★      ★

 

前段では進退窮まった男の子の機転に笑わされ、後段ではがらりと雰囲気が変わって、どろぼうたちの侵入にハラハラ。

そこで思いもよらぬ撃退劇に、感心するやら可笑しいやら。

 

実に無駄のない演出と構成です。

笑い話としてもよく出来ています。

 

「そろ」は「候」のことで、こういう言い回しは現代ではなおさら耳馴染みがなく、難しい気がしますが、それだけにもっともらしく聞こえます。

 

こういう、本人が全然そのつもりのないことで、偶然に災厄から逃れるという昔話は色々とあります(「ふるやのもり」とか)。

人生の幸運も災難も、己のあずかり知らぬところで、紙一重の差でやってくるもの。

親切や信心は、どんな形で役に立つかわからないもの。

 

じいさんとばあさんの純朴さが印象深く、そうやって純朴に生きていれば、悪いことが起こっても気づかず、悪いことの方から勝手に避けていくのだ、という慈愛のこもった人生観も見えます。

 

しかしまあ、今時はこういう老人は真っ先に詐欺被害に遭いそうですが。

それすらも、本人が気づかなければ幸せ……なのでしょうか。

 

純朴には生きにくい世の中だからこそ、こうした昔話が光を放つのかもしれませんね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

男の子の臨機応変度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「はるにれ」【224冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

たまには写真絵本の紹介を。

1979年に「こどものとも」に発表された「はるにれ」です。

写真:姉崎一馬

出版社:福音館書店

発行日:1981年11月10日

 

絵本そのものが、とても自由度の高いメディアではありますが、写真「絵本」とは何ぞや、と問われると定義づけに困ってしまいます。

文があって、物語性があって、絵の代わりに写真が用いられているものだけが写真絵本かといえば、決してそうではない。

この「はるにれ」は、全編通してテキストなし、イラストなし、最初から最後まで全部写真。

こういう写真絵本もあるのです。

 

それって「写真集」じゃないの。

と言われてしまうと、そうではない、とは言いにくい。

でも手に取って読んでみると、やっぱりこれは「絵本」なのだと思えてくるのですね。

北海道の草原に一本だけ立っている樹齢140年のはるにれの巨木。

 

カメラは近づいたり遠ざかったりしながら、ひたすらにこのはるにれを撮り続けます。

四季を通じて、表情を変えるはるにれ。

冬の寒さに耐え、雪原にすっくと立ち、春の日差しを浴び、夏には緑を生い繁らせ……。

深いもやの中に霞むカットや、満月を頭上に抱く幻想的なカット。

 

見続けていると、ファインダー越しにはるにれが語りかけてくるかのようです。

 

★      ★      ★

 

何故これが「絵本」なのか。

それはここには「物語」があるからだと思います。

 

この作品から自然の雄大さを感じるか、四季の美しさを感じるか、生命の強靭さを感じるかは、人それぞれでしょう。

その「それぞれ」の感受性に訴えかけるのは、この絵本に内包されている物語です。

 

一本の木を、ただ見ただけでは、意識にも上らないこと。

同じ木を、四季を通じて見続けることで、それを写真家の目を通して見ることで、我々の概念は新たに書き換えを要請されます。

 

子どもは、ある絵本を読む前と読んだ後とで、微妙に顔つきが変化していることがあります。

それは自身の概念が書き換えられ、自己変容を遂げていることの証です。

「物語」がそうさせるのです。

 

これはストーリーがあるとかないとかいう問題ではありません。

図鑑を読んでいたって、子どもはその瑞々しい感性でそこから壮大なスケールの物語を読み取ることがあります。

子どもは知識を増やすことに興奮しているのではありません。

自分を成長変化させる「物語」に出会えたことに興奮しているのです。

 

作者の姉崎さんは、日本の森や野生の樹木を撮り続けている写真家さんです。

この絵本の主人公であるはるにれは北海道中川郡豊頃町にあり、姉崎さんは4年かけてこの巨木の写真を撮影したそうです。

 

絵本の発行によって有名になり、現在では町のシンボルとなっているそうです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆(文字がない分、読み聞かせるのは意外と難しい気もします)

自然への畏敬の念度:☆☆☆☆☆

 

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