絵本の紹介「ビロードうさぎ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

12回にわたって更新してきたクリスマス絵本特集も、今回で最終回となります。

※ショップでのご注文は随時承っております。本日(12/21)中のご注文で、クリスマスに間に合う発送が可能です。

 

さて、最終回はやっぱり古典的ロングセラーを紹介しましょう。

ビロードうさぎ」(文:マージェリィ・ウィリアムズ、絵:ウィリアム・ニコルソン、訳:石井桃子、童話館出版)です。

この作品が発表されたのは1922年ですから、実に一世紀近く前のことで、それから現在に至るまで読み継がれている名作絵本です。

今回紹介しているのは、岩波子どもの本シリーズ「スザンナのお人形・ビロードうさぎ」(初版1953年)の中の「ビロードうさぎ」を新しく翻訳し直し、2002年に童話館より出版されたものです。

挿し絵は原書のものを再現しています。

 

ちょっと字が多く、話も長めですが、大人が読んでも感動できる美しい絵と訳文です。

 

ある年のクリスマスに「ぼうや」に贈られた、木綿のビロードでできたおもちゃのうさぎ。

しかし、ほかの高価なおもちゃたちは、ビロードうさぎを見下し、馬鹿にしていました。

高価なおもちゃたちは自分のことを「ほんとうのもの」だと思っていたのです。

けれども、ビロードうさぎは、そもそも「ほんとうのうさぎ」というものさえ知らなかったのです。

そんなわけで、ビロードうさぎはおもちゃたちの中で、肩身の狭い思いをしていました。

 

ある時、ビロードうさぎは仲良しの木馬に聞いてみます。

ほんとうのものって、どんなもの?

 

年を取った木馬は、こんな答えを返します。

ほんとうのものというのは、からだがどんなふうにできているか、ということではないんだよ

わたしたちの心とからだに、なにかがおこるってことなのだ

 

誰かが長い間、芯から可愛がったおもちゃは、ほんとうのものになれるのだ、と木馬は言います。

 

それからしばらくして、ビロードうさぎはぼうやと一緒にベッドで寝るようになります。

ぼうやはビロードうさぎをとても可愛がり、大事にしてくれました。

ビロードうさぎは、自分は「ほんとうのうさぎ」になれたのだと喜んでいました。

 

けれど、ある日、ビロードうさぎは外で本物のうさぎに出会います。

自分が彼らのように自由に跳び回れないことに、ビロードうさぎはショックを受けます。

ビロードうさぎは、ぼうやにとってだけ「ほんとうのうさぎ」であればいいと思うようになります。

長い時が過ぎ、毛が抜け落ち、みすぼらしくなっても、ぼうやは変わらずにビロードうさぎを愛してくれました。

 

しかし、ある時、ぼうやは病気になり、高熱でうなされます。

医者や大人たちは、ぼうやの身辺を消毒し、本やおもちゃはみんな焼いてしまうことにします。

ぼうやが大事にしていたビロードうさぎも、

それこそ、猩紅熱のバイキンの巣だ! すぐに焼いてしまわなくちゃいけない

と、医者の指示によって、ぼうやから引き離され、袋に入れられてトリ小屋の後ろに放り出されてしまいました。

 

幸せだった日々を思い出し、今の境遇を思って、ビロードうさぎが涙を流したとき、奇跡が起こります。

ビロードうさぎの涙が落ちたところから花が咲き、「子ども部屋の妖精」が現れます。

これからは、あなたは、だれが見てもほんとうのうさぎになるのです

 

そう告げられ、連れて行かれた森で、ビロードうさぎは、自分のからだがすっかり変わっていることに気が付きます。

他の野うさぎの仲間たちと同じように、自由に跳んだり跳ねたりできるようになっていたのです。

 

こうして、ビロードうさぎはついに「ほんとうのうさぎ」になることができたのでした。

 

 

―――とても深い話です。

「ほんとうのもの」とは、何を指すのでしょう。

長い間読み継がれる名作というものはすべからくそうですが、単一の解釈というものに嵌め込まれません。

ですから、私も自由に、自分なりの解釈をしてみようと思います。

 

「おもちゃたち」は、われわれそのものです。

いかに自分の見た目や富や能力を誇っても、しょせんは「おもちゃ」であり、様々なものに縛られ、自分の意思で生きることのできない不自由な存在です。

 

「ほんとうのもの」になるということの意味は、「精神が解放され、自由な存在になる」ことです。

 

木馬は「いちど、ほんとうの馬になってしまうと、もう、もとにはもどらないんだ。ずっと、ほんとうの馬でいるのさ」と言います。

「精神の自由」という光を獲得したものは、たとえ肉体や境遇がどうあろうとも、「自分自身の生」を生きることができるのだという意味でしょう。

 

仏教的に言えば「解脱」ですが、これは別に肉体を捨てて魂的世界へ行くことを意味しているわけではありません。

現に、ビロードうさぎは最後に「ほんもののうさぎ」として、ちゃんとぼうやと同じ世界を生きています。

ビロードうさぎはこれから新たな存在として、「自分自身の生」を生きるのです。

 

「ほんもの」になったうさぎが、これからこの世界ですることは何でしょう。

それはきっと、自分がぼうやにしてもらったように、他の誰かを「ほんとうのもの」にすることでしょう。

 

「おもちゃたち」を「ほんとうのもの」にするのは、持ち主の心の底からの「愛」です。

「精神の自由」=「自分自身の生」を獲得するためには、他者からの無償の愛が必要なのです。

誰かに心から愛されること。

自分自身を心から愛すること。

そうした後に初めて、ひとは誰かを愛することができるようになります。

 

愛による「正の連鎖」は、憎悪による「負の連鎖」よりも遥かに構築が難しく、時間もかかります(いかなる時も、創造よりも破壊のほうがたやすいものです)。

しかし、「ほんとう」の自分に行き着く道は、「正」の中にしかありません。

 

私は、「ビロードうさぎ」を、そんな「愛による精神の成長」の童話として捉えました。

子どもたちは、どんなふうにこの絵本を読み、何を受け取るでしょうか。

 

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

絵本専門の古本屋 えほにずむ

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E-Mail:book@ehonizm.com

絵本の紹介「しろいうさぎとくろいうさぎ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は結婚式にも贈られることの多いロングセラー絵本「しろいうさぎとくろいうさぎ」(文・絵:ガース・ウイリアムズ、訳:まつおかきょうこ、福音館書店)を紹介します。

なんといっても絵が美しいです。

うさぎの毛のふわふわした質感が、非常にリアルな存在感を放っています。

広い森に棲む、仲良しのしろいうさぎとくろいうさぎ。

二匹は毎日、楽しく一緒に遊んでいました。

 

けれども、くろいうさぎは時折かなしそうな顔で物思いにふける様子を見せます。

さっきから、なにを そんなに かんがえてるの?

しろいうさぎが尋ねると、

ぼく、ねがいごとを しているんだよ

いつも いつも、いつまでも、きみといっしょに いられますようにってさ

と、くろいうさぎは打ち明けます。

しろいうさぎは目を丸くしながら、

ねえ、そのこと、もっと いっしょうけんめい ねがってごらんなさいよ

と促します。

くろいうさぎは心を込めて言います。

これからさき、いつも きみといっしょに いられますように!

しろいうさぎは、このプロポーズを受け入れ、二匹は結婚します。

森のうさぎや動物たちが集まってきて、祝福のダンスを踊ります。

 

初めから終わりまで、愛で満たされた物語です。

 

「結婚」とは何かを、子どもにどう伝えるかは意外と難しいもの。

もちろん、行政的な話や動物学的な話を持ち出すのはセンスなさすぎです。

 

子どもにとって一番最初の「結婚」のモデルは両親です。

二匹のうさぎは子どもではありません。

ですからこの絵本を読む子どもは、二匹に自己ではなく、両親を投影します。

 

以前にも書きましたが、絵本の最大の存在価値とは、「この世界は楽しく、美しく、素晴らしいところである」というメッセージを子どもに伝えることです。

そしてそれは、親が子どもに伝えるべきメッセージでもあります。

 

たとえ現実がどうあれ、子どもには「結婚とは、愛し合う二人が『いつも いつも、いつまでも』一緒に、幸せに暮らすこと」なのだと伝えるべきでしょう。

子どもにとって、自分が両親に愛されているかどうかと同じくらい、両親が愛し合っているかどうかは重要な問題だからです。

両親の不仲は、子どもに自分の存在や将来への不安を植え付け、人格形成やその後の人生にまで影響を与えかねません。

極端な意見であることを承知で言えば、子どもの前で夫婦喧嘩をするというのは、虐待の一種だとさえ思います。

 

ちなみに。

この絵本が描かれたのは1965年のアメリカ。

時代背景を考えれば、ちょうど国際連合が人種差別撤廃を宣言したころです。

ですから、この絵本の隠されたテーマは、「白」いうさぎと「黒」いうさぎの、異人種間での結婚についてなのだという見方もできます(作者のウイリアムズさんは否定されていますが)。

 

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