2020.04.27 Monday
【絵本の紹介】「よわむしハリー」【374冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介するのは「よわむしハリー」です。
作・絵:バイロン・バートン
訳:舟崎靖子
出版社:ポプラ社
発行日:1976年10月
作者のバイロン・バートンさんははっきりした線と色使いが楽しいポップな絵柄で人気の作家さん。
日本でも多くの作品が翻訳されています。
「ひこうき」などののりものシリーズ絵本はうちの息子が0歳のころ大変お気に入りでした。
この「よわむしハリー」は現在絶版・重版未定の希少本でして、実をいうと私の秘蔵本を引っ張り出してきたもの。
「よわむしねこ」のハリーという少年が、ある事件をきっかけにがらりと変化する物語です。
同じ背景の連続カットで登場人物が動き回る手法が多用されており、軽快で洒脱な訳文も相まって、非常にテンポよく読めます。
冒頭からしゃれていて、めかしこんだ父親がサーカスのチケットを2枚手にして「ハリー」と呼びかけ、次の見開き扉で家から逃げ出してしまうハリーを描き、「これが ハリー」。
父親にサーカスに連れていかれるのが怖くて逃げだしてしまうわけです。
このハリーがどれくらい弱虫かというと、まず友だちが怖くて、犬や鳥が怖くて、車もサーカスも怖い。
結局は父親とサーカスに行くことになってしまうんですけど、もう楽しむどころじゃありません。
ライオンや象が怖くて、ピエロが怖くて、軽業が怖い。
もう不安で不安でたまらないハリー。
父親は別にそんなハリーを心配するでもなく、ただ息子を喜ばしてやるつもりで風船を買ってやったりしてます。
ところがここで思いもよらないハプニング。
恐ろしさのあまり上の空なハリーは、買ってもらったひとつの風船じゃなく、売り子が持っている大量の風船のひもを掴んでしまうのです(ここ、うまいこと絵で見せています)。
ハリーは大量の風船に引っ張られ、宙に浮かんでしまいます。
サーカスの舞台の真上まで浮かび上がって、風船が「パン!!」。
たぶん、この瞬間、ハリーの中でも何かが弾けてしまったのかもしれません。
しかも落下したところは恐ろしいライオンの檻の中。
「ハリーは ライオンと にらめっこ」
放心したようなハリーの表情。
あまりのことに言葉も出ないのか、それともすでにハリーの内面で何かが変わってしまったのか。
ハリーはすぐに檻から助け出されますが、そのあとずっとこんな呆けたような表情のまま、家に帰ります。
心配して出迎えた母親の前で、突然ハリーはかがみこむと綺麗な前転を披露します。
そればかりか、ハリーは様々な軽業の才能を発揮し、両親や友だちを驚かせます。
「ハリーは もう よわむしねこじゃない。こわいものなんて なんにも ない かるわざしさ」。
★ ★ ★
よわむし少年の成長譚という図式は名作「ラチとらいおん」と同様ですが、この絵本では臆病さを克服する過程がちょっと不思議です。
サーカスで散々な目に遭って、それでどうしてか軽業を身につけてしまう。
で、考えてみたらそれと臆病さの克服に何の関係があるのか、よくわからないわけです。
主人公であるハリーは一言も喋らないし、何を思い、何を感じているのかは絵から読み取るほかはないんですが、それもなかなか謎めいています。
でも、妙に説得力がある。
ラチにしろハリーにしろ、オーバーに描かれてはいますけど、実際にこういう子はいます。
大人から見れば、なんでそんなものが怖いのかわからないものを怖がる。
弱虫というより繊細なんですね。
でも、そういう子ども特有のナイーブな感情は意外と大切な気もします。
ハリーの恐怖がどこから来ているのかと想像しますと、たぶん原始的な畏れ、宇宙とか神様とか、とにかくそういう人智を超越した存在に対する本能的な畏怖の念なのではないかと思います。
大人に合わせて「世の中はこんなもの」という概念を早くに獲得して、怖いもの知らずに振舞える子どももいますけど、ある種の子どもたちにとって、やっぱり世界は限りなく未知のものであり、怖くて当たり前なのでしょう。
それを心配して周りの大人があれこれ手出しすると、そういう子どもは何しろ繊細ですから、余計に萎縮して恐怖心を募らせてしまいます。
その点、ハリーの両親の呑気さはとてもいいです。
別に心配してない。
子どもは自然な成長の中で、いずれ自分で恐怖を克服するものだということ、そしてそのきっかけはどこに転がっているかわからないんだということ、それをこの絵本は爽やかに描いています。
私の息子ももっと小さいころ、ある絵本(別に全然怖い話でない)を怖がり、絶対にこちらに読ませようとしない時期がありました。
ところが一人遊びをしてる時に、自分でその絵本を引っ張り出してじーっと見てたりするんですね。
それをこっそり見てる私に気づくと、慌てて本を閉じて放り出したりする。
子どもの恐怖心というものは、大人が単純に見ているような形では存在していないのかもしれません。
ハリーもあるいは、怖がりながらもサーカスの芸をじっくり観察していたのかもしれません。
周囲の大人が余計な世話を焼かなくとも、子どもは自分で自分の恐怖心を、それを強く感じるからこそ、克服しようとしているのです。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
マイペースお父さん度:☆☆☆☆
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