【絵本の紹介】「よわむしハリー」【374冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「よわむしハリー」です。

作・絵:バイロン・バートン

訳:舟崎靖子

出版社:ポプラ社

発行日:1976年10月

 

作者のバイロン・バートンさんははっきりした線と色使いが楽しいポップな絵柄で人気の作家さん。

日本でも多くの作品が翻訳されています。

ひこうき」などののりものシリーズ絵本はうちの息子が0歳のころ大変お気に入りでした。

 

この「よわむしハリー」は現在絶版・重版未定の希少本でして、実をいうと私の秘蔵本を引っ張り出してきたもの。

よわむしねこ」のハリーという少年が、ある事件をきっかけにがらりと変化する物語です。

 

同じ背景の連続カットで登場人物が動き回る手法が多用されており、軽快で洒脱な訳文も相まって、非常にテンポよく読めます。

冒頭からしゃれていて、めかしこんだ父親がサーカスのチケットを2枚手にして「ハリー」と呼びかけ、次の見開き扉で家から逃げ出してしまうハリーを描き、「これが ハリー」。

 

父親にサーカスに連れていかれるのが怖くて逃げだしてしまうわけです。

このハリーがどれくらい弱虫かというと、まず友だちが怖くて、犬や鳥が怖くて、車もサーカスも怖い。

結局は父親とサーカスに行くことになってしまうんですけど、もう楽しむどころじゃありません。

ライオンや象が怖くて、ピエロが怖くて、軽業が怖い。

もう不安で不安でたまらないハリー。

父親は別にそんなハリーを心配するでもなく、ただ息子を喜ばしてやるつもりで風船を買ってやったりしてます。

 

ところがここで思いもよらないハプニング。

恐ろしさのあまり上の空なハリーは、買ってもらったひとつの風船じゃなく、売り子が持っている大量の風船のひもを掴んでしまうのです(ここ、うまいこと絵で見せています)。

 

ハリーは大量の風船に引っ張られ、宙に浮かんでしまいます。

サーカスの舞台の真上まで浮かび上がって、風船が「パン!!」。

たぶん、この瞬間、ハリーの中でも何かが弾けてしまったのかもしれません。

しかも落下したところは恐ろしいライオンの檻の中。

ハリーは ライオンと にらめっこ

放心したようなハリーの表情。

あまりのことに言葉も出ないのか、それともすでにハリーの内面で何かが変わってしまったのか。

 

ハリーはすぐに檻から助け出されますが、そのあとずっとこんな呆けたような表情のまま、家に帰ります。

心配して出迎えた母親の前で、突然ハリーはかがみこむと綺麗な前転を披露します。

そればかりか、ハリーは様々な軽業の才能を発揮し、両親や友だちを驚かせます。

 

ハリーは もう よわむしねこじゃない。こわいものなんて なんにも ない かるわざしさ」。

 

★      ★      ★

 

よわむし少年の成長譚という図式は名作「ラチとらいおん」と同様ですが、この絵本では臆病さを克服する過程がちょっと不思議です。

 

≫絵本の紹介「ラチとらいおん」

 

サーカスで散々な目に遭って、それでどうしてか軽業を身につけてしまう。

で、考えてみたらそれと臆病さの克服に何の関係があるのか、よくわからないわけです。

 

主人公であるハリーは一言も喋らないし、何を思い、何を感じているのかは絵から読み取るほかはないんですが、それもなかなか謎めいています。

でも、妙に説得力がある。

 

ラチにしろハリーにしろ、オーバーに描かれてはいますけど、実際にこういう子はいます。

大人から見れば、なんでそんなものが怖いのかわからないものを怖がる。

弱虫というより繊細なんですね。

 

でも、そういう子ども特有のナイーブな感情は意外と大切な気もします。

ハリーの恐怖がどこから来ているのかと想像しますと、たぶん原始的な畏れ、宇宙とか神様とか、とにかくそういう人智を超越した存在に対する本能的な畏怖の念なのではないかと思います。

 

大人に合わせて「世の中はこんなもの」という概念を早くに獲得して、怖いもの知らずに振舞える子どももいますけど、ある種の子どもたちにとって、やっぱり世界は限りなく未知のものであり、怖くて当たり前なのでしょう。

それを心配して周りの大人があれこれ手出しすると、そういう子どもは何しろ繊細ですから、余計に萎縮して恐怖心を募らせてしまいます。

 

その点、ハリーの両親の呑気さはとてもいいです。

別に心配してない。

子どもは自然な成長の中で、いずれ自分で恐怖を克服するものだということ、そしてそのきっかけはどこに転がっているかわからないんだということ、それをこの絵本は爽やかに描いています。

 

私の息子ももっと小さいころ、ある絵本(別に全然怖い話でない)を怖がり、絶対にこちらに読ませようとしない時期がありました。

ところが一人遊びをしてる時に、自分でその絵本を引っ張り出してじーっと見てたりするんですね。

それをこっそり見てる私に気づくと、慌てて本を閉じて放り出したりする。

 

子どもの恐怖心というものは、大人が単純に見ているような形では存在していないのかもしれません。

ハリーもあるいは、怖がりながらもサーカスの芸をじっくり観察していたのかもしれません。

周囲の大人が余計な世話を焼かなくとも、子どもは自分で自分の恐怖心を、それを強く感じるからこそ、克服しようとしているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

マイペースお父さん度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「よわむしハリー

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「アンディとらいおん」【372冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は古典名作「アンディとらいおん」を紹介しましょう。

作・絵:ジェームズ・ドーハーティ

訳:村岡花子

出版社:福音館書店

発行日:1961年8月1日

 

日本での発行は1961年ですが、アメリカで発表されたのは1938年ですから古典中の古典です。

しかし今なお古さを感じさせない抜群の面白さで、何と言っても躍動感あふれる絵が魅力的です。

見てください、主人公の少年、ライオン、犬の手足の動き。

一枚一枚のカットは静止画でありながら、間違いなく動いています。

 

何というか、開拓時代のアメリカのあくなきエネルギーや人々の生命力がずんずん伝わってくるんですね。

今、ニューヨークはCOVID-19で大変な状況にありますが、この絵本のようないい意味でのアメリカ的底力があれば、必ずまた復活するはずだと信じられます。

 

79ページというと長く感じますけど、あっという間に読めます。

テキストは短く、むしろ絵を読む比重のほうが大きいです。

 

アンディ少年は図書館でライオンの本を借り、夢中になって読みふけります。

お父さんが読んでる新聞にはさりげなく「らいおんにげだす サーカス」の見出し。

その日はおじいさんにライオン狩りの話を聞き、ライオンの夢を見、次の日になってもずっと頭の中はライオンのことばかり。

アンディはそのまま犬のプリンスと一緒にライオンの本を持って登校します。

 

ちなみにアンディは裸足です。

当たり前だったんでしょうか。

 

さて、道の途中でアンディは岩の陰から変なものが見えているのに気づきます。

なんとそれはライオンの尻尾。

たまげたアンディは逃げようとしますが、ライオンも同じように動くのでお互い立ち往生。

くたびれてへたり込んだ時、アンディはライオンの前足にとげが刺さっているのに気づきます。

アンディは持っていたくぎ抜きを使い、ライオンのとげを抜いてやります。

ライオンは喜んでアンディの顔を舐め、二人は別れます。

 

さて、それからアンディの町にサーカスがやってきます。

アンディはライオンの芸当を楽しみにして見物に行きます。

 

ところが芸の途中で、いっぴきのライオンが柵を飛び越して観客席に踊り込み、人々は大パニック。

ライオンはアンディの目の前に来て、アンディは「もう おしまいだ」と観念します。

しかしなんと、それはアンディが助けてやったあのライオンだったのです。

ライオンの方でもアンディをすぐに思い出し、二人は大喜びで踊り出します。

 

アンディはライオンを捕まえようとする人たちからライオンを庇うように立ち、「この らいおんを ひどいめに あわせないでください! これは、ぼくの ともだちです」と叫びます。

 

騒ぎは収まり、アンディは市長から表彰されます。

 

★      ★      ★

 

痛快な物語ですけど、個人的には前半部分が大好きなんです。

夢中になって本を読む子どもの姿が、とてもいい。

 

一つの考えに取りつかれて、もう何をしていてもそのことで頭がいっぱい。

子ども特有の集中のかたち。

 

ご飯を食べながら、床に寝そべりながら本に没入するアンディの恰好は、作者がよく子どもの姿を捉えていると思います。

我が家の息子もあんな姿勢で読んでます。

 

特に昔は子どもの娯楽なんて少なかったから、本に向かうエネルギーというのは現代の子どもの比ではなかったろうと思います。

テレビ有害説というのは散々言われてきて、それでも止めることはできず、でも結局はスマホやPCの動画に取って代わられてテレビそのものは衰退期を迎えています。

 

その間も、そしてこれからも、この「アンディとらいおん」のようなロングセラー絵本は残り続け、読まれ続けます。

何が子どもにとって重要なのか、それはいくら時代が目まぐるしく変わろうとも、長い時間を経なければ答えが出せない問題だろうと思います。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

プリンスの勇敢度:☆

 

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【絵本の紹介】「ババールといたずらアルチュール」【366冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに「ババール」の続編を持ってきました。

これまで5回にわたって順に作品紹介記事を書いてきましたので、よろしければそちらも併せてご覧ください。

 

≫絵本の紹介「ぞうのババール」

≫絵本の紹介「ババールのしんこんりょこう」

≫絵本の紹介「おうさまババール」

≫絵本の紹介「ババールのこどもたち」

≫絵本の紹介「ババールとサンタクロース」

 

さて、最後に紹介した「ババールとサンタクロース」が作者ジャン・ド・ブリュノフさんの遺作となりました。

結核に侵され、病魔に蝕まれながら描き続けた「ババール」の精神は息子のロランさんへと受け継がれます。

数年後、画家の道を歩んだロランさんの手によって、再び「ババール」は命を与えられることになります。

 

それがこの「ババールといたずらアルチュール」です。

作・絵:ロラン・ド・ブリュノフ

訳:矢川澄子

出版社:評論社

発行日:1975年6月20日

 

いやあ、絵柄、色使い、画面構成、文体(矢川さんの訳文しか知りませんけど)まで、見事に完コピですね。

もちろん玄人の目には違いがあるのでしょうけど、私にはブリュノフさんのものとまるで区別がつきません(ちょっと線が太くなったかな)。

作者名に気を付けていなければ、途中で作者が入れ替わっていることに気づかない読者も多いのではないでしょうか。

 

偉大な父が描いた世界的人気絵本を手掛けることについては、想像もつかないプレッシャーがあったのだと思います。

しかしそれ以上に、幼い頃に母が語り、父が絵本にした「ババール」を蘇らせる喜びと使命感は大きかったのではないでしょうか。

 

今回はババールのいとこ「アルチュール」が主役となって活躍します。

そのことによりいっそう物語の世界は広がりを見せます。

 

夏のバカンスに、家族を連れて海辺の別荘へ出かけるババール。

モノレールと汽車が同時に止まるワクワクするような駅が描かれます。

ババールの三人の子どもたちも順調に成長している様子。

 

海辺の別荘で、子どもたちは初めての海遊びに夢中になりますが、アルチュールは一人で飛行場を見に行きます。

そこで調子に乗って飛行機に上って遊んでいるうちに、飛行機が動き出し、離陸してしまいます。

アルチュールは降りるに降りられず、下で見ていた人々は大騒ぎ。

しかし勇敢さも持ち合わせているアルチュールは、パイロットの投げ渡したパラシュートを使ってダイビング。

風に運ばれながら、カンガルーの国に着地します。

誰とでもすぐ仲良くなるアルチュールはカンガルー、らくだ、かばたちの助けを得て、様々なトラブルを乗り越え、無事に砂漠の村で自分を探しに来たババールと巡り会うことができます。

ババールは喜びの余りお小言も忘れてしまうのでした。

 

★      ★      ★

 

人生における避けようのない困難、不幸や悲しみ(例えば父の死といった)を、いかにして乗り越えるべきなのか。

ジャン・ド・ブリュノフさんが「ババール」に託したメッセージは次のようなものです。

どんな時も落ち着いた態度と、前向きな知性を持ち、時には勇気をもって戦い、礼儀を重んじ、友を信じ、家族を大切にすること。

 

それは少しも目新しい知見ではなく、むしろ古風で当たり前とも言える人生観です。

でもそれを正しく人に伝えることは意外に難しいのです。

 

何故なら、メッセージはそれを発する人間の資質や発する手段によって変化するからです。

同じ内容が時には真実となり、時には空虚になるからです。

 

ブリュノフさんはその稀有な才能によって、絵本という形で、上質なユーモアを纏わせて、そのメッセージをまっすぐに子どもたちの内部に響かせました。

それは当然のことながら、息子であるロランさんが誰よりも深く受け止めたはずです。

 

この「ババールといたずらアルチュール」を読めば、単に絵や文を真似ただけでは再現できない、シリーズにおけるある種の気高さ、「品性」をも受け継いでいることがわかります(それが「ユーモア」という資質です)。

 

そう考えれば、何故ロランさんがシリーズ再開となる最初の作品の主人公にアルチュールを据えたのかが理解できます。

いたずら者でトラブルメーカーだけど、勇敢で人から愛されるアルチュールの活躍を描くことで、ロランさんは「ババール」の魂と精神が正しく受け継がれたことを示しているのです。

メッセージは正しく伝わった」と発信しているのです。

もちろん天国にいる父に向けて、です。

 

再び「ババール」に会えた読者たちの歓びは大きく、ロランさんは以後、次々とシリーズを刊行していきます。

その数は現在約50冊に及びますが、残念ながら日本ではその一部しか翻訳されていません。

願わくはすべて日本語版で読んでみたいですが、矢川さんも亡くなられた今では、あの名訳文を再現できる翻訳者がいるかどうか、ですね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ゼフィールの身長意外に高い度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「バラライカねずみのトラブロフ」【360冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子年のねずみ絵本紹介シリーズ、続けます。

昨年1月に逝去されたジョン・バーニンガムさんの「バラライカねずみのトラブロフ」を紹介します。

作・絵:ジョン・バーニンガム

訳:瀬田貞二

出版社:ほるぷ出版

発行日:1976年9月20日

 

これは瀬田貞二先生による翻訳でほるぷ出版から発行されていたものですが、現在は絶版。

(例によって)童話館が復刻してくれていましたが、近年翻訳を秋野翔一郎さんに変えて「トラブロフ バラライカにみせられたねずみ」と改題されました。

 

どちらもところどころにちょっと難しい言い回しが使用されていて、読み応えがあります。

どちらがいいというのは好みの問題ですが、瀬田さんの訳文は今読んでも特に古くは感じません(冒頭のバラライカの解説に『ロシア(いまのソビエト)』とかは書いてますけど、まあ本文とは関係ないので)。

 

バラライカはロシアの楽器で、やたら耳に心地いい名称と可愛らしい三角のフォルムが印象に残っている方もいるでしょう。

けど、実際にその音色を聴く機会は少ないと思います。

 

これはジプシーの奏でるバラライカの音色に魅せられたねずみが、ミュージシャンを目指して家を飛び出し、やがてバンドを結成して売れっ子になるというサクセスストーリー絵本です。

舞台は「ヨーロッパの なかほどの いなか」で、雪深い地方という設定になってますが、バーニンガムさんの自伝「わたしの絵本、わたしの人生」(ほるぷ出版)によればどうやらユーゴスラビアのようです。

宿屋で暮らすねずみ一家の男の子「トラブロフ」は、夜ごと酒場で演奏されるジプシーの音楽に聞きほれていました。

そんなトラブロフに、大工ねずみの「ナバコフじいさん」がバラライカを作ってくれます。

 

トラブロフは大喜びしますが、独学でバラライカを弾きこなすのは大変なことでした。

ある晩、ひとりのジプシーじいさんがトラブロフの練習を聴きつけ、自分が手ほどきをしてやれたのにと残念がります。

彼らは今晩の内にここを立ち去るからです。

それを聞いたトラブロフは、両親にも黙って宿屋を抜け出し、単身ジプシーの楽団について行ってしまいます。

トラブロフはジプシーと共に旅をし、毎晩熱心にバラライカの練習をします。

 

しかし一方、トラブロフの母親は息子がいなくなった心配から病に臥せってしまいます。

トラブロフの手掛かりを得た妹は、兄を連れ戻すためにスキーで後を追います。

ついに兄を発見した妹が急を知らせ、トラブロフもスキーに乗って二人で家に帰ります。

途中、吹雪に遭ったりしつつ、どうにか無事に帰り着いたトラブロフ達を見て、両親は叱るのも忘れて喜びます。

 

ただ、心配事はもうひとつあり、宿屋の主人がねずみを追い出そうと準備しているのです。

ちょうどその時、予定の楽士たちが来ないことに困り果てていた宿屋の主人のところへ、トラブロフが姿を見せます。

そして、自分に楽士を務めさせてくれるよう交渉します。

 

主人は驚くものの、トラブロフの腕前に感心し、一家は晴れて追い出される心配もなく宿屋に住むことを許されます。

やがてトラブロフの兄弟たちも楽器を習ってバンドを結成し、ねずみの楽団として有名になるのでした。

 

★      ★      ★

 

赤黒い色使いの重たさが、寒さの厳しい雪国情緒を感じさせます。

北国の民族音楽の旋律というのは、どうしてあんなに美しく響くのでしょう。

 

私は寒さが苦手なわりには、南国より北国に惹かれる傾向があるようです。

「いいな」と思う文化は北の方が多いです。

 

バーニンガムさんは冬のユーゴスラビアでの経験をもとにこの絵本を作ったといいます。

そこでそりで4時間もかけて行った結婚式の披露宴で、三日三晩鳴り続けていたジプシーの演奏を忘れられないと語っています。

 

ちなみに、人間ぽく描かれているトラブロフ達の指ですが、ねずみの前足はもともと5本指なのでこれは正しいのですね(ミッキーマウスの指が4本だから勘違いしやすいんですが)。

だからこそバラライカを奏でることができるのだと考えれば、納得の設定です。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

バラライカ聴いてみたい度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ウィリーをすくえ! チム川をいく」【359冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

子年ということでねずみ絵本紹介してますが、いくらでもあります。

もう二冊くらいでいったん通常モードに戻ろうと思いますけど、この先も普通にねずみ絵本は出てくるでしょう。

色々考えたけど、これを紹介しておきたいと思ったので、ジュディ・ブルックさんの「ウィリーをすくえ! チム川をいく」を持ってきました。

作・絵:ジュディ・ブルック

訳:秋野翔一郎

出版社:童話館

発行日:2004年2月10日

 

実は私も知りませんでしたが、雰囲気から登場人物から、どうもシリーズものらしいと思って調べてみたら案の定、以前は「ゆうかんなティム・シリーズ」として冨山房から刊行されていた絵本でした。

現在は絶版となり、唯一このおはなしだけが童話館から発行されているのみです。

 

ストーリーも面白いし、何と言っても絵が素晴らしいと思うんですが、残念なことです。

シリーズの他作品は現在どれも入手困難です(お売りくださる方がいれば高価買取いたします!)。

 

(たぶん)イギリスの田園が舞台。

扉絵の美しく細緻な風景だけでもしばらく楽しめます。

 

主人公の「野ねずみのチム」と「はりねずみのブラウンさん」(なぜか「さん」付け)が川遊びしていると、ビンが流れ着きます。

中には手紙が入っていて、「かえるのウィリー」が助けを求める内容に、ふたりはびっくり。

どぶねずみの一味」にさらわれたというウィリーを救うべく、チム自作のいかだに乗って、ウグイの案内で川を下ります。

 

登場人物の説明が少なく、唐突な展開に感じますが、前述したようにもともとシリーズものですので、脳内補完してくだい。

片面カラー、片面モノクロの印刷なんですけど、本当に絵が楽しい。

小さなねずみたちにとっては、途中で出くわす牛やあひるも大変な難関。

やっとのことでどぶねずみたちの根城である「おもちゃの船」まで辿り着きます。

おもちゃと言い条、かなり高価なもののように見えますけど。

何しろ船室までしっかり作り込まれているのです。

 

どぶねずみたちは昼間は眠っており、その隙にチムとブラウンさんはどこかに閉じ込められているウィリーを探します。

今にも起き出しそうなどぶねずみたちの前を通り、ハラハラしながらチムはかえるのウィリーを見つけ出します。

幸いにもどぶねずみたちは目を覚まさず、チムはウィリーを救助します。

逃げ際にチムは船を岸につないでいるロープを噛み切っておきます。

 

船は流れに乗って川を下り始めます。

やつら、さぞ、びっくりするだろうな」。

 

チムたちは無事に家に帰り着き、盛大な歓迎を受けます。

一方、どぶねずみたちがどうなったかは、最後のカットで描かれます。

 

★      ★      ★

 

チムのいかだ、ドブネズミ一味の船、ウィリーのうち、どれも非常に細かく描かれていて、小物ひとつひとつが楽しいですね。

人間の村の描写、子どもたちや村人たちの行動も生き生きと感じられ、テキスト以上に雄弁です。

 

そのテキスト自体は割と長く、漢字も用いられ、冒険児童小説といった雰囲気があります。

川で拾ったビン詰めの手紙から始まる海(川だけど)の冒険、自分より巨大なものに囲まれても勇敢に切り抜ける痛快さ。

 

それらがありありと想像できるのは、やっぱり絵の力によるところが大きいでしょう。

こういう田舎の自然風景の中には、子どもの冒険心を駆り立てるものがたくさんあります。

 

都会でビンが流れててもねえ。

ただのゴミだし、汚いし……。

 

ぜひとも他の「ティム・シリーズ」も復刻してもらいたいと願っています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

アニメ化できそう度:☆☆☆☆☆

 

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