【絵本の紹介】「くまのコールテンくん」【303冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私の仕事場には絵本のキャラクターたちのぬいぐるみがいくつも飾られています。

好きなものに囲まれているとテンションが上がります。

 

息子も割とぬいぐるみ好きです。

 

しかし、子どものぬいぐるみの愛し方は大人のそれとは違いがあるようです。

大人はやっぱり大事に綺麗に飾っておきたがるものですが、子どもにとってぬいぐるみは飾るものではないんですね。

 

常に引っ張り倒し、いじりたおし、こねくり回します。

時には乱暴な扱いに見えても、それが子どもにとってのぬいぐるみの可愛がり方なのでしょう。

 

今回は「くまのコールテンくん」を紹介します。

作・絵:ドン・フリーマン

訳:松岡享子

出版社:偕成社

発行日:1975年5月

 

ビロードうさぎ」や「こんとあき」と並んで「子どもとぬいぐるみの絆」を描いた名作です。

 

≫絵本の紹介「ビロードうさぎ」

≫絵本の紹介「こんとあき」

 

コールテンくんは、大きなデパートのおもちゃ売り場に陳列されているくまのぬいぐるみ。

他のぬいぐるみや人形たちと同様、早く誰かのうちに連れて行ってもらえるのを楽しみにしています。

ある日、母親に連れられた女の子が、コールテンくんに目を留めます。

あたし、ずっとまえから こんな くまが ほしかったの

 

でも、母親はコールテンくんのズボンのボタンが取れているのを見て「しんぴんじゃないみたい」と買ってくれません。

がっかりしたコールテンくんは、夜になってからボタンを探しに行くことにします。

 

深夜、誰もいなくなったデパートで、コールテンくんはこっそり動き出します。

エスカレーターに乗ったり、家具売り場に迷い込んだり。

 

コールテンくんは初めての冒険に興奮しながら、最後は売り物のベッドに付いているボタンを引っ剥がそうとして電気スタンドを倒してしまいます。

音を聞きつけた警備員のおじさんが飛んできます。

ベッドの上のコールテンくんを見つけて、

こいつあ おどろいた! どうして おまえが、こんなところに いるんだ?

と、コールテンくんを元の棚に戻します。

次の朝、デパートが開くと同時に昨日のリサという女の子が来店します。

コールテンくんを見つけてにっこり笑い、

あたし、あなたを つれに きたのよ

 

リサは自分の貯金をおろしてコールテンくんを買いに来たのでした。

彼女はコールテンくんを箱にも入れずに抱いて帰り、ズボンのボタンを付けてあげます。

 

★      ★      ★

 

フリーマンさんの絵がとても素敵です。

はっきりした線と色で、どのカットからも生き生きとした動きが読み取れます。

 

一枚の絵からコールテンくんの動きの先までちゃんとわかるのです。

コールテンくんや他のデパートのぬいぐるみたちの微妙な表情の変化が、子どもにとってのリアリティを生んでいます。

 

ぬいぐるみたちはあくまで物言わぬ存在として描かれる一方で、最終シーンではリサとコールテンくんは会話を成立させています。

リサもコールテンくんも、「ずっとまえから……してみたかったんだ」という言い回しを繰り返しますが、最後に二人の願いが通じ合うのです。

「運命の出会い」というものは「ずっと前から待っていた」誰かに巡り会うことですが、ぬいぐるみと子どもには確かにこの「運命の出会い」が存在するのでしょう。

 

私が持っていた「こぐまちゃんとしろくまちゃん」のぬいぐるみはすっかり息子のお気に入りとなり、しょっちゅう話しかけています。

何故か何度直しても服は全部脱がせてしまうし、放り投げるし、折り曲げるし……。

 

壊されそうでハラハラしてしまいますが、これも息子の成長に必要なことなのだろうと、今はもう諦めています。

あるいはそれこそが正しいぬいぐるみの可愛がり方なのかもしれません。

 

でも、新しく買ったぬいぐるみたちは、息子に見せずに仕事場に飾ることにしています。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

絵と物語と人物の素直さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「くまのコールテンくん

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「バムとケロのさむいあさ」【302冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今日は火曜日。

今回はおなじみ「バムケロ」シリーズ3作目にして寒い火曜日のお話。

バムとケロのさむいあさ」を紹介しましょう。

作・絵:島田ゆか

出版社:文渓堂

発行日:1996年9月

 

≫絵本の紹介「バムとケロのにちようび」

≫絵本の紹介「バムとケロのそらのたび

 

時代を感じさせない絵本というものは数多くありますが、島田さんの絵本って特にそうなんですよね。

外国絵本っぽい雰囲気とか、独特のキャラクター造形とか、ハイセンスな小物描写とか、そうした要素が相まって「年を取らない絵本」が生み出されているのでしょう。

 

ちょっと確認してみると、この「バムとケロ」シリーズは「バムとケロのにちようび」が1994年に発表されて以来、年に一冊というペースで刊行されていたんですが、4作目からペースががくんと落ちまして、現在のところの最新作「バムとケロのもりのこや」は2011年の出版になってます。

 

つまり20年近い時間が経過しているにもかかわらず、絵柄がほとんど変化していません。

どの作品から読み始めても、どれが新しくてどれが古いか、ぱっとはわかりません。

 

島田さんの画力が最初から高レベルで完成されていたとも言えますが、この「ずっと同じ絵柄で描かれ続ける安心感」のようなものが、何年たっても古く感じない作品の秘密かもしれません。

 

とっても寒い火曜日の朝。

バムとケロ(ヤメピも)は、スケートと釣りの道具を持って「うらの いけ」に出かけます。

すると、かちんかちんに凍った池に、あひるが凍り付いて動けなくなっています。

バムたちはあわててあひるを救助し、お風呂に入れて温めてやります。

このちょっととぼけたあひるの名前は「かいちゃん」。

天体観測が趣味らしく、夜の間に池で星を見ている間に凍り付いてしまったそう。

 

新しいお友達が来たことが嬉しくてしかたないケロちゃんは、家じゅうのおもちゃを見せようとしたり、どこまでもかいちゃんに付きまとったり、ついには……

こんなことまで。

相変わらず罪のないケロちゃんの行動の数々。

おかしいけれど、いかにも子供らしくもあってほっこりします。

 

けれども次の朝にはかいちゃんはいなくなっており、ケロちゃんはショックで泣きっぱなし。

でも、もう一度池に行ってみると……。

 

★      ★      ★

 

トイレに入ったかいちゃんにまで付いてくるケロちゃん。

うちの息子も、いまだに私や妻がトイレに入ると、とりあえずドアの前に立ちます。

 

実際にやられるとウザいんですが、絵本で見ると可愛い。

バムの寛大な包容力があればこそですが。

 

絵柄は変化しなくても、絵の楽しみ・緻密さ・情報量はシリーズを重ねるごとに増えているように思います。

テキストには登場せずとも常にバムケロと行動を共にする「ヤメピ」、もっと目立たないけどちゃんといる「おじぎ」の行動を追うのはお約束ですよね。

 

冬の天体観測、私はやったことはないんですが息子が星が大好きですので、近いうちに天文台に連れて行こうと思ってます。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

かいちゃんの無抵抗度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「おにたのぼうし」【301冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は節分に読みたい一冊を持ってきました。

小学校の国語の授業で取り上げられることもある作品なので、一度は読んだ方も多いでしょう。

おにたのぼうし」です。

作:あまんきみこ

絵:いわさきちひろ

出版社:ポプラ社

発行日:1969年7月

 

この作品に限らず、あまんきみこさんと言えば国語の教科書を思い出してしまう私。

その上品で抒情的な美しい文章は、児童文学の理想形とも言えます。

いわさきちひろさんの透き通るような淡い水彩画が、あまんさんの心地よい鈴の音のような文章と非常に良く合います。

 

≫生誕100年「いわさきちひろ、絵描きです。」に行ってきました。

 

この「おにたのぼうし」が何年生の教科書に出てくるのかは忘れてしまいましたが、大人になって読み返してみると、これはかなりディープな内容です。

果たしてこれを小学校の授業で読み切れるのか。

指導する先生に相当な技量が求められる気がします。

 

あまんさんのテキストを丸々引用したいところですが、簡単にあらすじを追います。

おにた」は「まことくん」の家の物置小屋の天井に住んでいる小さな「くろおに」の子ども。

 

おにたは優しい鬼で、陰でまことくん一家にささやかな良いことをしているのです。

が、まことくんはおにたの存在に気づいていません。

恥ずかしがりのおにたは決して人前に姿を現さないからです。

 

さて、節分の夜、まことくんは豆まきを始めます。

ふくはー うち。おにはー そと

 

おにたは小屋にいることができなくなって、「ふるい むぎわらぼうし」をかぶって角を隠し、出て行きます。

鬼は悪いものと決めてかかる人間に疑問を抱きながら。

 

粉雪の降る中、おにたは入れそうな家を探して彷徨いますが、どこの家も鬼除けのヒイラギを飾っていて入れません。

しかしやがてヒイラギもないし豆の匂いもしない一軒の家を見つけます。

女の子が出てきて雪をすくっている隙に、おにたはこっそり入り込みます。

女の子は病気の母親の看病をしているのでした。

 

何も食べていないであろう娘を案じる母親に、女の子は健気に嘘をつきます。

知らない男の子が、節分で余ったごちそうを持ってきてくれたのだと。

 

何もない台所を覗いたおにたは、「あのちび、なにも たべちゃいないんだ」と悟ります。

じっとしていられなくなったおにたは外へ飛び出し、どこで手に入れたのか、女の子のついた嘘を踏襲する形で、ごちそうを持って戻ってきます。

初めて人間の前に姿を現すのです。

女の子は驚きながらも喜んでくれます。

 

しかし、心が通じ合えたと思ったのは束の間。

女の子は「あたしも まめまき、したいなあ」と呟いておにたを驚愕させます。

 

だって、おにが くれば、きっと おかあさんの びょうきが わるくなるわ

おにたは深い哀しみと寂しさに打ち震え、「こおりが とけたように」いなくなってしまいます。

後に残ったのは麦わら帽子だけ。

不思議に思った女の子が帽子を持ち上げてみると、まだ温かい黒い豆が入っています。

 

女の子はその豆で豆まきを始めます。

さっきの こは、きっと かみさまだわ」と考えながら。

 

★      ★      ★

 

おにたの最後を巡っては、色々と解釈が分かれているようです。

死んだのか、姿を消したのか、あの黒い豆はおにた自身なのか、違うのか……など。

単に「おにたが 可哀そう」で終わってしまっては教材としての意味はありません。

この切ない絵本には何が描かれているのでしょうか。

 

この物語には、悪人が登場しません。

まことくんも、女の子も、女の子の母親も、決して悪くは描かれていません。

それどころか、女の子は非常に健気で母親想いであり、母親もまた自分が病気でありながら娘のことを心配する優しい人間です。

 

「善意の人」が「善意の人」を深く傷つけるという、何ともやりきれないお話なのです。

 

おにたは人前に姿を見せることさえはばかりながら、社会の隅で暮らすマイノリティです。

ここには社会的弱者に対する差別と偏見が描かれているのです。

おにたが「黒」鬼であることはおそらく意図的でしょう。

 

差別とは不自由な人間観が生み出す最悪の害悪です。

そうした差別を撲滅しようと世界中で運動が広がっていますが、わかりやすい目に見える形での差別や偏見ばかりがあるわけではないことを、作者はそっと示しています。

 

「無知であること」「想像力が不足していること」は、もちろんその人間だけに責任を問えることではありません。

けれどもそうした人間的未熟さが、時に人を致命的に損なうことがあるのだとして、我々はそれをいかにして回避すべきなのでしょう。

 

この女の子は悪くないのだ、おにたが堂々と鬼であることを隠さずに姿を見せれば、きっと女の子はわかってくれたはずだ、という意見は、まさに「他者に対する想像力の欠如」からくるマジョリティ立場からの暴力的見解です。

 

差別され、傷つけられ、虐げられてきた弱者に「こう振る舞え」と要求することがどういうことなのか、それを考えようともしない態度こそが「善意の人」が陥りやすい危険です。

 

昨今、差別問題はさらに複雑化し、重大化しつつあるように思えます。

差別する人とされる人、という単純な形式で語れなくなってきているのです。

 

たとえ迂遠な手段に見えたとしても、子どものうちから本質を見極める自由な精神を育む以外に、この地獄を変える手立てはないと私は思うのです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

よく考えたら節分に読んだら豆まきしにくくなる度:☆☆☆☆☆

 

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