【絵本の紹介】「くものすおやぶんとりものちょう」【229冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

とんとん拍子で暖かくなってきましたね。

もうそろそろ桜が咲きそうな季節です。

そして同時に、毛虫が湧く季節でもあります。

 

みなさんは虫は好きですか?

私は正直言って苦手な方です。

 

子どもの頃は割と平気でミミズとかクモとか触ってたんですけどねえ。

あんなちっちゃな生き物が、どうして大人になると怖くなってしまうんでしょう。

 

しかし、子どもには元気で外遊びをしてほしいし、虫を怖がったりしないでほしい……という、自分勝手極まりない親心。

が、そのためにはまず親が気持ち悪がったりせずに虫と触れ合うべきでしょう。

今のところ、その機会はまだ訪れていませんが(無意識に避けているのかな)。

 

しかしその一方で、世の中には虫が好きで好きで愛おしくてたまらないといった大人たちもいらっしゃるのです。

今回はそんな虫好き絵本作家・秋山あゆ子さんの「くものすおやぶんとりものちょう」を紹介しましょう。

作・絵:秋山あゆ子

出版社:福音館書店

発行日:2005年10月15日(こどものとも傑作集)

 

秋山さんは1992年に月刊「ガロ」に漫画家としてデビューし、やがて絵本も手掛けるようになります。

これはあの佐々木マキさんと同じコースですね。

 

漫画も絵本も、題材はとにかく全部虫。

この作品も、昆虫×時代劇という独特の舞台設定ながら、絵本としての完成度は高く、虫が苦手な私もお気に入りの一冊です。

 

十手をあずかる「くものすおやぶん こと おにぐもの あみぞう」と「はえとりの ぴょんきち」の捕り物劇。

事件は菓子屋「ありがたや」(従業員はアリ)に届いた犯行予告文から始まります。

蔵の中のお菓子を頂戴する、と書かれた手紙。

差出人の名は「かくればね」。

春祭りを明日に控えたありがたやの主人たちは涙ながらにおやぶんに訴えます。

 

おやぶんは自慢の糸で蔵をぐるぐる巻きにし、夜通しの見張りに付きます。

夜も更けた頃、大きな繭が蔵の戸を叩き壊して侵入します。

その名の通り「かくればね」は姿を見せないまま、次々とお菓子を奪って逃走しようとします。

その正体は三びきの蛾。

羽の模様を変えて、背景に同化していたのです。

追いかけっこのシーンでは、探し絵遊びも楽しめます。

 

ついにおやぶんは「かくればね さんきょうだい」を追い詰め、蜘蛛の糸で召し捕えます。

かくればねたちは改心し、春祭りではお菓子を詰めた繭を運んで奉公します。

そして後には盗人の足を洗って運送屋となり、一件落着。

 

★      ★      ★

 

絶妙なバランスで擬人化された虫たちも見事ですが、江戸の街並み、たくさんの奉公人を抱えた大家の中などの細かい描き込みが素敵です。

前述の探し絵の要素とも相まって、隅々まで絵を楽しめる作りになっています。

 

耳馴染みのない時代がかった文も、音読すると楽しいです。

こういう本気の時代劇絵本は数が少ないので、その点でも貴重に思います。

 

我が家の息子も、もうちょっと大きくなったらセミやらクワガタやらを捕まえてきたりするのでしょうか。

街中に住んでいると、身近に虫を見かける場所も、捕まえる場所も、最近ではずいぶん減ったのかもしれません。

 

けれども、虫というものは人類より遥かに長い歴史を生き残ってきた種族です。

たとえ人類が絶滅しても、彼らのうちの多くは生き延びそうです。

 

もしかすると、虫に感じる怖さとは、そういう人間を遥かに超えた生命力に対する畏怖の念なのかもしれませんね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

虫愛度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「くものすおやぶんとりものちょう

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「ランパンパン」【228冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

海外の民話というものは、設定や道具立てが私たちから見ると変わっていて、非常にユニークに思えるものが多い一方で、普通の人々の暮らしや願い、情愛などは国境を越えて共感できるところがあります。

自分以外の国の生活を知り、親近感や理解を育む上で、たくさんの海外民話絵本を読む経験は大きいと思います。

 

今回はインドのお話。

ランパンパン」です。

再話:マギー・ダフ

絵:ホセ・アルエゴ、アリアンヌ・ドウィ

訳:山口文生

出版社:評論社

発行日:1989年6月20日

 

簡単に内容をまとめてしまうと、「搾取される民」の代表存在である「クロドリ」が、己の大事なものを横暴な権力者に奪われ、それを取り戻すために戦うお話。

日本の昔話で言うと、「猿蟹合戦」によく似た話型の物語ですね。

道中で(けったいな)仲間を得る点も共通ですし。

 

さて、主人公のクロドリがとてもいい声で鳴いているのを聞いた王様が、これを捕まえて宮殿に連れて行こうとします。

が、捕まったのはクロドリの女房。

 

クロドリは怒り狂い、「どんなことをしてもつれもどす」ことを決意します。

クロドリは戦いのために装備を整えます。

とがったとげの刀

カエルの皮のたて

クルミのからの兜

そしてクルミのからの残りで作った「たたかいのたいこ」。

 

こう書くとRPGの初期装備みたいに頼りないですが、これらを身にまとったクロドリは滑稽ながらもどこか凛々しく、鋭い眼光に固い意志を感じさせます。

 

クロドリは太鼓を「ランパンパン、ランパンパン、ランパンパンパンパン」と打ち鳴らして行進を始めます。

 

途中、「ネコ」「アリのむれ」「木のえだ」「」を味方につけます。

彼らはそれぞれ、王様の仕打ちを恨んでいるのです。

面白いのは、彼らが全部、クロドリの「耳のなか」に入ってしまうこと。

この荒唐無稽な展開を、絵の力で納得させます。

 

ついに王様の宮殿に辿り着いたクロドリは、門番に通されて王様に直談判します。

しかし、王様は女房を返してくれません。

 

逆にクロドリは掴まって、鶏小屋に放り込まれます。

しかし、夜中にクロドリは耳の中のネコを解き放ち、鶏小屋をめちゃめちゃにし、勇ましく太鼓を打ち鳴らします。

 

怒った王様は馬小屋や象の檻にクロドリを放り込むのですが、クロドリの仲間たちの活躍でこれらの試練を乗り越えます。

最後は川に部屋を水浸しにされて、王様はついに降参。

クロドリは女房を連れ帰り、そののちずっと幸せに暮らすのでした。

 

★      ★      ★

 

クロドリの様々な武装は、実際には使用されません。

あれは一種の象徴であり、「民衆の怒り」を表現したものです。

 

クロドリの装備の中で最も効果を発したものは、「ランパンパン」と打ち鳴らされる太鼓です。

あれは横暴な権力者に対する「抗議の声」「怒りの叫び」です。

ちっぽけなクロドリなど王様が恐れるはずはありませんが、彼はあの太鼓の音には我慢できなかったのです。

 

いつの時代も、独裁的な権力者が最も恐れ、疎ましく思うものは力なき民衆の「声」です。

つまり、クロドリの行進は「デモ」なのです。

古い民話には、時代を超えて貫かれている芯部分があるものです。

 

権力者は手を変え品を変え、この「声」を封殺しようとします。

それは時間が経つとはっきりすることもありますが、時代の只中にあっては幻惑させられてしまうことが多いものです。

 

けれども、あらゆる歴史が教えるものは、独裁者を倒し、人々の暮らしを変える流れは、路上の「声」から始まるのだという事実です。

よくよく見渡せば、まさに今の世の中にも、そうした光景が広がっているのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

夫婦愛度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ランパンパン

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【絵本の紹介】「くんちゃんのはじめてのがっこう」【227冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

初めて小学校へ行った日のことを覚えていますか?

私は成熟の遅い子どもで、母親に連れられて教室に足を踏み入れた時も、なんだか夢うつつだった気がします。

 

残念ながら学校生活そのものを振り返っては、あまり楽しい思い出はありません。

生涯を通して尊敬できるような先生にも巡り会えませんでしたし、さほど有意義な経験も学習も得られなかったと思います。

 

それは学校がどうこうというより、私自身の幼さに起因した問題だったような気がします。

とにかくぼーっとした子どもだったのです。

見知らぬ同級生たちに囲まれ、机に座らされても、先生の話は何一つ耳に入ってこないし、周囲のすべてが夢の中の出来事に思えて、ただただ呆然と日々を送っていました。

 

そんな呆然生徒の私でも、初めて小学校に行った時の気持ちだけは覚えているのです。

不安と緊張、そして不思議な高揚感。

これは普遍的な感情なのでしょう。

 

今回はそんな誰しもが経験する繊細な感情を見事に掬い取った絵本「くんちゃんのはじめてのがっこう」を紹介します。

作・絵:ドロシー・マリノ

訳:間崎ルリ子

出版社:ペンギン社

発行日:1982年2月

 

作者のマリノさんはアメリカ・オレゴン州生まれで、働きながら絵の勉強を続け、子どもの本の挿絵の仕事から絵本づくりの道に至った方です。

ペン一本で描いたイラストはラフなようですが、登場人物の表情、動きなどが実に生き生きと伝わってきます。

そして何より、子どもの心の微細な動きをも逃さずに捉える描写力が素晴らしい。

 

この「こぐまのくんちゃん」を主人公にしたシリーズは、日本で翻訳されている数は多くはないものの、どれも人気の高い作品です。

初めて学校に行く日、くんちゃんはとても張り切って早起きします。

お母さんと学校へ行く道すがら、みつばちやこうもりやビーバーに、

ぼく、がっこうへ いくんだよ

きみも がっこうへ いく?

と尋ねて歩きます。

 

しかし、いざ学校に到着すると、くんちゃんはお母さんにも一緒にいてもらいたくて、お母さんのスカートの裾を掴んだりします。

でも、お母さんは帰ってしまい、くんちゃんは優しそうな先生に手を引かれて教室に。

 

小さな学校らしく、上級生も一緒の教室で、同時に授業を行っている様子。

ちなみに季節は秋です。

アメリカでは9月に新学期が始まるのです。

 

生徒の名前を呼んでは、読み書きや算数をさせる先生。

くんちゃんはどんどん不安になり、小さくなります。

そして、とうとう……

教室から逃げ出してしまいます。

くんちゃんの気持ちがよくわかるだけに、この展開にはハラハラさせられます。

 

けれども、ここで先生が驚いてくんちゃんを追いかけるかと思いきや、この先生の肝の据わり方が並大抵ではありません。

まるでくんちゃんの動きに気づいていないかのごとく、授業を続けるのです。

 

くんちゃんはこっそり窓から教室を覗きます。

どうやら1年生にはとても簡単な授業をしているようです。

 

先生はそれぞれの名前を黒板に書いて、自分の名前と同じ音で始まる言葉を尋ねています。

自分にもわかる質問に、くんちゃんは「ぼくも しってる」と呟きます。

 

そして自分の名前「くんちゃん」の「く」で始まる言葉を訊かれた時、くんちゃんは窓の外から

くま、くるみ、くまんばち!

先生はにっこり笑って、

はいってらっしゃい、くんちゃん。このいすに おかけなさい。あなたの すわる ばしょは ここですよ

 

★      ★      ★

 

我が家の息子が小学校に上がるのは2年後ですが、その時には私は人生で2度目の「はじめてのがっこう」を経験することになります。

今度は呆然としているわけにはいきません。

 

小学校について色々と調べていますが、この絵本のようにゆったりとした時間の流れる小学校は、今の日本にはまずないでしょう(少なくとも公立では)。

学力やいじめの問題、どんな先生がいるのか、周辺環境など、親の心配は尽きませんが、さりとていくら親が「いい学校だ」と思ったとしても、通うのは子どもです。

 

重要なのはその子自身の性質であり、それまでどんな環境で育ったかです。

 

もちろん我が子の通う学校についての情報をしっかりと把握していることは大事ですが、同時にこれまでと違って、ある程度我が子から距離を置いて成長を見守ることができなくてはならないと思います。

無関心も過干渉も、子どもの成長にとってはマイナス要素です。

 

こういうことを考えるとつくづく、「子育てに終わりはない」ことを実感します。

子育てというよりも、親自身の成長を止めてしまわないことが大切だと思います。

 

結局、幼児期のうちに「どんな学校へ行っても楽しくやっていける」ような能力を身に付けさせるのが最良のように思います。

私の場合、その手段はもちろん絵本の読み聞かせです。

 

さて、どうなりますかね。

不安と緊張、それに高揚感をもってその時を待っています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

先生の余裕と貫禄度:☆☆☆☆☆

 

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