【絵本の紹介】「はんなちゃんがめをさましたら」【343冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は大人女子から圧倒的支持を集める現代絵本作家・酒井駒子さんによる「はんなちゃんがめをさましたら」を紹介します。

作・絵:酒井駒子

出版社:偕成社

発行日:2012年11月

 

酒井さんの素晴らしい画力に関しては、毎回のように言及していますので繰り返しにならざるを得ないのですが、それでも言わずにはおられない。

絵が最高です。

 

個人的には酒井さん絵本の中でも特にお気に入りの一冊だったりします。

息子に読むより、自分で読んだ回数の方が遥かに多い。

 

酒井さん独特の絵の具の凹凸を活かしたざらついた表現と、印象的な「黒」。

静謐な物語にこの「黒」が実に映えます。

 

デビューした当初の酒井さんの作品と最近の作品を見比べますと、画風の違いは如実に見て取れます。

もちろんデビュー当時から抜きん出た画力の持ち主ではありましたが、もし酒井さんが上記のような表現方法に辿り着かなかったとしたら、「とても可愛い絵本を描く作家」という評価に留まっていたかもしれません。

 

さて、「はんなちゃんがめをさましたら」は、主人公の「はんなちゃん」(3〜4歳くらい)がある夜中にふと目を覚ましてしまったという物語。

まったく何でもないようなことですが、幼い子どもにとって「夜中に一人で目が覚める」というのはとても不思議で特別な時間なのです。

はんなちゃんは隣のベッドのおねえさんを起こすのですが起きません。

家の中で起きているのははんなちゃんと猫の「チロ」だけ。

 

はんなちゃんはチロと二人でおしっこに行きます。

それから一人で冷蔵庫を開けて、チロに牛乳をやったり、内緒でさくらんぼを食べたりします。

窓の外には満月が煌々と輝いています。

 

部屋に戻ったはんなちゃんは、たぶん普段は貸してもらえないのでしょう、おねえさんの人形やオルゴールや色鉛筆を借りて、布団の中で遊びます。

ハトの鳴き声がして、窓の外を見てみると、いつの間にか空が白みがかっています。

するとはんなちゃんは急に眠くなって、チロと一緒におねえさんの布団の端っこで眠ってしまうのでした。

 

おねえさんが起きたら、どんな顔をするでしょう。

そんなことを考えると、思わず暖かい笑みがこぼれてきます。

 

★      ★      ★

 

はんなちゃんが愛おしすぎます。

 

ずっと寝てるお姉ちゃんも美少女(そう言えば酒井さんの作品にはよく「おねえさん」が出てきますね)。

私には娘はいませんが、これを読むたびに女の子も欲しいと思ってしまいます。

経済力さえあれば養子でももらうのに。

 

酒井さんは子どもの動きの細かいところをよく観察している作家さんですが、はんなちゃんの座り方とか手の位置とか、実にリアルです。

画像は紹介しきれなかったんですが、はんなちゃんが月を見ているテキストのない見開きカットで、よく見るとはんなちゃんが片っ方の手を何故かズボンの中に突っ込んでます。

あるある。

 

同様にチロの仕草も細微に描かれています。

私は猫を飼ったことはないですけど、たぶん実際の猫もこんな動きをよくするのでしょう。

 

これほどまでにリアリティー溢れながら、しかし酒井さんの描く世界はどこか遠く、幻想的です。

それは単に「上手い絵」というだけでは紡ぎ出せない、感覚に響く絵の力です。

彼女の作品を読むとき、大人は知らず知らず「小さい頃」を蘇らせるのではないでしょうか。

 

私を含め、多くの大人をも虜にする酒井さんの絵本の魅力は、そうした心の柔らかい部分に密やかに忍び込んでくるのです。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

猫絵本度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「はんなちゃんがめをさましたら

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「あな」【再UP】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

一時代を築いたイラストレーター・和田誠さんの訃報が届きました。

享年83歳。

 

「イラスト」という言葉が定着したのは和田さんの功績と言われるほど、その仕事量・知名度は業界第一人者。

「週刊文春」の表紙イラスト、村上春樹や星新一などの小説の装丁、たばこ「ハイライト」のデザインなど、何らかの形で彼の絵に触れなかった人は少ないでしょう。

ちなみに私が初めて和田さんの絵に出会ったのは寺村輝夫さんの「ぼくは王さま」第一巻です。

 

また、絵の世界に留まらず、「麻雀放浪記」(これも観ました)を始めとする映画監督、エッセイスト、舞台台本などマルチな活躍を見せました。

今回は和田さんを偲んで、彼と谷川俊太郎さんによる哲学的絵本「あな」を再UPします。

 

★      ★      ★

 

今回は日本を代表する詩人・谷川俊太郎さんとイラストレーターの和田誠さんのタッグによる、一癖も二癖もある絵本「あな」を紹介します。

作:谷川俊太郎

絵:和田誠

出版社:福音館書店

発行日:1983年3月5日(こどものとも傑作集)

 

谷川さんに関しては、知らない人の方が少ないでしょう。

現代日本において「詩人」という肩書を持ち、詩を「生業」としている人物と言えば、もう彼以外には思いつけないくらいです。

 

絵本との係わりも深く、「フレデリック」などの海外絵本の翻訳の他、自身が文を担当した作品も多くあります。

そして、3回にわたる結婚・離婚のうち、最初の妻は「かばくん」などを手掛けた絵本作家・岸田衿子さん。

そして3人目の妻は「100万回生きたねこ」の作者・佐野洋子さんなのですね。

 

≫絵本の紹介「フレデリック」

≫絵本の紹介「かばくん」

≫絵本の紹介「100万回生きたねこ」

 

絵を担当する和田さんも、これまた有名なイラストレーター。

何かと話題の雑誌「週刊文春」の表紙は40年にわたって彼が担当しています。

イラストだけでなく、エッセイや映画など、幅広い分野でその才能を発揮しています。

 

そんな二人が作った絵本ですから、一筋縄では行きません。

まず、横に見て縦開き、という構成からして異色です。

 

見開き画面の下3分の2を茶一色として、地面の断面図を描いているのですね。

にちようびの あさ、なにも することがなかったので、ひろしは あなを ほりはじめた

なんで? とも思うし、そういうこともあるか、とも思ったり。

 

ひろし少年は淡々とした表情で、スコップを手に深い穴を掘っていきます。

母親、妹、友だち(広島カープファン)、父親が次々とやってきて色んなことを言いますが、ひろしは取り合わず、黙々と掘り続けます。

やがて自分がすっぽり地面の中に隠れるくらいの深さに到達したとき、ひろしはスコップを置き、初めて満足げな微笑を浮かべます。

これは ぼくの あなだ

 

母親たちがまた一通り登場して、短い会話を交わします。

ひろしは穴の中に座り続け、日が暮れるころに穴から出てきます。

これは ぼくの あなだ

 

もう一度そう思ったひろしは、スコップを使って今度は穴を埋めにかかります。

最後は、扉絵と同じく、元の平らな地面のカットで終わります。

 

★      ★      ★

 

全編通して同じ横視点の構図で物語は進行しますが、地中を掘り進む芋虫や空の色など、随所の変化を楽しめます。

また、一見するとよくわからなかった表紙の絵が、内容を読むことで、穴の中から空を見上げるひろしの視点なのだと判明します。

裏表紙は外から覗いた穴の中です。

 

さて、内容については例によって様々な解釈が可能です。

 

「穴を掘る」理由は、おそらくはひろし本人にもわかっていない(訳知り顔の父親にも、たぶんわかっていない)。

その割に、ひろしは汗をかき、手に豆ができるほどに頑張ってスコップを振るいます。

 

普通に考えれば、彼の労力の先には「無」しかない。

穴を掘ることで報酬がもらえるわけでも、誰かに認められるわけでもない。

でも、それ故にひろしの努力は純粋です。

その純粋さを守るために、ひろしは妹の手伝いや「おいけに しようよ」という提案を拒絶します。

さらには、最後に穴を埋めることで、ひろしの「無償の行為」は完全化されるのです。

 

現代社会では、「無」に向かっての行為など理解されないばかりか、下手をすると憎悪の対象にすらなります。

「コスパ」という言葉が表しているように、どんな行為にも「費用対効果」をまず考えることが常識となっているからです。

 

それ自体は別に悪いことではありませんが、あまりにもそうした思考に慣れすぎると、自分の中にある純粋な衝動を感じ取れなくなります。

「何の役に立つのか」という疑問を立てる前にただ行動する、その純粋さの先にあるものが、

あなのなかから みる そらは、いつもより もっと あおく もっと たかく おもえた

という光景です。

 

これは、見ようと思って見られるものではありません。

見返りや期待や打算を飛び越えて行動した者だけが辿り着くことのできる視座なのです。

 

これは、子育てに関しても当てはまることです。

子どもの教育に熱心な親は大勢いますが、彼らは将来的に子どもが思うように育たなかった時、後悔したり恨んだりしないでしょうか。

 

けれども、本当に見返りを期待せずに子どものために行動した者は、最終的には子どもに左右されることのない、自分の人生を手に入れるはずだと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

穴だけに深い度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「もぐらとじどうしゃ」【342冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

10月に入ってようやく少し涼しくなってきましたね。

しかし今年ももう10月ですか……。

色々忙しい1年でしたが、充実していたと思いま……いや、まとめるには気が早すぎますね。

 

今回は絵本大国・チェコから来た人気シリーズを初紹介しましょう。

もぐらとじどうしゃ」です。

作:エドアルド・ペチシカ

絵:ズデネック・ミレル

訳:内田莉莎子

出版社:福音館書店

発行日:1969年5月1日

 

チェコの絵本って世界中で人気なんですよ。

とにかく可愛くておしゃれだというので、インテリアとしてのコレクターもいるそうです。

 

私はやっぱり内容を読みたい人なので、邦訳されてない絵本についてはあまり詳しくないですけど、物語や構成に関しても高いレベルの作品が揃っているようです。

この「もぐらとじどうしゃ」はアニメ化もされているシリーズです。

翻訳絵本が刊行されたのはかなり古い話で、この表紙か、または姉妹作「もぐらのずぼん」の表紙を見ると懐かしい気持ちになる人も多いのではないでしょうか。

 

本国チェコでは知らない人はいないくらいの人気シリーズで50作以上も刊行されていますが、日本では上の2作品以降、長い間新作が翻訳出版されていませんでした。

2002年になってようやく偕成社から木村有子さんの翻訳で「もぐらくんおはよう」が出版され、以後シリーズ絵本として定期的に刊行されるようになりました。

福音館書店の「もぐらとずぼん」が1967年、この「もぐらとじどうしゃ」が1969年の発行ですから、実に30年ごしの新作ということになります。

 

けれど、30年前の絵本業界にとって、この色彩豊かで躍動感のある「もぐらくん」は非常に魅力的に映ったことだと思います。

たくさんの色が使われた賑やかな画面を、もぐらくんが所狭しと駆け回ります。

町を走る自動車を見て、自分も自動車が欲しくなったもぐらくん。

乗り物に憧れる気持ちは大人と子どもでは違うもの。

もぐらくんの情熱は子どもの純粋な自動車への憧憬そのものです。

もぐらくんは自動車を手に入れるために東奔西走。

工場で構造を学び、材料を集め、組み立て、失敗し、試行錯誤する過程がしっかりと描かれています。

テキストもなかなか多め。

紆余曲折あってついに念願の自動車を手に入れます。

ゼンマイ式だけど、ちゃんと乗って動く自動車です。

 

もぐらくんは他の自動車に混じって公道を思う存分走り、ありくんに道路の渡りかたを教え、いぬくんに自動車を披露し、いい気分で家に帰ります。

もぐらくんは自動車のねじを大事に抱えて眠るのでした。

 

★      ★      ★

 

かなり読み応えあります。

個人的には最初のブリキ缶で作った自動車が実際に動いて欲しかったです。

工作としてはなかなかよくできてます。

 

車輪のことを「くるま」と訳してるあたりに時代を感じます。

じどうしゃには くるまが ぜったいいるな

今はほとんど「車」=「自動車」という認識が一般的ですので、子どもが読むと「?」となりそうです。

 

それでも色あせない面白さ。

子どもの乗り物への情熱が失われない限り、こうした作品は時代を超えて読み継がれるでしょう。

 

私の息子も人並みに自動車熱を持ってましたが、最近は興味の範囲が広がって、昔ほど自動車に興奮しなくなりました。

鉄道、貨物船、飛行機、宇宙探査機……。

本人はやっと補助輪付きの自転車デビューしたところですがね。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

もぐらくんの器用さ度:☆☆☆☆☆

 

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