スズキコージ「コーベッコー」出版記念絵本原画展とサイン会に行ってきました。

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

自由(過ぎる)発想とダイナミックな描写、不思議なキャラクターで異彩を放つ絵本作家、スズキコージさん。

6年前から移り住んだ神戸を題材にした絵本「コーベッコー」出版を記念した原画展が神戸元町の「Gallery Vie」で開かれています。

≫「Gallery Vie」HP

 

期間は今月の28まで(入場無料・月曜休館)。

「コーベッコー」原画の他にも様々な作品展示やポストカードや絵本の販売も行っており、見ごたえ十分です。

 

 

「コーベッコー」というタイトルは、「神戸港」と風見鶏の鳴き声を掛け合わせたもの。

内容はまあ、さすがのスズキコージワールド。

 

風見鶏が「コーベッコー」と鳴くところから物語は始まり、「ロッコーざん」の湖に金星が落ちてきて、船に乗った金聖人「ヴィーナスカ」が、神戸の名所を巡ります。

何だかわけわからないけど、うちの息子には大ウケでした。

スズキさんは子どもの喜ぶツボを心得てらっしゃる。

 

私たちが原画展に行ったのは先日の土曜日で、この日はスズキさんのサイン会も行われていました。

初めてお会いするスズキさん。

何しろあんな絵本を描いてらっしゃる方ですから、内心ちょっと危ない人かも……と怖がっていたんですが、イメージと違い、実にダンディでかっこいいおじさんでした。

お店に向けてサインをもらいました。

スズキさんに「面白い名前だねえ」と言ってもらいました。

 

上の図は神戸の地をかたどったデザインで、一筆書きで出来てるのです。

ブルジオ語(そんな言語初めて知りました)で「コージ」とサインされています。

いいところなんですよー」と目を細めて言うスズキさん。

 

この一筆書きサインが非常に息子の興味を引いて、他の方がサインをもらっている間も、ずーっとスズキさんの手元を凝視していました。

あんまり近すぎて、紙に顔が当たるんじゃないかという距離まで接近するので制止したら、スズキさんは「構わないよ」と素敵な笑顔。

息子は帰ってからこのサインを真似た絵を何枚も描いていました。

 

原画の方はやっぱり凄い迫力で、何と言っても100号キャンバスに描かれた「コーベッコー」の裏表紙の画は圧巻でした。

入場無料ですので、お近くの方は是非どうぞ。

 

スズキさん、どうもありがとうございました。

これからも応援しております。

 

スズキさんの絵本紹介記事

≫絵本の紹介「ガッタンゴットン」

≫絵本の紹介「ガラスめだまときんのつののヤギ」

 

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「パイがふたつあったおはなし」【215冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は久しぶりに名作「ピーターラビットの絵本」より、私も息子もお気に入りの一冊を紹介しましょう。

パイがふたつあったおはなし」です。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1988年6月25日

 

昨年、ピーターラビット展へ行き、そのレビューや第一作「ピーターラビットのおはなし」についての記事を書きました。

作者のポターさんの生涯などについても詳しく触れておりますので、ぜひそちらも併せてお読みください。

このシリーズの魅力について語り出すと、いつまでたっても絵本紹介に辿り着けないので。

 

≫「ピーターラビット展」に行ってきました。

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

 

この「パイがふたつあったおはなし」は、息子にとって(そして私自身にとっても)初めて触れたポターさんの世界です。

「ピーターラビットの絵本」は、作者の生まれ育ったイギリスの田園風景を舞台に、そこで生活する様々な動物を描いた作品です。

作品ごとに主人公は変わりますが、ピーターやこねこのトムのように複数の作品に登場するキャラクターも大勢います。

 

この絵本では「ダッチェス」という黒い犬と、「リビー」という猫を中心に物語が展開されますが、リビーは「ひげのサムエルのおはなし」にも登場した、こねこのトムのおばさんにあたるキャラクターです。

シリーズを読み進む上で、こういう人物相関図が出来上がってくるところも、ピーターラビットの絵本の楽しみのひとつでしょう。

 

さて、「パイがふたつあったおはなし」は、64pもあり、小さい子に読み聞かせるにはなかなか長い物語です(だから、初めて読んだ時に息子が最後まで聞いたことに驚きました)。

 

それに、難しいんですね。

文章自体は易しいんですが、「含み」がたくさんある。

ダッチェスとリビーの、表面上は上品で丁寧な会話の裏を、自分の想像力で補わなければ、このお話は読めません。

自分で本が読めるようになった子どもでも、古典的な児童書を手に取ったことがなければ、ちょっと読解に苦しむかもしれません。

 

しかしそれだけに、大人が読んでも面白い物語です。

ユーモアと、そしてちょっとした皮肉とからかいが込められた、よく出来た落語のようなお話です。

 

それでは内容を読んでいきましょうか。

ダッチェス(♀)のもとに、リビー(♀)からお茶会の招待状が届くところからお話が始まります。

とてもおいしいものを ごちそうします」と書かれたその手紙に、ダッチェスは「よろこんで、4じ15ふんに おうかがいいたします」と返事をしたためます。

 

けれど、ダッチェスは内心、リビーが用意しているのが「ねずみのパイ」ではないかと気が気ではありません。

実はダッチェスも、リビーを招くつもりで、「小牛とハムのパイ」を用意していたのです。

 

ねずみのパイなんて、とても とても たべられない! でもたべなくちゃ! およばれなんだもの

ああ、あたしのパイが たべたい! ねずみのパイなんかじゃなくて!

 

ダッチェスは葛藤を繰り返した末に、ある計略を思いつきます。

それは、リビーが出かけている隙を狙って、自分のパイをリビーのオーブンに入れてきてしまうという大胆なもの。

 

リビーが自分ではそのパイを食べないつもりらしいこと、パイ皿もダッチェスのとおそろいであること、リビーがマフィンを買いに出かけるであろうことなどを、手紙から読み取っての策です。

一方、リビーはねずみのパイをオーブンに入れます。

そのオーブンは二段式になっており、パイを入れた下の段は、開けるのに力がいるのです。

 

そうして部屋をきれいにしてから、リビーは自分が食べるマフィンを買いに出かけます。

途中、ダッチェスとすれ違いますが、会釈だけで会話はしません(話はこれからお茶を飲みながらするからです)。

 

さあ、ダッチェスはリビーの姿が見えなくなるや、一目散にリビーの家に駆けて行き、侵入し、オーブンの上の段に持参してきたパイを入れます。

しかし、ダッチェスはオーブンに下の段があることに気が付かず、リビーのパイを見つけることができません。

 

そうしてるうちにリビーが帰ってきて、ダッチェスはねずみのパイを始末できないまま、退散します。

リビーは家の様子が変だと思いつつも、ダッチェスのパイには気が付きません。

 

ダッチェスは改めてリビーの家を訪問します。

そこでダッチェスは、リビーがオーブンからパイを出す瞬間を見逃してしまいます。

さあ、ダッチェスは自分のパイだと思い込んでねずみのパイを食べ始めます。

とても上品に会話を交わす二人ですが、二人とも食欲は旺盛。

特にダッチェスはあっという間にパイを平らげてしまいます。

 

しかし、ダッチェスは妙なことに気が付きます。

自分が入れておいたはずの焼き型(パイが型崩れしないように入れておく金属)が出てこないんですね。

 

リビーの方は「焼き型なんか パイにいれては ありませんよ」と言います。

リビーの親類のおばさんは、クリスマスのプディングに入れる「幸運の指ぬき」を呑み込んで死んだので、自分はパイやプディングに金気のものは入れないのだ、と主張(また出ました、ピーターラビットシリーズにおける事故死ネタ)。

 

これを聞くとダッチェスは自分が誤って焼き型を呑んでしまったのだと思い込み、唸り出します。

リビーの方では焼き型なんか最初から入ってない、と言い、ダッチェスは何しろ自分のパイだと信じてるわけですから、確かに焼き型が入っていたのだ、と言い、不毛なやり取りが繰り広げられます。

 

気分が悪くなってしまったダッチェスに、リビーは医者を呼びに行きます。

一人残されたダッチェスは、オーブンの音で、焼き上がった自分のパイに気づきます。

真相を理解したダッチェスは、「こんなこと とても きまりわるくて、リビーには はなせない」と思い、自分のパイは裏庭に出しておいて、後で持って帰ることにします。

 

やがてリビーが「カササギ先生」を連れて帰ってきます。

この先生が実にぶっ飛んだキャラクターでして、喋ることは何故か「ばきゃたれ」とか「うすのろ」とか、悪い言葉ばっかり。

(表向きは)上品なリビーとダッチェスと、誠に対照的です。

 

ダッチェスはもう具合が良くなったから、と逃げるようにリビーの家を後にし、それから例のパイを回収しに裏庭へ回ります。

ところが、パイはカササギ先生が食べてしまった後でした。

 

ダッチェスは自分のしたことが恥ずかしくなり、うちへ駆けて帰るのでした。

 

★      ★      ★

 

このシリーズの魅力は「現実とファンタジーの究極の結合」にあると以前の記事に書きましたが、ここでもダッチェスたちは動物としての特性は保ったまま、実に人間臭く描かれています。

 

この物語の核は登場人物たちの「本音と建て前」です。

ダッチェス、リビー、タビタはそれぞれ表面上は仲良く、上品に振る舞っていますが、所々で本音を覗かせます。

これはお高く止まった上流階級の婦人たちの社交生活を皮肉っている点で、鳥獣戯画のような可笑しみを生んでいますが、ポターさんの筆には辛辣さはほとんど感じられません。

 

むしろ、登場人物に対するあたたかみすら感じられるのですね。

考えてみれば、リビーたちのような「本音と建て前」は、社会で生きて行く上で、誰しもが使い分けているところかもしれません。

 

その人間理解とリアリティゆえに、この話は「難しい」わけです。

はっきりとした悪人が出てきたり、わかりやすい教訓が示されるわけではないからです。

 

そしてやっぱり、絵の美しいこと。

花でいっぱいのダッチェスの家は素敵だし、リビーはおしゃれだし。

タビタさんは割と登場回数の多いキャラですが、彼女の子どもたち(トム、モペット、ミトン)は、今回は絵のみの登場となります。

 

トムたちの出てくるお話も大変面白いので、いつかまた取り上げたいと思っております。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

カササギ先生には診てもらいたくない度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「パイがふたつあったおはなし

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【絵本の紹介】「エルズワース 犬になった犬」【214冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はちょっと変わった犬の絵本を取り上げます。

エルズワース 犬になった犬」。

作・絵:ジョン・アギー

訳:なだいなだ

出版社:ミキハウス

発行日:1988年11月20日

 

ポップな色使いと丸みを帯びたキャラクター造形。

とても可愛らしい絵です。

 

しかしその内容はちょっと普通の絵本とは違います。

ある意味哲学的なのですが、全然深刻さはなく、ユーモアたっぷり。

でもナンセンスな悪ふざけ絵本なのかと言えば、わりと深い。

 

子供服ブランドのミキハウスは、こうしたちょっと毛色の違った絵本を出版しています。

 

まず、主人公のエルズワースという犬は本文にもある通り、「ふつうの犬ではなくて」、なんと大学でケイザイガク(経済学)を教えています。

スーツ姿で自転車通勤の途中、スタンドで経済新聞を買うエルズワース。

洗練された都会の知識人たる彼は、トチモンダイイインカイ(土地問題委員会)では座長を務め、周囲から尊敬を集めています。

 

本人もまんざらではないのですが、エルズワースには秘密がありました。

実は、ひとたび家に帰れば、犬としての本能を抑えきれなくなり、まるっきりの犬になってしまうのです。

猫をおっかけ

クルマにほえつき

家にかえるひとのあとをつけ」……。

 

いちにちじゅう きょうだんなんかに立ったあとでは おもいっきり犬になりたくなる。ただそれだけ

 

しかしある時運悪くその姿を仲間の先生に見られ、噂が広まり、エルズワースは大学をクビになってしまいます。

次の職のあてもなく、途方に暮れたエルズワースは公園のベンチで眠り込みます。

目が覚めると、目の前には「プードルのかわいこちゃん」。

ありのままの犬として楽しげに振る舞う彼女を見て、エルズワースは「あたまをガーン」。

 

もちろんだ、これっきゃない

いぬになろう!

 

エルズワースは衣服を脱ぎ捨て、プードルと一緒に四つ足で走り出すのでした。

 

★      ★      ★

 

とにかく、なだいなださんの訳文の洒落ていて軽快なこと。

大人が読んでも面白いです。

 

というより、小さな子どもには、このオチはちょっと意味不明かもしれませんね。

実際、うちの子に読んだ時も(2歳半くらいだったかな)、キョトンとしていました。

 

「犬になる」ったって、最初っからエルズワースは「犬」とはっきり言明されているのにね。

しかし、そこは最後の

そして、そういうこと

の一文で気持ちよく強引に納得させられていたようでした。

 

内容は理解できずとも、色々と耳慣れない言葉がテンポよく飛び出すのは、なかなか刺激的で楽しい体験のようです。

 

「本当の自分」を見失っている大人は、一度固定概念を捨てて、ありのままの「子ども」の姿を見てみるといいでしょう。

エルズワースのように、「あたまをガーン」とやられるかもしれませんよ。

私はしょっちゅうです。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

訳文の楽しさ度:☆☆☆☆☆

 

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