2022.05.17 Tuesday
【絵本の紹介】「ふなひき太良」【431冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
先日、沖縄復帰50周年記念式典が開かれました。
復帰と言いながら、沖縄の米軍基地負担や本土との格差などの問題はいまだ解決されていません。
今回は沖縄出身の儀間比呂志さんが創作した民話風絵本「ふなひき太良」を紹介します。
作・絵:儀間比呂志
出版社:岩崎書店
発行日:1971年3月31日
儀間さんは沖縄の風土や戦争をテーマに力強い木版画で多くの作品を残しています。
これはそんな作者の絵本作品としては最初期のもので、やはり沖縄への想い、魂を揺さぶるような人々の声なき声、そうしたものが熱く感じられる物語になっています。
いわゆる琉球方言が多く用いられ、私たちが音読するには少し慣れが必要ですが、やはりこの物語はこの方言あってこそだと思いますね。
「あぬやぁ、むかし むかしの はなしやしが」。
沖縄の南の村に「がし」(飢饉)があり、食べるものにも困っている中、村のおじいはひとりの赤ん坊を拾います。
おじいはその子を「太良(たらあ)」と名付けて可愛がります。
太良はどんどん大きくなり、巨人のように成長しますが、働きもせずに毎日寝てばかりでした。
ある年、村はすさまじい台風に襲われ、芋や米も全部流されて食べるものもなくなってしまいます。
途方に暮れる村人たちのところへ、一隻の船が現れます。
薩摩の侍と役人が乗った公用船です。
食べものを持ってきてくれたのだと思って喜んで迎える村人たちですが、侍と役人は無情にも年貢の取り立てに来たのでした。
台風被害で何もない、年貢は来年収めるから食べ物を分けてほしいと頼みますが、聞き入れられません。
その時、台風でも目を覚まさなかった太良が起き上がります。
太良はのっそりのっそりと海へ入り、歌いながら船に近づき、錨綱を掴むと船を浜へ引き寄せ始めます。
侍は青くなって太良の足を鞭で打ち据えますが、足から血を流しながらも太良は船を引くのをやめません。
その姿を見た村人たちは勇気づけられ、我も我もと船を押しにかかります。
とうとうたくさんの食料を積んだ船は陸のふもとまで引き揚げられます。
村人たちは喜んで輪になって踊ります。
太良は大きな声で村人を励ました後、突然仰向けに倒れると大きな岩へと姿を変えてしまいます。
その後、村は復興され、ふなひき太良の岩は今でも守り神のように、天へ向かってそびえたっています。
★ ★ ★
「さんねんねたろう」と同じく、寝てばかりの怠け者のごくつぶしである主人公が、最後の最後にそれまで自分を育ててくれた村人たちを救う、という構成の物語です。
「本土の役人」という国家権力が敵として描かれますが、これは沖縄の人々の想いを考えれば当然と言えるでしょう。
沖縄は本土に支配され、戦後もずっと政治権力になぶられ、苛め抜かれてきたのです。
今でもその構図は変わっていません。
基地問題にしても、報道は「県民の中にも賛否ある」という伝え方をしますが、そもそもの前提として、沖縄県民だけがそんなつらい「賛否」を選ばねばならない立場を強制されているのは何故でしょう。
どんな言葉で取り繕おうとも、戦争に負けた日本がアメリカに対し沖縄を犠牲に差し出したという事実は変わりません。
ところが政府はそのことを恥じ入る心を忘れ、むしろ基地建設に反対する県民を弾圧する側に回るという倒錯が起こっています。
私は沖縄問題を語るのは苦手です。
それは私もまた本土の人間であり、弱者をいたぶる側の人間であるからです。
しかもまるで勉強が足りてない。
そんな人間に沖縄を語る資格があるとは思えません。
ただ、これほど今までさんざん「日米同盟のため」という大義を掲げて沖縄に基地負担を強いてきた人々が、ロシア・ウクライナの戦争を見て「日米同盟では日本は守れないので核武装するべき」などと発言しているのを見ると、さすがに欺瞞が過ぎるのではないかと思うのですが。
沖縄の歴史はまさにこうした「理不尽」の歴史です。
この絵本にも理不尽と戦い続けた島の人々の想いがこもっています。
普段は寝ているだけのような太良の胸の内には、理不尽に対するマグマのような怒りと、人間に対する限りない優しさが滾っているのです。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
太良の歌が難しいけど楽しい度:☆☆☆☆☆
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