【絵本の紹介】「ふなひき太良」【431冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

先日、沖縄復帰50周年記念式典が開かれました。

復帰と言いながら、沖縄の米軍基地負担や本土との格差などの問題はいまだ解決されていません。

 

今回は沖縄出身の儀間比呂志さんが創作した民話風絵本「ふなひき太良」を紹介します。

作・絵:儀間比呂志

出版社:岩崎書店

発行日:1971年3月31日

 

儀間さんは沖縄の風土や戦争をテーマに力強い木版画で多くの作品を残しています。

これはそんな作者の絵本作品としては最初期のもので、やはり沖縄への想い、魂を揺さぶるような人々の声なき声、そうしたものが熱く感じられる物語になっています。

 

いわゆる琉球方言が多く用いられ、私たちが音読するには少し慣れが必要ですが、やはりこの物語はこの方言あってこそだと思いますね。

あぬやぁ、むかし むかしの はなしやしが」。

沖縄の南の村に「がし」(飢饉)があり、食べるものにも困っている中、村のおじいはひとりの赤ん坊を拾います。

おじいはその子を「太良(たらあ)」と名付けて可愛がります。

 

太良はどんどん大きくなり、巨人のように成長しますが、働きもせずに毎日寝てばかりでした。

ある年、村はすさまじい台風に襲われ、芋や米も全部流されて食べるものもなくなってしまいます。

途方に暮れる村人たちのところへ、一隻の船が現れます。

薩摩の侍と役人が乗った公用船です。

 

食べものを持ってきてくれたのだと思って喜んで迎える村人たちですが、侍と役人は無情にも年貢の取り立てに来たのでした。

台風被害で何もない、年貢は来年収めるから食べ物を分けてほしいと頼みますが、聞き入れられません。

 

その時、台風でも目を覚まさなかった太良が起き上がります。

太良はのっそりのっそりと海へ入り、歌いながら船に近づき、錨綱を掴むと船を浜へ引き寄せ始めます。

侍は青くなって太良の足を鞭で打ち据えますが、足から血を流しながらも太良は船を引くのをやめません。

その姿を見た村人たちは勇気づけられ、我も我もと船を押しにかかります。

とうとうたくさんの食料を積んだ船は陸のふもとまで引き揚げられます。

村人たちは喜んで輪になって踊ります。

 

太良は大きな声で村人を励ました後、突然仰向けに倒れると大きな岩へと姿を変えてしまいます。

その後、村は復興され、ふなひき太良の岩は今でも守り神のように、天へ向かってそびえたっています。

 

★                   ★                  ★

 

「さんねんねたろう」と同じく、寝てばかりの怠け者のごくつぶしである主人公が、最後の最後にそれまで自分を育ててくれた村人たちを救う、という構成の物語です。

「本土の役人」という国家権力が敵として描かれますが、これは沖縄の人々の想いを考えれば当然と言えるでしょう。

沖縄は本土に支配され、戦後もずっと政治権力になぶられ、苛め抜かれてきたのです。

 

今でもその構図は変わっていません。

基地問題にしても、報道は「県民の中にも賛否ある」という伝え方をしますが、そもそもの前提として、沖縄県民だけがそんなつらい「賛否」を選ばねばならない立場を強制されているのは何故でしょう。

 

どんな言葉で取り繕おうとも、戦争に負けた日本がアメリカに対し沖縄を犠牲に差し出したという事実は変わりません。

ところが政府はそのことを恥じ入る心を忘れ、むしろ基地建設に反対する県民を弾圧する側に回るという倒錯が起こっています。

 

私は沖縄問題を語るのは苦手です。

それは私もまた本土の人間であり、弱者をいたぶる側の人間であるからです。

しかもまるで勉強が足りてない。

そんな人間に沖縄を語る資格があるとは思えません。

 

ただ、これほど今までさんざん「日米同盟のため」という大義を掲げて沖縄に基地負担を強いてきた人々が、ロシア・ウクライナの戦争を見て「日米同盟では日本は守れないので核武装するべき」などと発言しているのを見ると、さすがに欺瞞が過ぎるのではないかと思うのですが。

 

沖縄の歴史はまさにこうした「理不尽」の歴史です。

この絵本にも理不尽と戦い続けた島の人々の想いがこもっています。

普段は寝ているだけのような太良の胸の内には、理不尽に対するマグマのような怒りと、人間に対する限りない優しさが滾っているのです。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

太良の歌が難しいけど楽しい度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ふなひき太良

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「11ぴきのねことへんなねこ」【417冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

ブログの更新ペースが少々落ちておりますので随分間が空いてしまった気がしますが、大人気ロングセラー「11ぴきのねこ」シリーズ第5作を紹介しましょう。

11ぴきのねことへんなねこ」。

作・絵:馬場のぼる

出版社:こぐま社

発行日:1989年12月10日

 

私もこのシリーズが大好きで、ここで紹介記事を書くことも楽しんでいます。

絵本としてのエンターテインメント性、物語の完成度、絵の雄弁さ、可愛さ、ユーモアの妙、読後感の素晴らしさ。

それらすべてが高いレベルで作られていることは言うまでもなく、なおかつ私のような絵本オタクにとって悦楽ともいえる深読みを許してくれる懐の深さ。

 

「11ぴき」はシリーズを通して普遍的な人間心理と、子どもが成熟していく過程を絶妙なさりげなさで描いています。

これまでのシリーズそれぞれの考察は過去記事をお読みください。

自分で言うのもなんですが、面白いと思ってます。

 

≫絵本の紹介「11ぴきのねこ」

≫絵本の紹介「11ぴきのねことあほうどり」

≫絵本の紹介「11ぴきのねことぶた」

≫絵本の紹介「11ぴきのねこふくろのなか」

 

作者の馬場さん、こぐま社の創業者の佐藤英和さんが毎回大変な産みの苦しみの末に完成させる「11ぴきのねこ」シリーズ。

前作から7年後の新作のゲストキャラはなんと「うちゅうねこ」。

 

今日もチームワークを発揮して魚を釣ったり料理をしたり、逞しく生きる11ぴきの前にちらちらと姿を見せる「みずたまもようのねこ」。

11ぴきはへんなねこを意識しつつ、警戒して話しかけることはしません。

 

何度か遭遇を繰り返すうち、11ぴきのねこはへんなねこの変わった行動に興味を惹かれ、ついに彼の仕事を進んで手伝い始めます。

鉄でできた薄汚れた家に葉っぱを貼りつけます。

みずたまのへんなねこは喜んで、11ぴきのために川に潜ってたくさんの魚を獲ってくれます。

 

今度は11ぴきが大喜び。

すっかりへんなねこを信用し、「みずたまくん、へんなねこじゃないぞ」「いいひと、いいひと」。

 

そしてへんなねこは驚くべきことを語り出します。

実は自分は宇宙から来た「ほしのねこ」で、壊れた宇宙船のドアの代わりにぴったりの、11ぴきのお鍋のふたが欲しいというのです。

 

11ぴきは驚きつつ、いつものしたたかさを発揮して、もっとたくさんの魚と交換ならふたをあげてもいい、と交渉します。

へんなねこは不思議な力で川に潜り、どんどん魚を獲ってきます。

そしてめでたくふたを手に入れます。

 

おー、あしたのよる、そらに、こぐまざが、かがやいたら、ぼく、さよならね

「こぐまざ」の小ネタが嬉しい。

 

11ぴきは本当に宇宙船が飛ぶのなら宇宙旅行に行ってみたいものだと思い、次の日の夕方、へんなねこがいない隙に干し魚をいっぱい持って宇宙船にこっそり乗り込みます。

すると、外ではへんなねこが綺麗な星の花火を上げて11ぴきの気を引きます。

 

11ぴきは喜んで飛び出し、空に向けて花火を上げます。

シリーズ通して最も美しいシーンでしょう。

夢中になっていた11ぴきがふと気づくと、宇宙船がふわふわと飛び、へんなねこが別れを告げます。

たくさんの干し魚のおみやげのお礼を言って。

 

★                   ★                  ★

 

11ぴきは大人の夢想する「純真無垢で天使のような子ども」ではなく、リアルな生身の「人間」としての子どもそのものの存在です。

目先の食欲を自制できずに約束を反故にし、少し頭の悪いあほうどりを侮って計略にかけようとして失敗し、ぶたの家を横取りしてひどい目に遭い、無責任な集団心理から禁を破って怪物に捕まり、危機に陥ります。

 

しかしながら彼らは少しずつ成長しており、前作では知恵と想像力で怪物を倒し、一歩大人になります。

今回はどうでしょうか。

 

水玉模様のへんなねこは、これまでのゲストキャラと違い、一応は11ぴきと同じねこです。

しかし体の模様も行動も自分たちとは違っているため、11ぴきも最初は自然な警戒心を抱き、魚も分けてあげようとはしません。

 

何度も書いてますが11ぴきの自我は集団に属しています。

11ぴきがとらねこたいしょうを除き個体識別ができないことは象徴的です。

 

彼らにとってグループ内のねこは自分と同じであり、ゆえに個体としての責任も引き受けなくていいのです。

就学以前の幼児の仲良しグループもこれに近い意識があります。

隣の子がやっていることなら善悪を判断することなく真似、誰かが泣いたら一緒に泣く。

 

しかしやがて成長し、就学すればもっと大きな集団に属することになります。

そこではこれまでのグループとは毛色の違った「他者」と関わることになります。

 

これまでの自分たちとは考え方も行動基準も違う相手は、「へん」と感じますが興味も惹かれる。

やがて数々の違いを乗り越えて友だちとなった時、子どもたちは人間としての幅を広げます。

 

つまり「自分と他者は違うし、違って当然なのだ」という認識を得るのです。

そして鏡のように「己」を見つめることになります。

子どもの自我は集団から独立し、自分以外の誰によっても代替されえない「個我」を認識します。

その時初めて責任とか倫理とか公共といった概念が芽生えることになるのです。

 

水玉模様の宇宙ねこは、最初から最後まで「謎」という力を持って11ぴきの欲望を刺激し、彼らの自我を目覚めさせる使者としての役割を担います。

宇宙ねこが実際には何を考えているか、11ぴきも読者もついには知ることはできません。

 

けれども確かに宇宙ねこは11ぴきより上手であり、自分を利用しようとする11ぴきの企みを軽やかにかわして自分の目的を果たします。

ここで前作に引き続き、11ぴきは「今の自分たちでは理解できないし、その全貌を捉えることもできない他者」の存在に触れるのです。

 

そしてそれこそが彼らの学びと成長を後押しする原動力となるのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

うちゅうねこミステリアス度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「11ぴきのねことへんなねこ

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【絵本の紹介】「みどりの船」【413冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

連日厳しい暑さが続いてますが、皆様お元気でしょうか。

夏休み本番ですが、今年も自由に外出しにくい状況は変わりません。

ウイルス問題も気がかりですが、こう暑いと熱中症も心配なので、人混みには余計に注意しないといけませんね。

 

子どもには家の外で思いっきり夏らしい遊びをして逞しく成長してほしいという親心もありますけど、最近の夏の暑さはもう昔とは違いますからねえ…。

都会育ちの私には帰る田舎もなく、どこか自然豊かなところに息子を連れて行ってやりたいと思いつつ、結局は今年も山や海へは行く予定ありません。

 

さて、今回も私のような大人が郷愁に胸を打たれるようなひと夏の物語絵本を紹介しましょう。

みどりの船」。

作・絵:クェンティン・ブレイク

訳:千葉茂樹

出版社:あかね書房

発行日:1998年8月第9刷

 

クェンティン・ブレイクさん、私は不勉強でこの絵本で初めて知った作家さんなんですけど、ケイト・グリーナウェイ賞や国際アンデルセン賞を受賞している方です。

素敵な絵に惹かれて手に取り、一読すると短い児童文学作品に触れたような読後感が残ります。

 

田舎のおばさんの家で夏休みの二週間を過ごすことになったきょうだいが、退屈しのぎにお屋敷の壁を上ってよその庭に忍び込みます。

壁というのは絵で見ると古いお城の石垣のようなもので、その向こうはとても庭には見えない大きな森。

二人はジャングルのような庭を探検隊気分で進みます。

ジャングルを抜けた先にあったのは、なんと船。

本物の船ではないけれど、木や植え込みで甲板やマスト、操舵室を模した実物大の船の模型です。

本物の舵まで取り付けられています。

 

二人が物珍しさに夢中になっていると、このお屋敷の女主人に見つかってしまいます。

ここのやり取りがなんとも洒脱。

 

この船の持ち主である女主人の名前はトリディーガさん。

「水夫長」と呼んで連れているのは庭師の男。

きょうだいはトリディーガさんたちと仲良くなり、ケーキやお茶をごちそうしてもらい、次の日からは毎日のようにこのみどりの船に遊びに来るようになります。

マストに上り、望遠鏡を覗き、世界地図を広げ、舵を取って航海します。

花だんはイタリアの遺跡」「ヤシの木は、エジプト」「天気がわるくてさむい日は、北極」「ヒツジたちは、シロクマ」。

暑くなってくると船は熱帯に向かって航行していることになります。

 

最高に楽しそうな「ごっこ遊び」。

 

二人がおばさんの家から帰ることになる最後の晩はトリディーガさんのところで過ごすことになります。

その晩は嵐。

トリディーガさんは朝まで舵を握ったまま、子どもたちが目を覚ますと「わたしたちの船は、ぶじに、あらしをのりきったのよ」と振り返ります。

 

それから二人は毎年夏休みのたびにトリディーガさんとみどりの船のところへ訪ねるようになります。

年月が過ぎ、庭師の水夫長は船の手入れをするには歳を取りすぎて、みどりの船は木や草が伸び放題になり、だんだんと船の面影をなくしていきます。

もうじき、それがむかし船だったことを知る人は、だれもいなくなってしまうだろう。ぼくたちのほかには……」。

 

★                   ★                  ★

 

この豊かさなんですよねえ、私が惹きつけられるのは。

時間の余裕、心の余裕、場所の余裕。

ラストシーンで草木に覆いつくされたみどりの船のカットには胸が締め付けられるようなノスタルジーを覚えます。

 

文章は長いようですが簡潔で、本当に一切の無駄を省いており、すぐに読めます。

どれくらい省かれているかというと、主人公の二人が本当にきょうだいなのかどうかも書かれてなかったり(いとこ同士という可能性もあります)。

テキストは男の子の一人称で書かれていますが、「アリス」という女の子が男の子の姉なのか妹なのかはわかりません(絵から見ると姉っぽいけど、わかりません)。

 

あと、トリディーガさんについての情報も一切説明されません。

おそらくは家族はいないのでしょう。

庭師の水夫長と2人で屋敷に住んでいるような印象です。

 

もっともその点も特に何も触れられていないので、庭師はトリディーガさんの夫である可能性もなくはない(違うと思うけど)。

そのほか、トリディーガさんがどうしてこんな船を庭に作ったのかについての理由も語られません。

 

それによってかえってこちらの想像力は刺激され、少年時代の夏の思い出だけが強く心に焼き付けられ、いっそう作品の印象を強くしています。

たぶん操舵室に飾られてあった船長の写真は、トリディーガさんの亡くなった夫なんでしょう。

登場人物も魅力的で、絵も雄弁。

上質な絵本文学です。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

庭広すぎ度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「みどりの船

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【絵本の紹介】「リサとガスパールにほんへいく」【403冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はお久しぶりに登場の「リサガス」シリーズより、「リサとガスパールにほんへいく」を紹介しましょう。

作:アン・グットマン

絵:ゲオルグ・ハレンスレーベン

訳:石津ちひろ

出版社:ブロンズ新社

発行日:2007年3月25日

 

その独特のキャラクターデザインが大ウケして、日本でも絶賛人気爆発中の「リサとガスパール」シリーズ。

アニメ、キャラクターグッズ、CMなど、メディアの幅も広く、絵本から飛び出したキャラクターとしては今や「ミッフィー」と並ぶ人気者のふたりです。

 

これまでにここで紹介した記事も併せて読んでいただければ嬉しいです。

 

≫絵本の紹介「リサとガスパールのクリスマス」

≫絵本の紹介「リサ ジャングルへいく」

 

上記の記事内でも触れていますが、単に「ゆるかわ」キャラクターものと侮るなかれ(そういう絵本シリーズもそれはそれでいいと思いますけどね。どの作品とは言いませんけど)。

ちゃんと絵本としてのツボを抑えた良作です。

 

ひとつには主人公の二人が毎回失敗や迷惑を繰り返しても特にペナルティを受けないこと。

子どもの素直な心理を捉えていること。

テキストにすべてを語らせるのではなく、絵に物語があること。

 

なおかつ、絵本シリーズには珍しく、ダブル主人公形式で作品ごとに視点が切り替わる点も楽しいです。

絵の可愛さは言うに及ばず。

 

さて、今作ではなんとリサガスが来日します。

海外絵本シリーズでも稀に(古典作品ではまず見かけませんけど)日本が描かれることはありますが、ここまで明確に日本を舞台にした作品は珍しいです。

子どもに理解できる話を描く必要のある絵本でこういうことができるのは、リサガスの出身地であるフランスでも現代日本がそれだけ認知されている証でしょうか。

 

リサの一家が日本へ旅行に行きます。

ビクトリア(リサの姉)がペンフレンドを訪ねてドイツへ行ったので、代わりにガスパールが同行しています。

優しいガイドの名前は「フクシマさん」。

ベタに畳と布団にわくわくし、トイレのウォシュレットに驚き、お箸に戸惑うリサガス。

 

さすがにもう「サムライ」「日本刀」のイメージは過去のもので、現代的な日本文化がそのまま登場するのは、これが作者夫妻が実際に日本に来た時の体験を描かれたからのようですね。

京都のお寺を見て回るリサガス一行。

慣れないスリッパに足を取られ、リサとガスパールが転んでしまいます。

しかも、フクシマさんの上に。

フクシマさんは足を捻挫したようで、次の日にはギプスに松葉杖という痛々しい姿で現れます。

リサのパパがどうしたのかと尋ねても、優しいフクシマさんはリサたちのことをかばい、黙っていてくれます。

 

二人はお礼にフクシマさんのギプスに可愛い落書きをプレゼント。

 

★      ★      ★

 

一種のファンサービスですねえ。

リサガス好きには嬉しい一冊。

京都なのに記念写真風の表紙が富士山なのはどうなんだというツッコミ入るかもしれませんけど、ちゃんと絵の中に答えはあります(ホテルのテレビ画面に映ってるんですね)。

 

さてコロナ禍により、現在京都などの観光地は一時に比べると外国人観光客の入りは惨憺たる状況のようです。

観光業者は悲鳴を上げています。

このまま収束が遅れれば、本当に命の問題になりそうで、というかすでになっているのかもしれません。

冗談ではなく、たとえ感染しなくとも間接的にウイルスに殺される人々が出てくるでしょう。

 

様々な日本の対応について、ここで立ち入った話はしませんけど、はっきり言ってまずい点だらけだと思っています。

諸外国の失敗・成功例から何も学んでいません。

 

オリンピックの開催なんて無理でしょう。

外国から見て、今の日本が安心して訪れられる国だとは思えません。

 

ここに描かれているように日本を「安心と安全と思いやりの国」だと好意的に捉えてくれる外国の方に甘え、いつまでもそのイメージが不変だと思っているのは怠慢です。

時代は変わります。

 

未来の日本も海外から「遊びに行きたい!」と思われるような魅力のある国であってほしいし、こういう絵本をまた読みたいと思います。

一日も早い収束を願うばかりです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

フクシマさん身体脆い度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「タトゥとパトゥのへんてこマシン」【391冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はフィンランドで大人気、そして我が家でも大人気の楽しい絵本を紹介しましょう。

タトゥとパトゥのへんてこマシン」です。

作・絵:アイノ・ハブカイネンとサミ・トイボネン

訳:稲垣美晴

出版社:偕成社

発行日:2007年10月

 

表紙左のゴーグル付けたのがタトゥ。

右がパトゥ。

天才こども発明家」兄弟の二人が作った日常に役立つ(?)14のおもしろ発明品を詳細な図解で公開・解説します。

 

絵柄は可愛くて発明品は奇想天外、でも細部の細部まで描きこまれた絵と仕掛けは何回見ても新しい発見があって本当に楽しい。

ハイテクだけど子どもらしい手作り感とぬくもりが感じられる絶妙なデザインの数々。

↑「全自動おめざめ機」。

左のはしごを昇って入り口から入ると、ベルトコンベアで流されて行って目覚まし、洗顔、朝食、歯磨き、メイク、着替えまでオートでやってもらえます。

細かいメニュー設定もできますが、途中の扱いは結構雑。

↑「水たまりマシン」。

手軽に水たまりを作って遊べるように開発された機械。

穴の大きさに合わせてドリルを付け替えられるようになっているのがポイント。

↑「ミクロの世界おまかせ機」。

どんな細かい作業も可能な超高性能作業用マシン。

これは普通に凄い。

 

蟻のセーター編み、蚤の爪切り、何でもござれ。

しかし操作するにはなかなか骨が折れる様子。

 

この他にも「たべられないもの探知機」「ぼうしカギ」「風景ドーム」など、ユーモアたっぷりな発明品がたくさん。

そして絵の中には見逃しがちな隠し要素もあり、毎回新しい発見ができるところも良書。

 

★      ★      ★

 

作者の二人はご夫婦。

「タトゥとパトゥ」はシリーズものでして、日本ではこのほかにも「タトゥとパトゥのへんてこアルバイト」「タトゥとパトゥのへんてこドリーム」が翻訳されています。

それぞれに違った味があり、発明ものという枠では収まらない作品になっています。

 

とにかく可愛くて細微なイラストをじっくり見るのが楽しい絵本なので、子どもに読み聞かせるというより、一緒にじっくりと絵を見ながら新しい発見をしてほしいです。

 

例えばこの「へんてこマシン」では、隠し要素として扉ページに描かれたロボットのパーツ探しがあります。

パーツに使われているのは自転車のペダルや飴玉などで、それらは14の発明品のどこかに使われています。

奥付のページでそのロボットの完成形が確認できます。

 

私は最初うかつにもこの仕掛けを見逃していたのですが、気づいて息子に話したところ、息子はとっくに気づいてほとんどのパーツを見つけておりました。

1人でもたびたび引っ張り出して読んでいたので、その時にそういう細部も見ていたのでしょう。

 

タトゥとパトゥは天才ではありますが無邪気な子どもで、それゆえにその着眼点のユニークさ、発想のとらわれなさは痛快です。

大人にとっては「無駄」としか思えないような研究や発明の数々ですが、本来画期的な発明や科学的進歩は、数多の一見無駄に思える研究によって支えられているものです。

 

「費用対効果」や「銭勘定」でしか科学研究を語れず、「無駄な研究には金を払うな」と声高に言う人たちは、「無駄」に金をかけなくなった国は衰退していくのだということをわかっていないのです。

そしてまた一個の人間も、「無駄」とも見える精神生活がなければ生物として干からびていくものなのです。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

実用性度:☆

 

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