【絵本の紹介】「さっちゃんのまほうのて」【253冊目】(再UP)

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本作家・田畑精一さんが7日、老衰のため89歳でお亡くなりになられました。

人形劇から子どもの本の仕事に入られ、数々の傑作絵本を残された田畑さん。

このブログでも代表作「おしいれのぼうけん」をはじめ、何冊か取り上げさせてもらっています。

 

≫絵本の紹介「おしいれのぼうけん」

≫絵本の紹介「キミちゃんとかっぱのはなし」

≫絵本の紹介「ひ・み・つ」

 

今回は先天的障碍という絵本としては非常に重く難しいテーマを正面から描いた感動の名作「さっちゃんのまほうのて」を再掲載します。

田畑さんのご冥福をお祈りします。

 

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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは先天性四肢欠損という障害を抱えて生まれた少女を描いた感動作「さっちゃんのまほうのて」です。

作:田畑精一・先天性四肢障害児父母の会

絵:田畑精一

出版社:偕成社

発行日:1985年10月

 

生まれつき右手の指が無いという障害を抱える少女・さっちゃん。

絵本として非常に重く難しいテーマを、田畑さんが先天性四肢障害児父母の会の方々の協力を得て、渾身の筆で描き切った名作です。

 

さっちゃんのお母さんとお父さんの言葉は涙なくしては読めませんが、決して暗くはならず、元気なさっちゃんの明るい未来が想像できるラストは読者の胸にまっすぐ響くでしょう。

 

幼稚園のままごと遊びで、お母さん役を巡って喧嘩になってしまうさっちゃん。

怒った友達の一人が放った一言が、さっちゃんの胸をえぐります。

 

さっちゃんは おかあさんには なれないよ! だって、てのないおかあさんなんて へんだもん

怒ったさっちゃんは友達と大喧嘩の末、幼稚園を飛び出して家に帰ります。

そして、戸惑うお母さんに問いかけます。

 

おかあさん、さちこのては どうして みんなと ちがうの? どうして みんなみたいに ゆびが ないの? どうしてなの?

 

突き刺すような辛い質問に、お母さんは胸がいっぱいになりながらも、さっちゃんを抱きしめ、ごまかさずに真摯に答えます。

さっちゃんは「おなかのなかで けがをしてしまって」指だけがどうしてもできなかったこと。

その原因については、「まだ だれにも わからない」こと。

 

するとさっちゃんは、お母さんにとってはさらに辛い質問を放ちます。

しょうがくせいに なったら、さっちゃんのゆび、みんなみたいに はえてくる?

 

そうだったら、どれほどいいでしょう。

お母さんはどれほど「そうよ」と答えたいでしょう。

 

でも、それは言ってはならないことです。

お母さんははっきりと答えます。

さちこのてはね、しょうがくせいに なっても いまのままよ

でもね、さっちゃん。これが さちこの だいじな だいじなて なんだから。おかあさんのだいすきな さちこの かわいい かわいいて なんだから……

さっちゃんは泣き出します。

いやだ、いやだ、こんなて いやだ

 

それからしばらく、さっちゃんは幼稚園にも行かず、さみしそうに過ごします。

しかし、妊娠していたお母さんが弟を産んだ日、病院からの帰り道に、さっちゃんはお父さんと手をつないで言います。

さっちゃん、ゆびが なくても おかあさんに なれるかな

そこでお父さんは最高に素敵な返事。

 

さっちゃんは元気を取り戻し、友だちとも仲直りします。

そして、明日を夢見ながら眠りにつくのでした。

 

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私は小学生の頃、授業でこの作品に出会いました。

もちろん心に残りましたが、しかし一方、先生からの「道徳観の押しつけ」に少々辟易した記憶も残っています。

 

障害や差別を取り扱うことは非常に難しいことです。

歪んだ優越感や差別意識は、子どもの世界の方がより容赦なく現れているように見えます。

 

しかし、だからといって子どもが差別的であるとは言えないと思います。

彼らは私たちが思う以上に大人の態度や行動を観察しており、それを無意識に模倣します。

 

子どもの世界は大人社会の縮図なのです。

つまり、こうした問題を扱う大人の側の欺瞞を、子どもは鋭く見抜いているのです。

 

ですから、本当の意味での教育は、完全に自由な精神を持った大人が行動で示すことでしか行えません。

もっともそれは遥かな遠い未来の理想でしょう。

 

この作品を読んで、子どもがそれぞれに何を思うかは各自の自由であり、いつそれが芽を吹くかも各自の資質によります。

私たち大人ができることは、想像力の種となる物語を、できる限り多くの良質な物語を与えることです。

 

さっちゃんを他人だと思わない心、それはあるいは自分だったかもしれないという想像力。

まずはその想像力を養うことが肝要です。

 

大人になってから改めてこの絵本を読み返した時、私は自然と息子が生まれる時のことを思い出しました。

何もいらない、とにかく健康な身体で生まれて欲しい。

それしか願わなかった時のことを思い返し、さっちゃんの両親の痛みが、強さが、初めて理解できました。

 

あの時私の心に撒かれた物語は、何十年を経て、やっと芽を吹いたのでしょう。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ラストの清々しさ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「さっちゃんのまほうのて

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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【絵本の紹介】「ようこそ森へ」【379冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは村上康成さんの「ようこそ森へ」です。

作・絵:村上康成

出版社:徳間書店

発行日:2001年4月30日

 

以前に村上さんのデビュー作「ピンク、ぺっこん」を取り上げました。

 

≫絵本の紹介「ピンク、ぺっこん」

 

その記事でも触れていますが、村上さんの自然に対する独特の目線は処女作にして確立されていました。

厳しいような温かいような、突き放すような寄り添うような、近くて遠い距離感。

そして強烈にデフォルメされているにもかかわらず、妙にリアルに感じる生き物の息遣い。

 

この「ようこそ森へ」は、特にそんな作者のオリジナリティが発揮されている傑作です。

まず、その構造が非常に実験的。

 

表紙と扉絵を飾るのは一羽のカケス。

ジェーッ、グェッ」。

彼の棲む森へ、とある家族がキャンプにやってきます。

カケスは木の上からそれを見て、「キャンプかな」。

家族もカケスに気づいて見上げます。

どうです、なかなかハンサムなカケスでしょ

などと気取るカケス。

 

この構図はカケスからの視点で描かれます。

もう一人の主人公であるところの少年、そしてその両親のセリフは一切書かれません。

つまり、これは森の住人であるカケスが自らガイド役をかって、家族に語り掛けるという形式の絵本なのです。

カケスは森のことを色々と自慢しますが、それは一方的でもあり、家族と実際に会話をしているわけではありません。

しかし、家族、少年はカケスを意識していることも明らかであり、必ずしもコミュニケーションが不成立というわけでもない。

この微妙な関係性が実に心地いい。

家族はテントを張り、食事を作り、翌日は虫を取ったり釣りをしたり。

帰るときに少年は虫取り網を忘れかけますが、カケスが鳴いて知らせます。

 

少年とカケスは見つめ合い、カケスはひとこと「元気で」と飛び去ります。

 

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アングルのダイナミックさ、自在さ。

目まぐるしく視点が変わっても読者が混乱しないのは、必要なもの以外は描かないシンプルさゆえです。

 

森を上空から捉えた見開きカットではテント、川、家族それぞれ、トンビ(かな)、そしてカケスが小さく描きこまれているだけです。

他のページでもキツツキやリス、ムササビ、キツネなどが点々と描きこまれていますが、それだけで森の広大さや生き物の息遣いまでがありありと伝わってくるのです。

 

そして繰り返しになりますが、カケスと少年たちとの距離感と関係性が素晴らしい。

これが凡庸な作家なら、人間を森への「無法な侵入者」と描くか、あるいは「みんななかよし」で歓迎されるか、そのどちらかになりがちです。

 

人間たちは好き勝手に遊び、虫や魚を追い回し、カケスに食べ物を投げますが、カケスはカケスで「どう、ここはいいところでしょ?」と言いたくて仕方がない様子で勝手に人間たちに語り掛けるのです。

「自然と語り合う」「共生する」などと気軽に口にする「自然好き」は大勢いますが、現実には自然と人間は切り離されています。

近づいても近づけない、かといって人間もまた自然の一部であることには変わりがない。

 

カケスの一人語り、という構造の斬新さばかりに目が行きがちですが、上記のような微妙な距離感を維持している点においてこそ、この絵本は画期的なのだと思います。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

演出の憎さ度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ようこそ森へ

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【絵本の紹介】「かさ」【378冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年は新型コロナウイルス感染症の話ばかりしている間に、気づけばもう6月です。

花見もGWも入学式や卒業式すらまともにできず、季節を感じることも薄いままに梅雨ですか。

花粉症だけは感じましたけど。

 

今回は太田大八さんの「かさ」を紹介します。

作・絵:太田大八

出版社:文研出版

発行日:1975年2月20日

 

太田さんの作品は、自身の子ども時代をモデルにした「だいちゃんとうみ」をこのブログで取り上げたことがありますね。

≫絵本の紹介「だいちゃんとうみ」

 

素朴で力強い色使いが素敵な太田さんですが、この「かさ」ではあえてモノクロに赤一色だけを効果的に用いる手法を取っています。

また、テキストを排し、すべてを絵によって語らせるまさに「絵本」というスタイルの作品でもあります。

 

主人公の女の子が、雨の日に傘を持って駅まで父親を迎えに行くというお話。

引いたアングルで雨の街並みを描写し、少女の傘だけがぽつんと赤の配色をなされています。

この印象的な赤色によって、読者はすぐに主人公の位置を確認することができます。

女の子は何も語りませんが、何を見、何を感じているのかは容易に伝わります。

駅前の街並みは、時代を感じるところもありますが、今見てもそこまで古臭くはありません。

この絵本が出た当時ではかなり都会的な描写だったのでしょう。

 

女の子は友だちとすれ違いざまに挨拶を交わし、犬に水をかけられそうになり、ドーナツ屋や人形屋のショーケースを覗き、駅前の交差点を渡り、父親に会って持っていた傘を手渡します。

そして帰り道、先ほど見ていたドーナツ屋で父親にドーナツを買ってもらい、今度は父親が少女の傘を持ち、二人は一本の傘に入って帰ります。

 

表紙・扉絵から始まって裏表紙の後ろ姿まで物語は続いています。

 

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地味なように感じるかもしれませんが、読んでみると非常に印象深い絵本です。

そして不思議と温かい気持ちになります。

 

個人的に太田さんの作品にノスタルジーを刺激されることが多いのですが、この絵本も昭和後期を感じさせる描写がとても懐かしく心に残ります。

ま、実際には私は「傘を持って駅へ親を迎えに」という経験はないんですけど。

今ではもう見ることもないでしょうね。

携帯電話もあればコンビニでも駅でもビニール傘売ってますし。

 

「雨降ってるから迎えに来て」とか父親が言ったらフルボッコにされそうですしね。

だいたい子どもも塾や習い事で忙しいし。

 

確かにここで描かれているような光景は、現在では旧弊な家父長制の象徴として映るかもしれません。

どうしていつも「父親」なんだ、迎えに行くのが当然のように「女の子」なんだ、と言われれば、返す言葉がありません。

 

こういう絵本をあっさりと「古き良き時代」ということにためらいを覚えてしまうのが現代です。

でも、この絵本を読んで「いいなあ」と思うのは、すでに希薄になってしまった人同士の繋がりを感じるからです。

そういう心情は普遍的なものです。

別に家父長制を懐かしんでいるわけではない(そういう人もいるかもしれませんけど)。

 

いくら懐かしもうとも、時代は逆戻りしません。

そして現在でさえも、未来には懐かしく「いい時代」だったと思い返す人がいる一方に「あんな古臭い思想がはびこっていた時代」と身震いする人がいるのでしょう。

 

そういうものだと思います。

そのどちらが正しいとか悪いとかいう問題ではなく、今自分がどういう時代を生きていて、そこにどういう問題があり、自分自身が時代の空気によって考え方を規定されている事実を自覚することが大事なのです。

 

一冊の絵本を読んだとき、そこから何を吸収し、何を排出するのか。

それは個人的な力に左右されます。

 

子どもにとって「いい絵本」と「悪い絵本」があるのだと論じる大人たちは、まず自分自身が子どもに与える影響の大きさを自覚するべきです。

「いい絵本」がいいからといって、その一冊を読んだ子どもたちすべてに良い影響を及ぼすほどの力を発揮できるかと言えばなかなかそうはいかないでしょう。

同様に一冊二冊の絵本が「害」を与えるようなこともまたないと私は思うのです。

 

子どもに影響を与えるほどの力を発揮させようと思えば、やはり数多くの、本当にたくさんの絵本を読むことが重要です。

そして審美眼や真実を見抜く目というものは、そうした多くの読書経験によって育まれるものなのです。

 

また作品紹介から遠ざかってしまいましたが、「かさ」は1975年以来、現在でも重版が続くロングセラーであり、それは時代を超えて子どもたちが支持し続けている名作であることを証明しています。

作品の良し悪しを決めるのに子どもの目ほど確かなものはありません。

それだけは時代が変わろうとも確かなことです。

 

推奨年齢:2歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆(文字なし)

紙袋のデザインとかさりげないところも注目度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「かさ

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