絵本の紹介「おおきなかぶ」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむ店主です。

 

絵本にはよく、繰り返しのリズムが登場します。

幼児にとって、繰り返しはどんな意味を持つのでしょう。

 

何かが一度起こる。

次に、少し形を変えて、同じことが起こった時、これはもはや偶然ではないことが、幼い子どもにもわかります。

さらに3回、4回と繰り返されることで、今度は先回りして展開を読もうとする意識が働きます。

その予想が違わず、思った通りのことが起こった時、子どもは深い歓びを経験するのです。

 

別に不思議なことではありません。

人間の探求心とは、本来的に、この世界のパターンを理解したいという欲求です。

自分を取り巻く世界がある法則に貫かれており、自分もその一部であると認識するとき、人はその法則を美しく感じます。

それは子どもでも同じことです。

 

今回はそんな繰り返しのリズムがある名作絵本を取り上げたいと思います。

「こどものとも傑作集」から、「おおきなかぶ」です。

おじいさんが植えたかぶが、とてつもない大きさになります。

おじいさんはかぶを引き抜こうとしますが、抜けません。

おじいさんはおばあさんを呼び、おばあさんは孫娘を呼び、孫娘は犬を呼び……

そのたびにみんなで「うんとこしょ どっこいしょ」と、掛け声を合わせてかぶを引っ張ります。

この文章のリズムがとても心地よいです。

最後にとうとうかぶが抜けると、それまで地中に埋まっていた部分が現れますが、子どもはその大きさや形状が、頭に思い描いていたものと同じかどうか、しっかり確認しています。

そこで絵本を閉じ、表紙絵に戻ってあげましょう。

抜けたかぶを担いで家に戻るおじいさんたちを見て、子どもは満足感を覚え、そしてまた初めから読んでもらいたくなるのです。

 

文章と一体となった絵が、また素晴らしいです。

この絵本を読み聞かせていると、子どもが、一緒になってかぶを引き抜こうとする動作をしていることがあります。

それだけ子どもを引き込む力が、この絵にあるということです。

 

絵を描いている佐藤忠良さんの本職は彫刻家です。

シベリアで抑留生活を経験したこともある佐藤さんに、「こどものとも」編集長の松居直さんが、是非と挿絵をお願いしたそうです。

 

佐藤さんは鏡に向かって引っ張るポーズをしてはデッサンを繰り返し、どうしても押しているように見えてしまうと、何度も何度も描き直したそうです。

そんな苦心の末に完成しただけあって、ロシアの農民の生活が生き生きと伝わる、本当に力強い生命が溢れた絵になっています。

そして、文字の読めない子どもでも、絵だけを追って十分に物語を「読める」絵本に仕上がっています。

 

 

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

絵本の買取依頼もお待ちしております。

 

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〒578-0981

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URL:http://ehonizm.com

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絵本の紹介「もりのなか」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私は息子に1000冊以上の絵本を読み聞かせましたが、その中で、まだ絵本作家の名前もろくに知らなかったころ、「なんだか地味な絵本だなあ」と思いながら、しかしなぜか強烈な印象を受けた一冊があります。

 

それが今回取り上げる、「もりのなか」です。

茶色い表紙に、白黒の内容。

本文がまた、ゆったりとしてて、地味です。

 

しかし、その内容は実に謎に包まれています。

一読して、「これは、いったい、なんだろう?と呟かない大人はいるのでしょうか。

いきなり、

ぼくは、かみの ぼうしを かぶり、あたらしい らっぱを もって

もりへ、さんぽに でかけました

と始まります。

森の中でライオン、象、くま、カンガルー、こうのとり、猿、うさぎが次々と男の子の仲間に加わります。

が、なぜみんなが行列(原文ではパレード)を作って歩くのか、動物たちがそれぞれ持ってくる道具には何の意味があるのか、なぜこうのとりは何も喋らないのか、どうして男の子はうさぎにだけは特別な気遣いを見せるのか……といった事柄には、何も説明はありません。

 

そしてお菓子を食べ、みんなで遊び、最後にかくれんぼうで鬼になった男の子が目を開けると、動物たちはいなくなって、父親が迎えに来ます。

父親は「もう おそいよ。うちへ かえらなくっちゃ

きっと、またこんどまで まっててくれるよ

と言い、男の子は父親に肩車されて帰っていきます。

 

「え、おわり?」と拍子抜けするようなあらすじですが、注意深く読めば、深い、それこそ森の奥へ引き込まれたような気持ちにもさせられます。

 

大きな事件もなく、最初から最後まで平和で友好的な情景が続くという点では、「ぐりとぐら」のような子どものための安心できる世界とも言えますが、「ぐりとぐら」との決定的な違いは、最後に現実世界の代表者である父親が登場し、主人公を日常へ連れ戻すところです。

 

つまり、男の子にとって幸せなこの空間は、あくまで現実と隣り合わせになった空想の世界であることが、はっきりと描かれているのです。

男の子自身は、現実と空想の間で揺らいでいる存在なわけですが、ある時期の子どもというものは、こういう「境界」を漂うようにして生きています。

 

大人はそうした子どもに対し、「夢みたいなことばかり考えてるんじゃない」と、無理やりに殺伐とした現実へ連れ戻そうとしがちです。

けれど、この男の子の父親は息子の空想を否定せず、「またこんどまで まっててくれるよ」と、素敵なことを言ってくれます。

子どもにとっての空想がどれほど大切なことか、知っているのです。

 

適切に空想力を育てなかった子どもは、世界や人間に対して、血の通った理解を持つことができません。

現実的感覚だけでは、物事の本質にまでは到達できないからです。

だからといって、空想の世界に生きろと言っているわけではありません(父親も、きちんと男の子を日常へ連れ帰ります)。

 

「シュタイナー教育」で知られるドイツの思想家ルドルフ・シュタイナーは、「すべての感覚的な事物の中に、超感覚的なものが存在している」と語っています。

つまり、偏見のない目で世界を見れば、感覚的なもの(見え、聞こえるもの)と、超感覚的なもの(精神的なもの)は、相互補完の関係にあるというのです。

 

将来的に子どもが何かを学ぶ時、それを灰色の「死んだ」知識として詰め込むのか、光り輝く「生きた」知恵として吸収するのかは、子どものころにしっかりと空想力を成長させられるかどうかにかかっています。

 

作者のマリー・ホール・エッツさんは、孤児院で仕事をしていたこともあり、子どもの心というものをよく知り、そして子どもの心に同化することのできる稀有な作家です。

彼女はこの作品を、病気の夫の最期を看取りながら、森の中の家で描いたそうです。

おしまいのページの、誰もいなくなった森の風景は、彼女自身の追憶なのかもしれません。

 

 

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絵本の紹介「とらっく とらっく とらっく」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、渡辺茂男さん・作、山本忠敬さん・絵、「とらっく とらっく とらっく」です。

山本忠敬さんと言えば乗り物絵本。

乗り物絵本と言えば山本忠敬さん。

 

つい先月、山本さんの生誕100周年を記念した原画展が京都で開かれていました。

まさに日本の乗り物絵本界のレジェンドといっても過言ではないでしょう。

我が家の息子も乗り物大好きなので、本当にこの方にはお世話になっております。

 

そんな山本さんの数ある乗り物絵本の中の一冊、「とらっく とらっく とらっく」は、港の倉庫から出発したトラックが、大きな町へ向かう道のりを追いかける物語です。

山本さんの描く乗り物絵の魅力は、精密さの中に温かい血流を感じられるところにあります。

 

写実的なようで、乗り物の一台一台が生き生きと人格を持って走っているように見えてくるのです。

実は、これだけ多くの乗り物絵本を世に出しながら、山本さん自身は自動車の運転もしないし、飛行機にも乗られないそうです。

 

子どもは自分では乗り物を運転できません。

それゆえに子どもが乗り物に抱く憧憬や好奇心は、大人のそれとは質が違います。

山本さんはそうした子どもの乗り物への想いを共有できる人だったのでしょう。

 

さりげない描写のひとつひとつにも、子どもが知りたがっているポイント、喜ぶポイントが的確に描かれています。

それは子どもを見下した計算高さではなく、子どもと同じ目線に立てる画家の、溢れんばかりのサービス精神から生まれてくる、乗り物愛の詰まった描写です。

 

山本さんの描く乗り物絵本を見る子どもたちは、それが確かに自分に向けて作られた本だということを感じ取るからこそ、安心して夢中になれるのです。

 

山本忠敬さんの乗り物絵本に外れなし。

 

渡辺さんの文も、リズミカルで臨場感に溢れ、子どもの好奇心を大いに刺激します。

トラックの運転手が、スピードの出しすぎで白バイに止められたり、休憩所でうまそうに煙草を吸ったりといったシーンでは、最近では眉をひそめる親御さんもいらっしゃるかもしれません。

けれども、まったく心配するようなことではありません。

子どもの道徳観というものは、そんなところで左右されるものではありません。

 

それよりも、純粋な乗り物への好奇心や、働く大人に対する憧れといった感情を大切にしてあげるべきだと思います。

 

 

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