【絵本の紹介】「おたすけこびとのクリスマス」【210冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

メリークリスマス! ですね。

早いなあ。

今月は公私ともに忙しかったり、仕事場を大きく改装したりで、ブログの方はちょっと更新が滞りがちになってしまい、そうこうしてるうちにもう年の瀬ですよ。

 

取り上げたいクリスマス絵本も、もっとたくさんあったのですが。

というわけで、今日はそんな中から選んだクリスマス絵本を紹介します。

おたすけこびとのクリスマス」です。

文:なかがわちひろ

絵:コヨセ・ジュンジ

出版社:徳間書店

発行日:2009年10月31日

 

海外でも人気を博している「おたすけこびと」シリーズ。

知ってましたか?

 

私がこのシリーズを初めて読んだ時の感想は、「息子が喜びそうなものばかりが詰まってる!」でした。

 

絵本の絵には、大きく分ければ、美しい一枚絵として鑑賞する楽しみと、細部まで見尽くす楽しみがあります(むろん、その双方を兼ね備えた作品もあります)。

息子は細かい絵が大好きで、ページいっぱいの人の海、といったカットを見ると食い入るように見ます。

 

単にたくさん人がいる、というだけではなく、それぞれが個性豊かに行動しており、なおかつ幼い子どもにもわかるようなストーリー性が盛り込まれていれば完璧にツボです。

 

息子は乗り物全般が好きですが、「はたらくくるま」は特に好奇心の対象です。

1歳前後のころ、外からごみ収集車の音楽が聞こえてくるたび、「追っかけ」をしたのを思い出します(乗務員さんとは顔なじみになりました)。

図鑑を一人で眺め続けて、今では私より遥かに詳しくなりました。

 

そして、子どもが大好きなクリスマスとサンタさん。

それらの要素すべてが盛り込まれているのがこの絵本なのです。

 

「おたすけこびと」はその名の通り、電話一本でどんな仕事も引き受ける、頼りになる小人の集団(会社?)。

今回の依頼主はサンタさん。

ずらりと並んだ働く車の、リアルなこと。

クリスマスプレゼントを届ける代行サービス。

煙突のない家でも、小人だからこそ入り込めるのです。

そして様々な機能を持った車を駆使して、無事に配達完了。

メリークリスマス!

 

★      ★      ★

 

出るわ、出るわ、小人の群れ。

描くの大変だったでしょうね。

 

でも、彼らの行動がひとつひとつ面白く、なおかつそこに必然性があるのがポイント。

じっくり見て行くと「なるほどなあ」と、大人も納得。

部屋に入ってからは、ラジコンのダンプを操作したり。

 

車の描写が丁寧で緻密であることに加えて、その活躍の仕方、小人の行動にもリアリティが追及されているのです。

これは子どもを侮る大人にはけっして作れない作品です。

 

作者のなかがわさんが、乗り物好きの息子さんとの触れ合いの中でこの作品の基が生まれたという逸話には深く納得しました。

これは男の子を持つ親なら共感できると思います。

最初は興味のない乗り物図鑑や絵本を、何度も何度もせがまれて読んでいるうちに自分もちょっと詳しくなってきて、そうすると中途半端なものでは読み聞かせる側として納得できなくなってきたり。

 

そういうわけで、このシリーズはもちろん息子にも大いにウケたし、自分でも楽しめる作品ではあるのですが……。

ただひとつ誤算だったのは、毎回「登場するすべての小人の数を数えさせられる」こと。

勘弁して。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆(我が家の場合)

プレゼントが鏡餅かと思う度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「おたすけこびとのクリスマス

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【絵本の紹介】「手ぶくろを買いに」【209冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は新美南吉さんの傑作児童文学を黒井健さんが絵本化した「手ぶくろを買いに」を紹介します。

作:新美南吉

絵:黒井健

出版社:偕成社

出版年度:1988年3月

 

非常に有名な作品ですから、ご存知の方も多いでしょう。

私は教科書で読みました。

とても印象深い内容でしたので、大人になってからもずっと覚えていましたね。

 

作者の新美さんは1913年に愛知県で生まれ、結核のためにわずか29歳で亡くなられた童話作家。

早逝のため作品数は多くないのですが、その才能は宮沢賢治氏と並び称されるほど。

 

同じく黒井健さんによって絵本化されている「ごんぎつね」は、若干18歳の時のデビュー作です。

今の日本に、18歳であの美しい日本語が書ける人はいるでしょうか。

 

この「手ぶくろを買いに」も、童話としての完成度は言うに及ばず、とにかく文章が震えるほど美しい。

特に冒頭の、雪を見て驚き興奮する子ぎつねや、我が子の手に息を吹きかけて温めてやる母さんぎつねの描写力にはため息が出るばかりです。

可愛い坊やの手にしもやけができては可哀そうだから、毛糸の手袋を買ってやろうと考える母親ぎつね。

夜になってから、二匹は人間の町へと出かけます。

 

ところが、過去に人間に追い回された記憶を持つ母親は足がすくんでしまい、どうしても町に入れません。

そこで母親は坊やの片手を人間の手に変えてやり、白銅貨を二枚握らせて、ひとりで手袋を買いにやらせます。

決してきつねの方の手を見せないように言い含めて。

坊やは母親に教えられたとおりに帽子屋を見つけます。

ところがうっかりと、きつねの方の手を差し出してしまいます。

 

帽子屋さんはおやおやと思いますが、白銅貨が本物なのを確認すると、坊やに手袋を持たせてやります。

心配している母親のもとへ跳んで帰った坊やは、間違えてきつねの手を出してしまったけれど、帽子屋さんはこんなにいい手袋をくれたよ、と話します。

母親は呆れながらも呟きます。


ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら

 

★      ★      ★

 

作品内容については、ここで云々するのは控えます。

すでに色んな方が色んな解釈や研究をなさってますので。

 

代わりに、文学作品の絵本化というものについて考えてみます。

 

絵本の制作において、絵も文も同一作者が手掛ける場合と、複数の作者によって役割分担される場合があります。

どちらがいいということはないのですが、やはり後者にはある種の難しさが伴うと思われます。

しかしその一方で、一人では起きなかったような化学反応が起きる楽しみがあるのも後者です。

 

ですがそれも、絵と文それぞれの担当者が話し合って制作を進める場合と、この作品のように作者がすでに故人である場合では、事情が変わってきます。

ましてそれが国民的な文学作品なら、絵本化においては相当な気を使うでしょう。

 

絵本の絵というものは大別すると「文を超えて何かを表現する絵」と「文の説明に踏みとどまる絵」に二分されます。

これもどちらが優れているというものではありませんが、この作品に関しては、黒井さんは後者の立場を取っています。

 

新美さんの格調高い文章を壊さないように、忠実に物語を再現することに努め、テキストにないものは一切登場させていません。

しかしその抑制が、かえって黒井さんの絵の美しさを際立たせています。

 

ぼんやりと光り輝くような淡い輪郭と色彩が、文章の清らかさや柔らかさと絶妙に融合しています。

これもまた、「絵と文の化学反応」の好例だと思います。

 

推奨年齢:10歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

日本語の美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「はじめてのふゆ」【208冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

真冬の寒さが続いていますね。

都会で暮らす人間にとっては「寒い」で済む話かもしれませんが、自然の中に入り込めば、冬は生死に係わる過酷な季節です。

 

動物たちは様々な備えをし、時には驚くような知恵をもって、この季節を乗り越えます。

生命のもろさ・儚さと同時に、意外なほどの力強さを、彼らの姿から感じることができます。

 

今回紹介するのは「はじめてのふゆ」です。

作・絵:ロブ・ルイス

訳:ふなとよしこ

出版社:ほるぷ出版

発行日:1992年11月30日

 

可愛い絵で、あたたかみのある落ち着いた色使いが魅力的です。

生まれてすぐに母親を亡くし、「ちいさいのに ひとりぼっち」の、じねずみのヘンリエッタ。

孤独な設定ですが、ヘンリエッタからは悲壮感のようなものは感じられません。

 

冬を体験したことのないヘンリエッタは、秋の紅葉の美しさを楽しんでいます。

そんなヘンリエッタを心配して、仲間たちは冬に備えて食べ物を集めておくように忠告します。

 

ヘンリエッタは苦労して貯蔵庫を掘り、木の実や草の実を集め、安心して眠ります。

しかし雨が降ってくると食べ物置き場は浸水被害に遭い、せっかくの食べ物が全部流れてしまいます。

 

ヘンリエッタは雨漏りを直し、もう一度食べ物を集めてきます。

ところが、今度は虫たちが食べ物を食べてしまいます。

くたびれ果てたヘンリエッタを可哀そうに思った仲間たちが、食べ物集めを手伝ってくれます。

嬉しくなったヘンリエッタは、仲間たちとパーティーを開きます。

 

が、調子に乗って食べ過ぎたのか、またも食べ物は空っぽに。

外には雪が降り、もう木の実も草の実も残っていません。

どうしようもなく、ヘンリエッタは眠りにつきます。

 

そして目が覚めてみると……。

 

★      ★      ★

 

最後は「なんじゃそりゃ」と突っ込みたくなるような、突然のハッピーエンド。

でも、それがいい。

 

健気に苦労する身寄りのないヘンリエッタを、子どもは内心で応援し続けます。

中途半端な終わり方では、子どもの不安や心配を完全に吹き飛ばすことはできません。

大人には肩透かしでも、これくらい強引な方が子どもは「よかった」と安心できるのです。

 

「はじめてのふゆ」とは、幼い子どもがやがて必ず体験するであろう、人生の辛い時期、悲しい出来事を意味しています。

そんな時、どう対処すればよいのか、単一のマニュアルは存在しません。

 

でも、大人が子どもに伝えるべきことはひとつです。

それは「必ず、最後には幸せになれる」という無条件で力強いメッセージです。

 

生きて行く上で重要な意味を持つその確信は、特に幼い頃の物語体験によって培われるものです。

 

それにしても、ヘンリエッタの住居の素敵なこと。

よく見ると椅子は空き缶だし、暖炉にはクリップ、窓格子にはマッチ棒が使われていて、飾り棚にはコインが並んでいます。

 

これは亡くなったお母さんが作ったインテリアでしょうか。

近くに人間が住んでいることを思わせる、作者の遊び心です。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

ホームインテリアの趣味の良さ度:☆☆☆☆☆

 

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