絵本の紹介「三びきのやぎのがらがらどん」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむ店主です。

 

今回はマーシャ・ブラウンさんの古典的名作絵本、「三びきのやぎのがらがらどん」をご紹介します。

 

原作はノルウェーの昔話。

この絵本の魅力は絵・文・構成が完全にひとつとなっている点にあります。

特に絵が素晴らしいです。

一見すると荒々しい線と色彩ですが、北欧の猛々しくも荘厳な自然を見事に表現しています。

三匹のやぎも、よく見るととても表情豊かです。

作者のマーシャ・ブラウンさんがどれほど苦心してこの絵を練られたのかは、同作者のほかの作品とのタッチの違いを見るとわかります。

 

三匹のやぎは「やまの くさばで ふとろうと」、山へ登っていきますが、途中の谷川の橋の下には恐ろしい怪物のトロルが棲んでいます。

このトロルの造形も秀逸です。

一見すると周囲の岩石と一体化しているみたいに見え、膝を抱え込んでいるために全体像がわからず、見るものの想像力をかき立てます。

 

プチトリビアですが、ジブリの名作アニメ「となりのトトロ」のエンディングで姉妹が読んでもらっている絵本は「三匹のやぎ」です。つまり、メイが「トトロ」というのは、この絵本の「トロル」を指してのことだそうです。

 

さて、三匹のやぎは小さいやぎから順に橋を渡ります。

トロルが行く手に塞がり、「きさまを ひとのみにしてやろう」と恫喝します。

この構図も、遠近法でトロルの巨大さが強調されており、凄まじい迫力です。

小さいやぎ・二番目やぎはそれぞれ「あとからもっと大きいやぎがくるから」と、トロルに見逃してもらい、橋を渡り切ります。

読んでもらっている子どもは、すでにこの後のクライマックスを予感しています。

そして、大きいやぎが満を持しての登場となりますが、ここの盛り上がりが凄い。

なんと見開きアップで見栄を切ります。

読み聞かせる側も楽しくなるシーンです。が、口調が悪者っぽくならないように注意。

ついに対決。少年漫画のように対峙するヒーローとボスの構図にしびれます。

ここで名翻訳者・瀬田貞二さんの本領発揮です。

大きいやぎはトロルに対して一歩も引かず、逆に啖呵を切ります。

「さあこい! こっちにゃ 二ほんの やりが ある。

これで めだまは でんがくざし。

おまけに、おおきな いしも 二つ ある。

にくも ほねも こなごなに ふみくだくぞ!」

「ひとのみにしてやる」しか言わないトロルよりよほど恐ろしいセリフを吐き、とびかかるやいなや、その言葉通りにトロルを粉みじんにして谷川に突き落とします。

 

子どもに読ませるには残酷だという方もいるようですが、このシーンは少しも陰惨ではなく、むしろ爽快感があります。

そもそも、この物語は三びきが力を合わせて困難を乗り越えるとか、欲張りな無法者を懲らしめるとかいった教訓的なおはなしではなく、ただ純粋なエンターテイメントとして読むべきだと思います。

 

次のページでは、谷川に落ちたトロルの肉片が確認できますが、一見するとただの岩のように見える肉片を、「これは顔」「これは足」などと、子どもは実によく観察して発見します。

 

そしてラストシーンでは、ありえないくらいに太った三びきの絵と、「チョキン、パチン、ストン。はなしは おしまい」と、興奮の余韻冷めやらぬうちにさっと切り上げてしまう文が、子どものファンタジーを損なうことなく、この最高のエンターテイメント絵本を終わらせています。

 

こうなると、子どもは「もう一回!」とせがまずにはいられなくなるでしょう。

 

 

絵本専門の古本屋 えほにずむ

〒578-0981

大阪府東大阪市島之内2-12-43

URL:http://ehonizm.com

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クシュラの奇跡

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむ店主です。

 

当店では子どもへの読み聞かせを推奨しています。

絵本の持つ力は、子どもの可能性を最大限に引き出すことができます。

その効果を要約すると、

 

・物語を通して、感情が豊かになる。共感能力が発達する。
・色んな言葉に触れ、語彙が増える。表現力が発達する。
・親子のコミュニケーションが深まり、情緒が安定する。
・読書習慣が身に付き、集中力・記憶力・想像力などが発達する。

 

といったところでしょうか。

 

しかし、これらは読み聞かせによる効果の、ほんの一部でしかないのかもしれません。

 

というのは、絵本の読み聞かせを集中的に行ったとき、子どもの中でどんな化学反応が起きているのかは、まだ現代科学では解明しきれない部分もあるからです。

 

そしてその未解析の領域で起きたことは、われわれの目に奇跡のように映ることがあります。

 

そんな例をひとつ紹介したいと思います。

 


 

1971年、ニュージーランドに、ひとりの女の子が生まれました。
名前はクシュラ。
彼女は生まれつき染色体に異常を持っていました。
その影響は複雑で重く、クシュラは視力・聴力・形態・内臓機能・知能・運動能力などに障害を抱えることになったのです。

絶え間ない感染と、果てしのない病院通い。

年に何度も危篤状態に陥るクシュラ。
絶望的な状況の中で、それでも両親は子どもの可能性を信じました。
そして、昼夜問わずほとんど眠れないクシュラを抱いて、絵本の読み聞かせを始めたのです。

ほとんど反応というものを見せなかったクシュラが、絵本には強い関心を示しました。
母親は何度も何度も繰り返し、本によっては100回以上も読み聞かせを続けました。


溢れるイメージと言葉の洪水。

絵本の海の中で、クシュラは障害を跳ね除け、成長していきました。


そして3歳になったころ、クシュラは健常児の平均以上の知能と豊かな感情を持ち、走り回ることさえできるようになっていたのです。
そして学校にも通い、成人してからは自立し、現在でも元気に生活をされているそうです。

絵本の力と、両親の超人的な忍耐と努力が、みじめなものになりかねなかったクシュラの人生を変えたのです。

 

クシュラの母親は、娘が3歳になるまでに140冊の絵本を読み聞かせたそうです。

 

私はクシュラに起こった「奇跡」を、単に絵本の朗読による知能と感情の発達、とだけ捉える気にはなりません。

 

絵本というものは読んでもらう本であり、読んであげる本です。

他者の存在なくしては読めない本なのです。

 

ことばのわからない赤ちゃんが、どうして絵本を読んでもらいたがるのでしょう。

それは、近しい大人の体温や肉声を感じたいからです。

絵本を読んでもらうことは、赤ちゃんにとって、自分が無条件に愛されていることの確認でもあるのです。

 

愛されているということは、生きる力そのものです。

愛が不足したと感じると、時に人は死ぬことすらあります。

その逆も真でしょう。

 

クシュラは障害を問題にしないほど明るく快活で、生きることに前向きな、周囲の人間を楽しくさせるような魅力的な女性だそうです。

彼女のそんな性格を育んだのは疑いもなく、140冊の絵本とともにたっぷりと与えられた、両親の愛情だと思います。

 

■クシュラが大好きだった1冊、「ガンピーさんのふなあそび

独特の細かい線のタッチと、温かみのある色使いの絵が印象的です。

 

お話は、ガンピーさんというおじさんが、ふねでおでかけをするところから始まります。

川辺から、男の子と女の子、うさぎ、いぬ、ねこ、ぶた、ひつじ、こうし、にわとり、やぎが次々に「乗せて」と寄ってきます。

ガンピーさんは「いいとも、けんかさえしなけりゃね」「とんだりはねたりしなけりゃね」「うさぎをおいまわしたりしなけりゃね」「ねこをいじめたりしなけりゃね」……と、それぞれに一言注意を与えながらも、みんなを乗せてあげます。

 

すぐれた絵本にはこの手の繰り返し要素が盛られているものです。

子どもは、次々に乗り込む動物たちを見ながら、やがて来るであろうクライマックスを予感します。

 

その予想を裏切ることなく、やっぱり動物たちは騒ぎ始め、子どもたちはけんかをし、ふねは揺れて、ひっくり返ってしまいます。

しかしこんな目にあっても、ガンピーさんは一言も怒らず、体を乾かした後、

「かえりは のはらを よこぎって あるいていくとしよう」

「もうすぐ おちゃの じかんだから」

と言います。

 

これは、読んでいる側の大人としては、肩透かしを食ったような気にさえなります。

物語的には、ここでガンピーさんは怒って教訓のひとつも垂れて、子どもたちが反省して……となるはずだからです。

 

もし自分がガンピーさんなら、「だから言ったでしょ!」「もう乗せてあげないよ!」と大きな声を出したくなるところではありませんか。

 

決して声を荒げて怒ったり、くどくどとお説教をしたり、感情的になったりせず、でもちゃんと自分たちのことを見ていてくれている。

ガンピーさんがそういう本当の「大人」だからこそ、子どもたちも動物たちも、彼のそばに寄ってくるのでしょう。

 

そして最後の、限りなく優しいガンピーさんの一言。

 

クシュラもきっと、甘やかな気持ちでこの絵本を読んでもらっていたのだろうと思います。

 

 

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読み聞かせはいつから?

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こんにちは、絵本専門店・えほにずむ店主です。

 

そもそも、読み聞かせの効果ってどんなもの?

という疑問についてですが、これはひとことでは語りきれないところです。

科学的にいえば、脳への刺激によって言語能力、記憶力、集中力の発達などが挙げられます。

また、読み聞かせを通じてコミュニケーション能力や共感する力、想像力、表現力なども発達します。

そして、情緒の安定、思いやりや勇気、倫理観などにも良い影響を与えると言われています。

 

いいことづくめの読み聞かせですが、しかし、こうした子どもの潜在能力を最大限に発揮しようと考えれば、読み聞かせの時期というものは大変に重要になってくるのです。

 

結論から言うと、子どもへの読み聞かせはごく早い時期、生後半年以内の段階で始めたほうが効果的です。

 

「そんな赤ちゃんに、絵本の内容なんて理解できないし、面白くないんじゃないの?」

 

という意見はあるでしょう。

しかし、赤ちゃんは絵本の内容を理解できずとも、身近な大人に抱かれて、声をかけられるだけでも十分に良い影響を受けているものです。

ですから、絵本以外の時間にも、絶えず語りかけてあげることが大事なのです。

返事のできない赤ちゃんを相手に話しかけ続けるというのは思ったより大変ですが、反応を示さなくとも、赤ちゃんは全身の感覚でこちらのことばを聴いています。

 

200年以上も前に、子どもへの早教育の重要性を説いた、ドイツのカール・ヴィッテという人がいます。

彼は自分の息子がごく幼いうちから徹底した教育、特に言葉を重視した教育を施し、その結果息子は8歳にして6か国語を自在にし、9歳でライプツィヒ大学に入学するなどの天才児となったのです。

 

ただし、ヴィッテは決して息子を学問の人にしようと考えて早教育を実践したわけではありません。

彼は息子を円満で快活で偏りのない、幸福な人間に育てたかっただけだと語っています。(そして実際、息子はその通りの幸福な青年に成長しました)

ですから、彼の教育方針として、子どもが自ら学ぼうという気を起こさない限り、強いて教えないという大原則がありました。そして子どもが興味を持ったことに関しては、どこまでも真摯に教えたり、わからないことは調べたりしたそうです。

 

読み聞かせも然りで、いくら読み聞かせが脳にいいといっても、嫌がる子どもに強制的に聞かせても何の意味もありません。

とはいえ、基本的には赤ちゃんは絵本を読んでもらうのが大好きです。

初めのうちは読むことよりも、絵本を使って遊ぶという感覚でいいと思います。

 

「どんな絵本を読んであげればいいの?」

 

と悩む方も多いでしょう。

絵本の推奨年齢というのはあくまで目安であり、子どもひとりひとりの成長に合わせるべきですが、やはり初めからあまり字の多いものは避けたほうが良いでしょう。

そして絵がわかりやすく、絵だけでも十分に物語として成立しているもの、文章にリズムがあって歌うように読んであげられるものがおすすめです。

 

松谷みよ子・あかちゃんの本シリーズの「いない いない ばあ」は、発売から40年以上愛されている、日本で一番売れている絵本です。

 

 

文は単純な繰り返しで、いろんな動物が「いないいないばあ」をするだけなのですが、この繰り返しによって、赤ちゃんはパターンを認識し、ページをめくる喜びを覚えます。

 

読み聞かせの入門書ともいえる、定番ロングセラーです。

赤ちゃんが望む限り、何度でも何度でも繰り返し読んであげてくださいね。

 

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