【絵本の紹介】「フロプシーのこどもたち」【445冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

毎年、新年は干支にちなんだ絵本を紹介していますが、今年は卯年。

絵本界において、兎と言えばねずみと並んでダントツに登場回数が多い動物ではないでしょうか。

イノシシの年とか、わりと探したものですけど、兎となるとむしろ多すぎて選べないくらい。

 

とりあえず古典名作「ピーターラビットの絵本」を紹介しておきましょう。

今回は「フロプシーのこどもたち」です。

作・絵:ビアトリクス・ポター

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:2002年10月1日(新装版)

 

私自身も大好きなこのシリーズについては、何度となく過去記事で布教しておりますので、どうぞそちらも併せてお読みください。

 

≫絵本の紹介「ピーターラビットのおはなし」

≫絵本の紹介「パイがふたつあったおはなし」

≫絵本の紹介「ベンジャミン・バニーのおはなし」

≫絵本の紹介「ひげのサムエルのおはなし」

≫絵本の紹介「グロースターの仕立て屋」

 

共通した世界を描いてはいるけれど、毎回主人公は入れ替わるし、作風も様々な「ピーターラビットの絵本」。

しかしながらやっぱり真打ちはピーターということになるのでしょうか。

彼が登場するお話だけは時間の経過が見られるんですよね。

その他の作品は同じキャラクターが登場するにしても、シリーズ内の時系列がはっきりしていないお話が多いです。

 

「ピーターラビットのおはなし」「ベンジャミン・バニーのおはなし」で活躍したあのいたずらコンビも、今作では立派な大人になり、それぞれの家庭を築いていることが明らかにされます。

 

ベンジャミンはいとこであるピーターの妹フロプシーと結婚し、6匹の子どもに恵まれて生活していました。

しかしながらたくさんの家族を養うにじゅうぶんな食べ物がいつもあるわけではなく、一家はちょいちょいピーターにキャベツを分けてもらっています。

ピーターはキャベツ畑を持っていたのです。

テキスト内では名前どころか存在すら言及されませんが、奥さんもいる様子。

 

しかしながらピーターにもわけてやるだけのキャベツが無い場合、ベンジャミンと子どもたちはお百姓のマグレガーさんのごみ捨て場で野菜を漁ることになります。

大人になってもマグレガーさんとの関係は続いているのです。

 

その日はごみ捨て場に古くなったレタスがたくさん捨てられており、ベンジャミンと子どもたちは大喜びでお腹いっぱいレタスを食べました。

そして満腹で眠くなったうさぎたちはその場でぐっすり寝入ってしまいます。

ベンジャミンも一緒に昼寝しますが、通りかかったねずみのトマシナ・チュウチュウに起こされます。

 

その時マグレガーさんがごみを捨てにやってきて、寝ているフロプシーの子どもたちに気が付きます。

マグレガーさんは子どもたちを全部袋の中に入れ、口を縛り、芝刈り機を片付けに行きます。

家族を探しに来たフロプシーは夫から事情を聞き、嘆き悲しみます。

けれどもトマシナ・チュウチュウの助けにより、袋を食い破って子どもたちを救出することに成功します。

 

そのまま逃げ帰るかというとそうはせず、ベンジャミン一家は空の袋にごみやがらくたを詰め込み、隠れて様子を伺います。

何も知らないマグレガーさんは戻ってきて袋を担いで家へ帰り、奥さんにうさぎを捕らえたことを自慢します。

夫婦はうさぎの皮を剥ぐ算段を始めますが、奥さんが袋を開けてみると中身は野菜やごみ。

奥さんはマグレガーさんのいたずらだと思って怒り、夫婦げんかに。

飛んできた野菜が覗き見していたフロプシーの子どもに当たり、一家は引き揚げます。

 

こうして危機は去り、トマシナ・チュウチュウはお礼として次のクリスマスにはたくさんのうさぎの毛をもらって、それでマフラーや手袋を作りました。

 

★                   ★                  ★

 

ピーターもベンジャミンも、作者のビアトリクス・ポターさんが飼っていたうさぎの名前ですが、ポターさんが特に可愛がっていたのは「興奮しやすく、快活で、愚かしく見えるほどに人懐こくてセンチメンタルで、見下げ果てた臆病者」と評していたベンジャミンの方だったようです。

作品内においてもこのベンジャミンは実に愛すべきキャラクターをしており、それは大人になってからも少しも変わっていません。

 

それは子ども時代に同じく無茶をし、失敗し、一緒に痛い目を見てきたピーターの成長と比較するとより顕著です。

大人になってからのピーターは自分の畑を持つほどにしっかりと地に足を下した生活をし、思慮深く、勇気もあり、立派な主人公としての貫禄が備わっています。

 

一方ベンジャミンはというと、子どもたちと一緒になってレタスを貪ったあげくに居眠りしてピンチを招く始末。

キツネどんのおはなし」でも、やっぱり子どもたちをさらわれ、ピーターの助力で救出に向かうものの、そこでも色々と情けない姿をさらします。

 

子ども時代はむしろベンジャミンの方が世間知に富み、ピーターを引っ張って行動する存在だったことを考えると、大人になってからのこの二匹の関係性の変化はなかなか面白いものがあります。

ピーターは何となく、地元でやんちゃしてた不良少年が大人になってから仕事で成功したというイメージですね。

ベンジャミンは同じ不良仲間でも、あんまり中身が成長できずに、大人になってからも相変わらず失敗ばかりしてるイメージ。

いそう〜。

 

でもだからこそベンジャミンには愛嬌があって、たまらない魅力にあふれたキャラクターなんですよね。

奥さんのフロプシーの方も、少女時代は三姉妹ともに「いい子」でしかなかったけれど、母となってからは苦労が絶えず、舅と喧嘩したりする面も見せます。

 

夫にも色々と不満がありそうな気がしますけど、その割には騙したマグレガーさんの様子をわざわざ覗き見に行ったり、いたずら心も持っている素敵な奥さんなんですよね。

ちなみに、三姉妹のカトンテールは黒うさぎと結婚しています。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ピーターの奥さんがキャベツを隠してるっぽい絵が実に味わい深い度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「フロプシーのこどもたち

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「00冊分の絵本の紹介記事一覧

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【絵本の紹介】「そらからおちてきてん」【441冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

古本屋の性質上、古典作品を紹介することが多いのですけど、今回はかなり新しい絵本です。

個人的には現代絵本作家の中でも色々な意味で「油断できない」ジョン・クラッセンさんの「そらからおちてきてん」を読みます。

作・絵:ジョン・クラッセン

訳:長谷川義史

出版社:クレヨンハウス

発行日:2021年9月25日

 

同作者の作品では以前に「どこいったん」を紹介しましたね。

 

≫絵本紹介「どこいったん」

 

子ども向け絵本ではある意味タブーとされるブラックユーモアを盛り込み、独特のキャラクター造形と色使い、スリリングな展開でたちまち話題をさらいました。

その後も斬新で面白い絵本を次々と発表しています。

 

無表情のようでありながら「目」の表現だけで雄弁に語るキャラクター。

不気味でありながら可愛くもあり、ユーモラスでありながらシュールでもある。

それに邦訳版では関西絵本作家の長谷川義史さんによる絶妙な関西弁訳がはまって、もうクラッセン絵本と関西弁は完全にセットになった感がありますね。

 

冒頭で「油断できない」と言ったのは、クラッセンさんは常に読者の目を意識した仕掛けを各所に用意しているからです。

私たちは物語を読み、登場人物に感情移入しながらも、同時に作者であるクラッセンさんともコミュニケーションを取っており、その多層性の中で様々な「メッセージ」を交わすことになります。

作品の中で作者と目配せするようなメッセージをやり取りすることは、読者にとって最高の愉悦でもあります。

これは幼い子どもとて同じことだと思います。

 

どういうことかと言えば、例えば「どこいったん」と同様の仕掛けが今作にも採用されてまして、登場人物が気づいていない事実を、読者は作者と共有しながら物語を読み進めていきます。

これが一種の心地よい緊張状態を作り出しているんですね。

お気に入りの場所に立っているカメ。

ページをめくると空から巨大な岩(隕石?)が飛来する、ぎくりとするような大カット。

 

このままではカメのいるところに岩が落ちてくることを予感させます。

それを知る由もなく、ちょっぴり頑固なカメとお喋りなアルマジロはとぼけた会話。

勘のいいアルマジロは「なんかいやあなかんじ」を覚えて少し離れた場所へ。

でもカメは少し意地になって同じ場所に留まります。

 

アルマジロのいる場所に無口なヘビも加わって、強がりながらも寂しいのか、カメが二匹の方へ近づいていった瞬間…。

危機一髪。

 

この絵本は短編構成になっていますが、お話は続いていて、少しずつ日が沈み、夜を迎えるなど、一日の出来事であることがわかります。

どの話もカメの強がりが可愛らしく、くすっとさせる内容なのですが、最後のエピソードでは「えっ?」と思うような仕掛けがされています。

アルマジロとカメの未来想像の中にだけ登場したはずの謎の危険生物が、現実に現れてカメの背後に立つのです。

アルマジロとヘビ(そして読者)はその姿を見ますが、カメは気づかないまま。

「うーしーろー、うーしーろー」状態ですね。

 

そしてあわやというクライマックスで…。

 

★                   ★                  ★

 

最初からずっと、作者は読者に対して「登場人物が知りえない情報」を提示してくれており、それによってハラハラさせられながら読者は物語を読み進めます。

いわば作者と読者は同じ地平から物語を見ることができるのですが、最後の最後に作者は読者を裏切ります。

このスリリングさは単純ではありません。

 

こういうところこそがクラッセンさんが油断できない点であり、他の作家には真似のできない強烈な魅力でもあります。

舞台を観ている観客の視線を巧妙に騙すようなテクニックで、冒頭のエピソードで「すべてを観ている」立場に観客を誘導し、精神的には作者との「共犯者」の心理に定着させておいて、最後にそれを見事に外す。

観客である私たちは自分の認識の在り方そのものを問いかけられることになるのです。

 

それが妙に心地いい。

一度この愉悦にはまると、クラッセン作品の虜になってしまいます。

もちろん私はとっくに虜です。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

第六感についても考えさせられる度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「歯いしゃのチュー先生」【440冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

みなさん歯を大切にされていますか?

私は若い頃ちゃんと歯を磨かなかったので虫歯の治療で非常に苦労しました。

痛いし、時間もお金もかかるし、口を開けた時に銀歯が見えるのは見た目も悪いし。

 

息子にはそんな思いをさせたくないと、しっかり歯磨きを習慣づけてはいますが、まあ大変です。

息子の性質上、やりたくないことはまったくできないに等しいので、今でも自主的に歯磨きさせるのは難しいし、磨きながら本を読みだして手が止まってしまうこともしょっちゅうです。

 

歯医者を怖がる気持ちは物凄く強いのですが、ネガティブ方向にだけ思考が暴走する癖があるので、歯医者に連れていかれたらあーだこーだと興奮しながら泣きそうな顔で色々と文句は言うけど、「そうならないためにきちんと歯磨きをしよう」とはなかなか考えられないようです。

 

今回はウィリアム・スタイグさんの「歯いしゃのチュー先生」を紹介します。

作・絵:ウィリアム・スタイグ
訳:うつみまお
出版社:評論社

発行日:1991年5月20日

 

前置きで色々言いましたけど、別に歯磨き習慣促進絵本ではありません。

自分の仕事に誇りを持つかっこいい歯医者さんと、紳士を装っているけど狡猾で下衆いきつねのハラハラするような知恵比べが展開されます。

 

腕利きの歯医者であるねずみのチュー先生のところへは様々な動物たちが治療にやってきます。

チュー先生は小さな体を活かして牛やロバなどの大きな動物の口の中へ入って治療します。

そのための設備も色々と用意してあるのです。

 

ただし、やはりねずみなので猫などの危険な肉食獣は診察しません。

看板にもそう書いてお断りしています。

けれどもある日、口に包帯を巻いたきつねが病院を訪れます。

最初は断る先生でしたが、哀れっぽく涙を流して痛みを訴え、治療を懇願するきつねを見て可哀そうに思い、奥さんと相談した結果、診てあげることにします。

 

きつねの歯は腐っており、抜歯して新しい歯を作らないといけません。

先生は麻酔をかけて治療しますが、きつねは夢うつつでねずみを食べるような寝言を呟きます。

きつねが帰った後、先生は憤慨し、奥さんは明日はきつねを中に入れない方がいいのではと心配します。

けれどもやりかけた仕事は絶対に途中で投げ出さないと信念を持つ先生は、なんとか最後まで治療を続けようと策をめぐらせます。

 

次の日、きつねは新しい歯を入れてもらいにやってきます。

そして内心では、治療がすんだら先生を食べてしまおうと、とんでもないことを企んでいます。

さて、歯を入れた後で先生は壺を持ち出してきて、これは「ほんのひとぬりで、えいきゅうに歯がいたまなく」なる画期的な薬だと言います。

きつねは喜んでその治療を受けることに合意します。

 

先生はきつねの歯にまんべんなく薬を塗り、最後にぐっと口を閉じて噛みしめるように指示します。

言われたとおりにするきつねでしたが、なんとそのまま口がくっついて開けなくなってしまいます。

 

一日か二日、口をあけられません。このくすりは、さいしょに、歯のしんまで、しみこませなければならないのです

 

当てが外れたきつねは何とか威厳を取り繕いながらこそこそと帰って行き、先生と奥さんは喜びのキッスを交わすのでした。

 

★                   ★                  ★

 

スタイグさんは絵も含め、キャラクター造形が見事な作家さんです。

チュー先生の渋いこと。

白衣姿も私服も眼鏡もカッコイイんですね。

 

一方のきつねは古典的に、外見は紳士で内面は下品で狡い獣として描かれます。

物語が後半になるにつれてだんだんとその本性を隠さなくなってくる演出が見ていてハラハラさせます。

もうにどと、おめにかかるひつようが、なくなりますよ

おまえは、だれにもあえなくなるのさ

という二人の思惑の応酬も面白く、最後の勝利のカタルシスへと繋がります。

 

色々な歯医者さんを転々とした経験を持つ私としては、チュー先生のような「当たり」の歯医者さんに巡り合えるかどうかはかなり重要だと思います。

まあ、ねずみを口に入れるのは無理ですけど。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

虫歯の描写が結構痛そう度:☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「ベンジーのふねのたび」【438冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

まだまだ暑いですけど、8月も終わりに近づき、息子の夏休みも終わりました。

特に遠出もせず、毎日家遊びと新しく覚えたマインクラフトというゲームに夢中な夏休みでした。

 

いつになれば気兼ねなく旅行できる日が来るんでしょうね。

まあ、息子はルーティンが変わるのが苦手なので、普段と違うことは求めてないのかもしれませんけど。

 

今回はロングセラー「どろんこハリー」の挿絵を描いたマーガレット・ブロイ・グレアムさんがストーリーも自分で手掛けた「ベンジー」シリーズより、「ベンジーのふねのたび」を紹介しましょう。

作・絵:マーガレット・ブロイ・グレアム

訳:渡辺茂男

出版社:福音館書店

発行日:1980年4月20日

 

絵柄がとても可愛らしい犬のベンジーシリーズ、以前はアリス館から発行されていました。

今回は夏のお話。

 

夏らしい海と空のブルーを基調とした配色がとても鮮やかで美しいです。

耳が長くてしっぽの短い茶色の犬のベンジー。

好奇心が強くて、家族から大事にされていて、「どろんこハリー」のハリーとよく似た設定ですね。

 

≫絵本の紹介「どろんこハリー」

 

夏が来るとベンジーの飼い主一家は色々なところへ旅行します。

もちろんベンジーも一緒なのですが、今年は船旅で、船には動物を乗せられないということで、ベンジーはメアリおばさんとお留守番。

家族を乗せた船が出航するとベンジーはとても寂しい思いをします。

そしてメアリおばさんと散歩に出た時、ベンジーは首輪を外して港へ一目散。

うみのじょおう」という家族が乗ったのとよく似た大きな船を見つけ、タラップを駆けあがって乗り込んでしまいます。

それを見つけた船の猫のジンジャーは、ベンジーを追いかけ回します。

倉庫に逃げ込んだベンジーは疲れて眠ってしまい、その間に船は港を出てしまいます。

 

目を覚ましたベンジーは船を歩き回りますが飼い主一家は見つからず、途方に暮れます。

またしてもジンジャーに見つかって追いかけられますが、仲良くなった船のコックに助けられます。

次の日、マストに上って怖くて降りられなくなったジンジャーをベンジーが発見します。

ジンジャーは助けられ、それからはベンジーと仲良しになります。

 

2週間後、船は元の港に戻り、ベンジーはジンジャーやコックに別れを告げて家に帰ります。

旅行から帰ってきていた家族とメアリおばさんは、いなくなったベンジーが帰ってきたので大喜びします。

 

★                   ★                  ★

 

天真爛漫なベンジーが可愛い。

家族に会いたさに無鉄砲な冒険を経験したり、猫に追い回されたり。

でもどこへ行ってもその愛嬌とやさしさで周囲から愛され、助けられます。

大人は子どもを見るような目でベンジーが愛おしいし、子どもにとっては自らに重ねて勇気をもらえるような存在です。

 

作者のグレアムさんは2番目の夫が貿易船の船長で、この作品に登場する「うみのじょおう」という船は、夫の船がモデルになっているそうです。

絵本や児童冒険小説には主人公の動物が船に乗り込むというお話がたくさんありますが、船というものはいつの時代も未知の世界への憧れや渇望へと子どもを導く存在なのでしょう。

 

そして幼い子どものための冒険には、必ず最後は戻るべき港、帰るべき家族が用意されています。

その安心感の中でこそ思い切り無茶な冒険を楽しむことができるからです。

無条件に自分を愛し、受け入れてくれる家族の存在があるからこそ、子どもは空想の冒険を楽しめるのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

動物の表情豊か度:☆☆☆☆☆

 

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【絵本の紹介】「チムとルーシーとかいぞく」【435冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今朝起きると蝉がいっせいに鳴き出しました。

夏ですねえ。

熱中症にはお気を付けください。

 

今回は夏だ海だ冒険だということで、エドワード・アーディゾーニさんの傑作ジュブナイル絵本シリーズより「チムとルーシーとかいぞく」を読みましょう。

作・絵:エドワード・アーディゾーニ

訳:なかがわちひろ

出版社:福音館書店

発行日:2001年6月20日

 

以前チムシリーズ第一巻「チムとゆうかんなせんちょうさん」を紹介したのは実に五年前ですか…。

やっとこ2巻目を紹介することができました(全11巻紹介できるのはいつのことやら)。

 

≫絵本の紹介「チムとゆうかんなせんちょうさん」

 

船乗りに憧れる少年・チムはある日こっそり汽船に乗り込み、そこで知り合った船長さんや船乗りと仲良くなり、嵐で危機一髪というところを助かり、地上に戻ります。

今回はその続きの物語。

 

ルーシー・ブラウン」という7歳の少女の登場シーンから物語は始まります。

ルーシーには両親がおらず、後見人のグライムズさんと田舎のお屋敷に暮らしています。

遊び友達が欲しいと思っていたルーシーはある日チムを見かけて話しかけます。

 

チムが船乗りであることを知ったルーシーは、グライムズさんに頼んで船を買ってもらい、みんなで航海に出ようと思いつきます。

グライムズさんはあっさりとこの提案に賛成し、みんなで船を見に行きます。

エバンジェリン号という立派な船を購入したグライムズさんはご機嫌ですが、家政婦のスモウリーさんは船旅に出ることを嫌がって不満顔。

チムは第一巻で知り合ったあの船長やコックたちに手紙を書き、新しい船の乗組員として一緒に航海に誘います。

 

積み荷を積んだり、ペンキを塗ったり、チムたちは忙しく立ち働き、ついに出発します。

ルーシーもすぐに船乗りたちと仲良くなり、みんなは船上生活を満喫します。

ただ一人、スモウリーさんだけは船酔いがひどくて寝込んでしまいます。

 

気の毒に思ったグライムズさんは引き返すことを決めますが、その時いかだに乗った男たちが漂流しているのを発見し、船長の指示で助け上げます。

ところがよく見るとひどく人相の悪い連中です。

 

実はこの男たちは海賊で、倉庫に集まって船を乗っ取る計画を相談しているのをチムとルーシーが立ち聞きしてしまいます。

チムは倉庫にかんぬきをかけ、船長に知らせますが、海賊たちは甲板のハッチから外に出ようとします。

ちょうどそこに居合わせたスモウリーさんの活躍により、海賊は無事に倉庫に閉じ込められ、やがて港で水兵たちに引き渡されます。

一件落着。

スモウリーさんは興奮と忙しさで船酔いを忘れてしまい、エバンジェリン号は海の彼方を目指して出航するのでした。

 

★                   ★                  ★

 

シリーズのヒロインとして登場するルーシーですが、チムに新しい船を与えるという大きな役目を務めるものの、それ以降はさしたる活躍をしません。

初めての船旅だし、無理もないんですが、昨今ではこういう主人公の影のようなヒロインには共感が集まりにくそうです。

船でやってることも航海士の部屋を片付けてあげたり針仕事をして感謝されるというもの。

性役割意識を助長するような表現と言われればその通りかもしれません。

 

何度か書いてますが、どんなに優れた絵本でも時代の意識や空気から完全に自由ではありません。

そこには作者の無意識に組み込まれた時代の常識や固定観念が表れており、それは現代の作家にしても同じことです。

だからと言ってその作品の素晴らしさが減ぜられるということはないと思います。

古典を読む時には作者の生きた時代を考慮に入れる必要があります。

 

では子どもに与える影響はどうなんだと言われれば、私はいちいち検閲するよりも子どもが面白いと思って選ぶものを読ませるべきだと考えています。

そしてその際にはなるべく偏らない、たくさんのジャンル、新旧様々な時代の物語を用意してやることで、上記のような偏見は希釈されると思っています。

 

さて、それにしてもやや唐突な登場の仕方に感じるルーシーとグライムズさんですが、実はアーディゾーニさんの別作品「ルーシーのしあわせ」に登場したキャラクターなんですね。

そこで両親を亡くしたルーシーがグライムズさんに引き取られる経緯が描かれています。

 

このルーシーのモデルは作者の娘のクリスティアナで、クリスティアナに言わせるとアーディゾーニさんは「女性に関しては古い考え」を持った父親だったそうです。

ですからあるいはルーシーの古典的な女性らしさは作者の娘に対する願望や期待などが反映された結果の造形なのかもしれません。

 

しかしながら物語としては受動的なだけでは動かしづらい面があったのか、ルーシーは以後のシリーズでは姿を消し、シャーロットというキャラクターにヒロインの座を明け渡すことになるのも面白いところです。

 

いずれにしても作者の雄弁な絵の魅力にはいささかの変化もなく、キャラクターの表情、躍動、そして積み荷のラベルに至るまでが楽しい演出効果を生み出しています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

グライムズさん太っ腹度:☆☆☆☆☆

 

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