2023.01.13 Friday
【絵本の紹介】「フロプシーのこどもたち」【445冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
毎年、新年は干支にちなんだ絵本を紹介していますが、今年は卯年。
絵本界において、兎と言えばねずみと並んでダントツに登場回数が多い動物ではないでしょうか。
イノシシの年とか、わりと探したものですけど、兎となるとむしろ多すぎて選べないくらい。
とりあえず古典名作「ピーターラビットの絵本」を紹介しておきましょう。
今回は「フロプシーのこどもたち」です。
作・絵:ビアトリクス・ポター
訳:石井桃子
出版社:福音館書店
発行日:2002年10月1日(新装版)
私自身も大好きなこのシリーズについては、何度となく過去記事で布教しておりますので、どうぞそちらも併せてお読みください。
共通した世界を描いてはいるけれど、毎回主人公は入れ替わるし、作風も様々な「ピーターラビットの絵本」。
しかしながらやっぱり真打ちはピーターということになるのでしょうか。
彼が登場するお話だけは時間の経過が見られるんですよね。
その他の作品は同じキャラクターが登場するにしても、シリーズ内の時系列がはっきりしていないお話が多いです。
「ピーターラビットのおはなし」「ベンジャミン・バニーのおはなし」で活躍したあのいたずらコンビも、今作では立派な大人になり、それぞれの家庭を築いていることが明らかにされます。
ベンジャミンはいとこであるピーターの妹フロプシーと結婚し、6匹の子どもに恵まれて生活していました。
しかしながらたくさんの家族を養うにじゅうぶんな食べ物がいつもあるわけではなく、一家はちょいちょいピーターにキャベツを分けてもらっています。
ピーターはキャベツ畑を持っていたのです。
テキスト内では名前どころか存在すら言及されませんが、奥さんもいる様子。
しかしながらピーターにもわけてやるだけのキャベツが無い場合、ベンジャミンと子どもたちはお百姓のマグレガーさんのごみ捨て場で野菜を漁ることになります。
大人になってもマグレガーさんとの関係は続いているのです。
その日はごみ捨て場に古くなったレタスがたくさん捨てられており、ベンジャミンと子どもたちは大喜びでお腹いっぱいレタスを食べました。
そして満腹で眠くなったうさぎたちはその場でぐっすり寝入ってしまいます。
ベンジャミンも一緒に昼寝しますが、通りかかったねずみのトマシナ・チュウチュウに起こされます。
その時マグレガーさんがごみを捨てにやってきて、寝ているフロプシーの子どもたちに気が付きます。
マグレガーさんは子どもたちを全部袋の中に入れ、口を縛り、芝刈り機を片付けに行きます。
家族を探しに来たフロプシーは夫から事情を聞き、嘆き悲しみます。
けれどもトマシナ・チュウチュウの助けにより、袋を食い破って子どもたちを救出することに成功します。
そのまま逃げ帰るかというとそうはせず、ベンジャミン一家は空の袋にごみやがらくたを詰め込み、隠れて様子を伺います。
何も知らないマグレガーさんは戻ってきて袋を担いで家へ帰り、奥さんにうさぎを捕らえたことを自慢します。
夫婦はうさぎの皮を剥ぐ算段を始めますが、奥さんが袋を開けてみると中身は野菜やごみ。
奥さんはマグレガーさんのいたずらだと思って怒り、夫婦げんかに。
飛んできた野菜が覗き見していたフロプシーの子どもに当たり、一家は引き揚げます。
こうして危機は去り、トマシナ・チュウチュウはお礼として次のクリスマスにはたくさんのうさぎの毛をもらって、それでマフラーや手袋を作りました。
★ ★ ★
ピーターもベンジャミンも、作者のビアトリクス・ポターさんが飼っていたうさぎの名前ですが、ポターさんが特に可愛がっていたのは「興奮しやすく、快活で、愚かしく見えるほどに人懐こくてセンチメンタルで、見下げ果てた臆病者」と評していたベンジャミンの方だったようです。
作品内においてもこのベンジャミンは実に愛すべきキャラクターをしており、それは大人になってからも少しも変わっていません。
それは子ども時代に同じく無茶をし、失敗し、一緒に痛い目を見てきたピーターの成長と比較するとより顕著です。
大人になってからのピーターは自分の畑を持つほどにしっかりと地に足を下した生活をし、思慮深く、勇気もあり、立派な主人公としての貫禄が備わっています。
一方ベンジャミンはというと、子どもたちと一緒になってレタスを貪ったあげくに居眠りしてピンチを招く始末。
「キツネどんのおはなし」でも、やっぱり子どもたちをさらわれ、ピーターの助力で救出に向かうものの、そこでも色々と情けない姿をさらします。
子ども時代はむしろベンジャミンの方が世間知に富み、ピーターを引っ張って行動する存在だったことを考えると、大人になってからのこの二匹の関係性の変化はなかなか面白いものがあります。
ピーターは何となく、地元でやんちゃしてた不良少年が大人になってから仕事で成功したというイメージですね。
ベンジャミンは同じ不良仲間でも、あんまり中身が成長できずに、大人になってからも相変わらず失敗ばかりしてるイメージ。
いそう〜。
でもだからこそベンジャミンには愛嬌があって、たまらない魅力にあふれたキャラクターなんですよね。
奥さんのフロプシーの方も、少女時代は三姉妹ともに「いい子」でしかなかったけれど、母となってからは苦労が絶えず、舅と喧嘩したりする面も見せます。
夫にも色々と不満がありそうな気がしますけど、その割には騙したマグレガーさんの様子をわざわざ覗き見に行ったり、いたずら心も持っている素敵な奥さんなんですよね。
ちなみに、三姉妹のカトンテールは黒うさぎと結婚しています。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
ピーターの奥さんがキャベツを隠してるっぽい絵が実に味わい深い度:☆☆☆☆☆
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■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「400冊分の絵本の紹介記事一覧」
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