こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
ちょっと息子が体調を崩しまして、やっと治ってきたと思ったら妻が熱を出し、色々と私生活がバタついております。
まだまだコロナには油断できませんし、小学校などではインフルエンザも流行しているようですので、皆様もどうぞお体に気を付けてお過ごしください。
さて、今回は以前から紹介してみたかった「ルンバさんのたまご」を読みましょうか。
作・絵:モカ子
出版社:ひかりのくに
発行日:2013年4月
10年以上前の作品ですが、絵本界では10年はまだ新作(言い過ぎかな)。
作者のモカ子さんはこの作品でデビューということで、やっぱりまだまだフレッシュな作家さん。
現代風のいかにも可愛らしい絵柄や細部の描きこみ、ほのぼのとしていながらどこかシュールさも漂う世界。
独特のユーモアが効いています。
まず、主人公の「ルンバさん」ですが、正体が不明。
たまごとにわとりのお話なんだろうと思って読むと、どうもそうではない。
にわとりの被り物や羽を身に付けていますが、脱いでしまうと何やら斬新なヘアスタイルの謎の生き物なんですね。
このルンバさん、ひよこが大好き。
その「好き」の方向が見ようによっては偏執的で、いわばひよこマニア。
「げっかん ひよこ」のプレゼント企画に応募し、それが当選。
巨大なたまごが届きます。
さあルンバさんは大喜び。
一生懸命たまごを温めるとたまごはずんずん大きくなって…
「105つご」のひよこちゃんが孵化します。
ひよこたちはルンバさんをおかあさんと認識。
ルンバさんはひよこたちにご飯を用意したり、一緒に遊んだり、お風呂に入ったり。
思う存分愛情を放出し、幸せな気持ちでひよこたちと眠りにつきます。
★ ★ ★
ひよこちゃんたち可愛い。
ちゃんと105ひき描きこまれていますし、一匹一匹見ていくだけでずっと楽しめます。
その上で、これはむしろ褒めているんですけど、やっぱりどこかに狂気を孕んだ絵本だと思うんですね。
上記したようにルンバさんはにわとりではなく、ひよこが好きで好きでたまらないけど自分ではひよこたちの母親にはなれない。
いわばひよこたちの里親となるわけです。
105つごワンオペなんて子育て経験のある親からしてみれば想像しただけで頭がおかしくなりそうな状況ですけど、ひよこ愛MAXなルンバさんは幸せいっぱいで世話に励みます。
考えてみればこれを単純に母子の物語にしてしまうと、旧態依然とした「母性幻想の押し付け」となりかねませんが、ルンバさんが100%自分で望んだ環境という設定のおかげでそこは回避されていると言えるでしょう。
前述したマニア的な偏愛も、現代的な愛情の在り方を肯定的に捉えた多様性の尊重と読むこともできます。
しっかり人気作になって続編も出ていますので、この世界が好きな方は是非に。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
ひよこ愛度:☆☆☆☆☆
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今回は日本神話より「やまたのおろち」を紹介します。
文は映画監督の羽仁進さん、絵は安定の赤羽末吉さん。
文:羽仁進
絵:赤羽末吉
出版社:岩崎書店
発行日:1967年
知らない人はいないほど有名な神話のひとつだと思っていますが、最近の若い人はどうなのでしょうね。
その存在くらいは知っていても、細かいエピソードについては何も知らない人も多そうです。
そういう私も別にさほど詳しいわけではありませんが。
しかしながらこのやまたのおろちの伝説を幼い頃に絵本で読んだ時の興奮とインパクトは忘れることができず、ずっと心に残っていました(その当時読んだ絵本の絵は覚えているのですが、残念ながら見つけることはできていません)。
何と言ってもやはりやまたのおろちの造形とスケールが怪獣好きの子ども心に刺さります。
かっこよすぎません?
キングギドラもびっくりの八つの頭を持ち、その巨大さたるや八つの谷、八つの峰にまたがるほど。
表面に苔や杉を生やし、生贄に女を要求し、酒も飲む。
女好きの酒好き怪獣ですね。
口から炎を吐くところも実に怪獣らしくていい。
この怪物と戦う主人公はスサノオノミコト。
神話によくある暴れ者タイプの神で、乱暴が過ぎて姉である天照大神の不興を買い、下界に追放されます。
人間臭いですね。
追放者スサノオは川を上って村へたどり着きます。
そこで泣いている村人に事情を聞くと、やまたのおろちという怪物が娘を食べにやってくるのだといいます。
その娘はクシナダヒメといい、すでに七人の姉がおろちに食われたといいます。
スサノオは自分がそのおろちを退治してやろうと引き受けます。
スサノオは乱暴者ですが兵法も心得た知恵者で、八つの瓶に毒を混ぜた強力な酒を用意しておろちを待ち構えます。
やがてその恐ろしい姿を現したやまたのおろちはあっさりとこのトラップに引っ掛かり、酒を飲み始めます。
知能のようなものはほとんどないらしい。
けれどもその生命力は半端なく、毒をもってしても死なず、ただ眠りこけてしまいます。
スサノオはそこへ襲い掛かりますが、おろちは目を覚まし、炎を吐いて応戦します。
絵本によってはここの戦闘シーンをあっさり終わらせているものもあり(眠ったおろちを切り殺すだけとか)ますが、この作品では実に6ページにわたって苛烈な戦いが描かれます。
映画監督らしい臨場感ある場面と、赤羽さんの生き生きとした絵筆が見どころです。
ついに勝利するスサノオですが全身に八十八もの傷を受けます。
八という数字にこだわるあたりも神話あるある。
クシナダヒメの賢明な看護で傷は癒え、二人は結婚します。
やがて子どもも生まれ、彼らは山の奥で鉄を見つけて道具を作り、蚕を飼って絹糸を作り、出雲の国に村を興します。
★ ★ ★
おろちの体内から発見される草薙の剣は別名雨の叢雲、有名な伝説ですね。
これについては様々な解釈がありますが、物語最後にも描かれる通り製鉄技術の発展や鉄文化との関りを指摘されています。
神話や民話は全てが象徴的ですから、八という数字や蛇、櫛、酒といったワードにも何かしらの意味があるのだと考えられます。
そうしたことも含め、想像力をかき立てられる物語です。
そして海外にも悪役としての蛇の怪物の登場する伝説は見られます。
酒を飲ませて退治する神話もあります。
こうした類似点は単純に海を渡って物語が伝わったというより、人間に共通する根源的なイメージや心魂的に通じる象徴なのだと考えられます。
などとあれこれ考察する楽しみもありますけど、やっぱりやまたのおろちの怪獣っぷりが単純に魅力的ですねえ。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
戦闘シーンの濃密さ度:☆☆☆☆☆
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今回紹介するのはカレル・チャペックさんの童話原作絵本「郵便屋さんの話」です。
作:カレル・チャペック
訳:関沢明子
画:藤本将
出版社:フェリシモ出版
発行日:2008年3月21日
カレル・チャペックさんはチェコを代表する劇作家・小説家で、画家・評論家の兄ヨゼフさんと共にチャペック兄弟として広く親しまれています。
「ロボット」という単語の創始者であるともされています。
SFから童話まで様々な作品を残しましたが、彼らが生きた時代は大戦の最中で、チャペックさんは作品内でナチズムを痛烈に批判し、そのためにゲシュタポから敵認定され、狙われたこともあります。
この「郵便屋さんの話」は1932年に発表された童話集の中の一篇に、イラストレーターの藤本将さんが新たに挿絵を書き下ろして出版された絵本です。
主人公のコルババさんは郵便配達人。
このところ自分の仕事にうんざりし始めております。
「毎日、二万九千七百三十五歩も歩かなければならないし」「そのうちの八千二百四十九歩は階段をのぼったり、おりたり」と、具体的な数字を持ち出して嘆くユーモアのあるおじさん。
ある時郵便局で居眠りしてしまい、仲間たちが帰ってしまった夜更けに目を覚ますと、何やら気配がします。
様子を窺うと、そこには郵便局に住む妖精の小人たちが忙しく働いていたのです。
小人たちは仕事が一段落するとカードゲームを始めます。
カードとして用いられるのは郵便局にある手紙。
不思議な遊びに思わずコルババさんは小人たちに話しかけますが、小人たちは悪びれもせずコルババさんをゲームに誘います。
手紙には何の数字も書いてませんが、小人たちは中にある手紙の種類によって札の強さを決めているのです。
一番強いエースは愛情のこもった手紙という風に。
そして小人たちは封を切らなくても中の手紙の内容を温度で知ることができるというのです。
そんなことがあってしばらく後、郵便局に宛名のない手紙が届きます。
差出人も不明で、配達もできないけれど、コルババさんはなんとなくその手紙が温かく感じられ、きっと心のこもった手紙のはずだと思います。
かといって勝手に中を開けることは郵便局員としてやってはならないこと。
そこでコルババさんは小人の助力を頼みます。
小人は封を切らずして中の手紙を読みます。
それは若者が恋人にあてた手紙でした。
若者の名はフランチーク、職業は運転手。恋人の名はマジェンカ。
ただそれだけの手がかりをもとに、コルババさんはこの手紙をマジェンカのもとに届けてあげようと決意します。
長い長い旅を続け、探し回りますが見つかりません。
一年以上も探し回って、疲れ果てたコルババさんが座り込んでいると、立派な紳士が車を止めてコルババさんを送ってあげようと声をかけます。
コルババさんはありがたくその車に乗ります。
そして話をするうち、車の運転手の素性がわかります。
彼こそ探し求めていたフランチークだったのです。
彼は愛する恋人から手紙の返事がこない悲しみに沈んでいました。
そこでコルババさんは手紙を預かっていることを打ち明け、自動車は一路マジェンカの家を目指して走り出します…。
★ ★ ★
冒頭ではいわゆる靴屋の小人的な童話かと思いますが、そうではない。
人生や仕事の喜びについて、人の想いについて、色々なことを考えさせてくれるハートフルなお話です。
コルババさんは実に粋でチャーミングなおじさんですが、そこは藤本さんのイラストの力も大いに作用しています。
センスがあって人物が本当に可愛い。
異国情緒もあり、チェコで描かれた絵本だと言われても違和感がありません。
チェコと言えば絵本大国としても知られており、なおかつチャペックさんのような童話作家も生み出した素晴らしい国です。
まだまだ翻訳されてない名作はありそうですね。
推奨年齢:7歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
一年がかりの配達の報酬が切手代だけのコルババさん男前度:☆☆☆☆☆
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少し前にうちの息子が病院でWISK-?という知能検査を受けまして(後述します)、その結果や、そこから新たに色々と考えたことや、読んだ本などについてここに書いていこうと思います。
まず、息子が今回検査を受けることになったのは学校側との話し合いの中で、病院への相談を提案されたのがきっかけです。
少しずつ成長を見せているとはいえ、まだ息子は他の子と同じように授業を問題なく受けられるとは言えません。
時々は机を離れてしまうし、ノートは取らない、休み時間に触るタブレットPCからなかなか離れられない、特定のクラスメイトとトラブルになる、といった問題を抱えています。
学校では通常学級と支援学級の掛け持ちという形式を取っています。
これについてはいわゆる発達障害と自閉症スペクトラムの傾向が濃厚ですが、これまで正式に専門的な受診や検査を受けたことはなく(簡易な検査はしたことがありますが、そこで正式な診断が出るわけではありません)、従って療育手帳などもありませんでした。
現在発達障害の検査を希望する人は増加しており、検査まで何か月も前から予約が必要だったりするのです。
そういう事情と、別に私としては診断名や手帳が欲しいということはなかったので(息子をどう導くべきかの指標が欲しいだけなので)、正式な検査はこれまで受けてこなかったわけです。
しかしながら学校でも息子の扱いに何かヒントが欲しいという様子で、病院を紹介されたこともあり、上記したWISK-?という知能検査を受けることにしたという経緯です。
結果としては、息子の能力は全体に非常に高いらしいです。
といっても数値が記された紙を渡されても私にはちんぷんかんぷんですが。
言語理解とか流動性推理とか、ごちゃごちゃ項目があるけども、要するにFSIQというのがいわゆるIQに該当するらしいです。
確かになかなか高い。
ただ、「で、学校でどうすればいいの?」というこちらの質問に対しては明確な答えは得られませんでした。
そして息子の場合は「発達障害の傾向は見られるけども能力の高さからいわゆる障害という診断は下せない」というのが担当医の見解のようでした。
学校での扱いについては、息子を学校に合わせるのではなくむしろ学校側が息子に合わせた教育を工夫すべきでは…という、わりと全面的に息子側に立った意見でした。
もっともそれは現場に責任のない立場だから言えることかもしれないですね。
学校としても結局どうすればよいのかという個別具体的なアドバイスを期待していたと思うのですが、その点は特に収穫はなかったという結果です。
その後、私がネットでWISK-?について色々調べていると「ギフティッド」という単語が目に留まりました。
気になってとりあえず集英社から出ている「ギフティッドの子どもたち」(角谷詩織)という一冊を読んでみたのですが、驚くほど息子に当てはまることが多く書かれていました。
ギフティッドというのは非常に判別が難しく、私も勉強中であまり軽々しく内容を語れないのですが、とりあえず知能が高いこと、そして感情の振れ幅が大きく、興奮しやすく、自責的になったり、エネルギッシュさと繊細さを併せ持つような傾向の子どもを指すようです。
本文中にある「周囲を振り回すほど」「猛烈に生きる」という表現はまるで息子の特徴をそのまま表しているようにさえ思われます。
「なんでそんなことで?」「もっと気軽に考えれば」「そこまで完璧主義にならなくても」「なぜそんなに自分を責めるの?」「どうしてこれがそんなに痛いの?」というこれまで息子に対して感じてきたことも、すべてギフティッド児によくみられる性質のようです。
そしてこれらは発達障害や自閉症スペクトラムの傾向と酷似しています。
どちらも小学校時点でだんだんと違和感や困難に直面することが増えていきます。
ただ、例えば「教室でじっとしていられない」という傾向を取ってみても、発達障害児が自分でも何故動き回ってしまうのかわからず制御も難しいのに対し、ギフティッド児のそれは「授業がつまらない」といったその子なりの理由があり、自分に興味があり、面白いと感じる内容ならじっと座っていることができるという違いがあります。
しかし難しいのは、だからといってギフティッド児に発達障害児が含まれないわけではないという点です。
発達障害や自閉症を伴うギフティッド児もいます(『2E』と言われます)。
息子に関してはそこに分類されるのではないかなと思います。
例えばギフティッド児に見られる特質のひとつに身体能力の高さも挙げられているのですが、息子ははっきり言って運動音痴だと思います(身体の頑健さはありますが)。
ギフティッド児かどうかの判断基準は基本的に知的優秀さしかありません。
こう書くとまるで天才児集団のように思われそうですし、実際言葉の響きからそう感じる人は多いようです。
海外ではすでにギフティッド児を集めた教育機関も存在し、それらは不平等なエリート教育と非難される向きもあるらしいです。
けれどもそうではなく、ギフティッド児は別に天才ではなく、並外れた才能はあってもそれを活かす機会もないまま、ただその特性ゆえの違和感や生きづらさだけを抱えて大人になる人もいますし、逆に環境に恵まれ、何の困難もなく普通に社会に溶け込んでいるギフティッドもいます。
どちらも別に目覚ましい活躍をするというわけではなく、ギフティッドかどうかはそこに関係しません。
彼らは「平均から外れた能力の高さ」ゆえに、均質的な教育機関に合わせるのが難しいという点で共通しています。
それは逆に学習障害などで平均から外れているゆえに、均質的な教育に合わせるのに困難を要する子どもと、質は違っても不平等さという点では同じと言える気がします。
何故なら能力の高さから授業がつまらない、そのつまらない授業を延々と週5日繰り返させられる苦痛から、本当に学力が下がり始めるギフティッド児もいるからです。
幸いなことに息子は学校嫌いではあっても登校拒否までは行ってないし、周囲の支援もあり、どうにか学校生活は送れています。
しかし、私たちがこれまで単に息子のわがままのように感じていた様々なことは、息子にとっては真実の心の叫びであったという認識は忘れてはならないと思います。
我々から見れば大袈裟にしか思えない息子の言動や態度、それらは息子にとっては真実なのです。
息子が学校で落ち着きを見せて授業をじっと受けてくれれば、親としては安心するけれども、その陰で息子がどれほどの忍耐力を要しているのか、何を削ってそこに座っているのか、それを見落としてはならないと思います。
検査の結果を受けて、学校側とどういう話をしていくかはまだわかりません。
今後息子が中学、高校と進むにつれて考えることも増えてくると思います。
ギフティッドにしろ、発達障害や自閉症にしろ、子どもを何かにカテゴライズすることはどうでもいいのです。
それは理解を深めるための一助でしかありません。
子どもを理解すること、余計な手出しはせず、必要な助けは滞りなく行うこと。
大人がなすべきことはただただそれだけなのです。
そういう意味では、結局のところ息子に対する接し方や方針は特にこれまでと変わりないでしょう。
長くなりましたので簡単ですが今回はここで終わります。
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お店HPのお知らせにも記載しておりますが、配送方法を一部変更しました。
これまで絵本の重さ総計が1kg以内の場合は【ゆうメール】で発送していましたが、今後は【ゆうパケット】での発送になります。
これまで利用していた【ゆうメール】が土日祝の配達を止めてしまった事情により、連休を挟んだ場合には到着が大幅に遅れたり、心配されたお客様から問い合わせメールが届いたりといったことが増えたため、今回の改定となりました。
【ゆうパケット】は基本的には【ゆうメール】と変わらず、ポスト投函、受領印不要ですが、配達追跡ができますし、土日祝の配達も休まず行っています。
なお、送料に関しましては従来通り一律500円、5000円以上お買い上げで送料無料です。
よろしくご承知願います。
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今回紹介するのは「うたいましょうおどりましょう」です。
作・絵:ベラ・B・ウィリアムズ
訳:佐野洋子
出版社:あかね書房
発行日:1999年12月1日
かなり前にこのブログで取り上げた「かあさんのいす」から繋がるお話です。
(たぶん)カリフォルニアに住む主人公、母、祖母の女ばかりの家族。
下町の人情や逞しい暮らしぶりなどが伝わる物語の雰囲気は健在。
この「うたいましょうおどりましょう」の前に「ほんとにほんとにほしいもの」という作品があり、「かあさんのいす」三部作ということになっています。
家に父親はおらず、母親の稼ぎが一家を支えています。
火事に遭って焼け出されたり、なかなか辛い経験をしてきた一家ですが、嘆いたり悲しんだりせず、日々明るく一生懸命。
しかし生活は決して楽ではない。
みんなで貯めたお金で買った素敵な「かあさんのいす」は最近では空っぽ。
母さんは以前よりもっと働かなくてはならず、それなのにあのお金を貯めていた瓶も空っぽという状況です。
その理由はおばあちゃんが病気で寝ているから。
いつも優しく明るいおばあちゃんは主人公の少女だけでなく、その友達からも慕われる人気者。
そんなおばあちゃんが病気とあって少女たちは寂しそうにしています。
主人公は前作で買ったアコーディオンの練習を続けています。
その時彼女に名案が浮かびます。
仲間たちと音楽バンドを結成してお金を稼ごうというのです。
おばあちゃんに考えを伝えると、「あんたたちならできると思うね」と励ましてくれます。
そこで主人公は仲良し四人組で猛練習を始めます。
音楽の先生やおばさんに演奏を見てもらいながら。
そしてついに初めての仕事がやってきます。
友だちのレオラのお母さんから、お店の五十周年パーティーで音楽を演奏してほしいという依頼です。
近所の人たちもみんな集まったパーティーの日、緊張しながらも少女たちは演奏を始めます。
みんなは浮き浮きして踊り出します。
演奏は大成功。
レオラの曽祖父母からも感謝され、レオラは母親からお金の入った封筒を受け取ります。
みんなはお金を4等分し、主人公はあの大きな瓶にお金を入れるのでした。
★ ★ ★
実を言うと私はこの手の話を見ると悲しくなってしまうんです。
上記した通り、作品そのものはとても明るく力強く、惨めさや辛さを微塵も感じさせませんけど、貧しさから働きづめに働かなくてはならない母親とか、そんな家庭の事情を知っているから健気に貯金したり、自分でもお手伝いやお金を稼ぐ手段を考える娘とか、無性に泣きそうな気持になってしまうんですね。
どうかこの家族がお金に困らず、幸せに暮らしてほしい。
娘はアルバイトしたお金を自分の好きなように使って欲しい。
主人公がアコーディオンを買う経緯は前作「ほんとにほんとにほしいもの」で描かれていますが、それもまた泣ける。
もちろんそれは私の個人的な感傷で、こうした暮らしの中で深まる家族の絆や、町の人々の温かさなど、勇気づけられる物語であることは言うまでもありません。
決して暗い雰囲気にならないのは、鮮やかな水彩画の楽しさによるところも大きいでしょう。
人々の表情も実に豊か。
暮らしぶりは現代日本とは違う部分も多いけど、家族や町の人々といった共同体の温かさ、絆といったものはしっかりと読者の心に届くでしょう。
絵柄は三部作通してほぼ変化しませんが、一作目に比べると主人公がずいぶんと美人になった気が。
心身ともに成長しているってことでしょうかね。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
一作目からの主人公の成長度:☆☆☆☆☆
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今回は「昆虫語」で描かれた前衛的絵本「なずずこのっぺ?」を紹介しましょう。
作・絵:カーソン・エリス
訳:アーサー・ビナード
出版社:フレーベル館
発行日:2017年11月
「なずずこのっぺ?」ってなに?
しかし次の瞬間ムクジャランカは鳥に捕食され、「フンクレガ」は再び子どもたちの遊び場に。
そしてだんだんと成長した芽は綺麗な花を咲かせます。
昆虫たちは集まって「ルンバボン!」「みりご めりご ルンバボン!」。
やがては花も枯れ、子どもたちも秘密基地に「じゃじゃこん」(おそらく別れの言葉)。
そして季節は巡り…。
★ ★ ★
絵を読むことによって物語を想像する「テキストなし」の絵本は色々とあるんですが、「昆虫語」のみで語るというのはなかなか実験的。
しかも全くのでたらめというわけではなく、同じフレーズが別の場面で使われていることによって、ちゃんと意味を想像できるように構成されているところがポイント高い。
もう一つ翻訳版で感心するのは訳者の言語センスです。
「フクレンガ」は「隠れ家」を想起できるし、「わっぱど がららん」は「わからない」、「ぽしゃり」が「潰れる、駄目になる」といった意味を伴っていることは語感にも合う感じがします。
訳者はアーサー・ビナードさん。
日本人ではないのに日本人より日本語センスあるんじゃないかと思ってしまいます。
実際日本で様々な絵本の翻訳や詩作を発表しており、「ドームがたり」というアメリカ人の立場で原爆について語るという難しい絵本も手掛けています。
以前このブログでも取り上げました。
ちなみに原題は「Du Iz Tak?」。
英語話者にはまた違った語感で伝わるんでしょうね。
これを翻訳(?)するというのはとても難しいながらも面白い作業だと思います。
カーソン・エリスさんのイラストも素敵で、昆虫たちの擬人化は可愛いし、ちゃんとそれぞれの生態に従って動いています。
冒頭に蛹となった幼虫が最後に羽化するシーンなど、絵の隅々まで読む醍醐味もあります。
さらにちなみにですが、邦訳版のタイトルデザインは森枝雄司さん。
こちらもなかなかのセンスあるレタリングをされてます。
細部にわたって何度も新しい発見がある、楽しい作品です。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
オリジナル言語を考えたくなる度:☆☆☆☆☆
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正月明けからの三連休も終わり、本格的に仕事と日常が始まった感じですか。
もっとも新年そうそうの地震災害で日常どころではない地域もあるでしょう。
本当に大変なことになっているようで、被災された方々の安全と被災地の一日も早い復興を心よりお祈り申し上げます。
今年は辰年ということで、最初の絵本紹介は浜田廣介さんの名作童話「りゅうのめのなみだ」を読みましょう。
作:浜田廣介
絵:植田真
出版社:集英社
発行日:2005年11月30日
1000篇に及ぶ童話を創作し、日本のアンデルセンとも称された浜田さん。
この「りゅうのめのなみだ」は1923年の作品です。
挿絵を描いているのは植田真さん。
現代的で繊細なタッチによって古典名作が一気にモダンなテイストに仕上がっています。
絵の力というのは本当に大きいのですが、例えば主人公の少年が黒髪でないことや、街並みの描写によって、時代や場所の設定が自由に想像できるようになった印象です。
必ずしも日本の話でも、「むかしむかし」のお話でもないというような。
もとより原文でも「南のほうの国」と表記されているので(国家という意味合いは薄そうですが)その辺りはぼかされています。
この国の山の中には「大きなりゅう」が棲んでおり、近づいた人間は飲み込まれてしまうと噂され、人々の恐怖の対象となっていました。
けれどある町にちょっと変わった男の子がいて、りゅうを怖がらず、りゅうに興味を持って、自分からりゅうの話を聞きたがるのです。
少年は夜中にりゅうのことを考えて涙を見せます。
母親は息子がりゅうを怖がって泣いているのかと思ったのですが、さにあらず、少年は「りゅうがかわいそう」と泣いていたのでした。
皆が恐れ、誰にも優しくしてもらえないりゅうを哀れむ少年を、母親ですらおかしな子だと不審がります。
あまつさえ少年は自分の誕生日にりゅうを招待したいと言い出します。
母親は馬鹿なことと相手にしませんが、少年はとうとう一人で山の中に入り、りゅうに会いに行こうとします。
自分を呼ぶ少年の声に、大きなりゅうはいかめしい姿を現します。
何の用かと不思議に思って質すと、少年は自分の誕生会にりゅうを招きたいと言います。
それを聞いたりゅうに気持ちに変化が起こり、温かい涙があふれだします。
今まで一度も優しい言葉をかけてこられなかったりゅうの心は閉ざされて、人間を脅したりしていたのですが、本当は悪いりゅうではなかったのです。
りゅうは涙を流し続け、涙が川となります。
りゅうは少年を背に乗せて涙の川を下って少年を町へ送ります。
「わたしは このまま ふねに なろう」
「そうして やさしい 子どもたちを たくさん たくさん のせて やろう」
「あたらしい よい 世の 中に して やろう」
その言葉通り流は黒い船に姿を変え、町に辿り着きます。
最終カットでは、りゅうの船に乗って遊ぶ子どもたちの姿が描かれます。
★ ★ ★
皮肉や教訓や説教じみたところは微塵もなく、ただ人の善性や清純を無条件に信じる素直な童話です。
やさしさの連鎖によってよい世界を作ろうという単純で率直な理想を描いています。
現代では負の連鎖は簡単に起こりますが、正の連鎖はほとんど見られなくなってしまった気がします。
例えば今まさに被災地に対して何かをしようという善意の輪が動いていますが、それですら様々な配慮をしなければ、逆に迷惑行為とすら言われかねない世の中です。
本人が本当に善意で動いているのかもわかりませんしね。
もはや現代はこの絵本のような単純な善が通用しない時代になったのかもしれません。
ですが、私はそれをどうこう言うつもりはありません。
何度も書いていますが、時代は戻らないし、戻す必要もないです。
我々は時代から逃げられないし、どんな名作絵本や童話も時代の影響を受けています。
例えばこの作品中にも「女の子のようにやさしくて」「すぐに涙を見せました」といった表現が使われていますが、これも現代ではもう古すぎる感覚でしょう。
かといってそれがこの作品の価値を減じるものではありません。
時代は変わりますが、作品の本質や核は変わりません。
私が思うこの作品の核とは、それぞれの時代において、我々がこの物語での少年であるか、それともその他の町の人々であるかという問いかけです。
すなわち世の中の噂、外的な情報、先入観、思い込みによって物事を見ていないか、自分の本当の心に従って動いているのかという点です。
「りゅうは悪いもの」という常識を鵜呑みにせず、自分の心によってりゅうに会いに行った少年なら、今の時代において何がまやかしの善で何が真実の善なのか、きちんと見定めることができると思うのです。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
イラストの流麗さ度:☆☆☆☆☆
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■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。
■絵本の買取依頼もお待ちしております。
〒578−0981
大阪府東大阪市島之内2−12−43
E-Mail:book@ehonizm.com
]]>謹んで新春の慶びを申し上げます。絵本専門店・えほにずむの店主です。
本年もよろしくお願いいたします。
私も息子も元気に新年を迎えました。
なんというか息子が生まれてから一番ゆっくり休めたお正月だった気がしますね。
眠らない息子を連れて初日の出を拝みに行ったりした年もありましたね…。
息子もすっかり生活のリズムがついてくれて感謝です。
いわゆる自閉症スペクトラムや発達障害の傾向を持つ息子ですが、そういえば先日初めて正式に病院で検査を受けまして、現在結果待ちですが、結果に関わらず、私としては今の息子を見る限り単にそういう性格で生まれただけという印象です。
特に問題ないんじゃないかなと。
少しずつ成長して、以前ほど感情に振り回されることは確実に減っています。
もちろんまだ学校では様々な問題も抱えていますし、先生方とも折に付け相談して様子を見る毎日ですが。
このままでは中学校以降さらに苦労するのではという妻の心配もわかりますけど、それは別にどんな子どもでもありうるべき心配だとも思いますので。
特徴の一つだった偏食についても、今年は少ないながらもおせち料理のいくつかに挑戦してくれましたし、食べられたのはわずかですけど、ともかく箸をつけるようになっただけでも成長したと思います。
お餅は相変わらず食べませんけど、まあ食べなくても何ら問題ないですしね。
勉強に関しては学校からの報告による限り、まったく遅れはないみたいです。
勉強嫌い、というか課題嫌いは変わらないけど、冬休みの宿題は年内に全部片づけました。
一度やると決めたらその予定は変えたくないという彼の性質がいい方に向かった例だと思います。
本を読み、公園で遊び、PCでゲーム、レゴ作成、漫画を描く。
やることは毎日同じです。
家庭の事情としては、今年からは妻の仕事環境が変わるので、息子が学校から帰る時間に家に誰もいないという日ができます。
1時間くらいの留守番はどうということはない年齢だと思うし、鍵を持たせてはと考えるのですが、妻はまだまだ注意力散漫な息子に鍵を持たせたり家で一人にするのは不安みたいです。
以前利用していた学童にまた戻るかという話になってます。
前は学童の職員さんとか周りの子とうまく行かなくて利用を止めてたんですけどね。
帰らないとか騒いじゃうし。
まあ今ならそんなこともないだろうし、大丈夫だと思います。
変化の苦手な息子なので、その時にならないとわからないですけど。
それでは皆様、今年も何卒宜しくお願い致します。
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今年もはや過ぎますね。
寒くなりますが体調には気を付けて、つつがなく新年を迎えられるようにしたいです。
皆様もご自愛ください。
当店は12月29日から新年1月5日までの間をお休みさせていただきます。
注文は随意受け付けておりますが、出荷作業等の対応は遅れますのでご了承ください。
世の中の動きは相変わらず不安定で、物価や送料は上がり続けるし、古本屋通販という仕事もこのままで続けられるのかな…と考えたりもしますけど、私も家族も元気に一年過ごせたことにはただ感謝です。
また年が明けましたら、息子の成長などを綴っていこうと思います。
絵本の紹介も、来年こそは500冊めまで伸ばしたいですね。
それでは皆様、良いお年を。
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]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今年もはや師走。
何かとバタバタしておりますが、家族そろって大きな怪我も病気もなく、無事に年を越せそうです.
去年も今頃の時期に児童書の感想文を書いたのですが、この一年で息子に読んだ児童書をざっと挙げてみましょう。
息子ももう小学校4年生で、そうそう絵本を読んであげる機会もなくなりました。
ゲームで忙しいですしね。
そうは言っても本から離れてしまったわけではなく、本を読む習慣は身についているし、最近では米朝師匠の落語本などを一人で読んでいます(息子は落語好きです)。
そして毎日寝る前に30分くらい児童書を読んであげる習慣もずっと続いています。
もちろん息子は自分でも読めるのですが、そこはルーティンとして、この本を読み聞かせる時間というものは私にとっても息子にとっても大切なものとなっています。
今読んでいるのは吉川英治の「三国志」ですね。
前から機会を窺っていたのですが、そろそろいいかなと思って全8巻読破に向けて読み始めました。
もちろん難しい言葉はたくさん出てくるけど、いちいち説明してると流れを切ってしまうので、そこは雰囲気で流してもらってます。
私も読み方に詰まる単語も多いので勉強になりますね。
あと、三国志と言えば登場人物の多さですが、特に耳で聞いていると各人物の判別が難しいだろうなと思います。
ただでさえ耳慣れない中国名に、似た響きの名前が多いので、やはり漢字で視覚的に捉えないと誰が誰だっけとなってしまいます。
今董卓編の佳境ですが、実際息子は再登場した人物などは「誰だっけ?」となっています。
それでもやっぱり三国志、一度読み始めると面白くてやめられない。
吉川三国志は名文ですしね。
成長のどこかで必ずハマるでしょうし、これを機に歴史に興味を持ってくれたら嬉しい。
ミヒャエル・エンデの「モモ」。
これは別に今年初めて読んだわけではなく、覚えてないけど去年にはすでに読んでいた気がします。
でも息子は非常にこの話を気に入ってくれて、すでに3回は繰り返して読みました。
児童向けでありつつ、わりと心理的にキツい描写もあり、非常に作者の思想的な部分も盛り込まれており、大人でも理解がすぐには追いつかないような難解さもあります。
特にマイスター・ホラの家でモモが見た「時間の花」の箇所ですかね。
ただ教訓臭さはなく、エンターテインメントとしてぐいぐい読ませる力に満ちています。
灰色の男たちの不気味さ、生気を奪われていく人々の哀れさ、その中にあって未来を知る亀のカシオペイアの愛らしさが救いとなっていますね。
昔映画版も見た覚えがありますが、とにかくモモ役の女の子がめちゃくちゃ可愛かった記憶。
同じくミヒャエル・エンデの「ジム・ボタンの機関車大旅行」。
これはかなり前に買ったけど読ませてくれなったのですが、やっと読了、そして続編の「ジム・ボタンと13人の海賊」も続けて読みました。
めちゃくちゃ面白い。
登場人物や国の設定がいちいちエキセントリックで想像力を刺激してくれます。
意志を持つ機関車エマは改造されて海も渡れば空まで飛んでしまう。
住人数名の小国、中華風の大国、竜の国、砂漠の巨人、海の人魚。
そしてやはりどこかにミヒャエル・エンデ流の神秘的思想が感じられます。
個人的には読み物としてはモモよりもこっちの方が面白いのですが、知名度的には今一つなんでしょうか。
かなりおすすめです。
そういえばアニメにもなってましたね。小さい頃見た記憶がありますけど、内容はまるで違ってたようです。
エーリッヒ・ケストナーの「飛ぶ教室」。
寄宿舎暮らしの多感な少年5人組の友情と成長の物語。
大人の目線で読むと、この時期の子どもたちの周囲に、見上げるように尊敬できる大人がいることの重要性を痛感します。
また、ケストナーの洒脱な文章は読むだけでも精神が賦活される気がします。
息子は5人組の中で最も臆病でそれを気に病んでいる「ウーリ」というキャラクターに自分を投影していました。
そうやって自己投影ができるようになったというのは息子にとっては大きな進歩だと思っています。
同じくケストナーの「エーミールと探偵たち」。
ケストナーは不良少年を書くのが上手いですね。
旅先で母親に託された大切なお金を盗まれ、それを取り戻すために奔走する主人公と、自然と協力関係になっていく街の子どもたち。
タイトルからミステリーものかと思いましたが、内容は明るい友情と、みんなで何かを成し遂げる精神の昂揚を描いた上質のジュブナイルです。
今江祥智の「星をかぞえよう」。
これはもう古書の類でして、ご存じない方の方が多そうですけど、私が小学校の頃に図書室で読んで、なんだかすごく印象に残っていたので探し出してきて読みました。
挿絵は長新太さん。
時代設定も古く、田舎で育った主人公の女の子が東京に転校し、そこで男顔負けの活躍をするという…まあ、今読むと男女観の古さが際立ちますが、当時は少女が活躍する作品がどんどん発表されていた頃なんじゃないでしょうか。
今では当たり前ですけどね。
ただ、主人公が立ち向かう相手がバリバリの極道なのが児童書としては異色なんですよね。
主人公は女子中学生ですよ?
それを傷めつけようとする先輩柔道部と、それに手を貸す極道一家。
逆に現代だと出版できないかも。
私は上記のケストナー作品を読んだ後、何故か突然この作品を思い出して読みたくなったのですが、今江さんの別作品のあとがきに、児童小説を書き始めた時、どう書けばいいか悩んでいたら福音館の松居さんが「ケストナーの書き方をものにしなさい」というアドバイスをくれたというエピソードがあって驚きました。
やっぱりどこかで通じるものを感じたんでしょうね。
他にも色々と読んだのですが、切りがないのでまた次の機会に紹介しましょう。
何度も書いたことですが、読書には旬があります。
小学校4年生なら4年生の時期に読んでおくべき本というものがあります。
大人になってから読んでも面白いのは間違いないとしても、その時期の精神にしか響かない本というものもあり、長い時間をかけて熟成すべき内容の本もあるのです。
この先、息子が小学校高学年〜中学生になれば、読むべき本のリストは一気に膨れ上がります。
とても私が読み聞かせていては間に合わないくらいの量になるはずです。
今は習慣として私が本を選び、読んでいますが(後で一人で読み返したりはもちろんしていますが)、いつ息子が自分で本を選び、次々と読む時期がくるのかを注意深く、そして心から楽しみに見守っています。
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今回はエズラ・ジャック・キーツさんの「ピーター」シリーズを取り上げましょう。
回を重ねるごとに少しずつ成長していく主人公の黒人少年。
久しぶりに会うピーターはどのくらい大きくなったでしょうか。
「ピーターのめがね」です。
作・絵:エズラ・ジャック・キーツ
訳:きじまはじめ
出版社:偕成社
発行日:1975年11月
これまでに紹介したシリーズ作品は以下の通り。
「ゆきのひ」で初登場した純粋であどけないピーターも、今作ではすっかり逞しいニューヨークの少年に。
いい感じの親友アーチ―も登場し、愛犬ウィリーも一緒に土管が埋まった空き地の隠れ家で遊んでいます。
アーチ―もこれまた可愛らしい黒人の少年ですが、眼鏡をかけ、ピーターより小柄で大人しいキャラクター。
ピーターは隠れ家の近くでバイク用のゴーグルを拾います。
素敵な宝物に二人は喜び、アーチ―の家へ移動しようとします。
が、そこに大きな子どもたちが現れ、ゴーグルを横取りしようと絡んできます。
ニューヨークこわい。
しかしピーターははっきりと拒否し、両手のげんこつを固めて大きな子たちに立ち向かう姿勢を見せます。
強くなったね…。
けれども一瞬の隙を衝かれ、ピーターは殴り倒されてしまいます。
道に転がったゴーグルをウィリーが咥えて逃走します。
大きな子たちはウィリーを追いかけ、ピーターはアーチ―と隠れ家で落ち合おうと約束してばらばらに逃げ出します。
ウィリーは必ず隠れ家に戻ってくると信じて。
二人は無事に隠れ家に辿り着き、息を殺して土管から様子を伺います。
ウィリーはいましたが、いじめっ子たちの姿も見えます。
そこでアーチ―が機転を利かせ、土管を伝声管にしてウィリーを呼び込みます。
ウィリーはゴーグルを咥えたまま、土管を通って来ます。
さらにピーターは土管をうまく利用して追手を陽動し、無事にアーチ―の家へと逃げ切ります。
二人は小さな勝利に笑い合うのでした。
★ ★ ★
キーツさんの作品から伝わる温かさは、どう言ったらいいのでしょう。
陳腐な言い回しでしかないけど、やっぱり深い愛情、でしょうか。
デビュー前から温めていた主人公ピーターに対してはもちろん、キャラクターのひとりひとり、舞台となるニューヨークの街並み、作品の隅から隅まで、そしてそれを読む読者に対しての愛情も感じずにはいられません。
あの小さかったピーターが、自分のプライドをかけて大きないじめっ子たちに立ち向かうまでに成長したのだと思うと感慨深いものがあります。
実際、作者の育ったニューヨークではこんな光景はよくあったのでしょう。
小さい子どもたちが自分で自分の身を守り、機転を利かせて危機を脱するシーンには共感しますし、そうした経験がさらに子どもたちを成長させるのだという気もします。
とはいえ、現代では殴ったら大問題ですよね。
今でも喧嘩くらいはあるのかもしれないけど、表立っての殴り合いよりももっと陰湿な攻撃から身を護る術も必要な世の中になってきているのを感じます。
どちらがいいとは言えませんけど。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
ピーターとアーチ―の名コンビ度:☆☆☆☆☆
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今回はレイモンド・ブリッグズさんの「くまさん」を紹介しましょう。
作・絵:レイモンド・ブリッグズ
訳:角野栄子
出版社:小学館
発行日:1994年12月20日
追悼記事は書けませんでしたが、ブリッグズさんは昨年8月に鬼籍に入られています。
テキストのない絵本「ゆきだるま」(スノーマン)が良く知られていますが、コマ割りと吹き出しセリフによるコミック形式の「さむがりやのサンタ」「風が吹くとき」といった作品も傑作ぞろいです。
少年とゆきだるまの切ない友情を描いたり、人間臭いサンタの生活と仕事を描いたり、強烈な風刺とブラックユーモアで反戦と反核を訴えたりと、幅広い作風の作家さん。
この「くまさん」はいわば「ゆきだるま」の姉妹作のような作品ですね。
主人公は少年から少女に、友情を結ぶ相手はゆきだるまから大きなくまに。
対象に向かう心情も、冒険に連れ出してくれるゆきだるまと、世話をしてあげるくまという風に、どこかに男の子と女の子の描き分けのような傾向が伺えます。
もちろん古いジェンダー観だと指摘されればその通りかもしれませんけど、そこは時代なので。
しかしながら今回私が特筆したいのは内容よりも本のサイズです。
邦訳版は37cm×27cmという大型絵本で出版されていますが、それによって伝わるくまさんの迫力が半端ない。
窓から少女の寝室に侵入してくるシロクマ。
このでかさ。
可愛さと怖さを併せ持つ動物ナンバーワンじゃないでしょうか。
目を覚ました少女ティリーはまったく驚かず怖がらず、くまさんといっしょに夜を明かします。
次の日、両親にくまさんのことを話しますが、両親はティリーの空想だとして呆れたり笑ったり。
こんな大きなくまがいるのですから両親が気が付かないわけはないのですが、そこは描き方の妙味でして、両親の視線は常にくまを捉えていません。
ですのでくまさんが必ずしもティリーの空想にだけ存在するとは断言できないような構造になっています。
ティリーはくまさんをお風呂で洗ったり、ミルクを飲ませたり、うんちやおしっこの片づけをしたりと世話を焼きます。
時には怒ってお説教。
おそらくは普段自分が母親あたりに言われているお説教をそのまま向けているのでしょう。
お人形遊びあるあるですね。
ティリーはくまさんにずっと一緒にいて欲しいと望みますが、くまさんはそっと部屋を後にし、北極へと帰っていきます。
すべてはティリーの空想の世界だったのか、それとも…。
★ ★ ★
絵本という芸術が、テキストや絵のみでできているわけではなく、そのサイズや製本含めた表現であるということがよくわかります。
大型版絵本の中には子どもが開いたページの上に乗れるほどの大きさのものもありますが、この大きさあってこその「くまさん」だと思います。
だからこそ、教科書などで知った絵本作品でも、原作に触れるとまるで別の印象や発見があるのです。
怖くもあり、可愛くもあり、寄り添った時の安心感もあり、面倒をみたくなる対象でもあるくまさん。
どこか「おちゃのじかんにきたとら」を彷彿とさせるところもありますね。
空想上の友だちという点では「アルド」に通じるでしょうか。
絵本の一つの型ともいうべき構成ですが、やはり最大の特徴はくまさんの巨大さかもしれません。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
くまさん登場時のインパクト度:☆☆☆☆☆
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たまには毛色の違った絵本も紹介していこうということで、今回は写真絵本。
「月刊かがくのとも」より、「せんたくばさみがあつまって…」。
作:さとうゆみか
撮影:ピーター・ルービン
出版社:福音館書店
発行日:2011年8月1日
単行本化されてなくて少々入手困難なのですが、月刊絵本かがくのともにはこうした隠れた名作が多いですね。
個人的に大好きなので取り上げました。
洗濯ばさみアート写真集とでもいうべき内容ですが、想像力を刺激される素敵な物語性も有した絵本です。
使う洗濯ばさみはオーソドックスな「A」の形のみですが、鮮やかな色を繋げていくとこんなにも美しい。
鳥?馬?魚?ヤマアラシ?
洗濯ばさみの表現力ってすごい。
本当に洗濯ばさみに命と意思があるように見えてきます。
ページをめくるたびに楽しい。
そして圧巻のラストは…。
なんと巨大な竜を作ってしまいます。
夕日をバックに空を飛ぶ洗濯ばさみ竜。
ため息が出るほど素晴らしい。
★ ★ ★
子どもの頃を思い出しますね。
家の洗濯ばさみで遊びましたねえ。
もちろん繋げたりして。
ひたすら同じように繋げていくと形状的にカーブしていって、いつかは切れちゃうんですけど、そこを工夫すると長くなったり円になったり。
この絵本ではさらに複雑な繋げ方をして動物や竜を表現しています。
色使いも見事。
子どもは何でも遊びの道具にすると言いますけど、洗濯ばさみはシンプルでありながら「挟む」という性能と独特のフォルムによって無限の想像力を働かせてくれるんですね。
うちの息子も洗濯ばさみでよく遊んでました。
思い切り遊ばせてやりたくてそのために大量の洗濯ばさみを用意したりしましたが、さすがに竜までは辿り着かなかったです。
途中で外れちゃう。
写真の竜はたぶん糸で吊ってるんでしょうけど、洗濯ばさみのピンチ力だけでは重量で外れそうな気がしますね。
接着剤も使ってるんでしょうか。
いずれにしても圧巻ですよね。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆
洗濯ばさみの可能性度:☆☆☆☆☆
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古典絵本といえば昔話や民話。
昔話や民話のいいところは数々ありますが、著作権が無いこともその一つに数えられると思います。
王道と言われる昔話絵本でも、時代時代の要請に応えて微妙にその形を変えていますし、そうやって変化し続ける性質があるからこそ、長久の時を超えて昔話が生き残り続けられるのだと言えます。
そしてまた、著作権がなく、なおかつ誰でも内容を知っているからこそ様々なパロディを楽しめるのも昔話の特徴です。
今回は大人から子どもまで楽しめる極上のパロディ絵本「3びきのかわいいオオカミ」を紹介します。
文:ユージーン・トリビザス
絵:ヘレン・オクセンバリー
訳:こだまともこ
出版社:冨山房
発行日:1994年5月18日
元ネタは言わずもがな、「3びきのこぶた」です。
このブログでは過去何作かこの王道絵本のユニークなパロディを取り上げています。
上記2作品いずれも作者の独創性や遊び心が満載の傑作ですが、今作はお話の筋そのものに関してはいわゆる逆転ものでして、オオカミとこぶたの役割を入れ替えた内容になっています。
こう書くとさほど特徴的ではないように見えますけど、そのインパクトは他パロディに勝るとも劣らず。
お母さんから独り立ちを促された3びきのかわいいオオカミたちは、レンガで家を作ります。
最初からレンガ。そしてバラバラではなく3びき一緒に暮らします。
そこへ「わるいおおブタ」が通りかかります。
いや、顔。これは悪い。
おおブタはオオカミたちの住居に侵入しようとしますが、レンガ造りの家は息を吹いたくらいでは壊れません。
するとおおブタはハンマーを持ってきて家を叩き壊してしまいます。
この力業。
オオカミたちは逃げ出し、次はコンクリートでさらに頑丈な家を建てます。
おおブタの悪事はさらにエスカレートし、今度は電動ドリルで家を破壊。
次にはオオカミたちは鉄条網や南京錠を使い、さらに厳重なセキュリティハウスを建築。
もはや家と言うより要塞。
それでも諦めないおおブタは、とうとうダイナマイトを持ち出して家を吹き飛ばしてしまいます。
もうめちゃくちゃ。
いくら頑丈な素材で家を作っても、それを超える兵器とのイタチごっこが繰り返されるだけだという現実に、オオカミたちは発想を改め、今度は花で家を作ってみます。
すると今度もやってきたおおブタは、花のいい香りを吸い込んで気分が良くなり、だんだん優しい心になっていき、ついには踊り出します。
改心したおおブタはオオカミたちと仲良くなり、4ひきで幸せに暮らすようになるのでした。
★ ★ ★
おおブタの突き抜けたワルっぷりと破壊行動が面白過ぎる。
ヘレン・オクセンバリーさんによる絵の力も大きいです。
おおブタの表情や躍動感も見事だし、クロッケーやバドミントンに興じるオオカミたちの描写もおしゃれ。
あれだけ極悪非道のワルだったおおブタがあっさり改悛してしまうラストを含めてユーモラスですが、ここには社会から犯罪を減らすためにはセキュリティよりも花々に象徴される人の心の余裕こそが有効なのだというメッセージが見られます。
作者のユージーン・トリビザスさんは作家であると同時に著名な犯罪学者でもあるそうで、なるほどと納得。
それにしてもやっぱりおおブタのインパクトがほとんど持って行ってますけどね。
それもまたよし。
面白ければメッセージは後から伝わります。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
おおブタの迫力度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「3びきのかわいいオオカミ」
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10月に入ったら急に涼しくなりましたね。
これくらいの気温が続いてくれたらいいんですけど、油断してるとまた急に寒くなりますからねえ。
今回は「オオカミのごちそう」を紹介します。
文:木村祐一
絵:田島征三
出版社:偕成社
発行日:1999年4月
「あらしのよるに」シリーズを代表作として、数々の絵本を作っている木村祐一さんと、「ちからたろう」に代表される強烈に土臭いインパクトある画力の田島征三さんのタッグ作品。
今回も田島さんの絵筆は冴えわたっていますが、まずはこのオオカミの造形。
毛並みが稲妻のように尖り、口は耳まで裂け、ギョロ目に牙に真っ赤な舌。
ほとんど怪獣。
こんな化物みたいなオオカミに狙われたコブタは、また対照的に可愛らしく小さく、田島さんには珍しい鮮やかな光沢あるピンク色が用いられています。
なんだか中華料理的なコブタ。
すんでのところで難を逃れます。
オオカミはおいしそうなコブタが諦めきれず、どうあってもあのコブタを掴まえようと捜索を開始します。
丘の動物たちはオオカミを恐れて逃げ惑いますが、オオカミは目もくれません。
狙うはあのコブタただ一匹。
ここでオオカミの思い描くコブタが描かれますが、頭の中のコブタは現実より少し大きく太っています。
ここがこの絵本のポイント。
そして対照的にオオカミは腹をすかしてどんどん瘦せ細っていきます。
それでもコブタを美味しく食べるために、他の獲物には手を付けません。
オオカミの頭の中のコブタは丸々と太るばかり。
そしてついにコブタを見つけ、大きく口を開けてかぶりつこうとしますが……。
そこでふと、オオカミは考えます。
あのコブタ、こんなに小さかったっけ。
これはきっと違うコブタだと思いなおし、結局コブタは食べずにまた歩き始めるのでした。
★ ★ ★
「逃がした魚は大きい」を絵本化したような作品。
木村さんの遊び心に、田島さんの筆が最大に応えていますね。
繰り返しになりますが、田島作品にはやや珍しい鮮やかな色使いが特徴的です。
ピンク、緑、水色などがふんだんに使われています。
過剰に痩せて針金みたいになっていくオオカミが滑稽でもあり、いっそ哀れにも見えてしまいます。
絵本によく登場する、憎めないオオカミの一典型。
摂食障害みたい。
コブタが食べられなくて良かったと安心する反面、オオカミには妥協してもらって何でもいいから食べて欲しいと思わずにはいられませんね……。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
豚の丸焼き食べたい度:☆☆☆☆
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うちの息子は何でも最悪のケースを想像しがちで、それもまるで現実的でない内容を心配します。
それこそ天が落ちてきたらどうしようかというレベルの「杞憂」です。
本人もそれが無意味であることは自覚しつつも、思考の暴走を止められず、埒もない繰り言を言っては行動をためらいます。
もっとも、息子ほどわかりやすい形でないにしろ、内向的で恐怖心が強く、自己否定に走りがちな子どもは少なくないものです。
それはある意味で精神的に老成しているとも言えます。
大人は自分の願望として、子どもを天真爛漫で未来への希望に満ち、輝いている存在として捉えたがりますけど、子どもが冷静に自分のことを見つめるとすれば、社会的に未成熟で生きるスキルが足りない事実に不安を感じ、押しつぶされそうになったとしても不思議はありません。
今回はそんなナイーブで内気な子どもの内面を描いた「ボールのまじゅつしウィリー」を読んでいきます。
作・絵:アンソニー・ブラウン
訳:久山太市
出版社:評論社
発行日:1998年1月30日
この見事なまでの擬人化イラストですぐにわかりますけど、以前に紹介した「ウィリーとともだち」と同じシリーズです。
アンソニーさんの手腕については上の記事で詳しく触れていますので、是非併せてお読みいただければと思います。
この作品の主人公は他作品の「ウィリー」とおそらく同一人物ですけど、物語的な繋がりは見られません。
核は内向的で優しく、神経質で弱いウィリーのキャラクターにあります。
ウィリーだけがチンパンジーで、周囲はみんなマッチョなゴリラとして描かれることにより、ウィリーの劣等感が浮き上がるのは他シリーズと同じ見事な構造ですね。
テキストを用いずともこれだけで表現が完成するのは絵本の特性を最大に活かしていると言えます。
ウィリーはサッカーが好きで、チームに所属し、毎週練習に通っていますが、一度も選手に選ばれたことがなく、パスさえ回してもらえません。
ある日、練習の帰り道でウィリーは不思議な男の子を見かけます。
その子は一人でボールを蹴っていましたが、いつの間にかウィリーは彼と練習を始めます。
やがて男の子はウィリーにサッカーシューズを手渡します。
そしてそのままいなくなってしまいます。
家に帰ったウィリーはもらった靴を磨き、次の練習に使います。
古ぼけたサッカーシューズを履いたウィリーは別人のような活躍を見せ、周囲を驚かせます。
そしてウィリーは次の試合の選手に選ばれます。
ウィリーは嬉しさでいっぱいになり、毎日練習に励みます。
めきめきと上達し、ウィリーはこれは魔法の靴なんだと信じます。
そして試合当日。
不安と緊張で寝付けない夜を過ごしたウィリーは、舞い上がって大切な魔法の靴を忘れて試合に来てしまいます。
真っ青になるウィリー。
試合が始まり、もはや考える暇もなくボールを蹴り出すウィリー。
すると魔法の靴がなくてもウィリーは右に左に相手をかわし、魔術師のようにボールを操って見事なゴールを決めます。
試合はウィリーの大活躍で勝利。
ウィリーは観客の大歓声を受け、幸せな気持ちで帰路につきます。
★ ★ ★
いや、画力は言うに及ばず、それを含めたキャラクター造形の秀逸さ。
絵本においてこの手の主人公を魅力的に描くというのは、なかなか凡庸な作家になせる業ではないです。
歩道の継ぎ目を踏まないように注意して歩く。
階段を一段一段数えながら上る。
きっかり4分間歯を磨き、トイレに行って、ベッドにジャンプ。
このルーティンをけっして変えないウィリー。
このあたり、うちの息子に通じるものがあります。
彼らは決められたルーティンを変えることが不安で仕方ないのです。
試合に遅れそうになって慌てて駆けていくシーンでは、歩道の継ぎ目を踏んでいるウィリーの足元が描かれるという演出の妙。
主人公と共に読者を不安にさせ、けれども結果的には練習通りの大活躍を見せ、ラストカットで幸せな気持ちで歩くウィリーは意識もせず歩道の継ぎ目を踏んでいます。
これは別にウィリーが心身ともにマッチョになったということではありません。
ウィリーはウィリーのままであり、おそらくこれからもルーティンを守って生活するだろうし、明日からはまた歩道の継ぎ目を気にするかもしれません。
でも、自分の中で確実に何かが変わったという実感は、ウィリーのようなタイプの子どもだからこそ、とてつもなく深い喜びとして心に根差しているはずです。
似たような子どもを持つ親として、そして自身も弱いタイプの子どもだった人間として、作者のこのエールには涙が出そうになるのです。
推奨年齢:7歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
謎の少年の正体が裏表紙でわかる仕掛けの憎さ度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ボールのまじゅつしウィリー」
■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「400冊分の絵本の紹介記事一覧」
■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。
■絵本の買取依頼もお待ちしております。
〒578−0981
大阪府東大阪市島之内2−12−43
E-Mail:book@ehonizm.com
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
おかげさまで当店も7周年。
我が家の息子も10歳になりました。
でかくなったな…(身体だけは)。
クラスでも1番か2番くらい背が高いみたいです。
私は小さい方なので妻の家系でしょうか。
偏食だけど肉ばっかり食べてるせいかもしれませんね。
これまでの育児記録は過去記事で読めます。
身体は大きいけど心は幼いし、弱視、ADHD、自閉症スペクトラム、色々とサポートが必要な子です。
でも、確実に少しずつ精神も成長しているのを実感しています。
それは本当に毎日の生活の中で微妙に変化していくように現れるので、注意深く観察していないと見落としてしまいがちな成長ではあります。
寝るのを嫌がらなくなったこと。
ほんの少しだけど妥協ができるようになったこと。
カッとなったり落ち込んだりした後で情緒を安定させるまでの時間が短くなったこと。
例えば何かを作ったりしている途中で時間が遅くなって寝ることになったとしても、以前のように終わるまでやめられない!と騒いだりしなくなりました。
渋々ながら続きは明日にしたり、あるいは「ここまででやめる」と自分で区切りをつけて譲歩したりといったことができるようになりました。
学校では時々対人トラブル的なことも起こすのですが、今のところは先生方のサポートもあり、大きな事件もなく過ごせています。
自分で自分のことはよくわかっています。
自分で自分を制御できない時があること、常に白黒つけないと収まらないこと、決まったルーティンを変えられるのが苦手なことなど、自覚しています。
私とよくそんな話をしていますが、息子の方は「だから自分は駄目なんだ」と否定的な方向へ行こうとし、私が「それは何も問題ではないし君の責任でもない、ただ自分と周りは同じではない以上、ぶつからない方法を探した方が生きやすいでしょう」という方向へやんわりと導いて、「それも今すぐできるようになる必要もないので、ゆっくり成長すればいい、現に1年前と今とではまったく違うんだから」と話を落とすのがパターンです。
「まあいいか」が言えるようになってほしいし、その方が楽に生きられるよ、と。
息子は全面的に納得するわけではないけど、なんだかんだ理屈っぽいことを言いながらもそれでいったん落ち着くのが、荒れた時の習慣のようになりつつあります。
手前味噌のようですけど、息子も口では生意気なことを言いつつ、内心では私にそういうことを言ってもらいたい気配があります。
めんどくさいやつなので。
けれども一方で、いつまでも私が息子の精神面の支柱として大きい部分を請け負っていてはよくないのではないかな、とも思っています。
理解ある親であることは大切ですけど、そろそろ家族以外の他人の理解者という存在が必要な気がするんですね。
教師であったり、友だちであったり。
普通の子とは成長の仕方が違うとはいえ、息子にも尊敬や友情といった感情が大切になってくる時期です。
好きな先生はいるみたいだし、話をするクラスメイトもそれなりにいるみたいだけど、放課後に遊ぶということは全くといっていいくらいないし(今の子はそういうものなんですかね)、最近ゲーム(マイクラ)のマルチプレイがやってみたいというので、友だちでやれる子を見つければ、と言ったんですけど上手く誘えないようで、結局私が付き合って一緒に遊んでます。
面白いですね、マイクラ。
でも、社会から認められるという実感を持つことは非常に重要だと思います。
焦りはしてないけど、私と遊ぶより友だちを優先する日が早く来てほしいですね。
能力に関しては、もういちいち言うこともないです。
幼い頃からの本の読み聞かせがどれほどの効果を与えたのか、検証のしようもないですけど、息子の言語能力は高いですし(インプットの総量が大きすぎてアウトプットがまだ追いついてない感はあります)、上記のような感情を制御する上で「様々な言葉を知っている」ことが大きな役割を果たしていると思います。
理解力や記憶力も分野により凸凹はあるものの基本的に優れているし、あとは好きなことにしか集中できない点を少々修正して、少し先の未来のために頑張ることができれば可能性は一気に広がるだろうと考えています。
絵本読み聞かせによる英才教育を施そうと考えた当初、10歳にもなれば、興味のあることなら独学で何でも身に付けて、どんどん新しい才能を発揮していくようになるという理想を描いていました。
息子には十分そういう能力があると思うのですが、しかしやはりサポートは普通の子よりも多く必要だと感じています。
息子のようなタイプには、こちらが何かきっかけを作ってやったり、最初の一歩を後押ししてあげないといけない部分があるのでしょう。
積極的に社会とかかわることがないので、自分の能力をどう伸ばし、どこへ向かうといいのか、そういう所はなかなか一人ではわからないと思います。
どこまでも親に楽をさせてくれないタイプなんですよね。
責任を感じています。
これからも親子ともに成長していかなければならないわけですが、どうぞよろしくお願いいたします。
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
誰でも子どもの頃に一度は宇宙の果てについて考えたことがあると思いますが、考えれば考えるほどわけがわからなくなってきますよね。
私は子どもの頃、夜寝ようとする時によく存在について考えてしまい、頭がぐちゃぐちゃになって眠れなくなってしまうことがありました。
存在といってもそんなに難しい言葉で考えてたわけじゃなく(難しい言葉知らないし)、「ある」とか「ない」とかいうことさえ「ない」という状態をどうやっても思い描くことができずに、思考がぐるぐると堂々巡りになってしまったものです。
大人になるにつれ、「そんなこと考えても仕方ない」「わからないものはわからない」と、考えるのをやめてしまうものだし、もっと実務的な思考をするようになりました。
それが悪いわけではなく、そういうものだと思います。
一方でそういうことをどこまでも考え続ける一部の人々が哲学者や数学者になり、私たちが諦めてしまった思考の旅を続け、新しい景色を見せてくれるのでしょう。
今回は京大の名物教授として、コラムやエッセイなどでも活躍した森毅さんと、同じく数学者の木幡寛さんによる「はてなし世界の入り口」を紹介しましょう。
文:森毅・木幡寛
絵:タイガー立石
出版社:福音館書店
発行日:1990年10月10日
表紙にはどこまでも続く「にわとりとたまご」の絵。
よくある「鶏が先か卵が先か」のきりがない議論ですね。
その手の「はてなし世界」を次々と展開しますが、やっぱり答えは出ないのに何故か爽快な気持ちにさせてくれます。
それは特にタイガー立石さんのイラストの力によるところが大きいと思いますね。
言葉だけだとこんがらかる話でも、絵にするとわからないながらも何となく腑に落ちる不思議。
ロシアのマトリョーシカ。
人形の中に小さな人形が入ってて、その中にさらに小さな人形が…というあれですけど、もしもこれがどこまでもどこまでも続くとしたら…という絵。
小人がさらに細かい人形を細工している図がおもしろい。
最も大きい数の単位は無量大数。
凄いラスボス感ある単位ですけど、理論上はこれで終わるわけじゃないですよね。
そこでもっと大きな単位を考えて勝手に名前を付けたら?
「1無量大数×1京=1ドドダム」なんてとてつもないのが出てきます。
これも有名なアキレスとカメの駆け比べの話ですね。
もちろん机上の空論なんですけど、こんなことを真剣に考える楽しさ。
★ ★ ★
タイガー立石さんの絵本は以前に「とらのゆめ」を紹介しました。
「とらのゆめ」もまた無限に広がるかのような世界が魅力的な作品ですが、タイガー立石さんはこの手のイラストが得意ですね。
ユーモラスだけど緻密で美しい。
自分も何かの「はてなし世界」を描いてみたくなります。
人間の認識には限界があるのかないのか、という問題もずっと哲学上のテーマですけど、想像力もまた「はてなし世界」のようにどこまでもどこまでも広がっているのだと思います。
推奨年齢:小学校中学年〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
思考実験のわくわく度:☆☆☆☆☆
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お盆も明け、夏バテなど体調崩されていないでしょうか?
私は、というか我が家はズタボロでしたねぇ……。
まず夏休み入るなり私、妻、息子の全員がコロナ陽性。
息子はあまり症状がなく、私は普通にしんどかったけど病院で薬をもらい一週間ほど籠城してたら回復しました。
ただ妻は一番症状が重く、喉の痛みがひどい上に長引き、味覚や嗅覚もおかしくなっていまだに完全に戻ってません。
それでも一応元気にはなったのでやれやれ。
ところが次には息子と私が中耳炎を患い、また一苦労。
何でしょうね、やっぱり免疫が弱ったところをやられたってことでしょうかね。
世間では何故かコロナが終わったかのような空気になりつつありますが、普通に流行してますし罹ったら辛すぎるのでお気を付けくださいね。
そんなわけで夏休みだというのにどこにも遊びに行けない状況が続き、退屈すぎて息子は仕方なしに(?)結構本を読んでました。
本に囲まれて育ったとはいえ、そう本の虫というタイプでもないんですが、一度スイッチが入ると10冊くらい一気読みしてますね。
早すぎて内容ちゃんと読んでるのか謎ですけど。
ちょっと前にずっと買い置きして読ませてくれなかったミヒャエル・エンデの「ジム・ボタンと機関車大旅行」を寝る前の読み聞かせ時間に読ませてくれるようになり、続編の「ジム・ボタンと13人の海賊」も読了、かなり面白かったようで自分でも何度も読み返すようになりました。
あと、長靴下のピッピ三部作もリピートしてましたね。
学校で借りてくる本では、そろそろかいけつゾロリは卒業して、今は銭天堂シリーズが人気みたいです。
最近は「飛ぶ教室」を読み始めました。
恥ずかしながら私も読んだことがなかった古典児童書なんですけど、ほんとに面白い。
そのうち感想文書いてみたいです。
「飛ぶ教室」は多感な少年たちの成長や友情を描いた物語ですが、大人になりつつあるけどまだ子どもというあの年代の心の動きを繊細にとらえており、息子は少なからず自分に投影している様子です。
そうやって登場人物に感情移入することができるようになったことに、息子の成長を感じますね。
というのは、息子の性質的にこの手の共感が苦手だったからです。
浴びるほど絵本を読んできても、物語の登場人物の気持ちを察することは難しいらしく、これまでずっとある種のズレを感じてきました。
悲しい、可哀そうなシーンでは不愉快になり(自分の感情を整理できないので暗いムードに腹を立てる)、勇ましいシーンではゲラゲラ笑ったり(擬音が面白いとかいう理由で)、遠回しな表現や皮肉に対してはきょとんとする、といった反応が多かったのです。
それを自閉症による特性だからと理解することは大切ですが、絶対に変わらないと思い込むのも違う気がします。
子どもの成長にはムラがあり、凸凹があり、息子のようなタイプはそれが特に顕著です。
年齢の割にできないことがたくさんありますが(年齢以上にできることもたくさんありますけど)、その部分はゆっくりと成長しているということです。
もちろんそのままかもしれませんが、少なくとも1年前と今の息子の情緒は比べようもなく変わっていると感じます。
物語の登場人物の繊細な感情の動きまで理解できているわけではないようですけど、特に自分自身に対する悩み(「飛ぶ教室」で自分の不安と恐怖に苦悩するウーリのような)には「ぼくと似てるな」などとコメントすることが増えました。
子どもにとって物語が重要な点はいくつもありますけど、この「これは自分と同じだ」と感じる体験は本当に、本当に大切だと思います。
立派な人間、天使のような子ども、平和で悩みのない世界、そうした物語もいいですけど、それ以上に欠点だらけの人物や失敗を繰り返す子どもを見て、「こんなことをしてしまうのは自分だけではないんだ」と思うことは、特に息子のような子どもにとってはある種の救いなのです。
そしてその感情こそが、自分自身を客観視する第一歩なのです。
それを達成できれば子どもの物語の果たすべき使命のほとんどは完了したとさえ言えると思います。
息子はゆっくりとですが、自分自身を見つめ、理解していっています。
まだまだ感情を制御できずに振り回され、不安に押しつぶされ、自己否定に走ってしまう面は多々あるけど、そういう自分を自覚しているなら、そこから先へ進む道はついているということです。
これからもめんどくさい息子にとことん付き合っていこうと思います。
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今回紹介するのは「ねぬ」という変わったタイトルの作品です。
作・絵:こしだミカ
出版社:架空社
発行日:2014年1月
作者はこしだミカさん。
土臭く力強い画風に引き込まれ、つい手に取って開きたくなりますね。
テキストもコテコテの関西弁で、大阪生まれの私にはとても親しみの湧く作家さんです。
さて、「ねぬ」とは一体なんなんでしょう?
主人公は種族は犬ですが、自分ではそれが嫌で「ねこになりたい」と思って、猫になろうと努力してきました。
爪を研ぎ、牙を尖らせ、忍び足。
「ねこみたいな いぬ。で、ねぬ ちゅうわけや」
しかしながら世間はそんな変わり者に対して冷たく、犬からも、そして仲良くしたいと思っている猫からも、ねぬは仲間外れにされています。
誰一人理解者がいなくとも、ねぬは虚勢を張って自分の生き方を貫きます。
ある時、ねぬは捨てられた子猫やケガをした野良犬に出会います。
行くあてのない境遇同士が引き合うのか、彼らは何故かねぬのねぐらの周りに住み着きます。
ねぬは保健所の人間から仲間たちを守り、森へ逃げ込みます。
森には先客がいて、彼らのリーダーは猫のような犬のような変な見た目の動物。
縄張り争いとなり、ねぬは森のリーダーと対決します。
勝負はつかず、息を切らせたねぬは「おまえ いったい なにもんや?」
「わたし、いぬみたいに はなが きくし ねこみたいに みが かるい。そやから いぬの「い」とねこの「こ」とって いこ。かっこええやろ?」
初めて見た自分と同じような相手。
しかも世間から外れた自分を誇りにさえ思っているような堂々たる振る舞いに、ねぬはいたく感動し、涙を流します。
ねぬたちは仲間となり、一緒に森で暮らし始めます。
やがて仲間の中から家族ができ、子どもが生まれ、幸せな共同体を作り上げます。
★ ★ ★
物語の読み解きようは自由ですが、やはり真っ先にこの作品から思い浮かぶのは性的マイノリティの存在でしょう。
ことに最近、LGBT法案が話題に上ることが多く、今この絵本を紹介しておきたいと思った次第です。
私の思想を述べるなら、件の法案そのものはまだまだ内容に不備が多いものの、大事な一歩ではあると思っています。
色んな時代遅れな意見(伝統的家族観がどうとか)が当然のようにまかり通る社会ですが、人権を基盤とする先進国を自称するのであれば、いずれは性的マイノリティの人権を認めて行かなければなりません。
法案は可決されたと言っても依然として性的マイノリティに対する差別と偏見は根強く、追い込まれて自ら命を絶った人も多くいます。
私にしてみれば何故性という個人的な問題に、他人がやたらと興味を持って首を突っ込みたがるのか意味が分かりません。
放っておけばいいんじゃないでしょうか。
犯罪がどうとか劣情を煽る手法も見かけますが、犯罪は犯罪として取り締まるだけの話であり、それは昔から同じことです。
人間は「自由になろうとする」勢力と「現状に留まろう」とする勢力の綱引きで、常にわずかずつ「自由」側が勝利することで先へと進んでいくものだと私は考えています。
もちろん急激な変化には副作用もありますが、少なくとも人権という分野においては日本はすでにかなり遅れを取っているのが現状です。
私は若い世代ともよく話をするのですが、彼らは明らかに我々の年代よりも性に対してフラットです。
性的マイノリティについても、「ふーん」といった程度の反応で、むしろそれが健全なのではないかと思います。
やたらに拘ったり、肩ひじを張ったりしているのはおじさん世代ばかりです。
これからの未来を担う子どもたちには偏見を持ってほしくはありません。
すでに偏見にまみれた大人たちによる「教育」よりも、様々な本との出会いこそが、未来への希望だという気がしています。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
夏休み本番ということで、昆虫絵本を紹介しましょう。
「わたし、くわがた」です。
作:得田之久
絵:たかはしきよし
出版社:福音館書店
発行日:2006年6月1日
かなり前に紹介した「ぼく、だんごむし」と同じシリーズ。
コラージュによる温かみあるイラストと図鑑的詳細な解説、そして虫の一人称による親しみあるテキストという特徴は変わりません。
だんごむしの意外な習性や属性が明かされたように、今回もくわがたというメジャーな昆虫を扱いながら、意外と知られていない部分にスポットが当てられます。
メスのくわがたが主人公なんです。
くわがたといえばやっぱりあの立派なあごを真っ先に思い浮かべるのですが、めすにはそんな大あごはありません。
夜になると樹液を求めて雑木林を飛びます。
クヌギやコナラに樹液が出る仕組みも教えてくれます。
もちろん樹液を吸いに来るのはくわがただけではありません。
カブトムシ、蛾、カミキリムシなどが大量に群がってきます。
時には場所の奪い合いでオス同士の戦いが始まる場合もあります。
しかし戦いに勝っても、昆虫を狙うフクロウなどの天敵に襲われてしまうことも。
そんな男たちを尻目に、くわがたのメスはせっせと樹液を飲んでいます。
身体の小さいメスは天敵に見つかりにくいという利点も持っているのです。
くわがたの種類は色々。
やはり大あごの形が特徴的なので見分けやすいけども、メス同士はよく似ています。
メスが卵を産むのは腐りかかった枯れ木。
表面をかじって穴を開け、その中に一つずつ卵を産み付けていきます。
あごは小さくても、ちゃんと力は強いのです。
★ ★ ★
今の子どもたちも夏休みに昆虫採集するのでしょうか。
減ったでしょうね。
息子には自然に親しんでほしいと日々思っていますが、暑いしこの夏休みはほとんど家でマイクラ三昧。
まあ、近所の公園に行っても昔ほど虫も取れないでしょうしね。
地面を掘ってもミミズも出ないし。
息子本人は虫に興味がないわけではないみたいですが、図鑑で十分のようです。
本物の虫は触れないみたいだし。
私自身は子どもの頃、全然昆虫に興味がない少年だったので(考えてみたら乗り物とかプラモとかにもあんまり興味なかった)、息子のことをどうこう言えませんけどもね。
子どもたちを取り巻く環境はどんどん変わっていきますけど、その中でも昆虫に対する突出した好奇心を発揮して研究者の道を進むべくして進む子どもは、この先も一定数生まれ続けることを信じています。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
でもやっぱり昆虫対決は永遠のロマン度:☆☆☆☆
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
暑くなってきましたね。
熱中症などお気をつけてお過ごしください。
子どもたちの夏休みも近づいてきましたが、ここ数年はコロナウイルスの流行でなかなかお出かけも自由にできにくい世の中だったんですけど、今年はどうでしょうかね。
うちの息子は水遊びが大好きですけど、これまでまともに海で遊んだことがありません。
そもそも自然と触れ合う機会がほとんどなかったです。
親としては子どものうちに自然を感じて欲しかったんですが、息子は過敏な質で、公園へ連れて行っても虫や植物には触れることもできませんし、プールは好きだけど海は興味なさそうです。
まあ本当に綺麗な海ならいいと思いますけど、前述したようになかなか遠出もできませんでしたしね。
潔癖というわけではないです。汚いし。
これもまた自閉症あるあるのようですが。
さて、今回は自然を感じる絵本ということで、「うみがめぐり」を持ってきました。
作・絵:かわさきしゅんいち
出版社:仮説社
発行日:2017年4月28日
息子も私もお気に入りの一冊で、何度か繰り返して読んだ絵本です。
作者のかわさきさんは動物画家でもありまして、生き物の描写に重厚な迫力があり、皮膚の質感まで伝わってきます。
海の表情、波や闇や光の描き方も印象的です。
海辺の砂の中でいっせいに孵化するウミガメの卵。
「メキラ パキラ メメキラ パキラ」という卵の割れる音も独特でリズミカル。
生まれたばかりのウミガメたちは危険な砂浜を渡り、本能のままに海を目指します。
様々な敵に狙われ、仲間たちは散り散りに。
一匹だけになったウミガメは海の中の不思議な光景、奇妙な生き物たちを見ながら旅を続けます。
海の世界は美しいけれども容赦のない弱肉強食。
鰯の大群に突っ込むマグロも、ザトウクジラに食われていきます。
「たべられた いのちは どうなるんだろう?」
という問いかけには、ちゃんとその命には役割があり、別の命を育てることが示されます。
壮大な自然のサイクル。
「どんないきものだって さいご たべられることで いのちのバトンを リレーする」
「たべるということは いのちをうばうということではなく いのちを すこしのあいだ かりること」
「いつか かならず かえすもの」
大切なメッセージを伝えて、海はどこまでも広がっていきます。
★ ★ ★
軽快なテキストと大迫力のイラストで、命と自然をみつめさせる作品です。
巻末や見返しには図鑑よりも詳細なくらいウミガメや海の生き物についての生態が書き込まれ、環境問題や乱獲問題にも触れています。
作者が本当に生き物大好きなのが読み手にも伝わります。
むしろ図鑑よりもメッセージ性が強い絵本の方が生き生きと生態を伝えられているかもしれません。
また、作中に登場して画面狭しと躍動する生き物たちも巻末に詳しく紹介されており、何度も読み返しては彼らの姿を発見する楽しみも。
参考文献もしっかり子どもの目につくところに記載されており、幼い学者の興味を誘う仕事っぷりも好印象。
また絵本好きならこの作品からすぐに連想するのはレオ・レオニさんの「スイミー」ですよね。
コンセプトや内容は全く違いますけど、明らかに作者がスイミーから影響を受けているであろう箇所が散見され、絵本マニアとしてはそこにもニヤリとさせられます。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
水族館のお供にもおすすめ度:☆☆☆☆☆
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今回は2014年の発表と同時に世界中で翻訳され、大ブレイクした絵本を紹介します。
「リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険」です。
作・絵:トーベン・クールマン
訳:金原瑞人
出版社:ブロンズ新社
発行日:2015年4月25日
あえて擦れたような古本感がインパクト大な装丁。
かなり話題になったので見たことある人も多いでしょう。
作者のクールマンさんはドイツのハンブルク応用科学大学に在学中、卒業制作としてこの絵本を描いたのですが、これが瞬く間に大ヒット。
上述したように世界各国で翻訳出版され、世界的な絵本作家として輝かしいデビューを飾ったのです。
とにかく画力に圧倒されます。
ページ数が多く、テキストには漢字も使われていますが、文量はさほど多くなく、子どもにも難しくはありません。
迫力のある構図が多用され、一枚一枚のカットをじっくり見ながら読んでいくとなかなか時間はかかります。
物語は港町に住む一匹のネズミが、自作の飛行機で海を渡り、アメリカを目指すという内容。
ネズミにとって危険が多く、安心して暮らせない港町から、仲間がいる自由の国アメリカへ渡ろうと考えたネズミですが、船に乗り込もうとすると猫に追い回されてしまいます。
図書館が好きで、様々な知識を持っていたネズミは、飛行機を作って空を飛んでアメリカへ渡ることを思いつきます。
何度も失敗を重ね、飛行機を改良していきます。
そんなネズミの飛行実験が人間の目に留まり、ちょっとした話題になります。
そしてネズミをつけ狙うフクロウたちの目にも。
たくさんの危険に囲まれながら、諦めずに工夫と努力を積み重ね、ついにネズミは大空へと飛び立ちます。
ネズミは海を渡り、ニューヨークへ着陸します。
仲間たちに歓迎され、そして人間たちはこの飛行ネズミのニュースで湧きかえります。
そんな飛行ネズミのポスターを見て、一人の少年が自分もいつか空を飛びたいと心を躍らせます。
その少年こそ、のちの歴史的英雄となったチャールズ・リンドバーグでした。
★ ★ ★
突出した画力についてはすでに触れましたが、構図も上手い。
ネズミのような小さな動物の目線で大きな世界を描くというのは絵本ではよく使われる手法ですが、フクロウや猫の迫力は大人でも思わずドキドキしてしまうほど。
そしてそんな小さく弱いネズミが知恵と勇気と不屈の精神で不可能を可能に変えるストーリー、歴史上の人物をモチーフにして、実際の航空史に興味を持たせる構成、細部まで描きこまれた飛行機の構造など、様々な要素が詰まっているところがこの作品の魅力であり、世界20か国以上で翻訳されたのも頷けます。
作者はこの大成功の後も精力的に制作活動を続け、「アームストロング」「エジソン」「アインシュタイン」などの歴史上の偉人をモデルにしたネズミの物語シリーズを次々に発表しています。
少しずつシリーズ同士の関連なども示唆されているので、そこもシリーズ通して読む楽しみとなっています。
推奨年齢:小学校低学年〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
絵の美しさ度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険」
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初めて図書館に入った時のことを覚えていますか?
私は割と鮮明に思い出せます。
街の喧騒から一歩館内に足を踏み入れると、一瞬にして流れるあの静謐。
埃一つ落ちてない清潔な床、整然と並んだ本棚。
まだ読んだことのない本がこんなにもあるというだけで無性に胸がわくわくしたものです。
あの独特の空気は、本屋さんとはまた違いますね。
昨今、商業施設と一体になった大きな本屋さんが増えていますが(というか小さな町の本屋さんが消えて行ってますが…)、お洒落なカフェと合体していたり、あれはあれでいいと思うんですけど、図書館の空気はやはり図書館でしか味わえないようです。
今回紹介するのは「としょかんライオン」です。
作:ミシェル・ヌードセン
絵:ケビン・ホークス
訳:福本友美子
出版社:岩崎書店
発行日:2007年4月20日
作者のミシェル・ヌードセンさんは図書館員の経験者。
ある日、突然一匹のライオンが図書館に入ってきます。
受付に座っていた図書館員のマクビーさんは慌てて駆け出し、館長のメリウェザーさんのところへ報告に行きます。
するといかにも図書館長といった風情のメリウェザーさんは「はしっては いけません」。
ライオンがいることを知らされても少しも慌てず、そのライオンが図書館の決まりを守らないのかとマクビーさんに問います。
マクビーさんは困ってしまって「べつに そういうわけでは……」。
「それなら そのままにしておきなさい」。
さて、ライオンは図書館の中を静かに歩き回り、お話の時間が来ると子どもたちに混じってお話を聞こうと座ります。
お話をするお姉さんはびくびくもので読み進めますが、ライオンは大人しく聞いています。
やがてお話の時間が終わると、もっと聞きたかったのか、ライオンは不満そうな大声を上げます。
とたんにメリウェザーさんが歩いてきて、ライオンに注意を与えます。
ライオンはしょんぼり。
でも、子どもたちはライオンが好きになったよう。
決まりを守れば明日からも来てもいいと言われ、その日からライオンは毎日図書館に通うようになります。
そのうちにライオンは図書館の仕事を手伝ったりして、最初は怖がっていた大人たちも次第にライオンを認めるようになってきます。
もはやライオンは図書館になくてはならない存在となってきたのです。
ただ、マクビーさんだけは仕事を取られたような気分で面白くありません。
そんなある日、メリウェザーさんが高い位置の本を取ろうとして踏み台から落ちて怪我をします。
骨を折って動くこともできません。
見ていたライオンはマクビーさんを呼びに走り出しますが、この状況でも決まりにうるさいメリウェザーさんは「はしっては いけません」。
ライオンはマクビーさんのところへ行きますが、マクビーさんはライオンが伝えたいことを理解してくれません。
業を煮やしたライオンは大きな声で吠えます。
びっくりしたマクビーさんはメリウェザーさんのところへ行き、そこでメリウェザーさんが怪我をして動けないことに気づきます。
メリウェザーさんは助けられますが、決まりを破ってしまったことを気にして、ライオンはその日以来図書館に姿を見せなくなります。
なんとなくみんなが元気がない様子。
マクビーさんは町中を探し回り、雨に濡れて寂しそうにしているライオンを見つけます。
そこでマクビーさんは、図書館の決まりでも、ちゃんとした理由がある時は別だということを伝えてそのまま立ち去ります。
次の日、ライオンが再び図書館に来たことを教えられた時、あのメリウェザーさんが思わず決まりを忘れて走り出してしまうのでした。
★ ★ ★
とにかくメリウェザーさんとマクビーさんの人物造形がいい。
杓子定規だけども差別をしない知的なメリウェザーさん。
偏屈で素直になれないけど人情味あるマクビーさん。
ラストは思わずにっこりしてしまいます。
我が家の息子も本好きな子どもに育ちはしましたが、図書館通いはしていません。
例のADHD特性があって、ライオンのように静かにしていられないのと、じっとしていられないのであの空間は合わないようです。
もっぱら妻が代わりに予約した本を取りに行くという形で利用はしていますが。
私としては図書館は単なる本の借り出し場ではなくて、あの雰囲気こそ醍醐味だと思っているので残念ではあります。
仕方ないですけどね。
そういう私も予約システムと通販で本を借りたり買ったりするのが習慣になって(便利には勝てない)、めっきり図書館や本屋に足を運ぶことがなくなりました。
たまに行くと子どもの頃の昂揚が蘇ってきて、懐かしさから「まだあの本あるかな?」と児童書のコーナーばかり眺めてしまうんですけどね。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
マクビーさんツンデレヒロイン度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「としょかんライオン」
■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「400冊分の絵本の紹介記事一覧」
■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。
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〒578−0981
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]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は国際アンデルセン賞画家賞受賞作家、ロベルト・インノチェンティさんと、経済学者であり絵本作家であるJ.パトリック・ルイスさんによる大作「百年の家」を紹介します。
作:J.パトリック・ルイス
絵:ロベルト・インノチェンティ
訳:長田弘
出版社:講談社
発行日:2010年3月12日
緻密で重厚で雄弁な絵と、詩のような文章によって構成されています。
小さなカットとテキスト、そして見開きによる迫力ある絵が交互に展開されます。
構図はずっと同じで、ペストが流行した1656年に建てられた古い家と、そこに住む人々を見つめ続けます。
「私」による一人称で物語は語られますが、この「私」とは古い家そのものなのです。
長く廃屋となっていた「私」は二十世紀になって発見され、人の手を入れられ、修繕されることになります。
再び人が住むようになった「私」の周囲は活気づき、果樹園に取り巻かれ、そこで結婚式も開かれます。
しかし穏やかで幸せな日々は長くは続きませんでした。
やがて戦争が「私」の周囲に暗い影を投げかけていきます。
夫は第一次世界大戦で戦死し、妻は嘆き悲しみます。
第二次世界大戦では「私」は何もかもなくした人々の避難所となります。
出会い、旅立ち、惜別。
やがて子どもたちは巣立っていき、残された母親も息を引き取ります。
住む人のいなくなった「私」はまた廃屋に戻り、だんだんと荒れていき、ついには土に戻ります。
二十世紀を生きた家は跡形もなくなります。
けれども「私」は感じています。
「なくなったものの本当の護り手は、日の光と、そして雨だ」と。
最終ページでは全く新しくなった家とそこに暮らす人々の幸せそうな様子が描かれます。
ここからまた新たな歴史が紡がれていくことを予感させ、物語は幕を閉じます。
★ ★ ★
「家」視点で壮大な時の流れを描く大作絵本。
やっぱり思い浮かぶのは巨匠バージニア・リー・バートンさんの不朽の名作「ちいさいおうち」でしょう。
この絵本は現代版「ちいさいおうち」と位置付けるべき作品かもしれません。
けれども、両作品から伝わるメッセージや印象はわりと違います。
悠久の時の流れと土の香りと共に生きる暮らしと、そこに対比される近代文明の急ぎ足に警鐘を鳴らす「ちいさいおうち」に対し、この「百年の家」は、取り壊され、土に還り、そこに近代的な住居が建てられることに否定的ではありません。
むしろ未来への祝福さえ見られます。
それは「百年の家」がリアルな現実の戦争、人々の死を経験してきたことによるのでしょう。
「いままでの暮らし方を継がない。それが新しい世代だ」という一文には深く考えさせられるものがあります。
時の流れは止められませんが、私たち自身は時には立ち止まって自らの来し方行く末を見つめる時間も必要です。
自分たちが何を得て、何を捨ててきたのか。
そして何よりも雄弁なのはこの絵の力でしょう。
本当に1カット1カットが細密で物語が想像でき、描かれている人々ひとりひとりの喜怒哀楽までが伝わってきます。
何度読んでも新しい発見がある絵本です。
そして読み終わる度に、人々の暮らしの中にある力強さ、生命の尊さが、腹の底に落ちるような心地よい重さをもって響いてきます。
推奨年齢:小学校中学年〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆
画集的芸術価値度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「百年の家」
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今回はかなりお久しぶりの登場、デイヴィッド・ウィーズナーさんの作品を紹介しましょう。
「1999年6月29日」。
作・絵:デイヴィッド・ウィーズナー
訳:江國香織
出版社:ブックローン出版
発行日:1993年8月29日
現代絵本作家の中でも際立った天才性が光るウィーズナーさん。
画力・表現力・構成力、すべてにおいて普通じゃないです。
大人が読んでも面白い絵本と言えば私は真っ先に彼の作品をお勧めします。
今回も一本の映画を観るような気分で読める作品で、タイトルからして粋ですよね。
1999年と言えばかつてはノストラダムスの大予言が流行し、「何かが起こるかも」という漠然とした予感から、様々な作品の舞台になっている年度ですが、今作はそんなありきたりな終末論とは一線を画した内容になっています。
ウィーズナーさんといえばテキスト無し、あるいは必要最低限のテキストによる、絵の力のみで読者の想像力を刺激して読ませる(それが実に心地よく酔えるのですが)絵本が多いですけど、今回はわりとしっかりとテキストがあります。
それもなかなかに機知に富んだ言い回しやハリウッド的ユーモアが散りばめられた文章で、江國さんの翻訳文でも漢字が多用されており、小さな子どもには読むのが難しいでしょう。
とはいえ、やはり絵の力が飛びぬけて雄弁なので、あるいは絵だけでも成り立つかもしれません。
1999年5月11日、ニュージャージー州に住む「ホリー・エヴァンズ」という女の子が、何か月も準備した研究を実験に移します。
それは野菜の苗木を小さな気球に乗せて空に向かって打ち上げるというもの。
「電離層における野菜の発育と成長」について調べる実験だというのです。
ホリーは中学生くらいでしょうか。
この天才性、ユニークさ、嬉しくなるようなキャラクターです。
そして運命の6月29日、国じゅうの至る所で驚くべき現象が目撃されます。
巨大な野菜が空を漂い、ゆっくりと降ってきたのです。
ここの数ページに及ぶカットと文章の楽しいこと楽しいこと。
さあ国じゅうは大騒ぎ。
ホリーの家の庭にも巨大ブロッコリーが飛来します。
当然読者はこの現象がホリーの実験の成果だと思って読み進めます。
それはホリーも同じ。
しかし、日夜流される報道を追ううちに、ホリーは妙なことに気づきます。
自分が打ち上げたはずのない野菜までが発見されているのです。
この小さな科学者は、好奇心にかられて考え込みます。
自分の野菜はどうなって、そしてこの庭に落ちてきたブロッコリーは誰のものなのか…。
★ ★ ★
リアリティある絵とキャラクター造形、そしてそこに起こる非日常的事件。
同じ作者による傑作「かようびのよる」にも通じる構成です。
作者の作品はいつも読者の想像力をかきたて、知的好奇心を刺激し、そしてニヤリとさせられるラストに至るまで愉悦に満ちています。
ホリーの研究者としての好奇心、知的渇望はそのまま読者に憑依します。
巨大野菜に驚いたり、喜んだり、金儲けしたり、浮かれてお祭り騒ぎしたりする大衆の姿も風刺が効いていてユーモラス。
名もなき登場人物一人ひとりにも物語が想像できます。
私は絵本のネタバレはしても構わないと思っている人間ですが(それによって作品の面白さは全く削がれないと確信しているので)、今作のラストについては触れないでおきますね。
ぜひ自分で読んでみてください。
最後に、ちょっとしたトリビアを。
このブログでも紹介した、同作者による「セクター7」という絵本のどこかに、空飛ぶブロッコリーが描かれています。
持っている方は探してみてくださいね。
推奨年齢:小学校中学年〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
野菜の種類に詳しくなる度:☆☆☆☆☆
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今回紹介するのは「とんでもない」です。
作・絵:鈴木のりたけ
出版社:アリス館
発行日:2016年2月15日
鈴木のりたけさんを取り上げるのは初めてですが、この表紙のライオン、めちゃくちゃ佳くないですか?
色使いとか質感はリアルなのに、ここまで人間臭く表現できるのが凄い。
お腹出てるし。
ライオンだけじゃなく、登場する動物が全部人間臭くて表情豊かで、なおかつどこかに人生の哀愁すら漂わせています。
画力が素晴らしいのはもちろん、とにかく作者のサービス精神、遊び心の豊かなこと。
私も息子もイチオシの絵本作家さんです。
内容は「隣の芝生は青い」をユーモアたっぷりの物語に仕上げたもの。
主人公の男の子は自分の平凡さを嫌い、サイの鎧のような立派な皮を羨ましく思います。
するとサイ(自転車に乗って買い物帰り)の独白に切り替わり、「よろいのような りっぱな かわが うらやましいって? とんでもない」とぼやきます。
こんな重い皮を持つよりも、兎みたいに身軽に飛び跳ねてみたいというのです。
すると今度は兎が「とんでもない」。
飛び跳ね過ぎて困ることも多いのだと。
以下、それぞれの動物が他人を羨んでは、その相手が「とんでもない」と自分にしかわからない苦労を語ります。
そのユーモラスなこと。
細部まで描きこまれた迫力のある絵も楽しくて仕方ありません。
最終的にはみんなそれぞれないものねだり、でもそんなものかもしれないね……というどこか優しい人間理解で幕を閉じます。
★ ★ ★
一枚一枚のカットが本当に重厚でいてユーモアが詰まっていてワクワクします。
なおかつ作者は様々な箇所に遊びを入れていて、例えばカバー絵をめくるとまったく違う絵が現れたり、男の子の部屋の本のタイトルが変わっていたり、裏表紙にそれぞれの動物の日常の一コマが描かれていたり……と飽きさせません。
こういう遊びは絵本ならでは。
もっとやって欲しい。
贅沢を言えばそういう隠し要素は自分で発見するから楽しいので、奥付に隠し要素とその答えまで書かれているのは、個人的にはいらないかな…と思います。
「こんなところにこんなものが描かれているのを知ってるのは自分だけかもしれない」という感情は絵本好きにとってたまらない愉悦なんですよねえ。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
人間臭さ度:☆☆☆☆☆
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今回は今の子どもたちには馴染みが薄いかもしれない本格オペラを題材にした絵本を紹介します。
「オペラハウスのなかまたち」です。
作・絵:リディア&ドン・フリーマン
訳:やましたはるお
出版社:ブックローン出版
発行日:2008年10月10日
「くまのコールテンくん」などで知られるドン・フリーマンさんと、妻のリディアさんによる共作絵本です。
作者一流の躍動感あふれる絵の魅力が最大限に発揮された作品で、巨大なオペラハウスを舞台に、迫力ある構図が次々描かれて読者を引き込みます。
ページをめくると音楽が聴こえてくるようで、本当にオペラを観劇している気分になります。
まあ、私は実際にオペラを見に行ったことないんですけど。
ニューヨークはメトロポリタン・オペラハウス。
その屋根裏部屋に住む白ネズミ「マエストロ・ペトリーニ」一家。
ペトリーニの仕事はステージの裏方プロンプター氏の楽譜めくり。
オペラのステージにはこういうプロンプター・ボックスという観客からは見えない場所があって、プロンプター氏はそこから歌い手に合図を出したりしているらしいです。
ペトリーニは自分もオペラの大ファンで、休みの日には家族とオペラの劇を演じます。
みんなのお気に入りはモーツァルトの「魔笛」。
三人の子どもたちの希望もあり、ある日ペトリーニは家族をオペラハウスへ連れて行きます。
子どもたちにとってはじめての本物のオペラ鑑賞です。
出し物はもちろん「魔笛」。
家族はたくさんの観客に紛れ込んで席を陣取り、ペトリーニはいつものようにプロンプター・ボックスへ。
しかし、今日は音楽の魔力に引き込まれ過ぎたのか、舞台で鳥刺し役が笛を吹きならして動物たちが踊り狂う場面で、思わずペトリーニは仕事を忘れ、舞台に飛び出して演者と一緒に踊り出してしまいます。
幸い観客たちは小さなネズミには気づいていません。
しかし、やはりオペラハウスに住む音楽嫌いの猫のメフィストがペトリーニを見つけ、襲い掛かります。
二匹は舞台を駆け回り、ついにペトリーニはメフィストに捕らえられます。
あわやというところで、メフィストにも音楽の魔力が。
なんとメフィストとペトリーニは一緒に踊り出してしまいます。
オペラは無事に終わりますが、ペトリーニはプロンプター氏からこっぴどく叱られ、厳重注意を受けます。
魔法の解けたペトリーニは謝り、仕事を失わずに済みます。
家族はペトリーニの演技を拍手喝采でほめたたえ、その後、メフィストとペトリーニは大の仲良しになるのでした。
★ ★ ★
インターネット文化の発達で、いわゆる伝統的な芸能文化も手軽に動画で楽しめるようにはなりました。
でも、やっぱり実際に舞台へ足を運んで鑑賞することで得られる感動や経験は動画には代えられないですし、その文化がこれからも生き残るためにも、生の場は必要だと思います。
私自身も無教養で、オペラを楽しんだことはありませんが、それでもこの絵本を読むと一度は本物を観劇してみたいという想いにかられます。
考えてみれば私の場合、落語や浪曲も興味のきっかけは絵本でしたね。
本当に絵本からは様々なものを得られます。
私の息子も音楽は好きです。
本人は音痴ですが、いたって気にせずによく大きな声で歌ったりBGMをハミングしたりしています。
かといってオペラやコンサートに連れて行くには少々落ち着きがなく、なかなかその機会はありません。
この間初めて映画館に連れて行ったのですが、クライマックスシーンで耐え切れずに興奮して叫んでしまいましたし…。
息子とオペラ鑑賞できるのはいつでしょうね。
楽しみにしています。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
オペラを見たくなる度: ☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「オペラハウスのなかまたち」
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小さかった頃は乗り物が大好きだった息子ですが、最近はPCゲーム「マインクラフト」に夢中で、さほど乗り物に興奮することもなくなりました。
とはいうものの、構造や仕組みに強い関心を持つという性質は年齢と共に顕著になっており、ゲームやアニメに登場する架空の乗り物を見ると、動力はどうなっているのかとか、内部はどうなっているのかとか、独特の目の付け方をします。
そういう子どもの知的好奇心を大いに満足させてくれる絵本が今回紹介する「貨物船のはなし」です。
作・絵:柳原良平
出版社:福音館書店
発行日:2014年4月1日
作者は船が大好きなイラストレーターの柳原良平さん。
「速さでは鉄道や自動車、飛行機にかないませんが、船は、大きなものや重いものでも運ぶことができるし、ものをたくさん運ぶこともとくいです」という一文に、作者の船への愛情が表れている気がします。
19世紀の帆船や、江戸時代の北前船から始まって、人類の歴史と共に進化していく貨物船を紹介していきます。
普通に大人が読んでもためになります。
目的に応じて新しくなっていく貨物船。
時には戦争のために作られ、破壊される時代もあります。
貨物船のはなしというタイトルですが、貨物船だけではなく、貨客船や周遊船なども登場します。
大浴場やレストランや劇場まで備えた豪華客船の解説はワクワクします。
そのデザインの美しさ、目的に特化した機能美は時に感動すら呼び起こします。
コンテナ船、石油タンカー、クルーズ船、自動車運搬船。
最後にはソーラーハイブリッド船や、風の抵抗を減らす流線型の船の開発など、楽しみになるような船の将来を示します。
★ ★ ★
やっぱりロマンがありますよね。
豪華客船の旅してみたい…。
大人になってからこういう絵本を読むと、普段当たり前みたいに見過ごしている船に込められた人類の叡智とか、歴史とか、そんなものに気づかされます。
作者の瑞々しい感性や船への純粋な憧憬が伝わってきて、鈍感になっていた自分の感性が刺激されるのを感じます。
息子が小さい頃に大好きだった絵本ですが、今でもたまに一人で読み返しているようです。
そういう姿を見ると嬉しくなりますね。
推奨年齢:小学校低学年〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
乗ってみたくなる度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「貨物船のはなし」
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今回紹介するのは「ふくろにいれられたおとこのこ」です。
再話:山口智子
絵:堀内誠一
出版社:福音館書店
発行日:1982年10月1日
もとはフランス民話で、再話者の山口さんは南フランスで現地の子どもたちから直接このお話を聞いたそうです。
鬼が子どもをさらい、子どもが知恵で危機を脱するお話で、日本にも同じような話型の昔話は散見されますが、印象の違いが興味深いです。
堀内さんの絵の力による部分も大きいですけど、とにかく明るい。
そして痛快です。
表紙にも描かれている鬼は金髪赤ら顔で鷲鼻ギョロ目という、なんだか戦時の日本人が欧米人に対して持っていた恐れを含んだイメージに近い造形ですけど、そのキャラクターはなかなか間が抜けています。
描写は怖さもあるけど、それがまた楽しい。
主人公は「ピトシャン・ピトショ」というユーモラスな響きの名前の男の子。
道でお金を拾ってイチジクを買い、それを食べているとイチジクが庭に転がり落ちてたちまち大きな木になって、ピトシャン・ピトショはその木によじ登ってイチジクの実をもぎます。
このテンポのいい物語運び、民話ならでは。
するとそこへ袋を担いだ鬼がやってきて、自分にもイチジクを放るように言います。
鬼はピトシャンをうまく引き付けておいてから枝を低くしてピトシャンを袋の中に入れてしまいます。
家に持ち帰っておかみさんと食べようというのです。
しかし、鬼が川の水を飲んでいる隙に、ピトシャンは袋をハサミで切り開いて脱出、代わりに石を詰め込んでおきます。
で、ここで逃げないのがピトシャンの強いところ。
なんと鬼の家に先回りして屋根に登り、様子を伺います。
何も知らない鬼は意気揚々と袋を持ち帰りますが、中からは石がごろごろごろ。
見ていたピトシャンはげらげら笑います。
鬼は怒って飛び出し、ピトシャンにどうやって屋根に登ったのか聞きます。
「おおなべ ぜんぶと、こなべ ぜんぶと、おさらを ぜんぶ つみあげて、のぼったのさ」
言われたとおりにして自分も登ろうとした鬼ですが、鍋も皿も崩れ落ちてしまいます。
さらに怒った鬼が本当はどうやって登ったのかと聞くと、ピトシャンは今度は
「さきの とんがった ながい てつの ぼうを まっかに やいて、そのうえに のっかったのさ」
その通りにしてしまう鬼……。
焼けた鉄の棒に串刺しになって死んでしまいます。
ピトシャンは難を逃れて家に帰って大団円。
★ ★ ★
間抜けた鬼というのは日本の民話にも登場しますが、ここまで素直な奴は珍しいのではないでしょうか。
「さんまいのおふだ」に登場するオニババも和尚さんの計略に乗せられてやっつけられてしまいますが、一応知恵比べという印象があります。
その間抜けっぷりがおかしくて、なんだか最後は可哀想でさえある。
串刺しは惨たらしいようですけど、物語の明るさ・テンポの良さによって読後感は爽快です。
南フランスの美しい街並みと輝く太陽、広がる海と空が印象的。
堀内さんは明るい青をふんだんに使っており、このお話をスリリングでありながらどこかのんびりと明るい、カラッとした味わいに仕上げています。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
オニの素直さ度:☆☆☆☆☆
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今回は久しぶりにレオ・レオニさんの絵本を紹介しましょう。
「コーネリアス」です。
作・絵:レオ・レオニ
訳:谷川俊太郎
出版社:好学社
発行日:1983年
副題は「たってあるいたわにのはなし」。
毎回可愛らしいキャラクターを主人公にしながらメッセージ性の強い寓話的作品を描くレオニさん。
主人公は小さなねずみであることが多いのですが、今回はワニです。
コラージュで造形されたワニの手足はいかにもくるくると動きそう。
無駄のないテキストはいつものレオニさんですが、今回の導入部は特に削られており、「たまごがかえると、ちいさなわにのこどもたちが かわぎしにはいだしてきた」と、いきなり始まります。
思わず最初のページを飛ばしたか、扉にテキストがあったかと戻って見直してしまいました。
そしてテキスト同様、絵の方も最初からコーネリアスは卵から立って出てきます。
徐々に立ち上がるとか、練習するとか、そういうのではなく、問答無用で立って歩くのです。
この超然たる佇まい。
しかしながらこの変わり者を、わにの仲間たちはあまり快く思っていない様子。
コーネリアスは立って歩くことで見える景色の違いを教えるのですが、仲間たちは何の興味も示さず、むしろ迷惑そう。
コーネリアスは腹を立てて群れから出ていきます。
途中、さるに出会います。
コーネリアスが自分が立って歩けることを自慢すると、さるは逆立ちしたり、木の枝にしっぽでぶら下がったりしてみせます。
すっかり感心してしまったコーネリアスは、自分も同じことがしてみたいと思い、さるに教えてくれるよう頼みます。
さるは積極的に教え、コーネリアスは懸命に練習し、ついに逆立ちやぶら下がりをマスターします。
そして仲間のところへ戻り、新たな芸当を披露します。
でも、やっぱり仲間たちの反応は冷淡です。
がっかりしたコーネリアスが立ち去ろうとして振り向くと……。
そこには、逆立ちやぶら下がりを練習しているわにたちの姿。
コーネリアスは微笑み、「かわぎしでのくらしは これですっかりかわるだろう」と満足そうにつぶやくのでした。
★ ★ ★
レオニさんはこれまでにも度々「共同体の中の変わり者」を主人公にしてきました。
詩人ねずみのフレデリック、一匹だけ真っ黒なスイミーなど。
彼らは最終的に共同体の危機を救うわけですが、今作のコーネリアスは仲間たちのために何をもたらしたことになるのでしょうか。
それは、新しい何かを学ぼうとする瑞々しい感性です。
あらゆる集団、組織、共同体には惰性が強く働いており、ある程度安定してくると新しい文化や価値観に対して拒否反応を示すようになります。
コーネリアスのような変わり種の主張はむしろ煩わしい、目障りな物として周囲の同胞を「いらいら」させるものです。
しかしながら新しいもの、未知のもの、これまでになかったものに自由で開かれた精神のないコミュニティは必ず衰退の道を辿ることは、歴史が示しています。
コーネリアスのような存在がいなければ、わにたちの集団は生気を失い、老化し、枯れていくでしょう。
ただ、コーネリアスに対し冷淡な仲間たちの態度もまた、共同体に生きるものとしては自然だとも言えます。
何でもかんでも急激な変化ばかりを主張するのは革命です。
これまで培ってきた価値観や暮らしを守ろうとする動きも、共同体には必要なのです。
この「未来へ向かおうとするもの」と「現状を維持しようとするもの」がほどよく均衡を保ち、そしていつもわずかに「未来へ向かおうとするもの」が勝利することによって人類は進歩していくのだと私は考えています。
もちろんコーネリアスのしたことは革命などという大げさなものではなく、たかだか「大きなお世話」程度です。
でも、さるが嬉々としてコーネリアスに逆立ちを教えたように、人にはどこかに「誰かに自分の知識や技術を教えたい」という欲求があるものです。
その欲求が、頼まれもしないのに教えたがるコーネリアスのような「大きなお世話」を焼かせます。
でもそれもまた共同体には必要不可欠な情熱だと思うのです。
そうでなければ「教師」という職業は共同体からなくなってしまうでしょうから。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
動きを想像できる絵の力度:☆☆☆☆☆
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今回は誰でも知っている旧約聖書の物語を、緻密で美しい版画で仕上げた絵本を紹介します。
「ノアの箱舟」です。
作・絵:アーサー・ガイサート
訳:小塩節・小塩トシ子
出版社:こぐま社
発行日:1989年11月20日
表紙・裏表紙は箱舟の断面図になっており、実に細密に内部が描かれています。
本編でも引いた構図からの箱舟内部での動物たちの暮らしが緻密に描写されており、それらの絵を読んでいるとなかなか先に進めません。
内容は至って聖書に忠実です。
紀元前2000年ごろ、世界を創った神様が、人類が悪に染まって堕落していくことを嘆き、ついには全てをリセットすることを決めます。
大洪水で世界を洗い流してしまおうというのです。
しかしながらノアという人物だけは神様の言いつけを守る「正しい人」だったので、神様はノアとその家族に箱舟を作ることを命じ、地上のすべての動物をひとつがいずつ乗せ、大洪水から生き延びさせることにするのです。
ノアは言われたとおりに箱舟を設計し、動物たちとともに乗り込みます。
やがて天が裂け、大雨が降り始めます。
雨は長い間降り続き、世界は水で覆われます。
雨がやみ、ようやく太陽が輝きます。
ノアは一羽の鳩を外へ飛ばし、その鳩がオリーブの小枝をくわえて帰ってきたので、ノアはまた地上に住めるようになったことを知ります。
神様は二度と大洪水を起こして人類を滅ぼさないというしるしに、初めて「虹」を空に架けるのでした。
★ ★ ★
宗教画は美しくなければ人の心性に直接働きかけることができません。
絵本も然りです。
この作品は読むものに敬虔な気持ちを呼び覚ますに十分な美しさを備えています。
この物語については色々なところで耳にする機会がありますが、基本的には「神様の言いつけを守る正しい人間でいなければやがてが報いを受けて滅びてしまうよ」という警鐘として用いられることがほとんどでしょう。
ただ、個人的にはそれは好みの読み筋ではないです。
特に絵本作品において、幼い子どもを鋳型にはめるような教訓は、精神的な自由の障壁になりかねません。
そんな時代でもないですしね。
「悪いことをすると罰があり、いいことをすると褒美がもらえる」という形式の道徳は、しょせんは外的な権力に従う道徳です。
人間には悪を行う自由があり、完全なる自由のもとで選び取る善にこそ価値があると私は思います。
それに「ノアの箱舟」には別な読み解き方もあるようです。
込み入った話は長くなるので省略しますが、箱舟は「肉体」であり、それまで魂的な存在であった人間存在が現在の肉体に入り込み、覚醒意識を持つようになったことを象徴しているというのですね。
人類の意識は少しずつ進化し、単なる神の操り人形であることから自由になり、その自由の中で善を成すことが現代の課題なのかもしれません。
そういう目線で教育や育児を見てみると、まだまだ表面的な「ノアの箱舟」的教訓をそのまま用いて子どもに接している大人が多いと感じます。
聖書の読み方というのはいくつもあり、その違いによって戦争さえ起きるものです。
ただ、人からお金を巻き上げて破滅させるだけのカルト宗教ほど、聖書を「神に背くと罰が下る」という「脅し」に利用しているのは事実だと思います。
真実を見抜く自由な目を育てるのは表面的なテキストではなく、絵そのものに込められた美しさではないかという気がしています。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
箱舟の大きさどうなってんの度:☆☆☆
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■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。
■絵本の買取依頼もお待ちしております。
〒578−0981
大阪府東大阪市島之内2−12−43
E-Mail:book@ehonizm.com
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
うちの子も大きくなり、最近は絵本を読んであげることもほとんどなくなりました。
そうなると赤ちゃんの頃から何度となく読んできた絵本が懐かしくなり、時々自分一人で読み返したりしています。
本当に小さな赤ちゃんにおすすめできる絵本というのは少ないですが、今回はまったく字のない「絵本」を紹介します。
「どうぶつのおやこ」です。
作・絵:薮内正幸
出版社:福音館書店
発行日:1966年11月1日
作者は薮内正幸さん。
動物の毛並みを描かせたら右に出るものがないんじゃないかという画家です。
表紙の猫のふわふわ感、撫でた時の手触りや温もりまで伝わるようですね。
内容は上に書いたようにテキスト一切なしで、ただ色々な動物の親子が描かれています。
ニホンザル。
母親、父親、赤ちゃんのそれぞれの仕草や表情から、何かそこにストーリーが見えてくるようです。
カバ。
皮膚の質感の描写がすごい。
ライオン。
父親が子どもたちから離れているあたり、実際の習性を考慮して描かれていることがわかります。
★ ★ ★
さて、可愛らしくはあるけど、ただただ写実的な動物画が描かれているだけのこの作品。
絵本というより画集では?とか、リアルさを求めるなら写真でいいのでは?という疑問も湧きそうです。
それについては写真絵本というジャンルについて何度か書いたことがあるのですが、私は絵本とは物語であると思っています。
それは別に明確なストーリーがあるという意味ではなく、そこに何かしらの連続性や繋がりを想起させる力があるということです。
ここに描かれている動物たちの親子の情景には、確かにその前後を想像させる力があります。
幼い子どもは字を読めませんが、それより先に絵を読むことができるようになります。
絵本の絵は「読める」ことが重要です。
また、赤ちゃんに対して最初からデフォルメされすぎた動物の絵を見せても認識しにくいという話もあります。
かといってリアルであればいいということでもなく、写真では情報量が多すぎるという問題もあります。
この絵本はそこまで考えて作られており、ですから背景すら描かれていないのです。
赤ちゃんはただ動物の絵にのみ集中することができます。
そしてそこから少しずつ絵を読み、物語を読み、世界への認識を深めていくのです。
作者は絵本の仕事だけではなく、挿絵も手掛けています。
有名なところではあの名作「冒険者たち」がありますね。
うちの子はもう三部作全て読破しました。
私も子どもの頃大好きだった本ですけど、実はアニメ「ガンバの大冒険」(ノロイがトラウマのやつ)から入ったので原作の絵があまりにリアルでアニメと全く違うことに戸惑った記憶があります。
ネズミのキャラクターが個体識別できない(実はよーく見ればできるんですけど)。
また、山脇百合子(当時大村姓)さんが「ぐりとぐら」のキャラクターデザインに悩んでいた時、動物画の第一人者である薮内さんに相談し、上野の科学博物館の研究室へ連れて行ってもらって、そこで見たねずみの標本にインスピレーションを受けたというエピソードもあります。
推奨年齢:0歳〜
読み聞かせ難易度:☆
リアルだけど表情がある度:☆☆☆☆☆
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
このブログとともに成長してきた我が家の息子ももうすぐ4年生。
振り返れば幼児期はとにかくたくさんの絵本を読み、できるだけ自由に遊ばせ、保育園にも通わせず、その中で一向に安定しない生活リズムに悩まされ、小学校入学前後は弱視に気づいて慌て、学校生活の中でADHDとASDの傾向が色濃いことに思い当たり、あれこれと調べたり考えたり…。
いわゆる普通の子とは違う息子に、親としては心配や不安は尽きませんが、こうして思い返せば、ゆっくりながらも息子は自分のペースでちゃんと成長していることがわかります。
何度も書いてますけど、何はなくとも夜寝てくれるようになっただけで天国です。
感情の制御はまだまだ下手だし、空気は読めないけど、学校の先生や優しい友達の理解もあり、さほど大きなトラブルもなく学校生活を送れています。
妻は、今はともかく中学生になってこのままだと…と心配していますけど、この前は音楽発表会で息子が最後まで教室から出て行かずにみんなと一緒にやり切っただけで感動して泣いていました。
保護者の中で泣いてるの妻だけでしたけど。
さて、先日、発達障害などの子どもに関する相談センターへ行ってきました。
ここは以前にも一度訪れて話を伺ったところで、その時の様子も記事にしています。
ここは医療機関ではないので、簡単なテストやヒアリングから「発達障害の傾向がある」という結果が出るだけで、正式な診断とはなりません。
現在は発達障害が認知され、同時に検査を希望する人が増えており、病院で検査を受け、診断書を書いてもらうのはかなり時間も手間もかかります。
私たちは別に診断書を必要としているわけではないので、その点は構わないのですが、一度だけ心療内科へ行って相談した結果、薬による治療を勧められ、息子の猛抵抗にあって諦めたという経緯があります。
私は薬による発達障害の生きづらさの緩和に否定的ではありませんが、本人が望まないのであれば強制はできません。
今のところ、息子にはまだ必要ないかなとも思っています。
親の焦りから拙速に判断すべきではないとも考えます。
さて、今回も相談センターで息子は発達に関する様々なテストを受けました。
以前も息子にはいくつかの面で典型的な発達障害の傾向が見られたわけですが、今回もその結果には変わりなかったです。
ただ今回はテスト内容と結果についてもう少し詳しく話が聞けました。
やはり発達に凹凸が見られることは確かです。
例えば物理のテストにおいては特別な知識がなくても、高校2年生程度の問題を理解して解くことができました。
一方で電話番号のようなランダムな数字の羅列を覚えたりするのは苦手なようで、こちらは実年齢より1〜2歳ほど発達の遅れが見られます。
これらの結果ついて担当の方から面白い説明があって、つまり息子は「変化するもの」を追いかけるのが苦手のようです。
そこに何らかの意味があれば記憶できるのですが、数字の羅列には意味がないため、それが苦手だということです。
物理の問題などは目に見えて動かない情報があるし、理解力も追いつくわけですね。
そういう説明をされると、発達障害の特徴である「環境の変化を嫌う」「急な予定変更に動揺する」「パターンを頑なに守ろうとする」という傾向にも繋がって、思い当たるところが多くあります。
それは別に悪ではないし、もとより病気ではないので治るものでもないです。
ただそれをなるべく自覚し、そうした性質があっても上手く世渡りしていく術を身に付けるよう、少しずつ訓練していくしかないと思います。
それも、強制ではなく、無理のない範囲で(その方法を考えるのが大変なんですけど)。
しかしながらそういう得手不得手はあるけど、全体として息子の能力自体は非常に高いといえるらしいです。
私たちがずっと大量の本による育児を実践してきたのは、息子の円満な人格と高い能力を育成するためですが、人格の方にどういう影響を与えたかはわかりませんけど、少なくとも知能に関してはそれなりの貢献ができたのかもしれません。
もっとも、これも因果関係を証明することはできませんけどね。
何度もこのブログで書いてますが、私たちの育児の基本理念は「主体的に幸せに生きることのできる能力」を育むことにあり、絵本はその手段にすぎません。
子どもに対し、人生をコントロールしようとするような接し方や言葉は避け、まずは無条件に相手を承認し、敬意を持つ。
その上で必要なサポートだけをし、余計なことはしない。
これは息子が発達障害であろうとなかろうと同じなのです。
そういえば息子の行動で気がかりなのは、失敗したり興奮しすぎたり注意された時に自分で自分を殴ることです。
いわゆる自分を罰する行為で、自傷行為とはやや違うのかもしれないけど、もちろんやめてほしいし、色々と言って聞かせるのですが今のところこの癖は治っていません。
これも自閉症の子にありがちな行動のようです。
それを相談員の方にも話したのですが、「まあ、そんな無理矢理やめさせなくてもいいんじゃないですか」という答えでした。
そう言われるとそんなもんかなとも思います。
殴ると言ってもめちゃくちゃ手加減してるし…(息子は痛いのが大嫌い)。
なんにせよ、親の身として今すぐ止めさせたいことや、不安なこと、心配なことはいくらでもあるけど、まずは焦らないことですね。
成長速度は子どもそれぞれ。
親は焦るものだからこそ、定期的に自分自身を振り返る作業は大切だと思います。
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
2018年5月に92歳で逝去された加古里子さん。
最後の最後まで現役であり続け、絵本を作り続けた、日本絵本界の長老的存在です。
今回は加古さんが最後に残した作品「みずとはなんじゃ?」を紹介しましょう。
作:かこさとし
絵:鈴木まもる
出版社:小峰書店
発行日:2018年11月11日
加古さんは緑内障のために絵の仕事が困難になっており、さらに出版社の担当とこの本の打ち合わせを続ける途中で体調が悪化し、作品を完成させるのは難しいかもしれないという状況でした。
子どもが読む本に妥協は許されないという信念ゆえに、加古さんは自分の作品に非常に厳しい人であり、中途半端な仕上がりでは納得しないことは明らかでした。
なんとか絵の仕事を引き継いでもらえる人はいないかという加古さんの家族の要望に、担当が鈴木まもるさんの名前を挙げたのです。
鈴木さんは鳥の巣の研究家でもある絵本作家で、様々な科学絵本を手掛けてきた加古さんの熱烈なファンでもありました。
過去には手紙のやり取りなどもしていたそうですが、実際に面識はなかったそうです。
しかし加古さんは鈴木さんの仕事を信頼しており、彼にならということですぐに納得し、苦しい容体を押して細かい打ち合わせを行い、鈴木さんも加古さんの想いに懸命に応えようと、通常数か月かかるラフの仕事を2週間で仕上げ、加古さんが亡くなるぎりぎりのタイミングでの作品完成に間に合わせたのでした。
その内容は加古さんの「子どもにもわかる内容で、水の性質を伝えなければならない」というこだわりが反映されたものです。
表現は平易に、絵は楽しく、科学的事実はそのままに。
個体、液体、気体という言葉は使わず、水蒸気を「にんじゃ」と表現したり、次々に姿を変える水の性質を役者に例えたり。
忍者や歌舞伎役者が出てくるあたりは実に加古さんらしいと感じます。
水がすべての生き物の命にとっていかに大切な役割を担っているか。
スケールは星全体に広がり、そしてその大切な資源である水を守ろうという加古さんの子どもたちへのメッセージへと繋がります。
若い頃に「子どもたちのために残りの人生を捧げよう」と決意した加古さん。
本当に最後の最後まで、未来の子どもたちのためにその人生を尽くしきった生き様には敬意の念しか湧きません。
★ ★ ★
大ファンを自認するだけあって鈴木さんの絵は実に加古さん作品と合います。
もちろん今作は加古さんの下絵をもとにしたということもあるでしょうけど、タッチや人物の表情など、加古さんを彷彿させるものがあります。
鈴木さんの他作品と比べてみるとその微細なタッチの違いがよくわかります。
加古さんの絵本作家としてのデビュー作は「だむのおじさんたち」。
そしてこの「みずとはなんじゃ?」が最後の作品。
どちらも水に関する絵本であることは象徴的ですね。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
料理人と医者のキャラクターが加古さんがモデルなの泣ける度:☆☆☆☆☆
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今回は今もっとも注目されている絵本作家の一人・ヨシタケシンスケさんの「ころべばいいのに」を紹介しましょう。
作・絵:ヨシタケシンスケ
出版社:ブロンズ新社
発行日:2019年6月25日
絵本に留まらず、エッセイや挿絵の分野でも大人気のヨシタケさん。
去年は関西でも展覧会が開かれてて、私も行きたかったんですけど入場制限がかかってまして予約が取れなかったんですよね。
改めてヨシタケさんの人気を感じました。
人気の理由は幅広い世代に支持される内容でしょう。
意外と深い普遍的なテーマを取り扱いながら、けっして重たくならない軽やかな作風ととぼけたイラストの力が子どもにも大人にも受け入れられている結果だと思います。
このブログでは以前に「りんごかもしれない」を取り上げました。
「かもしれない」という根源的な知性の発動をユーモアあふれる絵本に仕上げたデビュー作から、「ぼくのニセモノをつくるには」「このあとどうしちゃおう」に続く「発想絵本」の第4弾という位置づけで発表されたのが今作。
人間の「怒り」「憎しみ」といういわゆる負の感情についてぐるぐると思考を重ねることによって一つ上のステージへ自らを運ぶ哲学的内容になっていますが、そこはヨシタケさん。
重苦しさや説教臭さは微塵もなく、爽やかで温かい手触りのユーモア絵本です。
今回は小学生の女の子が主人公。
何やら嫌なことがあったらしく、のっけから不機嫌な顔で「わたしには、きらいなひとがいる」「いしにつまづいて、ころべばいいのに」。
でもこの子は自分の感情をわりと客観的にも捉えており、誰かを憎む時間がもったいないとも考えています。
また、自分で自分の機嫌を取る方法を色々と考えてみてもいます。
それらひとつひとつの発想が面白く、可愛らしく、そして大人でもなるほど…と自分を顧みるきっかけにもなります。
こういう発想と描写こそが作者一流の腕前。
普段からこんな風に色々と考えてるんでしょうね。
さらに思考は巡り、そもそもこの怒りや憎しみや苛立ちの気持ちはどこから発生するのか、見えない「アイツ」が裏で人を操って、私の負の感情を集めて喜んでいるのではないか…などと考え始めます。
もしそうだとしたら、「アイツ」を喜ばせるなんて絶対嫌だ。
なら、普段から嫌な気持ちにならないようにして「アイツ」を困らせてやろう…そんな風に次々と発想を膨らませます。
だんだん気分を直していく女の子ですが、感心なのは最後までこれが正解と決まったわけではない、と結論を下さないところ。
実に知性的です。
どんな考えがあっても、怒りや憎しみにどんな向き合い方をしても間違いではない。
少なくともどうするかを決めるのは自分自身なのだから。
そこまで考えが及ぶころには、最初の「いやなこと」はすでに遠景に引いているようです。
★ ★ ★
これぞ哲学、と感じます。
この女の子は学校で起こった嫌なこと、自分の中に起こった負の感情を、学校からの帰り道、思考のみで乗り越えます。
これはこの絵本に限った話ではなく、ヨシタケさんの思考はいつも「それしかないわけないでしょう」が基調になっています。
安易なひとつの答えに飛びついてそこに固着することは、哲学的思考においてもっとも避けるべき落とし穴です。
「AかBか」ではなく、「AもBも」時には採用されるべきであり、時には不採用とされる場合もある。
そこで「どっちかにはっきりしろよ」というのは単に議論の決着だけを求めている人間であり、哲学者の態度ではないのです。
ですからヨシタケさんの言い回しは常に「前言撤回」の繰り返しで構成されています。
哲学的問いとは、本来決着のつかないものです。
一輪車のように、どこかに止まった瞬間倒れてしまうような、そんな問いは、終わりのない思考と前言撤回という運動の中でのみバランスを維持して扱うことが可能になります。
そしてその終わりのない状態、単一の正解がない曖昧な状態に留まって耐えることのできる力をこそ、私は「知性」と呼びたいと思います。
私的な話になりますが、それこそ私が息子に身に付けてほしい力でもあります。
息子はアスペルガー症候群ですが、特徴的な性質として「思い込みが激しい」という点があります。
興味のある話題以外は、他人の話をあまり聞いていないということもあります。
それらが被害妄想や極端思考に繋がったりします。
私が息子に大事な話をする時はいつもヨシタケ絵本のような「前言撤回」の繰り返しで語ることになりがちですが、「そうとばかりは言えないし、こうも言えるけど…」などと「うだうだ」やっていると息子は目に見えて苛々しだすことがあります。
「はっきりしろよ」と言わんばかりですが、そうやって「はっきり」させたがるのは君がまだ子どもだからなのだよ、というメッセージを、どうにか伝えることができないかと悩む日々です。
でも、わずかずつでも息子の思考は柔らかくなってきているとも感じます。
ふとした瞬間に「それしかないわけないじゃない」というヨシタケ節が出てきたり。
もちろん、そういう思考は成長と共に少しずつ身に付けるべきもので、あまりにも幼い頃から曖昧なことばかり聞かせるべきではないとも思います。
子ども向け絵本にははっきりとしたわかりやすさも必要です。
とは言うものの、息子に限らず、現代の子どもたちはYOUTUBEに代表されるネット文化における「早口、断定口調、まず結論」という語り口に漬かっていると感じるので、この絵本のような作品にも早いうちから触れておくべきかもしれない、とも思うのです。
というように、「うだうだ」言う大人がもっといてもいいんじゃないでしょうかね。
推奨年齢:7歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
はげましセット考えるの楽しそう度:☆☆☆☆☆
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
毎年、新年は干支にちなんだ絵本を紹介していますが、今年は卯年。
絵本界において、兎と言えばねずみと並んでダントツに登場回数が多い動物ではないでしょうか。
イノシシの年とか、わりと探したものですけど、兎となるとむしろ多すぎて選べないくらい。
とりあえず古典名作「ピーターラビットの絵本」を紹介しておきましょう。
今回は「フロプシーのこどもたち」です。
作・絵:ビアトリクス・ポター
訳:石井桃子
出版社:福音館書店
発行日:2002年10月1日(新装版)
私自身も大好きなこのシリーズについては、何度となく過去記事で布教しておりますので、どうぞそちらも併せてお読みください。
共通した世界を描いてはいるけれど、毎回主人公は入れ替わるし、作風も様々な「ピーターラビットの絵本」。
しかしながらやっぱり真打ちはピーターということになるのでしょうか。
彼が登場するお話だけは時間の経過が見られるんですよね。
その他の作品は同じキャラクターが登場するにしても、シリーズ内の時系列がはっきりしていないお話が多いです。
「ピーターラビットのおはなし」「ベンジャミン・バニーのおはなし」で活躍したあのいたずらコンビも、今作では立派な大人になり、それぞれの家庭を築いていることが明らかにされます。
ベンジャミンはいとこであるピーターの妹フロプシーと結婚し、6匹の子どもに恵まれて生活していました。
しかしながらたくさんの家族を養うにじゅうぶんな食べ物がいつもあるわけではなく、一家はちょいちょいピーターにキャベツを分けてもらっています。
ピーターはキャベツ畑を持っていたのです。
テキスト内では名前どころか存在すら言及されませんが、奥さんもいる様子。
しかしながらピーターにもわけてやるだけのキャベツが無い場合、ベンジャミンと子どもたちはお百姓のマグレガーさんのごみ捨て場で野菜を漁ることになります。
大人になってもマグレガーさんとの関係は続いているのです。
その日はごみ捨て場に古くなったレタスがたくさん捨てられており、ベンジャミンと子どもたちは大喜びでお腹いっぱいレタスを食べました。
そして満腹で眠くなったうさぎたちはその場でぐっすり寝入ってしまいます。
ベンジャミンも一緒に昼寝しますが、通りかかったねずみのトマシナ・チュウチュウに起こされます。
その時マグレガーさんがごみを捨てにやってきて、寝ているフロプシーの子どもたちに気が付きます。
マグレガーさんは子どもたちを全部袋の中に入れ、口を縛り、芝刈り機を片付けに行きます。
家族を探しに来たフロプシーは夫から事情を聞き、嘆き悲しみます。
けれどもトマシナ・チュウチュウの助けにより、袋を食い破って子どもたちを救出することに成功します。
そのまま逃げ帰るかというとそうはせず、ベンジャミン一家は空の袋にごみやがらくたを詰め込み、隠れて様子を伺います。
何も知らないマグレガーさんは戻ってきて袋を担いで家へ帰り、奥さんにうさぎを捕らえたことを自慢します。
夫婦はうさぎの皮を剥ぐ算段を始めますが、奥さんが袋を開けてみると中身は野菜やごみ。
奥さんはマグレガーさんのいたずらだと思って怒り、夫婦げんかに。
飛んできた野菜が覗き見していたフロプシーの子どもに当たり、一家は引き揚げます。
こうして危機は去り、トマシナ・チュウチュウはお礼として次のクリスマスにはたくさんのうさぎの毛をもらって、それでマフラーや手袋を作りました。
★ ★ ★
ピーターもベンジャミンも、作者のビアトリクス・ポターさんが飼っていたうさぎの名前ですが、ポターさんが特に可愛がっていたのは「興奮しやすく、快活で、愚かしく見えるほどに人懐こくてセンチメンタルで、見下げ果てた臆病者」と評していたベンジャミンの方だったようです。
作品内においてもこのベンジャミンは実に愛すべきキャラクターをしており、それは大人になってからも少しも変わっていません。
それは子ども時代に同じく無茶をし、失敗し、一緒に痛い目を見てきたピーターの成長と比較するとより顕著です。
大人になってからのピーターは自分の畑を持つほどにしっかりと地に足を下した生活をし、思慮深く、勇気もあり、立派な主人公としての貫禄が備わっています。
一方ベンジャミンはというと、子どもたちと一緒になってレタスを貪ったあげくに居眠りしてピンチを招く始末。
「キツネどんのおはなし」でも、やっぱり子どもたちをさらわれ、ピーターの助力で救出に向かうものの、そこでも色々と情けない姿をさらします。
子ども時代はむしろベンジャミンの方が世間知に富み、ピーターを引っ張って行動する存在だったことを考えると、大人になってからのこの二匹の関係性の変化はなかなか面白いものがあります。
ピーターは何となく、地元でやんちゃしてた不良少年が大人になってから仕事で成功したというイメージですね。
ベンジャミンは同じ不良仲間でも、あんまり中身が成長できずに、大人になってからも相変わらず失敗ばかりしてるイメージ。
いそう〜。
でもだからこそベンジャミンには愛嬌があって、たまらない魅力にあふれたキャラクターなんですよね。
奥さんのフロプシーの方も、少女時代は三姉妹ともに「いい子」でしかなかったけれど、母となってからは苦労が絶えず、舅と喧嘩したりする面も見せます。
夫にも色々と不満がありそうな気がしますけど、その割には騙したマグレガーさんの様子をわざわざ覗き見に行ったり、いたずら心も持っている素敵な奥さんなんですよね。
ちなみに、三姉妹のカトンテールは黒うさぎと結婚しています。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
ピーターの奥さんがキャベツを隠してるっぽい絵が実に味わい深い度:☆☆☆☆☆
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]]>謹んで新年のお慶びを申し上げます。
えほにずむの店主です。
本日より通常営業再開しております。
本年もよろしくお願いいたします。
さて、挨拶かたがた我が家の息子の近況と成長を綴らせていただきます。
ADHD、ASDの特徴は色々とあるのですが、息子の場合小さい頃から寝つきが悪くて生活リズムが安定せず、とにかく夜に寝ないことでは散々苦労させられました。
このブログでも遡れば徹夜の苦労談が多く、何年か前のお正月は徹夜ついでに息子と初日の出を拝みに行ったりしてましたね。
その頃から見れば今は天国みたいなもんです。
息子は学校がある間は帰宅したらとりあえず2時間のPCタイム(テレビは一切見なくなりました。PC時間を削られるので)、その後(嫌そうにしつつも)漢字の書き方と計算問題(学校から出た宿題はやったりやらなかったりです)、食事以外の時間には漫画を描いたり本を読んだりレゴで何か作ったり。
9時頃になると歯を磨かせて(これも嫌がるしだらだら磨きますが)、布団に入って私が30分程度本を読み、就寝というサイクルになっています。
これがやっと定着して、本を読んだ後『自分で目を閉じて眠りに入ろうとする』ことができるようになったのは本当に助かっています。
こだわりが強くて融通が利かないという面ではまだまだ手がかかります。
食事に関しては相変わらず決まったメニュー以外は口にしようとしません。
餅もお雑煮も食べないし、おせちもほぼ食べないのでお正月は家族と別メニューを用意しなくてはなりません。
今年は割とお正月らしく、息子と双六やトランプや百人一首で遊びました。
この手の対人ゲームはこれまでにもオセロや囲碁将棋チェスなど色々と教えてきたのですが、ルールはそれなりに飲み込むものの、まともな対戦ができなかったんですね。
息子の性質上、座ってじっとしていられない、集中力が続かない、負けると本気で落ち込むなどがその理由です。
それが一応ちゃんと勝負が成立するようになって、母親を入れた三人で大富豪やページワンなどを教えて遊びました。
息子はすぐに順番を間違えて自分が札を出そうとするし、自分の番が過ぎたらよそ見したりもぞもぞしたりレゴをいじくったり(おまけによく自分の手札を表向けてしまう)。
それでもルールはすぐに覚えるし、一応ちゃんと最後までやれるようにはなりました。
ただ、勝敗についてはいちいち感情の波が激しく、何故か母親が勝つとわがことのように喜び、私が勝つと怒り、自分はどうでもいいのかのように振舞ったかと思うと負けて落ち込んだり、めんどくさいです。
ネガティブシンキングは根強く、「ゲームなんだから本気でやった方が面白いし、勝っても負けても楽しくやればいいんだよ」と諭したら、「どうせぼくは勝負に向いてないんだよ」などと拗ねた態度を取ったりします。
それでもこうして遊べるようになったことには成長を感じます。
百人一首も結構強いですし(句を覚えてはいません)、友だちを作って遊べるようになるまでもう少しかなと思います。
寛容な子でないとすぐ喧嘩になりそうですけど。
PCでやっているマインクラフトやスクラッチに関しては、もう私には理解できないところまで進んでいるようです。
自分で影mod(そういうのがあるのです)を導入したり、ゲームを作成したり(途中でバグってましたが)するようになってます。
レゴ遊びも変わらず続けています。
何でも作りますね。
↓は息子がお正月に作った作品です。
何かわかりますか?(笑)
↓は息子のオリジナル作品(究極火星破壊生命体とかなんとか名付けてました)。
翼も足も首も稼働します。普通にかっこいい。
そんな感じで、これまでで一番疲れないお正月を過ごすことができました。
今日からまたお仕事頑張れます。
では。
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]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今年も残すところわずかとなりましたね。
当店は29日〜新年5日までの間をお正月休みとさせていただきます。
受注は随時受け付けておりますが、お休み期間中のご注文された絵本の出荷作業は新年5日以降となりますのであらかじめご了承ください。
今年も皆様のおかげでお店も続けられたし、相変わらず世間は暗い話題が多いですが、私も息子もいたって元気に過ごすことが出来ました。
息子の成長に関してはまた年明けにでもまとめて綴ってみようかと考えています。
色々とやることに追われて手短な挨拶になってしまいましたが、また年始にここでお目にかかりたいと思います。
それでは皆様、お体を大切に、よいお年をお迎えください。
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12月ですのでクリスマスの絵本を。
長谷川集平さん・村上康成さんのタッグによる「プレゼント」を紹介します。
作:長谷川集平
絵:村上康成
出版社:ブックローン出版
発行日:1987年12月1日
長谷川さんは「トリゴラス」などの凶暴で繊細な感受性の作品を、村上さんは「ピンク、ぺっこん」などの雄大な自然を独特の目線と構図で捉えた作品を発表しています。
これはそんな二人の才能を結集させた作品集「ヨット三部作」の最終章にあたります。
三部作はそれぞれ「かいじゅうのうろこ」「おんぼろヨット」そしてこの「プレゼント」と続きますが、どれもテキストは最小限に削られており、海の日常と非日常が交錯し、絵にちりばめられた情報から読者の想像力が刺激される構成になっています。
ぼんやりと読んでいては気づかずに読み流してしまい、一読しただけでは「?」となってしまいそうな、それでいて強烈な印象を残す作品です。
テキストはおじいさんの独り言と、登場人物と交わされる断片的な会話のみ。
クリスマスの朝、おじいさんは描いていた絵を完成させ、それを持ってヨットに乗り、海へ出ます。
雪が降る海を、おじいさんは一人で進みます。
すると途中、海面から巨大な怪獣が姿を見せます。
けれどもおじいさんは驚きもせず、「おまえとは長いつきあいだな」と怪獣に話しかけます。
この怪獣は他の三部作でも描かれており、名言はされていませんが、おじいさんがシリーズ通しての主人公の年齢を重ねた姿であることが想像されます。
やがてヨットは目的地の灯台へ着きます。
おじいさんを待っていたのは灯台守の少年。
おじいさんはこの少年に描いていた絵を渡します。
今日はこの少年の誕生日だったらしく、おじいさんは以前から頼まれていた絵をプレゼントとして持ってきたのです。
少年は絵を見つめ、「おかあさん」と語りかけます。
おじいさんは帰りの海上で、灯台の灯を見つめ、呟きます。
「照らしてくれ。遠くまで。君だけがたよりなんだ」
夜が訪れ、少年は眠りにつきます。
枕元には、聖母像の絵が飾られていました。
★ ★ ★
いいですね。
この世界、大好きです。
一つの映画を観たような読後感があり、大人の鑑賞にもじゅうぶんに耐えます。
一読しただけではただ単におじいさんが灯台守の男の子に母親の絵をプレゼントするだけの話のように見え、港で交わされる会話以外にはクリスマスらしさは感じられません。
しかしながら、最後の聖マリアの絵を「おかあさん」と呼ぶ、クリスマスが誕生日の少年といえば、これはもうイエス様でしょう。
そうであるなら、ラストシーンにおけるおじいさんの「照らしてくれ。遠くまで。君だけがたよりなんだ」という言葉にも一気に深い意味が出てきます。
灯台の灯を、人類の進むべき道を照らし続けてくれるキリストの光になぞらえているのです。
このあたりの感覚はクリスチャンでなければ日本人には理解しにくいかもしれません。
また、扉と冒頭に描かれる窓際の花はポインセチア。
クリスマスに飾られる花です。
長谷川さんらしいクリスマス絵本と言えるでしょう。
なお余談ですが、村上さんと長谷川さんは同い年です。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
三部作まとめ読みおすすめ度:☆☆☆☆☆
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]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は久しぶりに息子の読書事情について書きます。
変化が苦手な息子は、一度習慣化したことは守ろうとします。
勉強や歯磨きなどを習慣化するのには非常に苦労しますが、やっと最近は決まった量の漢字と計算の練習や、食事後の片づけ、歯磨きなどを、嫌そうな素振りを見せつつも素直にやるようになりました。
自分が好きでやっていることでは一日2時間のPC(マインクラフト)や漫画を描くことがありますが、こちらは何かの都合でやれないなどということになると大変です。
時間が遅くなったので2時間のうちの30分を明日に回す、というような融通は利きません。
漫画にしてもある種の使命感を持って描いているようなところがあります(連載作家か)。
さて、そんなルーティンのひとつに、「寝る前の読み聞かせ」があります。
やっと(本当にやっと)決まった時間に布団で横になることを(あまり)逆らわなくなった息子ですが、その際には必ず私が何か読むことになっています。
絵本を少し読むこともありますが、もっぱら長い児童書を何日かに分けて読むことがメインです。
これまで読んできた児童書については過去記事で触れています。
読むのは私も好きですし、できれば自分が子どもの頃に読んだ懐かしい本などを読んでやる方が楽しめます。
息子ももう3年生ですし、以前からそろそろ「ズッコケ三人組」シリーズを読みたいと思っていたのですが、例によって息子の食わず嫌いが発動して、読ませてもらえなかったんですね。
それがちょっとしたタイミングでシリーズ第一作の「それいけズッコケ三人組」を寝る前に読ませてもらえました。
息子は「ちょっとだけ」「気に入らなかったらすぐやめて」などと生意気な注文をつけてましたけど、いざ読み始めるとやめさせてもらえなくなってほとんど一冊全部通して読まされました。
那須先生は偉大です。
やっぱりおもしろいですね。
子どもの頃は気づかなかったような発見も色々あります。
子どもの本を書く上での必須条件ですが、那須先生は子どもを大人目線で都合よく書くことを自制しています。
そして逆に(ここが凄いと思うのですが)大人を子ども目線で都合よく書くこともしないのです。
ズッコケシリーズに登場する大人たちはみんなどこか哀愁を漂わせています。
無人島で一人で暮らす老人、お喋りな独居老人の探偵ばあさん、売れない児童作家、人知れぬどこかの山奥で一族の長としての責務を果たす女性、離婚したモーちゃんの両親……。
人生の辛さ、悲しみ、思い通りにいかないもどかしさ、孤独……そうしたものを纏いながら、物語そのものは子ども目線で描かれるために、その本当の深みにまで降りていくことはありません。
ただ、「大人の孤独」についての印象だけが三人組の目を通して読者にも共有されます。
私自身はシリーズの途中辺りで成長と共に読むのをやめてしまったのですが、全50冊完結しているので、是非息子と共に読破したいと思っています。
もう一つの最近お気に入りシリーズはフィンランドの名作「ムーミン」。
こちらは実を言うと私も未履修作品だったんですよね。
もちろんキャラクターとしてのムーミントロールやスナフキンは知っていましたが、ちゃんと原作童話を読んだことがなかったので、今更ながら「こんなお話だったんだ!」と新鮮な気持ちで読み進めています。
結構前に第一巻の「ムーミン谷の彗星」を途中まで読んだところで息子が一度「もういい」と投げてしまったのですが、どういうわけか最近になってからまた読むようになって、今度は大いに気に入ったらしいので全巻揃えました。
色々な癖のあるキャラクターが登場しますが、息子は小さい生き物の「スニフ」を「ぼくに似てる」と言います。
特に臆病で、不安症で、すぐに誰かのせいにしたがる思考などを自分と重ね合わせているようです。
結構自分のことを客観的に見ているんだなあと思いました。
こういう人間の弱さを象徴したようなキャラクターを否定的な眼差しで描かない懐の広さは、息子のような子どもにとっては救いでもあると思います。
凡庸な大人は、自分のことは棚に上げて、スニフのような情けないキャラクターを「こうなってはいけない」見本のように示しがちです。
けれども子どもたちはスニフを見て、「こんなふうに人のせいにしてしまったり、欲張りなところがあるのは自分だけじゃないんだ」と安心するのです。
そうやって同時に自分自身を客観視するところから成長は始まるのだと思います。
子どもを良い方向に導くというのは本当に難しいことです。
大人自身が未熟なのだから当然ですが、まずは子どもを無条件に承認するということを絶対に忘れてはいけないのです。
私はそうした点に気を付けて息子に接してきたつもりでしたが、息子自身の性質もあるでしょうけど、やっぱり足りなかったのかもしれません。
息子は何か失敗するとすぐに「ぼくなんていないほうがいい」というような言葉を口にします。
そんなことを言ってはいけない、失敗は誰でもする、今後どうするかが問題なんだ、君の価値と叱られる内容には何の関係もない……様々な理を尽くした言葉でフォローしようとしますが、それさえも「ぼくを無理に変えようとしてる」と言われてしまうことがあります。
もちろんそのままでいいと言うことはできますけど、そんな悲しい思考までそのままでいいとはやはり思えません。
焦らないことだと思いつつ、自分の内心に至るまで、息子への接し方にまだまだ足りないところが多いのだろうと自省もします。
同じことを伝えるとしても、単なる言葉の内容だけではなく、タイミングや、誰の口から語られるか、どんな声色で聴かせるか、そうした要素が子どもの心に撒く種には重要なのでしょう。
そういう意味において、物語の力というものはやっぱり偉大なのです。
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]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
寒くなってきましたが皆様お元気でしょうか。
11月もそろそろ終わり、気が付けば2022年もあとひと月で終わります。
ブログの更新頻度が亀なせいで「この前夏の絵本を紹介したと思ったのに、もう冬?」という気がします。
紹介したい絵本は山のようにあるし、育児に関することでも色々とあるので、ぼちぼちですけど綴っていきたいと考えてます。
今回はアンデルセン童話より、「雪の女王」を読みましょう。
原作:アンデルセン
絵:バーナデット・ワッツ
訳:ささきたづこ
出版社:西村書店
発行日:1999年11月1日(新装版)
絵を描くのはバーナデット・ワッツさん。
4歳の時に「ピーターラビットの絵本」の作者ビアトリクス・ポターさんに影響を受け、絵本を描き始めます。
童話の絵本化も様々手掛けており、「赤ずきん」などが特に完成度の高さを評価されています。
この「雪の女王」はアンデルセン童話の中でも大作で、童話としては長い物語構成になっています。
そして悲劇的結末も少なくないアンデルセン作品の中で、ラストは心温まる大団円となっています。
大きい町に住む二人の貧しい少年と少女。
二人は兄妹のように仲良しでしたが、ある冬の日、男の子のゲルダが突然心臓と目に痛みを感じます。
それはかつて悪魔が作った鏡のかけらで、それがカイに刺さったのです。
カイの心は氷のように冷え切り、女の子のゲルダに罵声を浴びせると走り去ってしまいます。
カイはそのまま雪の女王のそりに乗り込み、どこかへ連れ去られます。
残されたゲルダは帰ってこないカイを心配し、探し回ります。
ゲルダは魔女の家に世話になりますが、魔女はゲルダを手元に置いておこうとして彼女の記憶を消してしまいます。
けれどもやがてゲルダはカイのことを思い出し、再び彼を探す旅に出ます。
途中で会った王子と王女はゲルダを助け、様々な贈り物をしてくれます。
しかしそれがもとで山賊に襲われてしまいます。
ゲルダに興味を持った山賊の娘はゲルダを助けます。
山賊の娘のハトはカイが雪の女王のところにいることを知っていました。
山賊の娘はゲルダにトナカイを貸してやり、ゲルダを逃がします。
トナカイは雪の女王の国を目指して駆け続け、物知りのフィン人の家に立ち寄り、ゲルダに力を貸してくれるよう頼みます。
するとフィン人の女はカイが雪の女王の城にいること、カイを救う力はゲルダの心にこそあることを教えます。
ゲルダは雪の女王の城に辿り着きます。
ゲルダの歌が天使となり、雪の兵隊を退け、ゲルダは城の中に入ります。
そこには冷え切った体と心のカイが座っていました。
ゲルダはカイを抱きしめ、涙を流します。
ゲルダの涙はカイの心に刺さった悪魔の鏡のかけらを溶かし、カイは温かい心を取り戻します。
二人は再会の喜びにむせび、手を取り合って家に帰ります。
故郷に辿り着いたとき、二人は大人になっていましたが、心は子どものままでした。
★ ★ ★
大ヒットしたディズニー版「アナと雪の女王」のモチーフとなった作品ですが、読めばわかる通り内容はまるで違いますね。
意外なことに雪の女王は冒頭に登場するだけでセリフもほぼなく、その存在は謎に包まれています。
ゲルダがカイを助け出すシーンにさえも登場せず、戦ってカイを取り戻すわけでもないのです。
「悪魔の鏡」「雪の女王」はこの物語のテーマである「人の心」のマイナス面の象徴なのです。
世の中や人間の醜い部分のみがはっきりと映る悪魔の鏡、冷え切った心を心地よく感じさせる雪の女王。
一方で無邪気でひたむきなゲルダは様々な人の良い面を映し出すように、旅の先々で助けの手を差し伸べてもらえます。
最終的に善良な心が勝利する、単純で力強い物語は、ぜひ子どもたちに読んであげたいものです。
しかしながら現代では「善なる心が勝利する」という普遍的な願いや信念でさえも、巧妙に利用され、「正直者が馬鹿を見る」時代となっています。
騙されまいと知識を得、批評精神を身に付けるのは良いのですが、そうすると今度は世の中の悪い面、人の醜い面ばかりを見てしまう、正に「悪魔の鏡」状態にも陥りやすくなります。
どんなに知識を得て、賢くなったとしても、心の底の底にはゲルダのような美しさを失わずにいることが、難しくとも必要なことなのでしょう。
ラストの「子どもの心のまま大人になる」二人には、そのような作者の願いが込められているように思われます。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
山賊の娘のキャラクター好感度:☆☆☆☆☆
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私自身には音楽的素養がまるでないのに、というか、ないからこそ、というか、子どもには幼い頃から音楽に親しんでもらいたいという想いがあります。
音楽に対する理解や感性は勉強で手に入るものではなく、それこそ音楽に埋もれるようにして育つ環境の力によるところが大きいので、まさに文化資産というべきものだと思います。
今回はたしろちさとさんの「おんがくかいのよる」を紹介します。
作・絵:たしろちさと
出版社:ほるぷ出版
発行日:2007年9月25日
たしろさん、このブログでは初めて取り上げますけど、絵が大変魅力的です。
作品によってタッチを変えていますが、この「5ひきのすてきなねずみ」シリーズの絵の具のかすれ具合とか、細かい描き込みとか、抒情的な色彩とか、特に好きですね。
お話は民家を巣にしている5ひきのねずみたちが、ある満月の晩に美しいメロディに惹きつけられて、かえるの音楽会を覗きに行くところから。
見開きから扉にかけてすでにストーリーは始まっており、テキストだけではわからない5ひきの個性もここにしっかりと描かれています。
5ひきはかえるの歌声に魅了され、もっと近くで聴こうとしますが、「かえる以外お断り」と、すげなく追い出されてしまいます。
音楽の素晴らしさが忘れられない5ひきは、歌は歌えなくても楽器を使えばと思いつき、さっそく様々な材料から楽器を作り始めます。
家庭で手に入るような身近な物を工夫して利用した楽器の数々が本当に楽しい。
5ひきは練習を重ね、ついに自分たちで音楽会を開くことにします。
ねずみ集会所(なかなか立派なコンサートホール)で、たくさんのお客さんを前に、5ひきは熱意のこもった演奏を披露します。
会場は拍手の渦。
と、5ひきは入口の近くでこっそり覗いているかえるたちに気が付きます。
客のねずみたちは眉を顰めますが、5ひきは彼らを舞台に呼んで、歌と楽器のコラボに誘います。
素晴らしい演奏と歌唱に、会場に集まったすべてのねずみやかえるは恍惚と聴き入り、音楽会が終わった時には心を一つにし、また一緒に音楽会を開くことを約束するのでした。
★ ★ ★
私たちは息子が赤ちゃんの頃からなるべく部屋にクラシック音楽を流したり、足りないながらも様々な音楽に触れ合う機会を作ろうとしてきました。
しかしながら息子は、「何回でも同じ曲をリピートし続ける」という聞き方をするんですね。
CD一枚とかならいいんですが、1曲だけを無限リピート(落語なんかもこういう聞き方します)。
親の方が「もうその曲はいいよ…」とげんなりしてしまいます。
それだけ聞き込めばかなり耳も発達しそうなものですが、どういうわけか息子は音痴です。
歌うことは好きなんですけど、いつも音を外しています。
耳は恐ろしくいいんですが。
また、小学生になったらコンサートなども連れて行ってやろうと考えてたんですけど、ウィルスの流行などでそっちもずっとお預けです。
もっとも、じっとしていられない、黙ってられない息子をコンサートホールに連れて行けるとも思えませんが…。
同じ理由で習わせたかったピアノも断念。
残念といえば残念ですけど、音楽そのものは大好きなようで、それだけで十分かもしれません。
この絵本のように空き缶や輪ゴムなんかを使って、自分で楽器を作ったりもします。
話は逸れますけど、私はこの作品の絵に、ジョン・バーニンガムさんの「バラライカねずみのトラブロフ」っぽさを感じますね。
聴覚を刺激されるような絵本作品は読んでいて最高に心地いいです。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
手作り楽器の面白さ度:☆☆☆☆☆
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古本屋の性質上、古典作品を紹介することが多いのですけど、今回はかなり新しい絵本です。
個人的には現代絵本作家の中でも色々な意味で「油断できない」ジョン・クラッセンさんの「そらからおちてきてん」を読みます。
作・絵:ジョン・クラッセン
訳:長谷川義史
出版社:クレヨンハウス
発行日:2021年9月25日
同作者の作品では以前に「どこいったん」を紹介しましたね。
子ども向け絵本ではある意味タブーとされるブラックユーモアを盛り込み、独特のキャラクター造形と色使い、スリリングな展開でたちまち話題をさらいました。
その後も斬新で面白い絵本を次々と発表しています。
無表情のようでありながら「目」の表現だけで雄弁に語るキャラクター。
不気味でありながら可愛くもあり、ユーモラスでありながらシュールでもある。
それに邦訳版では関西絵本作家の長谷川義史さんによる絶妙な関西弁訳がはまって、もうクラッセン絵本と関西弁は完全にセットになった感がありますね。
冒頭で「油断できない」と言ったのは、クラッセンさんは常に読者の目を意識した仕掛けを各所に用意しているからです。
私たちは物語を読み、登場人物に感情移入しながらも、同時に作者であるクラッセンさんともコミュニケーションを取っており、その多層性の中で様々な「メッセージ」を交わすことになります。
作品の中で作者と目配せするようなメッセージをやり取りすることは、読者にとって最高の愉悦でもあります。
これは幼い子どもとて同じことだと思います。
どういうことかと言えば、例えば「どこいったん」と同様の仕掛けが今作にも採用されてまして、登場人物が気づいていない事実を、読者は作者と共有しながら物語を読み進めていきます。
これが一種の心地よい緊張状態を作り出しているんですね。
お気に入りの場所に立っているカメ。
ページをめくると空から巨大な岩(隕石?)が飛来する、ぎくりとするような大カット。
このままではカメのいるところに岩が落ちてくることを予感させます。
それを知る由もなく、ちょっぴり頑固なカメとお喋りなアルマジロはとぼけた会話。
勘のいいアルマジロは「なんかいやあなかんじ」を覚えて少し離れた場所へ。
でもカメは少し意地になって同じ場所に留まります。
アルマジロのいる場所に無口なヘビも加わって、強がりながらも寂しいのか、カメが二匹の方へ近づいていった瞬間…。
危機一髪。
この絵本は短編構成になっていますが、お話は続いていて、少しずつ日が沈み、夜を迎えるなど、一日の出来事であることがわかります。
どの話もカメの強がりが可愛らしく、くすっとさせる内容なのですが、最後のエピソードでは「えっ?」と思うような仕掛けがされています。
アルマジロとカメの未来想像の中にだけ登場したはずの謎の危険生物が、現実に現れてカメの背後に立つのです。
アルマジロとヘビ(そして読者)はその姿を見ますが、カメは気づかないまま。
「うーしーろー、うーしーろー」状態ですね。
そしてあわやというクライマックスで…。
★ ★ ★
最初からずっと、作者は読者に対して「登場人物が知りえない情報」を提示してくれており、それによってハラハラさせられながら読者は物語を読み進めます。
いわば作者と読者は同じ地平から物語を見ることができるのですが、最後の最後に作者は読者を裏切ります。
このスリリングさは単純ではありません。
こういうところこそがクラッセンさんが油断できない点であり、他の作家には真似のできない強烈な魅力でもあります。
舞台を観ている観客の視線を巧妙に騙すようなテクニックで、冒頭のエピソードで「すべてを観ている」立場に観客を誘導し、精神的には作者との「共犯者」の心理に定着させておいて、最後にそれを見事に外す。
観客である私たちは自分の認識の在り方そのものを問いかけられることになるのです。
それが妙に心地いい。
一度この愉悦にはまると、クラッセン作品の虜になってしまいます。
もちろん私はとっくに虜です。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
第六感についても考えさせられる度:☆☆☆☆
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日本じゅう、いや世界じゅうの子どもたちに愛され続ける名作絵本「ぐりとぐら」のイラストを描いた画家・山脇百合子さんが先月29日に亡くなられたことがわかりました。
享年80歳。
子どもの頃から親しんだ絵本の作者との別れはいつでも深い喪失感を伴うものですが、山脇さんのあの唯一無二の画風とキャラクターを思い浮かべると、その思いは特段深くなります。
「このよでいちばんすきなのは」「おりょうりすることたべること」の黄色い野ねずみ、ぐりとぐら。
あの2匹の新作はついにもう読めないのですね...... 。
姉の中川李枝子さんが作ったお話に、頼まれて絵を描いたことがきっかけで絵本作家となった山脇さん。
その気軽さ、肩の力の抜けたようなほんわかしたイラストは、その後ずっと変わることなく、子どもも大人も虜にする不思議な魅力をたたえ続けました。
絵本という媒体でしか味わえない、魔法のような世界。
ずっとずっと心に残り続ける、やさしい世界。
このブログでは「ぐりとぐら」シリーズ全7作をすべて紹介してきました。
今回はその記念すべき第一作「ぐりとぐら」を再掲します。
どうか最後までお読みください。
★ ★ ★
今回はいよいよ、みんな大好き「ぐりとぐら」を紹介します。
作者の二人は姉妹。
姉の中川李枝子さんが文を、妹の大村(山脇)百合子さんが絵を担当しています。
誕生から50年以上、21か国で翻訳され、シリーズ累計は2400万部を超えるという、ウルトラロングセラー。
その記念すべき一作目です。
ただ、「みんな大好き」とは書きましたが、「みんな」というのは子どもと、そして子どものころにこの絵本を読んだことのある大人を指したつもりです。
というのも、子どものころに読んでもらった記憶がなく、大人になってから「ぐりとぐら」を手に取った人からは、この面白さが理解できない、という声が意外に多いのです。
まあ、正直、ノスタルジックな気持ちを抑えて、冷静な大人の目で読んでみると、たしかに「なにがおもしろいの?」と思えなくもない。
もっと正確に言えば、「どうして子どもたちはこの絵本がそこまで好きなの?」かが理解できないわけです。
物語は、のねずみ(とてもねずみには見えない)の「ぐり」と「ぐら」が、「おおきなかご」を持って「もりのおくへ」でかけるところから始まります。
「このよでいちばんすきなのは」お料理することと食べることの2ひきは、どんぐりやきのこなどを拾って歩いているうちに、とても大きなたまごを発見します。
2ひきは喜んで、このたまごでカステラを作ろうと決めます。
しかしたまごが大きすぎて持ち帰れないので、この場に料理道具を持ってくることにします。
やがてにおいにつられて、森の動物たちが集まってきます。
そして完成。
カステラって、こんな食べ物だっけ。
と、一体何人の大人が心の中で突っ込んだことか。
出来上がった「かすてら」を、森の動物たちといっしょに残らず食べるぐりとぐら。
「森の動物たち」の顔ぶれは、象、フラミンゴ、ライオン、わに、蟹、猪……。
どんな森だ?
と、一体何人の大人が心の中で突っ込んだことか。
そんな大人の目など一切構わず、最後に2ひきは残ったたまごのからで自動車を作って(動力は不明)うちへ帰ります。
これでおしまい。
大人を拍子抜けさせるのは、この「なんにも起こらなさ」ではないでしょうか。
これは他の「ぐりとぐら」シリーズ通しての共通項ですが、この2ひきの物語には「障害」と呼べるほどの事件が何一つ発生しません。
私たち大人はあまりにも「主人公が穴に落ち、そこからどうやって這い上がるか(もしくは這い上がれないか)」という物語の定型に馴染みすぎているので、この予定調和が物足りなく感じてしまうのでしょう。
しかし、子どものための絵本にはドキドキハラハラの冒険だけではなく、この「ぐりとぐら」に代表される、安定と調和だけが存在する物語もあります。
そうした物語が子どもたちに向けて発するメッセージは、
「この世界を生きることは楽しく、素晴らしい」
です。
子どもの世界というのは、実は大人が考えているほど平和なものではありません。
彼らは自分にまだ人生を生き抜く力が足りないことを、無意識的であれ自覚しているし、周囲の大人に依存しなくては生きていけないストレスに晒されています。
だからこそ、「ぐりとぐら」のように、何の不安も恐れもない、ただ安心と自己肯定だけがある世界を必要としているのではないでしょうか。
もちろん、現実世界はカステラのように甘くはありません。
けれども、子ども時代の幸せな思い出が、その後の人生のすべての場面で、いかに重要な「生きる力」となるかは、誰もが実感することだと思います。
子どもの心をよく知る映画監督・宮崎駿さんが、「ぐりとぐら」をアニメ化しようとしていたそうですが、この絵本の世界を、どうしても再現できずに断念したという逸話があります(ちなみに、「となりのトトロ」の挿入歌「さんぽ」の作詞は中川李枝子さんです)。
また、「ぐり」と「ぐら」の見た目がそっくりで(青い方がぐり、赤い方がぐら)、セリフも交換可能で見分けがつきにくいことについて、絵本作家の長谷川摂子さんは、自著で、初めて友達を認識する3歳前後の子どもの心のありようと関連付けて分析しています。
そうしたことを踏まえてもう一度この絵本を見れば、絵本についても子どもの心というものについても、少し違った見方を持てるかもしれませんね。
蛇足ですが……。
読み聞かせの際、この絵本に出てくる有名な、
「ぼくらのなまえはぐりとぐら♪」
の歌に、どうメロディをつけるかですが、私は
「ごんべさんのあかちゃんがかぜひいた♪」
のメロディが一番うまいこと(?)歌えたように思います。
オリジナルを作曲できるセンスがないので。
★ ★ ★
「ぐりとぐら」はこれから先も何世代にもわたってずっと読み継がれていくでしょう。
何故ならこれほどまでに子どもの心をとらえることに成功した絵本というのは世にも稀だからです。
以後のシリーズの記事も読んでいただけると嬉しいです。
山脇百合子先生のご冥福を心からお祈りします。
素晴らしい時間を本当にありがとうございました。
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みなさん歯を大切にされていますか?
私は若い頃ちゃんと歯を磨かなかったので虫歯の治療で非常に苦労しました。
痛いし、時間もお金もかかるし、口を開けた時に銀歯が見えるのは見た目も悪いし。
息子にはそんな思いをさせたくないと、しっかり歯磨きを習慣づけてはいますが、まあ大変です。
息子の性質上、やりたくないことはまったくできないに等しいので、今でも自主的に歯磨きさせるのは難しいし、磨きながら本を読みだして手が止まってしまうこともしょっちゅうです。
歯医者を怖がる気持ちは物凄く強いのですが、ネガティブ方向にだけ思考が暴走する癖があるので、歯医者に連れていかれたらあーだこーだと興奮しながら泣きそうな顔で色々と文句は言うけど、「そうならないためにきちんと歯磨きをしよう」とはなかなか考えられないようです。
今回はウィリアム・スタイグさんの「歯いしゃのチュー先生」を紹介します。
作・絵:ウィリアム・スタイグ
訳:うつみまお
出版社:評論社
発行日:1991年5月20日
前置きで色々言いましたけど、別に歯磨き習慣促進絵本ではありません。
自分の仕事に誇りを持つかっこいい歯医者さんと、紳士を装っているけど狡猾で下衆いきつねのハラハラするような知恵比べが展開されます。
腕利きの歯医者であるねずみのチュー先生のところへは様々な動物たちが治療にやってきます。
チュー先生は小さな体を活かして牛やロバなどの大きな動物の口の中へ入って治療します。
そのための設備も色々と用意してあるのです。
ただし、やはりねずみなので猫などの危険な肉食獣は診察しません。
看板にもそう書いてお断りしています。
けれどもある日、口に包帯を巻いたきつねが病院を訪れます。
最初は断る先生でしたが、哀れっぽく涙を流して痛みを訴え、治療を懇願するきつねを見て可哀そうに思い、奥さんと相談した結果、診てあげることにします。
きつねの歯は腐っており、抜歯して新しい歯を作らないといけません。
先生は麻酔をかけて治療しますが、きつねは夢うつつでねずみを食べるような寝言を呟きます。
きつねが帰った後、先生は憤慨し、奥さんは明日はきつねを中に入れない方がいいのではと心配します。
けれどもやりかけた仕事は絶対に途中で投げ出さないと信念を持つ先生は、なんとか最後まで治療を続けようと策をめぐらせます。
次の日、きつねは新しい歯を入れてもらいにやってきます。
そして内心では、治療がすんだら先生を食べてしまおうと、とんでもないことを企んでいます。
さて、歯を入れた後で先生は壺を持ち出してきて、これは「ほんのひとぬりで、えいきゅうに歯がいたまなく」なる画期的な薬だと言います。
きつねは喜んでその治療を受けることに合意します。
先生はきつねの歯にまんべんなく薬を塗り、最後にぐっと口を閉じて噛みしめるように指示します。
言われたとおりにするきつねでしたが、なんとそのまま口がくっついて開けなくなってしまいます。
「一日か二日、口をあけられません。このくすりは、さいしょに、歯のしんまで、しみこませなければならないのです」
当てが外れたきつねは何とか威厳を取り繕いながらこそこそと帰って行き、先生と奥さんは喜びのキッスを交わすのでした。
★ ★ ★
スタイグさんは絵も含め、キャラクター造形が見事な作家さんです。
チュー先生の渋いこと。
白衣姿も私服も眼鏡もカッコイイんですね。
一方のきつねは古典的に、外見は紳士で内面は下品で狡い獣として描かれます。
物語が後半になるにつれてだんだんとその本性を隠さなくなってくる演出が見ていてハラハラさせます。
「もうにどと、おめにかかるひつようが、なくなりますよ」
「おまえは、だれにもあえなくなるのさ」
という二人の思惑の応酬も面白く、最後の勝利のカタルシスへと繋がります。
色々な歯医者さんを転々とした経験を持つ私としては、チュー先生のような「当たり」の歯医者さんに巡り合えるかどうかはかなり重要だと思います。
まあ、ねずみを口に入れるのは無理ですけど。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
虫歯の描写が結構痛そう度:☆☆☆☆
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■絵本の買取依頼もお待ちしております。
〒578−0981
大阪府東大阪市島之内2−12−43
E-Mail:book@ehonizm.com
]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
私は上方落語や浪曲などの演芸が好きで、車の運転中などよく聴いているのですが、ここ一年ほどは息子も落語が好きになってきまして、嬉しい限りです。
私の場合は別に親の影響でもなんでもなく、大人になってから自分の無教養が不安になって色々と聴き始めたんですけど、息子の年齢からそういう古典芸能に触れることは大変意味深いと思います。
ただ、例によってこだわりが強くて食わず嫌いで融通の利かない子ですので、聴くのは米朝師匠だけです(稀に枝雀師匠も)。
それも同じネタのCDを何回も何回も繰り返し、一日中BGMみたいにしてかけっぱなしにします。
本人は本を読んだり絵を描いたりして遊んでいて、ちゃんと聴いてるのかどうかわからないのですが、お気に入りの箇所に来ると毎回笑うので、やっぱり聴いているらしい(よく5周も6周も繰り返して同じところで笑えるなと感心します)。
今回は上方落語をもとにした傑作絵本「じごくのそうべえ」の続編を紹介しましょう。
「そうべえごくらくへゆく」。
作・絵:田島征彦
出版社:童心社
発行日:1989年10月20日
日本絵本史上に残る抱腹絶倒のユーモア絵本「じごくのそうべえ」の過去記事も併せてお読みいただければと思います。
米朝師匠の大ネタ「地獄八景亡者の戯れ」をもとにしながら、軽業師のそうべえを主人公に据え、個性豊かな面々が地獄をしっちゃめっちゃかにかき回す活躍ぶりが痛快だった前作。
オチも落語とは違い、ちゃんと生き返るので子どもにも納得の大団円で締めくくったわけですが、今回もまたそうべえが綱渡りの芸を披露中、突風に吹き飛ばされて山伏のふっかい・医者のちくあん諸共死んでしまいます。
前作同様えらい顔をした閻魔様の適当なお裁きによってまたもや地獄へ送られる三名。
ちなみに前作と同じ登場人物が出てきても、一種のパラレルワールドとして描かれているのか、そうべえたちも閻魔様も特に顔見知りではなさそうです。
そして今回もまたとりあえず糞尿地獄へ放り込まれるわけですが、山伏がまじないによってうんこの池をがちんがちんに固めてしまいます。
が、まじないの途中で突き飛ばされ、閻魔様まで引きずって糞尿の池にはまったままで固めてしまったので大変。
出られなくなった閻魔様が泣きつき、そうべえたちは極楽行きと引き換えにまじないを解きます。
さて、極楽は一転して目にも鮮やかな極彩色で描かれます。
いい気分になって浮かれ騒ぐそうべえたちですが、阿弥陀様に見とがめられ、結局また地獄送りを言い渡されます。
牢屋の中で新キャラの絵師「ゆきえもん」と出会い、そうべえは縄抜けの術で自由の身に。
外では阿弥陀様たちが花の蜜のジュースで宴会をしています。
ゆきえもんが花の色の混ぜ方を工夫すると、花のジュースは世にもおいしいお酒に。
とうとう阿弥陀様までご機嫌で踊り出し、天国も地獄もごっちゃになってしまいます。
★ ★ ★
今回は生き返りエンドではないんですね。
ストーリーはオリジナルな展開ですが、要所要所に落語のネタや言い回しが散見されます。
屋根から落ちた怪我人を診て、「落ちる前ならなんとかなったが」とうそぶく藪医者のちくあん先生とか。
ちょっと今では使う人がいないような関西弁も遠慮なく使われていますので、読み聞かせ難度は高いですけど、これをノリノリで読めるようになると楽しいですよ。
絵師のゆきえもんのモデルはおそらく作者自身でしょうね(名前からしても)。
上方落語にも「抜け雀」など、絵描きの登場する噺はあります。
ちなみになかなかの数のネタを聴いた息子ですが、どういうわけか肝心の(?)「地獄八景亡者の戯れ」だけは聴こうとしません。
「じごくのそうべえの元ネタ」ということを教えたら「ぼくは絵本の方が好きだから」という謎の理屈で聴かなくなってしまいました。
どっちも面白い、でいいのに。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆
歯抜き師のしかい先生…度:☆☆☆☆
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
当店もオープンから6周年を迎えました。
相も変わらず細々としたお店ですが、いつもお世話になっている皆様のおかげでここまで続けてこられました。
心よりお礼を申し上げます。
同時に我が家の息子も9歳となりました。
恒例となっている節目のレポートをば。
これまでの1年ごとのレポートも併せて読んでいただけると息子と私の成長が見られます。
私自身過去記事を読み返すことで色々と思い出したり、こんなことを考えてたんだなあと振り返ったりできます。
息子の弱視や発達障害やコロナ禍での小学校入学など、環境や状況は変化すれど、私の基本的な姿勢は今も昔も変わることはありません。
息子が自由で幸福な人間に成長してほしい。
自分で自分の人生を選び取ってほしい。
それだけです。
5歳くらいまでの記事を読み返しますと、そのために慎重に方法を選び、試行錯誤し、懸命に実践してきた自分がいます。
大人の無自覚なエゴによる強制やしつけではなく、自由で幸福で知的な人間への成長をサポートする。
いつでも何度でも絵本を読んであげるというのはそのための手段でもあり、その姿勢そのものが必要だと考えるからです。
けれども、今の自分から見れば少々肩に力が入り過ぎており(無理もないことなので後悔はしてませんが)、親としての危うさも感じます。
まあ今でも危ういんですけど。
どういうことかと言うと、私は世の大人たちの教育の間違い・勘違い・自分勝手さを否定するところから今の育児感に辿り着いたわけですが、記事を書くときに、それを世間にわかってほしい・伝えたいという熱が隠し切れてないなあと思うんですね。
育児について語るということは、自分の育児感の正しさを広めたいという気持ちが必ずどこかにあって当然ですから、変なことを言ってるように思われるかもしれません。
でも、「育児について何かを語る」というのはとても危ういことだと思うようになったのです。
私の息子の発達障害に気づいてから、発達障害や自閉症スペクトラムに関係する本を色々と読みました。
理解を深めるという点ではもちろん必要だし役に立つことです。
問題はそれを読む時の自分の心の在り方です。
やっぱり心のどこかには今のこのしんどさから解放されたい、救われたい、答えを誰かに教えてほしいという感情があるわけです。
発達障害に限らず、育児に悩む親の心境は似たものだと思います。
その感情じたいも、まだ問題ではありません。
問題なのはそういう心持で育児本を読むうち、心を動かされたり、目から鱗の経験をした場合、その著者の言うことすべてを無条件に受け入れたくなる心理が働くことです。
ある育児法の内容がたとえ素晴らしいものであっても、信者みたいになるのは親として好ましい態度だとは思えません。
子どもはみんな一人一人違うわけで、環境も全部同じではありません。
成功者のエピソードを綴った自己啓発本の類がこれほど売れても、それを読んで成功する人はほぼいません(皆無といってもいいと思っています)。
当たり前の話ですが、ある人と同じ能力、同じ環境、同じ性質を持って生まれたとしてさえ、同じ人生にはなりません。
では、育児に関する本を読むことは無駄なのかと言えば、決してそんなことはありませんし、むしろどんどん読み漁るべきです。
知識は必要だし、様々な本を読むことで視野を広げることも重要です。
ただ、上記のような前提を自覚しておかないと、一足飛びに答えに飛びついて、そこで思考停止してしまいます。
育児というのは「これが正しいんだ」という確信と「自分は間違っているかもしれない」という留保の両方が必要なのです。
自己肯定と自己否定を同時に持つ。
「静的な状態」では上の二つの認識は矛盾しますが、「動的な状態」においては、実は矛盾しません。
何故なら動きの中で「回す」ことができるからです。
「じゃあどうしろというのか」という答えを急ぐ姿勢、誰かに正解を求める姿勢を自制し、常に新しい意見に自分を開き、取り入れたり捨てたりする、その面倒で時間のかかる循環作業を厭わないこと。
子どもを観察し続け、成長速度や変化を見逃さず、子どもへの接し方を修正し続けること。
そういう終わりのない「学び」に自分を置き続けることこそが親として必要な態度ではないでしょうか。
何故なら、子どもはその「学びを止めない親」を見て成長するのですから。
そもそも優れた育児本は「私の言うことを聞きなさい」「私を信じなさい」という書き方はしていません(それでも勝手に信者になってしまうのが読者側の危険なのですが)。
むしろ私が読んで「やばい」と思った育児本ほど、「信じなさい」「これが子どものためです」という言い回しをしています。
ですから、この記事に書いてあるようなことも、適当な気持ちで読んで欲しいというのが今の私の気持ちです。
ここに書いてあることは私と私の息子だけの問題です。
誰にも当てはまらないし、当てはめる必要もありません。
それこそが「自由な精神」です。
それくらい言っておかないと、本当にやばい、害悪でさえある育児観に囚われてしまう危険があります。
ちなみに発達障害関連で私が一番害悪だと思ったのは「発達障害は親の教育のせい」「発達障害は治る」という何の根拠もない主張をする思想家です。はっきり名前だしても問題ないんですけど、まあやめておきます。
そもそも発達障害を「治す」という考えそのものが優性思想に結びつく危険を孕んでいます。
今は数が少ないから「障害」扱いだけど、あるいは未来には今の発達障害が健常状態になる可能性だってあると思います。
もしかしたら息子のような人間は単に早く生まれすぎただけなのかもしれません。
さて、息子の近況ですが、今はただただマインクラフトに夢中です。
相変わらず課題や座って勉強することは苦痛なようですけど、毎日漢字か計算の練習をしないとPCに触れないルールを定めたら、嫌々ながらも一応はやれるようになりました。
いくらゲームをやってもPCの基礎知識が身に付くわけではないと思いますが、好きなことの吸収力はすさまじいものがあります。
私も色々と質問されるんですけど、機械音痴なもので何も教えてやれません。
誰か詳しい人が身近にいれば、いくらでも吸収するだろうにと思うと、息子に対して申し訳ない気持ちです。
本もちゃんと毎日読んでいます。
寝る前には一冊絵本を読むことを習慣にしています。
絵本から遠ざかっていた時期もあるのですが、そうして読み聞かせる時間を息子の方も楽しみにしてくれているようです。
やはり絵本で育った子どもは、きっかけさえあればまた戻ってくるものだと実感しています。
その後、寝付くまで字の多い児童書を何か読んであげるのですが、今はずっと「怪人二十面相」シリーズを読んでいます。
食わず嫌いの多い息子ですから、読ませてくれない本もたくさんあります。
「ホビットの冒険」も「ムーミン」も「ジム・ボタンの機関車大旅行」もずっと以前に止まったままだし(本人は勝手に一人で流し読みしたらしいですけど)、個人的にはそろそろ「ズッコケ三人組」シリーズを読んであげたいんですけど、どういうわけか絶対に読ませてくれません…。
しかしそれも永久的というわけではないので、常に隙を伺う毎日です。
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まだまだ暑いですけど、8月も終わりに近づき、息子の夏休みも終わりました。
特に遠出もせず、毎日家遊びと新しく覚えたマインクラフトというゲームに夢中な夏休みでした。
いつになれば気兼ねなく旅行できる日が来るんでしょうね。
まあ、息子はルーティンが変わるのが苦手なので、普段と違うことは求めてないのかもしれませんけど。
今回はロングセラー「どろんこハリー」の挿絵を描いたマーガレット・ブロイ・グレアムさんがストーリーも自分で手掛けた「ベンジー」シリーズより、「ベンジーのふねのたび」を紹介しましょう。
作・絵:マーガレット・ブロイ・グレアム
訳:渡辺茂男
出版社:福音館書店
発行日:1980年4月20日
絵柄がとても可愛らしい犬のベンジーシリーズ、以前はアリス館から発行されていました。
今回は夏のお話。
夏らしい海と空のブルーを基調とした配色がとても鮮やかで美しいです。
耳が長くてしっぽの短い茶色の犬のベンジー。
好奇心が強くて、家族から大事にされていて、「どろんこハリー」のハリーとよく似た設定ですね。
夏が来るとベンジーの飼い主一家は色々なところへ旅行します。
もちろんベンジーも一緒なのですが、今年は船旅で、船には動物を乗せられないということで、ベンジーはメアリおばさんとお留守番。
家族を乗せた船が出航するとベンジーはとても寂しい思いをします。
そしてメアリおばさんと散歩に出た時、ベンジーは首輪を外して港へ一目散。
「うみのじょおう」という家族が乗ったのとよく似た大きな船を見つけ、タラップを駆けあがって乗り込んでしまいます。
それを見つけた船の猫のジンジャーは、ベンジーを追いかけ回します。
倉庫に逃げ込んだベンジーは疲れて眠ってしまい、その間に船は港を出てしまいます。
目を覚ましたベンジーは船を歩き回りますが飼い主一家は見つからず、途方に暮れます。
またしてもジンジャーに見つかって追いかけられますが、仲良くなった船のコックに助けられます。
次の日、マストに上って怖くて降りられなくなったジンジャーをベンジーが発見します。
ジンジャーは助けられ、それからはベンジーと仲良しになります。
2週間後、船は元の港に戻り、ベンジーはジンジャーやコックに別れを告げて家に帰ります。
旅行から帰ってきていた家族とメアリおばさんは、いなくなったベンジーが帰ってきたので大喜びします。
★ ★ ★
天真爛漫なベンジーが可愛い。
家族に会いたさに無鉄砲な冒険を経験したり、猫に追い回されたり。
でもどこへ行ってもその愛嬌とやさしさで周囲から愛され、助けられます。
大人は子どもを見るような目でベンジーが愛おしいし、子どもにとっては自らに重ねて勇気をもらえるような存在です。
作者のグレアムさんは2番目の夫が貿易船の船長で、この作品に登場する「うみのじょおう」という船は、夫の船がモデルになっているそうです。
絵本や児童冒険小説には主人公の動物が船に乗り込むというお話がたくさんありますが、船というものはいつの時代も未知の世界への憧れや渇望へと子どもを導く存在なのでしょう。
そして幼い子どものための冒険には、必ず最後は戻るべき港、帰るべき家族が用意されています。
その安心感の中でこそ思い切り無茶な冒険を楽しむことができるからです。
無条件に自分を愛し、受け入れてくれる家族の存在があるからこそ、子どもは空想の冒険を楽しめるのです。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
動物の表情豊か度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ベンジーのふねのたび」
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お盆も過ぎ、学校の夏休みも半分以上終わってしまいましたが、我が家の息子は今年も特にどこにも出かけず、基本的に家で過ごしています。
考えてみれば小学校生活そのものがコロナに付きまとわれているようなものなので仕方のない面はあるのですが、親としては何らかのイベントがないと可哀そうだなと思ってしまいます。
ただ、本人はそういうことに興味がないのか、今は家でマインクラフトに夢中です。
毎日関連本を読み漁っています。
どこにも行けない夏にうんざりして、日常を離れて旅をしたいと思っているのは私の方かもしれませんね。
今回は至光社の人気シリーズより「どんくまさんみなみのしまへ」を紹介します。
作:蔵冨千鶴子
絵:柿本幸造
出版社:至光社
発行日:1986年
「どうぞのいす」などで知られる柿本幸造さんの作品の中で最も長いシリーズ「どんくまさん」。
素朴で温かみのあるタッチ、そしてキャラクター造形やストーリーも絵の印象通り、のんびりとして優しく、ほっとするような温もりに包まれます。
「気は優しくて力持ち」を代表するようなどんくまさん。
不器用で失敗ばかりするけれど、その人柄に自然と人が集まってきます。
今回は「ずっと まえから ゆめみてた」という南の島へ、ふらふらになったどんくまさんが辿り着くところからお話がスタート。
船が嵐にでもあったんでしょうか。
砂浜で倒れているところに島のうさぎの子どもたちが集まってきて、食べものをあげたり葉っぱのこしみのを着せてあげたり、すぐに仲良くなって遊び始めます。
けれどもその様子を双眼鏡で見ていた物知りうさぎがやってきて、よそものの「かいぶつ」であるどんくまさんを警戒し、子どもたちを家に帰してしまいます。
ひとりぼっちになったどんくまさんは美しい海を泳いで綺麗な魚を捕まえ、子どもたちに見せようとしますが、それも大人たちに咎められ、しょんぼり。
でも子どもたちはどんくまさんと遊びたくて家を抜け出して集まってきます。
その時島をハリケーンが襲います。
どんくまさんは大きな体で子どもたちを守り、一晩中砂浜に伏せてハリケーンをやり過ごします。
朝になって大人たちが子どもたちを心配して出てきますが、子どもたちはみんな無事で、どんくまさんは倒れたヤシの木を起こして島の復旧に働いていました。
大人たちもすっかりどんくまさんを見直し、どんくまさんは晴れて島の一員として迎え入れられます。
楽しい日々を過ごした後、ふと帰りたくなったどんくまさんは、物知りうさぎから友だちの印にもらった双眼鏡を持って帰路に就くのでした。
★ ★ ★
南国への漠然とした憧れは昔も今も変わりませんね。
行ってみたいです。
ろくなニュースが流れない、土地も人の心も狭苦しい日本を離れて、ヤシの木陰で昼寝したい。
まあ仮に行けてもどうせすぐに帰ってこないと駄目なんですけどね。
だからこそいいのかもしれませんけど。
私が子どもの頃はまだ日本が今ほど貧乏でなくて海外旅行も何度か経験できましたが、やはり子どもにはその有難さがあまりわかってなかったし、大人になった今こそ主体的に旅行を楽しめる気がしています。
そう考えると、息子に旅行やイベントを経験させてやりたいという親心も、単なる自己満足なのかもしれません。
早く元の生活に戻って心置きなく旅行できるようになって欲しいですね。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
優しい気持ちになれる度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「どんくまさんみなみのしまへ」
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お盆が近いですね。
今回は「ドームがたり」を紹介しましょう。
作:アーサー・ビナード
絵:スズキコージ
出版社:玉川大学出版部
発行日:2017年3月20日
著者のアーサー・ビナードさんはアメリカ人ですがコルゲート大学を卒業後に来日し、日本で様々な翻訳や詩作の仕事をされています。
そしてこのブログでも何度も取り上げている、強烈なインパクトを放つ絵本作家スズキコージさんが絵を担当し、広島の「原爆ドーム」についての絵本が誕生しました。
「ぼくの名前は「ドーム」。あいにきてくれて、ありがとう」
タイトルの意味は原爆ドーム「を」語るのではなく、原爆ドーム「が」自分自身について語るというもの。
原爆を落とした国の著者が、落とされた国の画家と、原爆ドームの目線で語るという構成になっているわけです。
そもそも原爆ドームの生まれた時の名前は「広島県物産陳列館」。
建物をデザインした「お父さん」はチェコの人。
けれども、戦争が始まってだんだんと世の中の空気が変わっていきます。
そして1945年8月6日、原爆投下。
ドームは原爆の仕組みを「ちっちゃい原子をわった」、放射能による影響は「ウランのカケラが刺さる」と表現します。
「ウランのカケラがとびちっていっぱいささったけど、あまりちっちゃくてみんな「いたい!」ってかんじない。からだにカケラがもぐりこんでじりじり……夏がすぎても広島のまちはカケラだらけ」
太平洋戦争は終わり、凄惨な姿に変わったドームは今の名前で呼ばれるようになります。
そして戦車や爆弾で儲けようとしていた世の中の大人たちは、今度は「原発」で儲けることを考えます。
ドームはさらに「おっかないカケラ」がふえて、「じりじりじりじり10000年ものこる」ことを心配します。
★ ★ ★
相変わらずスズキコージさんの仕事は素晴らしく、どのカットも緻密さと迫力があり、ドームが圧倒的な存在感を放っています。
ウランのカケラが飛び散って刺さるカットはグロテスクで生理的にぞっとさせられます。
それでいて戦争反対、原発反対、というメッセージ性はあえて表に強くは出さず、「そもそも原爆ってなんなの?」と読者自身に考えさせようとする狙いが感じられます。
ドームの語り口は終始非常に抑制的です。
「で、作者の立場はどっちなの?」と問う前に、まずみんなで原子力そのものについてちゃんと考えよう、という姿勢です。
これはそういう絵本であり、そのこと自体は問題ではありませんが、私はここに実はひとつの業を感じるのです。
以下、絵本の評価とは関係のない私見です。
あとがきにも書かれていますが、著者はアメリカの中学校や高校で繰り返し「原爆は必要だった」「原爆のおかげで戦争が早く終わった」という歴史を教わったそうです。
今でも多数のアメリカ人は原爆が起こした悲劇は認めても、原爆投下が「悪」であったとは思っていないのです。
それが「落とした側」のアメリカの「業」です。
それをどうこう言っても始まりません。
しかし唯一の被爆国の国民である我々には原爆を「必要悪」と切り捨てることは、多くの同胞の地獄の苦しみをも切り捨てることに感じられます。
やはり原爆投下は非人道的行為であり、決して許されなかったのだと訴え続ける使命が日本にはあるのです。
しかしながら核兵器禁止条約に対する姿勢を見てもわかるように、日本ははっきりと「核兵器反対」とアメリカや世界に向けて表明することに弱腰です。
そして今や「戦争反対」と声を上げることさえ当たり前でない行為のように思われる風潮が漂っている気がするのです。
それは結局のところ日本人が戦争の加害責任というものに向き合わなかったところに起因するのだと思います。
責任の所在を曖昧にするのは日本のお家芸であり、福島の原発事故についても同じように誰も責任を引き受けません。
しかしユングが正しく洞察したように、向き合わなかった問題は必ず運命として回帰します。
絵本に限らず、原爆の悲劇について描かれた作品は無数にあり、それらは大切な役割を果たしているのですが、その一方で加害者としての日本に真っ向から向き合った作品は実は少ないのではないでしょうか。
戦争の責任を一義的に規定することはもちろん困難です。
その時代の大人一人一人に責任があったと言うことはできるし、それも真実かもしれませんが、しかし、それでもやはり最終的には時の権力者がその責任を一手に負うべきだったのではないでしょうか。
その上でしか先に進めないのではないでしょうか。
日本は天皇制を護持するために何を犠牲にし、今に至るのか。
毎年この時期になるとそんな思いが巡るのです。
そして様々な現代の問題もまた、加害責任と向き合わないという姿勢が根底にあるように感じるのです。
推奨年齢:小学校中学年〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
ドームの佇まいの貫禄度:☆☆☆☆☆
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毎日暑い日が続いておりまして、例によって第7波が凄いことになってますが、皆様お元気でしょうか。
私は至って元気で、息子も元気に夏休みを迎えました。
息子については色々あるんですけど、まあ相変わらずです。
ゆっくりと成長はしていますが、いまだに夜は自分一人では寝ないし、偏食は直らないし、歯磨きは嫌がるし、人に対する興味も薄いです。
しょっちゅう母親と喧嘩してます。
最近のことで書いておくべきなのは、パソコンを与えたことですね。
30分で休憩を挟んで一日1時間という制限付きですが、この条件をやっと飲めるくらいには成長したので(以前なら時間になっても止められなくて爆発したと思います)。
正直早いと思っています。
私の育児方針としては、中学高校くらいまで、PCやスマホやゲームの類は与えない方がいいと考えていました。
過去記事にもそういうことを書いたと思いますが、読書が知的な発達に資するのは単に知識量を増やすからではなく、能動的に考え、想像する力を育てるからです。
動画はどうしても受動的になります。
情報を選んで読み取るというより、圧倒的な量の情報の波をぶつけられるようなものだからです。
絵本の読み聞かせが子どもの健全な成長にとっていかに優れているか、その評価と信念は今も変わっていません。
しかしながら息子は生まれながらに発達に偏りがある子どもで、なかなかこちらの思惑通りには成長してくれません(すべての子育てはそうしたものかもしれませんけど)。
息子は円満な発達というより、興味のあることだけに特化したような発達の仕方をします。
だから生活能力は著しく低いです。
友だちも作らないし、共感力も希薄で、字も汚い。
けれども宇宙や科学の本は大好きだし、レゴブロック遊びなどは一日中でもやっています。
そしてコンピューターや機械に対する強い興味があります。
すでに学校では一人に一台タブレットPCが与えられていますが、授業では全然使わないそうです(なんで?)。
以前コロナ休校したときに家に持ち帰りが認められましたが、オンライン授業などは実施されず、せいぜい端末で理科の番組を見るくらい(それならテレビの録画と変わらない気がしますが)。
しかし、息子はその端末で「scratch」という子ども向けプログラミングソフトを勝手に始めて、目下のところ休み時間はひたすらそれをやるようになりました。
そのために学校に行っているようなものです。
私も詳しいことはさっぱりわからないんですけど、ゲーム感覚でプログラミングの概念が覚えられるみたいです。
どんなものかと思って学校へ迎えに行った時に見せてもらったら、これが予想以上によくできていてびっくり。
RPG風のゲーム、格闘アクションみたいなもの、色んなエフェクトを見せるもの、計算問題を出すもの。
もちろん細部はむちゃくちゃですけど、驚くのは誰にも教わったり習ったりせずに見様見真似でこういうことができるようになってしまった点です。
もともと息子は私の携帯電話を勝手に使って、私も知らないような撮影機能を使いこなしたりしていました。
機械いじりが好きだし得意なんだろうということで、この情熱があるのなら、家でも時間を決めてやらせてあげてはどうか…と、妻とあれこれ相談した結果、ネット制限などをかけた状態でPCで遊ぶ時間を作ることにしたのです。
息子の性質を考えると、将来社会生活がちゃんと営めるように成長したとしても、やはり多人数と関わるような仕事は向いてないだろうし、プログラマーというのはぴったりかもしれません。
円満にバランスよく育てるのが理想ですが、息子の特性を考えれば、得意なことをとことん伸ばしてやる方がいいのかもしれません。
というわけでPC解禁したのですが、すると今度は本で読んだ「マインクラフト」というゲームをやりたいと言い出しました。
その本を読んだところ、プログラミングもできるようになるとのことで、これも許可(マインクラフトそのものは有料ゲームソフト)。
ところがただマインクラフト本体をインストールしただけではプログラミングまではできず、ネット上にあるMODを導入することでそうした遊び方が可能になるそうです。
しかし私がそういう方面に疎いせいで、なかなか難しいし、肝心の息子も何もわからずに漠然とやりたがっているだけなので、色々あるMODのどれがいいのかがわかりません。
結局息子は「習うより慣れろだよ」などと言って、とりあえずマインクラフトを通常プレイで始めています。
説明書も何もない、ネット制限してるのでリサーチすることもしないで、試行錯誤しながら続けています。
他のことは続かなくとも、こういうことは熱心に続きます。
なんだかんだでそれなりに理解しているみたいです。
でも、今のところただゲームで遊んでいるだけにしか見えないんですけど、大丈夫なんでしょうか…。
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今朝起きると蝉がいっせいに鳴き出しました。
夏ですねえ。
熱中症にはお気を付けください。
今回は夏だ海だ冒険だということで、エドワード・アーディゾーニさんの傑作ジュブナイル絵本シリーズより「チムとルーシーとかいぞく」を読みましょう。
作・絵:エドワード・アーディゾーニ
訳:なかがわちひろ
出版社:福音館書店
発行日:2001年6月20日
以前チムシリーズ第一巻「チムとゆうかんなせんちょうさん」を紹介したのは実に五年前ですか…。
やっとこ2巻目を紹介することができました(全11巻紹介できるのはいつのことやら)。
船乗りに憧れる少年・チムはある日こっそり汽船に乗り込み、そこで知り合った船長さんや船乗りと仲良くなり、嵐で危機一髪というところを助かり、地上に戻ります。
今回はその続きの物語。
「ルーシー・ブラウン」という7歳の少女の登場シーンから物語は始まります。
ルーシーには両親がおらず、後見人のグライムズさんと田舎のお屋敷に暮らしています。
遊び友達が欲しいと思っていたルーシーはある日チムを見かけて話しかけます。
チムが船乗りであることを知ったルーシーは、グライムズさんに頼んで船を買ってもらい、みんなで航海に出ようと思いつきます。
グライムズさんはあっさりとこの提案に賛成し、みんなで船を見に行きます。
エバンジェリン号という立派な船を購入したグライムズさんはご機嫌ですが、家政婦のスモウリーさんは船旅に出ることを嫌がって不満顔。
チムは第一巻で知り合ったあの船長やコックたちに手紙を書き、新しい船の乗組員として一緒に航海に誘います。
積み荷を積んだり、ペンキを塗ったり、チムたちは忙しく立ち働き、ついに出発します。
ルーシーもすぐに船乗りたちと仲良くなり、みんなは船上生活を満喫します。
ただ一人、スモウリーさんだけは船酔いがひどくて寝込んでしまいます。
気の毒に思ったグライムズさんは引き返すことを決めますが、その時いかだに乗った男たちが漂流しているのを発見し、船長の指示で助け上げます。
ところがよく見るとひどく人相の悪い連中です。
実はこの男たちは海賊で、倉庫に集まって船を乗っ取る計画を相談しているのをチムとルーシーが立ち聞きしてしまいます。
チムは倉庫にかんぬきをかけ、船長に知らせますが、海賊たちは甲板のハッチから外に出ようとします。
ちょうどそこに居合わせたスモウリーさんの活躍により、海賊は無事に倉庫に閉じ込められ、やがて港で水兵たちに引き渡されます。
一件落着。
スモウリーさんは興奮と忙しさで船酔いを忘れてしまい、エバンジェリン号は海の彼方を目指して出航するのでした。
★ ★ ★
シリーズのヒロインとして登場するルーシーですが、チムに新しい船を与えるという大きな役目を務めるものの、それ以降はさしたる活躍をしません。
初めての船旅だし、無理もないんですが、昨今ではこういう主人公の影のようなヒロインには共感が集まりにくそうです。
船でやってることも航海士の部屋を片付けてあげたり針仕事をして感謝されるというもの。
性役割意識を助長するような表現と言われればその通りかもしれません。
何度か書いてますが、どんなに優れた絵本でも時代の意識や空気から完全に自由ではありません。
そこには作者の無意識に組み込まれた時代の常識や固定観念が表れており、それは現代の作家にしても同じことです。
だからと言ってその作品の素晴らしさが減ぜられるということはないと思います。
古典を読む時には作者の生きた時代を考慮に入れる必要があります。
では子どもに与える影響はどうなんだと言われれば、私はいちいち検閲するよりも子どもが面白いと思って選ぶものを読ませるべきだと考えています。
そしてその際にはなるべく偏らない、たくさんのジャンル、新旧様々な時代の物語を用意してやることで、上記のような偏見は希釈されると思っています。
さて、それにしてもやや唐突な登場の仕方に感じるルーシーとグライムズさんですが、実はアーディゾーニさんの別作品「ルーシーのしあわせ」に登場したキャラクターなんですね。
そこで両親を亡くしたルーシーがグライムズさんに引き取られる経緯が描かれています。
このルーシーのモデルは作者の娘のクリスティアナで、クリスティアナに言わせるとアーディゾーニさんは「女性に関しては古い考え」を持った父親だったそうです。
ですからあるいはルーシーの古典的な女性らしさは作者の娘に対する願望や期待などが反映された結果の造形なのかもしれません。
しかしながら物語としては受動的なだけでは動かしづらい面があったのか、ルーシーは以後のシリーズでは姿を消し、シャーロットというキャラクターにヒロインの座を明け渡すことになるのも面白いところです。
いずれにしても作者の雄弁な絵の魅力にはいささかの変化もなく、キャラクターの表情、躍動、そして積み荷のラベルに至るまでが楽しい演出効果を生み出しています。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
グライムズさん太っ腹度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「チムとルーシーとかいぞく」
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]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
日本昔話の三太郎として誰でも知っている超メジャー作品でありながら、どこか腑に落ちないバッドエンディングによって子ども心にモヤモヤを残す「浦島太郎」のお話。
もちろん絵本作品は多数あり、そのバージョンは様々ですが、やはりクライマックスの玉手箱を開けるシーンは外せません。
あの理不尽さが何を意味するのかについては本当に色んな解釈があるんですけど、今回はモダンで賑やかなイラストとちょっと珍しいラストシーンが他作品とは一線を画すミキハウス社から発行された「うらしまたろう」を紹介したいと思います。
文:川崎洋
絵:湯村輝彦
出版社:ミキハウス
発行日:1989年11月20日
絵本ごとに切り口は様々あれど、ラストの衝撃ゆえにどうしても悲劇のイメージが強い「うらしま」ですが、湯村さんのヘタウマとでも表現したくなる緩い絵柄とポップなタイトルロゴには暗い印象を吹き飛ばして余りあるインパクトがあります。
カラフルな原色をふんだんに使った彩色、ところどころ英字が入っていたり、パロディを盛り込んだり、縦読み横読み織り交ぜ、さらには仕掛けもあって、とにかく賑やかな画面。
「え、これがうらしまたろうのお話なの?」と呆気にとられる大胆さ。
川崎さんの文も軽妙で、うらしまたろうを「あんちゃん」と表記したり、ことごとく従来のイメージを突き崩すスタイル。
しかしながらストーリーそのものは原作通りに進んでいきます。
一方で他のうらしま作品が手短に語ってしまいがちな竜宮城での日々の描写にかなりのページ数を割いているのも特徴です。
確かに今の子どもは「鯛や鮃の舞い踊り」の優雅さに心躍ったりしなさそうです。
この絵本の竜宮での遊びは本当に楽しそうで、月日が経つのを忘れてしまうのも無理はないと思わせる説得力を持っています。
さらに読み始めるとすぐに気づくのですが、この絵本が斬新なのはカメラフレームです。
最初と最後のカットを除き、全編通して「主人公の目線」に構図が固定されているんですね。
そのため、うらしまたろうのビジュアルは想像しにくいものの、読者を物語に巻き込む力はとても強い仕掛けになっているわけです。
さて、そんなドタバタめまぐるしい展開が続き、それでもやっぱりうらしまが村へ帰る時がきます。
おとひめさまは「けっして ふたを あけないでくださいね」と玉手箱を渡します。
竜宮の楽しい描写の長さに比して、帰ってから自分の家が無く、村にも知ってる人がいないというシーンは実に短く、わずかワンカットで語られ、うらしまは何の躊躇もなく玉手箱を開け、白い煙に包まれます。
やはり老人になるのですが、その後にさらに「きれいな つる」に変化し、大空へと飛び立っていく、というラスト。
★ ★ ★
お話の筋は変わりませんが、上記のような構成によって悲劇性はとことん取り除かれた「楽しい浦島太郎」絵本となっています。
浦島太郎が鶴に変身する、というのは別に川崎さんの独創ではなく、ちゃんとそういうバージョンも存在します。
さらには鶴になった後乙姫様と再会して夫婦になるというハッピーエンドもあるのですね。
そっちの方が話がすっきりしてる気もするのですが、ほとんどの浦島太郎では主人公が禁を破って玉手箱を開け、老人になるところで物語を終わらせていますね。
どちらが好みかは脇に置いて、何故乙姫様は呪物とでも言うべき玉手箱を恩人である浦島太郎に渡したりしたのか、このお話の教訓はいったい何なのか、など色々な解釈可能性へ読者を導くという意味では、バッドエンドの方が深みがあるかもしれません。
「かぐやひめ」もそうですが、古いお話には現代では解釈に苦しむようなエンディングが用意されていたりして、そこがまた味わい深いところでもあります。
そしてこの昔話がこんなにも長い時を超えて語り継がれているのは、ひとつには「時の流れ」の不思議さを子どもに強く印象付けるからでしょう。
有名な解釈として浦島太郎は宇宙人によって連れ去られた人の体験談である、というのがありますよね。
アインシュタインより先に特殊相対性理論を描いた昔話だ、とか。
竜宮と村を、魂の生きる霊界と肉体を持つ現実界になぞらえて捉えて、時間というものを考察したり。
ただ、この絵本では村が変わっていたのは竜宮と地上では時の流れが違うため、という説明は省かれています。
いずれにせよ、色々なバージョンの「うらしまたろう」を読み比べると再話者の意図や解釈が見えてきて面白いですよ。
ショップも覗いてみてくださいね。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
悲劇的度:☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「うらしまたろう」
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介する絵本は「わにくん」です。
作:ペーター・ニクル
絵:ビネッテ・シュレーダー
訳:矢川澄子
出版社:偕成社
発行日:1980年1月
色々語るべきところは多い作品なんですけど、何はともあれ絵が素晴らしい。
絵本というより画集のような佇まいで、色使いがとにかく美しい。
某小説に登場して話題となった絵本「ラ・タ・タ・タム」と同じビネッテ・シュレーダーさんの絵で、作者も同じペーター・ニクルさん。
エジプトの砂漠、スフィンクス、ナイル川が幻想的に描かれ、主役のわにがお洒落な帽子とパイプを身に着け、気取ったポーズを取っている表紙絵。
基調となっているグリーンの美しいこと。
「わにくん」という牧歌的な邦題とデフォルメされたわにの姿は可愛らしいけれども、爬虫類そのものの眼と、真っ赤に裂けた巨大な口に並ぶ無数のぎざぎざの歯には少し怖さもあります。
美しいけどシュールな絵と展開、どこか風刺的な物語。
やや取り扱い注意といった絵本ですが、やっぱり何度読んでも楽しいことには違いないです。
ナイルの川岸に寝そべったわにの描写から始まりますが、優雅にリラックスした姿勢で足に花を持ったりして、なかなか詩情を感じさせるわに…なのですが、傍らには今しがた食事を終えた魚の骨が散らばっており、生々しい生も対比的に描かれているのですね。
そこへ散歩に来た浮かれ気分のご婦人二人。
一人がわにを見て、「まあ すてき、わにの みせに つれていきたいこと!さぞや いろいろ やくに たつでしょう」と叫ぶのを耳にしたわには、そのわにの店に行ってみることを決意します。
ここからわにの旅路が描かれます。
船に乗り、ヨットに乗り、汽車に乗り、花の都パリを目指すわに。
そのひとつひとつのカットは壁に飾りたいほど綺麗です。
パリに到着したわにはカフェに入ってコーヒーを飲み、シャンゼリゼ通りを冷やかし歩きますが、人々は無気力で不気味で、妙な不安を感じさせるように描かれています。
そしてついにわには目的の店へ入りますが、ここで矢川澄子さんの「せいてんのへきれきとは このことだ!」の名翻訳。
そこはわにのための店ではなく、わに革の品物を売る店だったのです。
わにはショックを受け、怒り狂います。
そしてやにわに売り子の「ソフィーさん」を一飲みにしてしまうのです。
それからソフィーさんの持ち物だった「しゃれた しなじなを ふくろに ごっそり」詰め込んで、「これで きも はればれ。やましい おもいは さらになく」ナイルへ戻っていきます。
その後、ナイルにはおしゃれなわにがたくさんいるようになります。
帽子を被ったり傘をさしたり、おめかししたり、時には香水の香りまで。
★ ★ ★
ラストはかなり衝撃的ですし、子ども向けでないと言われればその通りかもしれません。
動物虐待に対する警告であるとか、身を飾るために動物の命を奪う人間の残虐さや傲慢さに対する皮肉であるという読み方もできるでしょう。
しかしながらその一方で、わには単に「愚かな人間」を誅殺するだけの存在ではなく、人間の真似をして身を飾る人間臭さを備えています(まあこのわには最初から最後まで人間臭いんですけど)。
なかなか単純な物語ではないのですが、細かいところを全部払拭して余りある絵の幻想的美しさ。
やっぱり画集的絵本と呼べるかもしれません。
あれこれ難しく解釈しようとするより、ひたすら夢の中のような美しい景色に、わに同様うっとり浸るのがこの絵本の楽しみ方だと思います。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
ソフィーさん哀れ度:☆☆☆
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介するのは「おおはくちょうのそら」です。
作・絵:手島圭三郎
出版社:ベネッセコーポレーション
発行日:1983年2月12日
以前ここで取り上げた「しまふくろうのみずうみ」の著者、手島圭三郎さんによる北の森シリーズ。
雄大で峻厳な北海道の自然と、そこで暮らす動物たちを描いた力強い版画は何度見ても圧巻で、ため息が出るほど美しいです。
オオハクチョウは冬の間北海道から東北にかけて飛来し、主に太平洋側の湖などで越冬します。
鳴き声は「クォーッ、クォーッ」。
春が近づき、オオハクチョウたちは生まれ故郷の北の国へと一斉に飛び立ちます。
しかし夕暮れ、まだ出発できずに湖に留まる6羽の家族がありました。
子どもが病気のため、飛ぶことができないのです。
お父さんは病気の子どもが回復するまで、帰郷を遅らせることにします。
しかし、春が来ても子どもは良くなるどころかますます弱っていきます。
ついに一家は北の国に飛び立つことを決意します。
病気の子どもを置いていくのはどんなにか辛いことでしょう。
しかし、いつまでも留まっているわけにはいかないのです。
家族は子どもの周りを鳴きながら飛び回りますが、子どもは飛び立つことができません。
遠くなっていく家族を追いかけて子どもは哀しい声で鳴きます。
一度は見えなくなった家族でしたが、一人ぼっちになった子どものもとへ、もう一度家族は戻ってきます。
安心した子どもは家族に見守られながら息を引き取ります。
そして家族は今度こそ北の国へと羽ばたきます。
無事に北の国に帰り着いた家族は、一緒に来ることのできなかった可哀そうな子どもに思いを馳せます。
すると大空に、死んだ子どもの姿が輝きながら浮かび上がります。
冷たい空に、オオハクチョウの澄んだ鳴き声が響きます。
★ ★ ★
動物ドキュメントのようですが、絵本として擬人化もされており、物語性もありながら、厳しい自然のリアルには手を付けておりません。
結果として子どもは助からず、それでも後ろ髪をひかれて戻ってくるオオハクチョウの家族の姿には涙を禁じえません。
作者の大自然への畏怖の念が痛いほど伝わってきます。
私は北海道に行ったことはないのですが、行ってみたいとはかねがね思っています(息子がもう少し大きくなったら…)。
しかし、北海道旅行と言っても北海道は広すぎるので結局は札幌で美味しいもの食べて終わりでしょうね…それでもいいんですけど。
同じ日本でありながら、やはり北海道は別格感ありますねえ。
最近漫画の影響などもあって、アイヌ文化が注目を集めていますが、手島さんは「カムイ・ユーカラの世界」シリーズで、アイヌの神々が語る美しい生命の歌を見事な版画絵本に仕上げています。
機会があればぜひ手に取ってみてください。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
青と白の印象深さ度:☆☆☆☆☆
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
先日、沖縄復帰50周年記念式典が開かれました。
復帰と言いながら、沖縄の米軍基地負担や本土との格差などの問題はいまだ解決されていません。
今回は沖縄出身の儀間比呂志さんが創作した民話風絵本「ふなひき太良」を紹介します。
作・絵:儀間比呂志
出版社:岩崎書店
発行日:1971年3月31日
儀間さんは沖縄の風土や戦争をテーマに力強い木版画で多くの作品を残しています。
これはそんな作者の絵本作品としては最初期のもので、やはり沖縄への想い、魂を揺さぶるような人々の声なき声、そうしたものが熱く感じられる物語になっています。
いわゆる琉球方言が多く用いられ、私たちが音読するには少し慣れが必要ですが、やはりこの物語はこの方言あってこそだと思いますね。
「あぬやぁ、むかし むかしの はなしやしが」。
沖縄の南の村に「がし」(飢饉)があり、食べるものにも困っている中、村のおじいはひとりの赤ん坊を拾います。
おじいはその子を「太良(たらあ)」と名付けて可愛がります。
太良はどんどん大きくなり、巨人のように成長しますが、働きもせずに毎日寝てばかりでした。
ある年、村はすさまじい台風に襲われ、芋や米も全部流されて食べるものもなくなってしまいます。
途方に暮れる村人たちのところへ、一隻の船が現れます。
薩摩の侍と役人が乗った公用船です。
食べものを持ってきてくれたのだと思って喜んで迎える村人たちですが、侍と役人は無情にも年貢の取り立てに来たのでした。
台風被害で何もない、年貢は来年収めるから食べ物を分けてほしいと頼みますが、聞き入れられません。
その時、台風でも目を覚まさなかった太良が起き上がります。
太良はのっそりのっそりと海へ入り、歌いながら船に近づき、錨綱を掴むと船を浜へ引き寄せ始めます。
侍は青くなって太良の足を鞭で打ち据えますが、足から血を流しながらも太良は船を引くのをやめません。
その姿を見た村人たちは勇気づけられ、我も我もと船を押しにかかります。
とうとうたくさんの食料を積んだ船は陸のふもとまで引き揚げられます。
村人たちは喜んで輪になって踊ります。
太良は大きな声で村人を励ました後、突然仰向けに倒れると大きな岩へと姿を変えてしまいます。
その後、村は復興され、ふなひき太良の岩は今でも守り神のように、天へ向かってそびえたっています。
★ ★ ★
「さんねんねたろう」と同じく、寝てばかりの怠け者のごくつぶしである主人公が、最後の最後にそれまで自分を育ててくれた村人たちを救う、という構成の物語です。
「本土の役人」という国家権力が敵として描かれますが、これは沖縄の人々の想いを考えれば当然と言えるでしょう。
沖縄は本土に支配され、戦後もずっと政治権力になぶられ、苛め抜かれてきたのです。
今でもその構図は変わっていません。
基地問題にしても、報道は「県民の中にも賛否ある」という伝え方をしますが、そもそもの前提として、沖縄県民だけがそんなつらい「賛否」を選ばねばならない立場を強制されているのは何故でしょう。
どんな言葉で取り繕おうとも、戦争に負けた日本がアメリカに対し沖縄を犠牲に差し出したという事実は変わりません。
ところが政府はそのことを恥じ入る心を忘れ、むしろ基地建設に反対する県民を弾圧する側に回るという倒錯が起こっています。
私は沖縄問題を語るのは苦手です。
それは私もまた本土の人間であり、弱者をいたぶる側の人間であるからです。
しかもまるで勉強が足りてない。
そんな人間に沖縄を語る資格があるとは思えません。
ただ、これほど今までさんざん「日米同盟のため」という大義を掲げて沖縄に基地負担を強いてきた人々が、ロシア・ウクライナの戦争を見て「日米同盟では日本は守れないので核武装するべき」などと発言しているのを見ると、さすがに欺瞞が過ぎるのではないかと思うのですが。
沖縄の歴史はまさにこうした「理不尽」の歴史です。
この絵本にも理不尽と戦い続けた島の人々の想いがこもっています。
普段は寝ているだけのような太良の胸の内には、理不尽に対するマグマのような怒りと、人間に対する限りない優しさが滾っているのです。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
太良の歌が難しいけど楽しい度:☆☆☆☆☆
■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ふなひき太良」
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]]>こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
GWいかがお過ごしでしょうか。
緊急事態宣言は出ていないとはいえ、まだまだ伸び伸びと行楽に行ける世情ではないですが、少しずつ日常が取り戻せればと思います。
さて、今回は久しぶりに息子の読書事情について綴ります。
過去記事を読んでいない方のために説明しておくと、我が家では息子が生後間もない頃からずっと、多くの絵本の読み聞かせをしてきました。
読み聞かせについての私の基本的な考え方は下の記事に綴っています。
なるべく多くのジャンルを、息子の反応を見ながら、リクエストには無条件に応える形で、何度繰り返しても、何冊でも読んできました。
当時は気づきませんでしたが息子にはADHDやASDといった特徴があり、本に対する「食わず嫌い」も見られたものの、読書量は同年代の子どもに比べてかなり多くなりました。
1歳で自然に字を覚え、一人で読むことも普通になりました。
その後も読み聞かせは続けつつ、図鑑や科学書、児童書なども追加していきました。
しかしながら小学校入学あたりから絵本を読んでもらいたがることは大幅に減りました。
たまに一人で読んでいることはありますが、寝る前に習慣的に読むのは字の多い児童書で、絵本は読みません。
絵本だとどうしても絵を見るので寝ないということもありますね(息子は目を閉じて寝に入るのが苦手です)。
ちなみに児童書も頭から読ませてくれないことはざらにあります。
また、冒頭をちょろっと読んだ後、昼の間に自分で全部読んでしまって「もういい」と言われた本も多いです。
「ムーミン谷の彗星」も「ホビットの冒険」も「ジム・ボタンの機関車大旅行」も「怪人二十面相」シリーズのうちの何冊かもそのパターンでした。
今は「ソフィーの世界」を半分まで読みました。これは内容が難しいせいか最後まで読ませてくれそうですね。
そんな感じで絵本からは遠ざかっていたのですが、先日実に久しぶりに絵本を読んであげる機会がありました。
いつものように布団に入る前に、何の気なしに「絵本読んであげようか?」と聞いてみると素直に「うん」と言って座ったのです。
もう遅い時間だったのでそれほど冊数は読めませんでしたが、「モチモチの木」「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」「ゼラルダと人喰い鬼」「ガンピーさんのふなあそび」などを、ちゃんと最後まで本の前に座って聞いていました。
以前は絵を怖がって読まなかった「モチモチの木」も嫌がらずに聞いていたし、「ガンピーさん」は幼い頃以上に楽しんで大笑いしながら聞いていたし、私も久々に絵本を読んであげる喜びに浸れました。
実を言うと私自身、「もう絵本は読むこともないのかな…」と半分諦めて「読んであげようか?」と聞くことすらしなくなっていたのです。
でもそれは息子が様々な他の遊び(レゴとか工作とか漫画とか)に忙しいことが多いだけで、今回のようにタイミングさえ合えばいつでも絵本の世界の扉は開かれているのだということを再確認できました。
「幼い頃に読書の喜びを知った魂は、たとえ成長過程で他の遊びに心が移っても、機会さえあればいつでも何度でも本に戻ってくるものだ」と何かで読んだことを思い出します。
現に私は子どもを持ってからこんなにも多くの絵本を読むようになりましたし、子どもの頃読んだ絵本や児童書を再読することの喜びや、自分が成長したことによる新たな発見などを楽しむことができています。
息子には感謝しています。
「読んであげる誰か」「読んでくれる誰か」が揃った時、絵本の真の力が発揮されるというのは本当なのです。
そしてそこに年齢はまったく関係ありません。
この連休、皆様も一冊でも子どもと絵本を読んでみることをおすすめします。
きっと幸せな気持ちになれますから。
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こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
私は今江祥智さん&長新太さんのペアによる児童小説で育った口で、小学生の頃は「さく:いまえよしとも、え:ちょうしんた」と表紙に書かれていればとりあえず全幅の信頼をおいて読み始めたものです。
今江さんのユーモアあふれる文章、ほっとするような、それでいてどこかに寂しさを感じるような語り口。
挿絵の時の長さんは、いつものナンセンスな作風を控えめにしていますが、とぼけた表情のキャラクターが今江さんの物語を膨らませており、何度読んでも飽きさせません。
今回はその二人による作品「ひとつふたつみっつ」を紹介します。
作:今江祥智
絵:長新太
出版社:BL出版
発行日:2002年11月1日
初出は1968年といいますから実に50年以上も前のお話になります。
その時も挿絵を担当した長さんが10年後に新たに絵を描き、新版として出版され、さらに20年の月日を経て一冊の絵本として世に出たのがこの作品です。
「黒」をテーマにした作品ということで、絵には黒が多く用いられ、テキストのページも黒に白抜き文字。
そのためにどこか暗く、寂しい印象を受けますが、それは削りに削られた多くを語らない詩のような文による効果でもあります。
主人公の少年の父親が帰らない朝が「ひとつ ふたつ みっつ」続きます。
母親によると仕事で帰らないそうです。
少年にはよくわかりません。
ある時、黒い車に乗せられて、少年は母親と広いホールのある建物に連れていかれます。
舞台上に現れたのは黒いタキシードに身を包み、指揮棒を持った父親。
指揮棒を振るうと、大勢の楽士が揃って動き出し、音楽が広がります。
「まっくらなそらに あおいほしが ひとつ ふたつ みっつ……と ひかりはじめたような きがした」
★ ★ ★
手持ちの語彙が少ないとは、世界を認識するのに必要な言葉の量を持たないということです。
自分を包括する世界の現象、自分の心情、そうしたものに名前がない(わからない)ゆえに、子どもは境界線がぼやけた夢のような世界に生きることになります。
だからこそ、そこで起こる出来事は何の障壁もなくまっすぐに心に届き、突き刺さるのです。
今江さんの文はまさにそんな子どもの世界を的確にとらえており、それゆえ子どもの心を掴んで放しません。
私は子どもの頃、今江さんの書くお話を読みながら「もっと話してよ」「もっと突っ込んで説明してよ」という気持ちを覚えたものです。
何かを感じた時、それを言い表す言葉を求めて本を読み漁り、結局言葉は見つからず、心に何かが残るだけ。
しかしそれを繰り返すことによって子どもは手探りで言葉を拾い集め、自我を形成していくのです。
今江さんのような児童作家がいて、長さんのような絵を描く人がいてくれた私の子ども時代はきっと恵まれていたのでしょう。
余談になりますが、今江さんの古い作品って登場人物のセリフが「」でなくて頭に――という表記で書かれているんですね。
時代なのかもしれませんが、私の感覚だとこの――から始まるセリフは実際に発した言葉ではなく、心の中で思ったセリフと受け取る癖がついているため、どうしても音の感覚から遠くなります。
今江さんの作品にどこか寂しい印象を受けるのは、もしかするとこれが原因のひとつかもしれません。
個人的な話ですけど。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
黒の印象深さ度:☆☆☆☆☆
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