2017.02.16 Thursday
絵本の紹介「ボルカ はねなしガチョウのぼうけん」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回はイギリスを代表する絵本作家、ジョン・バーニンガムさんの27歳の時のデビュー作を紹介します。
「ボルカ はねなしガチョウのぼうけん」です。
作・絵:ジョン・バーニンガム
訳:木島始
出版社:ほるぷ出版
発行日:1993年12月1日
バーニンガムさんは、個人的に大好きな作家さんです。
作品はもちろんのことですが、そのパーソナリティに興味が尽きないのです。
私の育児観、子ども観は、A.S.ニイルやR.シュタイナーに大きく影響を受けています。
彼らはともに、その思想に基いた学校を創設しており、それは現代まで残っています。
実は、バーニンガムさんは、その二校ともに入学し(彼は9つもの学校を転々としました)、子ども時代を過ごした経験を持っているのです。
これは学校の紹介記事ではないので詳細は省きますが、ニイルやシュタイナーの思想に共通点があるとすれば、子どもに対して性善説で接するということだと思います。
幼い子どもをムチで叩き、大人の鋳型に矯正しようという「教育」を行う学校が一般的だった時代において、子どもを信じ、理解し、認めようという彼らの学校は、非常に進歩的であったと言えるでしょう。
私は、最初からバーニンガムさんの絵本には惹きつけられていたのですが、こうした事情を知って、その理由の一端が明らかになったように感じています。
「ガンピーさんのふなあそび」に代表される、彼の作品に流れている子どもに対する眼差しには、確かに信頼と理解と承認を見て取ることができるのです。
さて、「ボルカ」の内容に入りましょう。
ガチョウの夫婦の間に生まれたボルカ(♀)には、生まれつき羽がありませんでした。
母親は心配して、毛糸で羽を編んでやります。
ボルカは喜びますが、他の仲間たちには笑われます。
誰も相手になってくれず、ひとりぼっちで、泳ぎも飛び方の練習も一緒にできないでいるうちに、寒い冬が来て、ガチョウたちはみんなで暖かい土地へ飛び去って行きます。
ですが、飛び方を知らないボルカは置いてきぼりになります。
両親でさえ、ボルカがいないことに気付いてくれませんでした。
雨を避けるために入り込んだ船で、ボルカは犬のファウラーに出会い、船倉で寝かせてもらいます。
やがて朝が来て、船長たちが船に戻り、船はロンドンへ出航してしまいます。
ファウラーは船倉で寝ているボルカのことを思い出し、船長に相談します。
船長たちは気のいい人で、すぐにボルカと仲良くなります。
やがて船がロンドンに着くと、船長はボルカをキュー植物園へ放します。
そこにはたくさんのガチョウや鳥が暮らしており、誰もボルカの毛あみの羽を笑ったりしませんでした。
ボルカは今でも、キュー植物園でしあわせにくらしています。
★ ★ ★
バーニンガムさんの作品はどれも、限りない優しさに満ちています。
けれどそれは少しもベタついてない、とても素っ気ないものです。
それは子どもに対する「無条件の承認」からくる優しさなのです。
大人が「愛」だと思っているものには、たいてい交換条件や見返りを期待する心が入っています。
「言うことを聞いてくれたら」
「テストでいい点を取ったら」
「頑張って勉強したら」
こんなセリフをそこかしこで耳にします。
しかしこれは愛でしょうか。
愛には色んな形があるかもしれないけれど、子どもたちが求めているのは「承認」という形の愛だと思います。
居場所がないことに苦しむ子どもに、偽物の愛でつけ込もうとする大人たちが大勢います。
けれども、そうした子どもたちが必要としているのは、ただ、「そのままの自分」を認めてくれること―――それだけなのです。
ボルカは「みにくいアヒルの子」のように、美しい白鳥にはなりません。
でも、彼女の「そのまま」を、船長やキュー植物園の仲間たちは当たり前のように認め、受け入れてくれます。
ボルカがキュー植物園で泳ぎを練習し始めたように、頑張ったり、変わろうとするのは、無条件の承認があった「後」なのです。
大人は、この順序を取り違えてはなりません。
頑張る必要も、無理に変わろうとする必要もないんだよ。
世界は広いんだから、必ずどこかに君の居場所があるよ。
子どもたちが無意識の底で渇望しているその言葉を、バーニンガムさんは語っているように思います。
素っ気なく、優しく。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
犬の名前の意味が実は怖い度:☆☆☆☆
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