2017.02.08 Wednesday
絵本の紹介「スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回取り上げるのは「スイミー ちいさなかしこいさかなのはなし」です。
作・絵:レオ・レオニ
訳:谷川俊太郎
出版社:好学社
発行日:1986年8月
とても有名な作品です。
小学校の教科書で出会った方も多いでしょう。
しかし、教科書の「スイミー」しか知らない方にはぜひ、本物の「スイミー」を手に取っていただきたいと願います。
以前の記事で触れましたが、教科書用に編纂された絵本は、本来の生命を失っています。
作者のレオ・レオニさんは、伯父が美術蒐集家であったことなどから、幼いころよりピカソやシャガールなどの絵に囲まれて育ったといいます。
そんな環境で、自然に芸術的審美眼が磨かれていったのでしょう。
また、第二次世界大戦の時代を生き、思想家でもあったレオニさんは、ファシズムやマッカーシズムに抵抗し、攻撃や批判に晒されました。
「スイミー」は、そうした経験から深みを増した彼の思想が凝縮されて生まれたと言ってもいい作品です。
そうしたことも踏まえて、この絵本を読んでみましょう。
広い海で兄弟の魚たちと楽しく暮らしていた、小さな黒い魚のスイミー。
しかしある時、大きなまぐろに、兄弟は全員吞み込まれてしまいます。
一匹だけ難を逃れたスイミーは、暗い海の底で悲嘆に暮れます。
しかし、それまで知らなかった、海にある素晴らしいもの、面白いものを見るたび、スイミーは少しづつ元気を取り戻していきます。
「にじいろの ゼリーのような くらげ」
「すいちゅうブルドーザーみたいな いせえび」
「ドロップみたいな いわから はえてる、こんぶや わかめの はやし」
……。
この一連のシーンの絵は本当に美しく、スイミーとともに目を奪われます。
やがてスイミーは、失った兄弟たちにそっくりの、赤い小さな魚たちの群れに出会います。
スイミーは彼らを誘いますが、赤い魚たちは、大きな魚を恐れて、岩陰から出てこようとしません。
そこでスイミーは、みんなで一匹の大きな魚のように泳ぐことを考え付きます。
みんなが一匹の魚のように泳げるようになったとき、一匹だけ黒いスイミーは、
「ぼくが、めに なろう」
と言います。
スイミーを目として、みんなは泳ぎ出し、ついに大きな魚を追い出します。
★ ★ ★
国語の読解問題などでは、これは「みんなが一致団結して、大きな力を生み出す」物語である、という解釈が「正解」とされるのでしょう(いかにも模範的ですし)。
もちろん、そう読むことは自由ですし、間違いというわけではありません。
しかし、それではとてもレオ・レオニという巨大な人間の思想の本質にまで触れることはできません。
彼が生きた時代背景を考えれば、スイミーのように家族や仲間を一瞬にして失うことは実際に誰の身にも起こりえたでしょう。
孤独に海をさまようスイミーと、オランダ、イタリア、アメリカを転々とした作者自身の人生は、無関係ではないと思います。
災厄からひとりだけ生き延びた者は、自分の果たすべき役割を見つめざるを得なくなります。
スイミーの旅は、自己を見つめる旅です。
世界を知り、己を知り、物事の本質を見極める「目」を育てたスイミーが、最後に
「ぼくが、めに なろう」
と引き受けるのは必然なのです。
「目」というのは、全体における役割であって、他の機能に比べて優れているとか偉いとかの問題ではありません。
ここに、レオニさんの社会に対する思想の一端が現れているのではないでしょうか。
個々の能力差を、「階級差」とするのではなく、「役割分担」として、全体の調和を目指すこと。
「階級社会」は「おおきい さかな」=「独裁者」にとって都合のいいものであり、権力に立ち向かうためにはそれを乗り越える必要があるということ。
「目」にはそうしたことを見抜き、人々に教えるという役目があります。
しかし、それは誰もが持てる能力ではありません。
それは生まれ育った環境、それもたいていの場合は逆境の中で開かれる能力です。
だからこそ、人生における悲しみや辛さ、寂しさという波にぶち当たったとき、打ちひしがれて飲み込まれるのではなく、それは自分を見つめ直す好機であり、「目」を開けて生きるための試練なのだと受け止めるべきなのです。
大切なのは、悲しみの中にあったとしても、人生における美しいもの、素晴らしいもの、面白いものに目を向けて、前向きな態度で生きることです。
そう、スイミーのように。
推奨年齢:5歳〜
読み聞かせ難易度:☆
芸術的完成度:☆☆☆☆☆
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