2016.10.06 Thursday
絵本の紹介「ちいさいじどうしゃ」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
なぜに子どもは、特に男の子は乗り物が大好きなのでしょう。
女との脳の構造の違いで、男は狩りをしていた頃の名残りで、動く物に強い関心を持つとか。
学説の正否は知りませんが、我が家の息子(3歳)は、至って順調に男の子として成長している模様で、最初は「丸くて回っているもの」に興味を示し(タイヤとか独楽ですね)、続いて自動車に興奮し、現在は電車に傾倒し、毎日飽かずに図鑑を眺めております。
こういう子どもの好みは昔から変わりませんから、のりもの絵本というジャンルが出来上がったわけですね。
今回はそんなのりもの絵本の代表的ロングセラー、「ちいさいじどうしゃ」を紹介します。
作者のロイス・レンスキーさんは女性です。
実に1934年に刊行された絵本です。
日本語版は福音館書店から、当時は製作費などの都合からか、二色刷で出版されていました。
現在はカラー版となっています。
話の筋というほどのものはなく、ただ主人公のスモールさんが自動車で町までドライブして帰ってくる様子を、淡々とした文章で説明し続けます。
「ちいさい じどうしゃには タイヤが ついています。 スモールさんは、タイヤに くうきを いれています」
「ちいさい じどうしゃには ラジエーターが ついています。 スモールさんは、ラジエーターに みずを いれています」
この徹底的ともいえる素っ気なさ。
読み聞かせる側としては少々退屈かもしれません。
まして、これを10回もアンコールされると、もはや苦痛です。
しかし、まさにこの語り口こそが、この絵本が80年以上もの長きに渡って子どもに支持され続けてきた最大の理由なのです。
子どもは世界を知りたがっています。
大人がそれをどういう形で教えればよいのかについて、単一の正解は存在しません。
論理的に説明するのか、ファンタジーの形式で伝えるのか、細部まで解説するのか、輪郭だけを与えるのか。
それはケースバイケースですが、少なくとも現実的生活というものを教えるときには、この絵本のように、余計な言葉を省き、事実だけを分かりやすく語ってあげることが必要なのでしょう。
子どもはそこに、作者の子どもへの敬意と真摯さを感じ取ります。
この絵本は絵と文に何の乖離もありません。
文は完璧に絵を語っていますし、絵は完璧に文を語っています。
そこに、子どもへのごまかしは、一切入り込む余地はないのです。
80年前の外国の絵本ですから、時代を感じさせる描写はあちこちにあります。
それでもそれを問題にしないのは、この絵本がきちんと子どもに向けて作られていることを、子どもたち自身が見抜くからでしょう。
■「スモールさん」シリーズの、スモールさん一家の日常を描いた「スモールさんはおとうさん」も人気です。
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