2017.01.30 Monday
絵本の紹介「こんとあき」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
現在、我が家の絵本棚には1200冊以上の絵本が並んでいます。
それだけの数があると、何度でも読んでもらえる絵本も絞られてきます(もちろん、選考者は息子です)。
今回紹介する「こんとあき」は、そんな熾烈なレギュラー争いを勝ち抜いた一冊です。
作・絵:林明子
出版社:福音館書店
発行日:1989年6月30日
林さんの絵本を紹介するのはこれで3度目ですが、彼女の作品の中では私自身もこれが一番のお気に入りです。
相変わらず、絵が上手い。
特に、子どもの表情と、肌の質感がたまりません。
ほっぺたを触りたくなります。
内容としては、女の子とぬいぐるみの友情物語、という体裁ではありますが、その中に実に様々な要素が詰め込まれていて、しかもそれが無理なく絶妙に調和されており、何層にも深みのある絵本となっています。
おばあちゃんに赤ちゃんのおもりを頼まれて「さきゅうまち」からやってきた、きつねのぬいぐるみの「こん」。
「あき」というのが赤ちゃんの名前。
ふたりはいつでもいっしょに遊んで、あきはだんだん大きくなり、こんはだんだん古くなります。
ある日、とうとうこんの腕がほころびてしまいます。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ」
「さきゅうまちに かえって、おばあちゃんに なおしてもらってくる」
と、出かけようとするこんに、あきはついて行くことにします。
こんとあきは特急列車に乗り、「さきゅうえき」に向かいます。
途中で弁当を買いに行ったこんがドアにしっぽを挟まれるトラブルに遭いながらも、ふたりは「さきゅうえき」に到着します。
ちょっとだけ砂丘を見たい、とあきが言い、ふたりは砂丘に足跡をつけます。
そこでもトラブルが起こり、こんは野良犬にくわえられ、連れ去られてしまいます。
あきはどうにか砂に埋められたこんを見つけ出し、背中におぶって、おばあちゃんのうちへ向かいます。
こんは小さな声で「だいじょうぶ、だいじょうぶ」としか言わなくなってしまいます。
とうとうおばあちゃんのうちに辿り着いたあきは、おばあちゃんの胸に飛び込んで、
「おばあちゃん、こんを なおして!」
と懇願します。
おばあちゃんはふたりを家に入れ、こんのあちこちをしっかり縫い付け、仕上げにお風呂に入れて、「できたてのように きれいな きつね」にしてくれます。
★ ★ ★
息子はいろいろな絵本のキャラクターになりきりますが、この絵本では必ず「こん」になります(私は「あき」にされます)。
いつもあきの先に立って彼女をリードする、ちょっと背伸びしたようなこんが、子どもの目にもとても魅力的に映るのだと思います。
逆に、親の目から読むと、各ページごとのあきの表情の変化が胸に響きます。
表紙の、こんを見る優しい顔。
汽車の席で、こんの帰りを待つ不安げな顔。
こんといっしょにお弁当を食べている時の無防備な顔。
砂丘で犬に遭遇した時の怯えた顔。
そして何よりも、砂に埋まったこんを抱き上げた時の顔と、見開きでこんをおぶって砂の山を下って行く姿は、何度見ても涙が出そうになります。
設定は一風変わっていますが、これは王道の「冒険成長物語」です。
あきの成長は、「行間を読む」ような仕方で「絵を読む」ことで伝わってきます。
さらに、この絵本を味わい深いものにしているのは、いつもの林さんの遊び心。
駅や汽車に登場する人物をよく見ると、林さんの他の作品からの友情出演があったり、なぜかチャップリンがいたり、「不思議の国のアリス」や「ピーターラビット」のキャラクターがいたり。
それに、「さきゅう」はどう見ても鳥取砂丘。
「あげどんべんとう」(レシピが存在します)にも鳥取名物の豆腐入りちくわが入っています。
林さんのご両親(表紙の優しそうな老夫婦のモデルらしいです)が鳥取県出身ということで、いわば「ご当地絵本」としての側面も持っているんです。
まだまだ語りたいことはいろいろありますが、きりがないのでこのへんで。
とにかく、読んだことのない方は一度読んでみてください。
ラストの「よかった!」を読むとき、いつも子どもと心が一つになれます。
幸せになれる絵本です。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
こんの存在感度:☆☆☆☆☆
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