絵本の紹介「チョコレートパン」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは、シンプルだけれどもわけのわからない絵本、「チョコレートパン」です。

作・絵:長新太

出版社:福音館書店

発行日:2004年4月1日

 

ナンセンスの神様・長新太さん。

このブログで取り上げるのは「キャベツくん」以来ですね。

 

≫絵本の紹介「キャベツくん」

 

場面は、どこかの山の中。

「キャベツくん」と共通するのは、その広々とした俯瞰図。

登場人物(人は出てきませんけど)との距離が遠いことが特徴です。

 

いきなり、「これは チョコレートの いけ」という、強引極まりない説明で始まります。

そこへパンがトコトコ歩いてきて、温泉みたいにして池に浸かります。

で、「チョコレートパンの できあがり」。

 

続いて、ゾウ、自動車、その他動物たちが次々と池に入り、チョコレートまみれになって出て行きます。

さらに大勢の動物たちが池に入ろうとしたところで、池からちょっとキレ気味? な声が。

パンだけです あとはいけません いけません

 

★   ★   ★

 

長さんは本当に不思議な作家さんです。

こういう作品を描けるのは彼をおいて他にいないかもしれません。

そしてまた、こんなにも解説しづらい作品を描く作家も他に類を見ません。

まあ、絵本を解説するという行為が、そもそもヤボであることは承知の上で、ちょっとばかり長さんの世界に踏み込んで考察してみましょう。

 

ナンセンス、と片付けるのは簡単ですが、この絵本のどこがナンセンスなのかを考えてみると、それは読み手のある種の「思い込み」を次々に裏切っていく点にあります。

 

チョコレートの池に、パンが入って、おいしそうなチョコレートパンができる……というだけなら、そういう楽しい絵本は他にもたくさんあるし、別段絵本の世界においてはナンセンスとまでは言わないでしょう。

 

ところが、パンの次に池に入るのは、ゾウなのです。

じゃあ、次は他の動物なのか……と思ってページをめくると、「ブーブー ブーブー」とだけ文で書かれて、自動車が浸かっています(ブタじゃないんですね)。

なんだ、何でもアリなんだな、と思って読み進むと、突然池から「パン以外禁止」という「ルール提示」がなされ、ここでもまた読者は予想を裏切られることになります。

 

なんだか馬鹿にされてるような、人を食ったような作品、というイメージを持つ大人もいるでしょう。

しかし、忘れてはならないのは、この絵本のそもそもの始まりにおいて、すでに私たちは大きな「裏切り」の中に巻き込まれているという事実です。

 

山の中の茶色い水たまりは、説明なしに見れば、普通は「泥の池」にしか思えません。

それを、「これは チョコレートの いけ」という、唐突で断定的な「設定」を最初にぶち込まれることによって、私たちは、

「ふむ、これはチョコレートの池なんだな」

と、無条件に受け入れてしまっているのです。

 

こういう状況は何かに似ています。

それは子どもたちの「遊び」です。

 

泥まんじゅうに代表されるように、子どもたちはいとも容易く「本当は違うもの」を、「本物」と見立てて遊びます。

そこに、無邪気さや純真さだけを見るのは、少々子どもを侮っています。

彼らは真剣に、想像力を目いっぱい駆使して、その「設定」を受け入れ、維持しているのです。

 

子ども時代の遊びを思い出してください。

誰かがただの泥水を「これは チョコレートの 池」と力強く宣言することによって、周りの子どもたちはその「設定」を共有します。

もしそこに他のグループの子どもたちが「ゾウ」とか「自動車」とかを持ち込んできては、彼らの共有する想像世界が壊されてしまいます。

だから、そんな闖入者に対して、子どもたちは真剣に怒り、追い出そうとするのです。

「パンだけです あとはいけません」と。

 

最後のページの、正直ただの泥の塊にも見える物体を、「チョコレートパンの いいにおい」という宣言は、闖入者を追い出し、自分たちの想像世界を守った子どもたちの、改めてのルールの確認作業のように思えます。

 

ただ、これはあくまでこの絵本の一面的な見方に過ぎません(私見ですし)。

この絵本も含め、長さんがいわゆる「ナンセンス」と評される作品を描き続けた原動力はどこにあるのか、彼は何を表現し、伝えたかったのか―――

 

それはまた、次の機会にでも考えてみたいと思います。

 

推奨年齢:2歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

意外と哲学的度:☆☆☆☆

 

■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。

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