2017.01.16 Monday
絵本の紹介「チョコレートパン」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回紹介するのは、シンプルだけれどもわけのわからない絵本、「チョコレートパン」です。
作・絵:長新太
出版社:福音館書店
発行日:2004年4月1日
ナンセンスの神様・長新太さん。
このブログで取り上げるのは「キャベツくん」以来ですね。
場面は、どこかの山の中。
「キャベツくん」と共通するのは、その広々とした俯瞰図。
登場人物(人は出てきませんけど)との距離が遠いことが特徴です。
いきなり、「これは チョコレートの いけ」という、強引極まりない説明で始まります。
そこへパンがトコトコ歩いてきて、温泉みたいにして池に浸かります。
で、「チョコレートパンの できあがり」。
続いて、ゾウ、自動車、その他動物たちが次々と池に入り、チョコレートまみれになって出て行きます。
さらに大勢の動物たちが池に入ろうとしたところで、池からちょっとキレ気味? な声が。
「パンだけです あとはいけません いけません」
★ ★ ★
長さんは本当に不思議な作家さんです。
こういう作品を描けるのは彼をおいて他にいないかもしれません。
そしてまた、こんなにも解説しづらい作品を描く作家も他に類を見ません。
まあ、絵本を解説するという行為が、そもそもヤボであることは承知の上で、ちょっとばかり長さんの世界に踏み込んで考察してみましょう。
ナンセンス、と片付けるのは簡単ですが、この絵本のどこがナンセンスなのかを考えてみると、それは読み手のある種の「思い込み」を次々に裏切っていく点にあります。
チョコレートの池に、パンが入って、おいしそうなチョコレートパンができる……というだけなら、そういう楽しい絵本は他にもたくさんあるし、別段絵本の世界においてはナンセンスとまでは言わないでしょう。
ところが、パンの次に池に入るのは、ゾウなのです。
じゃあ、次は他の動物なのか……と思ってページをめくると、「ブーブー ブーブー」とだけ文で書かれて、自動車が浸かっています(ブタじゃないんですね)。
なんだ、何でもアリなんだな、と思って読み進むと、突然池から「パン以外禁止」という「ルール提示」がなされ、ここでもまた読者は予想を裏切られることになります。
なんだか馬鹿にされてるような、人を食ったような作品、というイメージを持つ大人もいるでしょう。
しかし、忘れてはならないのは、この絵本のそもそもの始まりにおいて、すでに私たちは大きな「裏切り」の中に巻き込まれているという事実です。
山の中の茶色い水たまりは、説明なしに見れば、普通は「泥の池」にしか思えません。
それを、「これは チョコレートの いけ」という、唐突で断定的な「設定」を最初にぶち込まれることによって、私たちは、
「ふむ、これはチョコレートの池なんだな」
と、無条件に受け入れてしまっているのです。
こういう状況は何かに似ています。
それは子どもたちの「遊び」です。
泥まんじゅうに代表されるように、子どもたちはいとも容易く「本当は違うもの」を、「本物」と見立てて遊びます。
そこに、無邪気さや純真さだけを見るのは、少々子どもを侮っています。
彼らは真剣に、想像力を目いっぱい駆使して、その「設定」を受け入れ、維持しているのです。
子ども時代の遊びを思い出してください。
誰かがただの泥水を「これは チョコレートの 池」と力強く宣言することによって、周りの子どもたちはその「設定」を共有します。
もしそこに他のグループの子どもたちが「ゾウ」とか「自動車」とかを持ち込んできては、彼らの共有する想像世界が壊されてしまいます。
だから、そんな闖入者に対して、子どもたちは真剣に怒り、追い出そうとするのです。
「パンだけです あとはいけません」と。
最後のページの、正直ただの泥の塊にも見える物体を、「チョコレートパンの いいにおい」という宣言は、闖入者を追い出し、自分たちの想像世界を守った子どもたちの、改めてのルールの確認作業のように思えます。
ただ、これはあくまでこの絵本の一面的な見方に過ぎません(私見ですし)。
この絵本も含め、長さんがいわゆる「ナンセンス」と評される作品を描き続けた原動力はどこにあるのか、彼は何を表現し、伝えたかったのか―――
それはまた、次の機会にでも考えてみたいと思います。
推奨年齢:2歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆
意外と哲学的度:☆☆☆☆
■えほにずむでは、このブログで紹介した以外にも、たくさんのよい絵本を取り扱っております。ぜひ、HPも併せてご覧ください。
■絵本の買取依頼もお待ちしております。
絵本専門の古本屋 えほにずむ
〒578-0981
大阪府東大阪市島之内2-12-43
E-Mail:book@ehonizm.com