私の師匠

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は、私の師匠についての話。

 

私が師に弟子入りしたのは、3年前。

それからずっと寝食を共にし、師の身の回りのお世話をさせてもらってます。

 

しかし、師は特に何にも教えてくれません。

 

それどころか、入門して半年くらいは、まともに口もきいてくれませんでした。

というか、寝たきりに近い状態でして、食事も排便も入浴も、私が手伝わなくてはできないのです。

それでいて、夜中に何度も目を覚まし、そのたびに私も起きなければ怒られるのです。

 

もしかすると、師はただの寝たきりのボケ老人なのではないか(髪の毛は薄いし)。

延々と続く世話に、そんな疑惑さえ抱いたものです。

 

師のお世話の中には、絵本の朗読が含まれます。

師を後ろから支え、お気に入りの絵本を声を出して読むのです。

読み終えても、師は何の感想も口にしません。

ただ、「もう一度読め」という意思表示だけはします。

それで、何度も何度も、師の気が済むまで、何時間でも繰り返し読むことになります。

 

辛い修行でした。

 

いったい、こんなことを繰り返して、何か有用なことが学べるのだろうか。

不安と疲労に、すべてを投げ出したい気持ちに襲われたことは、一度や二度ではありませんでした。

 

しかし、そんな気分の時に師と目が合うと、師のあまりに澄み切った眼差しに、私は自分の胸の内をすべて見透かされているような思いに打たれるのでした。

もしかすると、師は何もかもを知っているのかもしれない。

その上で、私を試しているのかもしれない。

師の瞳を見ていると、そんな畏怖に近い感情が湧き起こってくるのです。

 

そんな日々が続くうち、だんだんと師から言葉をかけてもらえるようになってきました。

今では、師は元気に歩き回り、外出もされます(その際にも、私はついて行かなければなりませんが)。

相変わらず絵本の朗読修行は続いていますが、以前ほど苦痛には感じなくなりました。

むしろ、楽しくさえあります。

絵本を読みながら、師と心が通じ合う瞬間は、なんと表現していいかわからない歓びです。

 

でもやっぱり、師は言葉では何も教えてくれません。

 

けれども、ふと考えてみれば、この3年間で、仕事でも、人付き合いでも、考え方でも、自分が変わったような気がするのです。

もちろん、良い方向に。

 

あるいは最初から今まで、ずっと師は私に何かを伝えてくれていたのかもしれません。

私に、その何かを受け取る用意ができるのを、何も言わず、じっと待っていたのかもしれません。

 

きっと、そうなのでしょう。

やはり、師は偉大な方でした。

 

「師」とは誰のことか―――

言わなくても、わかりますよね。

 

 

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