絵本の紹介 松居直・赤羽末吉「ももたろう」

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむ店主です。

 

私は息子に1000冊以上の絵本を読み聞かせましたが、楽しい反面、難しくも感じるのが日本の昔話というジャンルです。

 

独特の方言や言い回しが出てきたり、耳慣れない単語が飛び出したり。

もっとも、読み聞かせにおいて、子どもから質問されない限り、いちいち説明するのは無粋というものです。

 

昔話というものは、何世代にもわたって語り継がれる中で、余計なものが極限にまで削ぎ落とされた究極の物語です。

その一方で、誰もが知っているという気軽さから、雑に扱ってしまいがちな面もあります。

 

本当は、私自身は、昔話をするにはまだ人生経験が足りないと感じています。

こういうものは本来的には、年寄りが孫の世代に向かって(できれば寒い夜に、囲炉裏の火でも囲みながら)するのが「作法」だと思うのですが、もうそれが難しい時代ですし、力不足ながらも、親の世代が語り部となるしかないでしょう。

 

幸いにして、絵本というものが、昔話を語る上でも頼もしい味方となってくれます。

もし絵本がなければ、自分の力で昔話を一本、演じ切れるという人は少なくなってきているのではないでしょうか。

 

さて、今回ご紹介するのは、もっとも有名な日本昔話、「ももたろう」です。

文・松居直、絵・赤羽末吉、福音館書店が出版しています。

松居さんは月刊絵本「こどものとも」などを手掛けた編集長で、日本の絵本界の発展に多大な貢献をした方です。

赤羽さんは「スーホの白い馬」などで有名な絵本画家。

 

松居さんはこの「ももたろう」の在り方というものを真剣に考えてこられた方で、彼が再話した「ももたろう」は、われわれになじみ深いお話とは細部において少々違いが目立ちます。

桃から生まれた桃太郎が鬼ヶ島へ鬼退治へ、という筋はそのままですが、鬼退治にゆくのは、一羽のカラスが、

おにがしまの おにがきて、あっちゃむらで こめとった。 があー があー

こっちゃむらで しおとった。 があー があー

ひめを さろうて おにがしま

と鳴くのがきっかけになっています。

 

お姫様が出てくるところが珍しい。

また、鬼ヶ島へ行こうとする桃太郎を、おじいさんとおばあさんが懸命に思いとどまらせようとする点も特徴的です。

それでも反対を押し切って、桃太郎は鬼ヶ島へ。

途中で犬・猿・雉をお供にして、見事に鬼をやっつけます。

 

この後の展開が最大の違い。

鬼が差し出す宝物を桃太郎は断り、

たからものは いらん。 おひめさまを かえせ

と、連れて帰ったお姫様と結婚し、おじいさんおばあさんと末永く幸せに暮らしました……という結末。

 

どうしてこういう構成にしたのでしょう。

実は松居さんは第二次世界大戦中、「ももたろう」が軍国主義的物語として政府に利用されていた「負の歴史」を拭いたかったのだといいます。

 

つまり、桃太郎が自分から鬼ヶ島(敵国)へ攻め込んで宝物を奪うというのでは「侵略」となってしまうと考え、その点を苦慮して、カラスやお姫様を登場させたのですね。

 

もちろんそれだけではなく、昔話につきものの擬音語・擬態語も、

つんぶく かんぶく

じゃくっ

ほおげあ ほおげあっ

など、独特ながらどこか懐かしく、楽しいです。

文章のリズムもよく考えられており、赤羽さんの墨絵も風情たっぷりです。

 

昔話をする歓びというものを教えてくれる一冊です。

 

 

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