【絵本の紹介】「ブレーメンのおんがくたい」【382冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

7月に入って、今年も上半期が終わりましたね。

だんだん早くなると感じるのは毎年のことですが、この半年でCOVID-19の脅威が世界中を席捲したことについては「まだたった半年?」とも思えます。

生活の変容に、自分で思っている以上に疲れている方が多いのではないでしょうか。

 

さて、今回の絵本紹介はグリム童話から。

ハンス・フィッシャーさんによる「ブレーメンのおんがくたい」を読んでみたいと思います。

原作:グリム童話

絵:ハンス・フィッシャー

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1964年4月15日

 

スイスきってのデザイナー・フィッシャーさんの作品は以前「たんじょうび」を取り上げています。

 

≫絵本の紹介「たんじょうび」

 

彼の絵本はすべて我が子のために描かれたプライベートなもので、この「ブレーメンのおんがくたい」も長女へのクリスマスプレゼントギフトとしての作品です。

流麗な線と絶妙な動物たちのデフォルメが素晴らしい。

個人的にはロバの耳と、おんどりのプロモーションと色彩が大好きです。

 

お話は原作に忠実で誰もがよく知る内容です。

勤勉に働いてきたのに、老いて衰えたことで主人に冷遇され始めたろばは、家を出てブレーメンの町を目指して旅をします。

そこで太鼓を叩いて音楽隊に雇ってもらおうと考えたのです。

 

途中、いぬ、ねこ、おんどりが仲間に加わります。

彼らもまた様々な事情により飼い主から切られつつあったのです。

日が暮れる頃、森に差し掛かった四人組は、一軒の家を見つけて近寄っていきます。

するとそこは泥棒たちのアジトであり、ちょうど豪勢な宴の真っ最中だったのです。

 

四人組は一計を案じ、ろばの上にいぬ、いぬの上にねこ、ねこの上におんどりが乗って一斉に鳴きたてます。

化け物の声だと思った泥棒たちは泡を食って逃げ出し、四人組はご馳走にありつき、安心して眠りにつきます。

その夜、様子を見に泥棒が戻ってきます。

しかしうっかりねこの光る眼を燃えている石炭と勘違いし、手ひどい逆襲に遭います。

泥棒はほうほうのていで仲間のところへ駆け戻り、泥棒たちは二度とこの家に近づきませんでした。

四人組はすっかりこの住処が気に入り、永住することにしたのでした。

 

★      ★      ★

 

絵本化物語としては見せ場がはっきりとしており、定番のカットをどう描くかが作家の腕の見せ所。

キャラクターの躍動感という点では、フィッシャーさんは他の作家を寄せ付けません。

瀬田さんの訳も安定。

 

さて、物語の内容としましては、これは私は子どものころから妙に思っていたことなのですが、「ブレーメンのおんがくたい」というタイトルにもかかわらず、四人組は結局ブレーメンには辿り着かず、音楽隊にも入らずに終わってしまうのですね。

泥棒たちを驚かすのにそれぞれの楽器を使うわけでもなく(鳴き声を音楽ととることは可能ですが)、二度目の対決では肉弾戦でボコボコにしてますし。

 

ですから子ども心に「ブレーメン」という単語が謎を含んだ響きとして、かえって印象深かった記憶が残ってます。

で、実際のブレーメンを調べてみました。

ブレーメンはドイツの大都市で自由ハンザ都市ブレーメンの州都(ウィキ)。

 

オペラやミュージカルの劇場があり、時代背景的には生まれ育ちに関係なく能力次第で仕事を得ることのできる夢のある町として知られていたようです。

だからろばたちは人生の再スタートの地としてブレーメンを目指したわけですね。

 

前述のとおり「ブレーメン」も「音楽隊」も物語には登場しないことを考えると、この物語の核はそこではなく、四人組が人生をやり直そうと旅をして安息の地を得ることそのものにあると言えます。

 

四人組に共通するのは「失業者」である点です。

それも加齢や主人の横暴という自分ではどうすることもできない要素によって職を奪われ、生命までも脅かされている環境にあるのです。

 

「生産性がない」と切り捨てられ、生活が困窮しても見捨てられている社会的弱者。

これは現代日本でも、今まさに眼前にある光景とは言えないでしょうか。

ことにコロナ禍の中、職を失い、追い詰められている人々に対し、「自己責任論」で片づけてしまおうとする社会の在り方に、この絵本は重なって見えるのです。

 

そう考えると、グリムの時代から現代まで、こうした社会的弱者への救済はいまだに達成されていないと言えます。

四人組が「ブレーメン」に辿り着くことが大切なのではないのです。

私たちの社会を(物語的な意味においての)「ブレーメン」にするにはどうすればいいのか。

それを考える仕事を放棄しないことが私たちに託された使命なのではないでしょうか。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

こんなプレゼント羨ましすぎる度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ブレーメンのおんがくたい

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