【絵本の紹介】「ようこそ森へ」【379冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは村上康成さんの「ようこそ森へ」です。

作・絵:村上康成

出版社:徳間書店

発行日:2001年4月30日

 

以前に村上さんのデビュー作「ピンク、ぺっこん」を取り上げました。

 

≫絵本の紹介「ピンク、ぺっこん」

 

その記事でも触れていますが、村上さんの自然に対する独特の目線は処女作にして確立されていました。

厳しいような温かいような、突き放すような寄り添うような、近くて遠い距離感。

そして強烈にデフォルメされているにもかかわらず、妙にリアルに感じる生き物の息遣い。

 

この「ようこそ森へ」は、特にそんな作者のオリジナリティが発揮されている傑作です。

まず、その構造が非常に実験的。

 

表紙と扉絵を飾るのは一羽のカケス。

ジェーッ、グェッ」。

彼の棲む森へ、とある家族がキャンプにやってきます。

カケスは木の上からそれを見て、「キャンプかな」。

家族もカケスに気づいて見上げます。

どうです、なかなかハンサムなカケスでしょ

などと気取るカケス。

 

この構図はカケスからの視点で描かれます。

もう一人の主人公であるところの少年、そしてその両親のセリフは一切書かれません。

つまり、これは森の住人であるカケスが自らガイド役をかって、家族に語り掛けるという形式の絵本なのです。

カケスは森のことを色々と自慢しますが、それは一方的でもあり、家族と実際に会話をしているわけではありません。

しかし、家族、少年はカケスを意識していることも明らかであり、必ずしもコミュニケーションが不成立というわけでもない。

この微妙な関係性が実に心地いい。

家族はテントを張り、食事を作り、翌日は虫を取ったり釣りをしたり。

帰るときに少年は虫取り網を忘れかけますが、カケスが鳴いて知らせます。

 

少年とカケスは見つめ合い、カケスはひとこと「元気で」と飛び去ります。

 

★      ★      ★

 

アングルのダイナミックさ、自在さ。

目まぐるしく視点が変わっても読者が混乱しないのは、必要なもの以外は描かないシンプルさゆえです。

 

森を上空から捉えた見開きカットではテント、川、家族それぞれ、トンビ(かな)、そしてカケスが小さく描きこまれているだけです。

他のページでもキツツキやリス、ムササビ、キツネなどが点々と描きこまれていますが、それだけで森の広大さや生き物の息遣いまでがありありと伝わってくるのです。

 

そして繰り返しになりますが、カケスと少年たちとの距離感と関係性が素晴らしい。

これが凡庸な作家なら、人間を森への「無法な侵入者」と描くか、あるいは「みんななかよし」で歓迎されるか、そのどちらかになりがちです。

 

人間たちは好き勝手に遊び、虫や魚を追い回し、カケスに食べ物を投げますが、カケスはカケスで「どう、ここはいいところでしょ?」と言いたくて仕方がない様子で勝手に人間たちに語り掛けるのです。

「自然と語り合う」「共生する」などと気軽に口にする「自然好き」は大勢いますが、現実には自然と人間は切り離されています。

近づいても近づけない、かといって人間もまた自然の一部であることには変わりがない。

 

カケスの一人語り、という構造の斬新さばかりに目が行きがちですが、上記のような微妙な距離感を維持している点においてこそ、この絵本は画期的なのだと思います。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

演出の憎さ度:☆☆☆☆☆

 

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