2016.11.24 Thursday
絵本の紹介「スーホの白い馬」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回は小学校の教科書にも採用されていた「スーホの白い馬」(再話:大塚勇三、絵:赤羽末吉、福音館書店)を紹介したいと思います。
原作はモンゴルの民話。
モンゴルを舞台にした物語というものを、はじめて読んだのがこの絵本だという人も多いのではないでしょうか。
絵師の赤羽さんにとっては二作目の絵本で、「360度地平線」という、日本では見ることのできないモンゴルの大草原の風景を描きたいという熱意から生まれた作品です。
その広大な景色を表現するために、見開きヨコ60cm以上という、当時としては破格の大きさで出版されています。
実は、私はこの絵本を、まだ息子(3歳)には読み聞かせていません。
私は絵本の推奨年齢というものをさほど参考にしておりませんので、この絵本よりももっと字の多い話や、難しい言葉の出てくる話も読み聞かせてきました。
しかし、この絵本に関しては、もう少し息子の成長を観察してからにしようかと考えています。
その理由は後述します。
遊牧民の少年スーホは、ある日、生まれたばかりの仔馬が倒れているのを見つけ、連れて帰ります。
スーホが心を込めて世話をしたおかげで、仔馬は逞しくて美しい、立派な白い馬に成長します。
ある年の春、領主が娘の結婚相手を探すための競馬大会を開くという知らせが伝わってきます。
仲間に勧められて、スーホは白馬に乗って大会に出場します。
そして、見事に優勝します。
しかし、スーホが貧しい羊飼いであるとわかると、領主は娘と結婚させる約束を反故にし、そればかりか白馬をスーホから取り上げてしまいます。
抵抗したスーホはひどい目に遭わされ、友達に連れられてようやく家に帰りつきますが、その胸中は白馬を奪われた無念と悲しみでいっぱいでした。
白馬を手に入れた領主は、宴会の席で白馬を見せびらかそうとしますが、白馬は領主を振り落として脱走します。
たくさんの弓矢を射かけられながらも、白馬はスーホのもとへ走ります。
弱り切った状態でやっとスーホのところへ帰り着いた白馬でしたが、翌日には死んでしまいます。
悲しみに暮れるスーホの夢枕に白馬が現れ、話しかけます。
「そんなに、かなしまないでください。それより、わたしのほねや、かわや、すじや、けを使って、がっきを作ってください」
夢から覚めたスーホは、白馬に教えられた通りに楽器を作ります。
それが、今でもモンゴルにある、一番上が馬の頭の形をした「馬頭琴」という楽器でした。
スーホはどこへ行くにもこの馬頭琴を持っていき、白馬との思い出とともに、美しい音を奏でるのでした。
読んでもらえればわかると思いますが、情愛、哀惜、憤り……実に様々な感情を揺り起こす繊細なお話です。
これらの複雑な感情を、「悲しい」「かわいそう」という単純な記号に落とし込んで片付けてしまうと、このお話の最も重要な核となっているテーマを見落としてしまいます。
それはすなわち、「命の連続性」というものです。
白馬は死にますが、白馬の魂は死なないのです。
白馬の「ほねや、かわや、すじや、け」を使って作られた馬頭琴には、白馬の魂が宿っています。
果てしない大草原に流れる馬頭琴の音色を想像するとき、子どもは確かに白馬の魂を感じ、そして「音にも命がある」ことを知るのです。
そのとき、子どもは自分を取り巻いている世界のすべてに命が宿っており、そして自分もその一部なのだという強烈な一体感を持つようになります。
別に宗教的な話ではなく、こういう認識は、科学的に見ても、人間の生命力に大きく影響します。
現実世界と想像の世界との「境界」を生きる子どもは、そうした断定的な認識を、わりとすんなり受け入れることができますが、適切な時期を逃してしまうと、大人になってからでは難しいものです。
何しろ目に見えるものではありませんから。
ただし、上記のようなことは、あくまでも子どもが自分で「気づいて、感じる」ことが重要で、間違っても大人が言葉で説明しようとしてはいけません。
それでは結局「記号的認識」にとどまってしまいます。
子どもに与える物語は、初めのうちはわかりやすい形のハッピーエンドであるべきです。
この「スーホの白い馬」のようなお話は、子どもの感情がある程度発達し、自分から物語の芯とでもいうべき部分を抽出できるようになってから読んであげたほうがいいかもしれません。
そう考えて、私は息子にこの絵本を読み聞かせる機会を伺っているのです(同じ理由で、「かぐや姫」や「浦島太郎」も、まだ読み聞かせていません)。
けれど、その時期は、たくさんの絵本を読み聞かせてあげていれば、そう待つこともなく自然に訪れると思っています。
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