【絵本の紹介】樋口淳・片山健「あかずきん」【363冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

昔話絵本というものは同じ物語であっても再話者・挿絵画家によって大きくその印象は異なるもので、「これが決定版」と安易に選出することはできません。

そうした差異自体を読み比べる愉しみもあります。

 

今回は数ある海外の昔話の中でもトップの知名度を誇る「赤ずきん」のおはなしを紹介するわけですが、以前にポール・ガルドンさんによるわりとオーソドックス(広く世間に認知されているストーリー展開という意味で)な「あかずきんちゃん」を取り上げました。

 

≫絵本の紹介「あかずきんちゃん」

 

そこで「あかずきん」にはペロー版・グリム版を二大勢力として、実に様々な形態が存在することに触れました。

予習的に読んでいただければと思います。

 

で、今回登場するのは樋口淳さん再話・片山健さん画による「あかずきん」です。

文:樋口淳

絵:片山健

出版社:ほるぷ出版

発行日:1992年4月20日

 

繰り返しになりますが、赤ずきんの物語には大きく分けて二つパターンがあります。

ペロー版は赤ずきんが狼に食べられて終わるバッドエンド。

グリム版では狩人の介入によって赤ずきんとおばあさんは狼の腹から救出されます。

その他、口承として残っている赤ずきん物語の中には、なんと赤ずきんが自力で狼から逃げ出す(しかも「赤ずきん」を被っていない)ものもあります。

 

今回紹介するところの樋口さん作「あかずきん」はそれらをブレンドし、現代的に再構築した内容になっています。

ちなみに現在絶版で入手困難なことから読んだ人も少ないと思われますが、結構驚くようなストーリー展開です。

 

まずは読んでみましょう。

導入部は誰もが知っているグリム版とほぼ同じ。

主人公「あかずきん」が、病気のおばあさんを見舞うため、お母さんから「パンとバター」を預かって出かけます。

 

あかずきんは森の中で「おおかみ」に遭遇。

絵が色々と凄まじいんですが、それは後で。

 

おおかみに遠回りの道を教えられたあかずきんは、途中でつい道草を食ってしまいます。

一方のおおかみは先回りしておばあさん宅に到着。

そして衝撃的な見開きでおばあさんを「あたまから ばりばり」食べてしまいます。

しかも「のこりをなべにいれて 火にかけた」って……。

 

この時点でおばあさんの復活はありえないことがわかります。

さらには遅れてやってきたあかずきんに対し、おおかみはおばあさんの肉と血の葡萄酒を勧めるのです。

怖すぎる。

 

この猟奇性からすぐに連想されるのは日本昔話史上類例を見ない残虐復讐譚「かちかちやま」です。

 

≫絵本の紹介「かちかちやま」

 

あの恐るべき「ばあじる事件」と同類のカニバリズムエピソードは海外にもあったのです。

が、この絵本では「ふしぎな小鳥」の助言により、あかずきんがおばあさんを食べてしまう胸の悪い展開は回避されます。

 

しかしまだおおかみの正体に気づかないあかずきんは、おおかみに誘われてベッドに入ります。

ここはペロー版「赤ずきん」の特徴を引き継いでいます。

 

ペロー版では赤ずきんは服を脱いでベッドに入るという露骨な性的描写がなされており、「狼」=「娘をたぶらかす男」という図式で、貞操についての教訓的物語になっているのです。

そしてその部分が特に時代と共に改編されてきたわけです。

 

それはそうですよね。

逆に言えばそうやって時代の気分に合わせてメタモルフォーゼを繰り返すことで、「赤ずきん」は現代まで生き延びてきたということです。

 

さて、物語の山場であるあのスリリングな問答「おばあさん、なんておおきな耳なの」「なんておおきな目なの」「なんておおきな口なの」を経て、ついにおおかみがその正体を現します。

どう見てもあかずきんもあばあさんと同じ運命を辿るとしか思えない絵。

ですが、ここからさらに物語は意外な展開を見せるのです。

 

あかずきんは咄嗟の機転で「おしっこがしたい」と言います。

おおかみはあかずきんを紐で繋ぎ、逃げられないようにして外の便所へ連れて行きます。

 

あかずきんはひもをスモモの木に結ぶと逃げ出します。

その間、小鳥があかずきんの代返を引き受けてくれます。

 

おや、これはやっぱりあの日本昔話「さんまいのおふだ」と同じエピソードではありませんか。

 

≫絵本の紹介「さんまいのおふだ」

 

おおかみは戦慄する怪力でスモモの木を引き倒し、あかずきんを追跡します。

逃げるあかずきんに「さんまいのおふだ」はありませんが、ここでは「せんたくおんな」さんが力を貸してくれます。

せんたくおんなが川にシーツを広げると、シーツが橋の代わりをなって、あかずきんは向こう岸へ逃げます。

続いておおかみもシーツを渡り始めますが、重みで川に沈んで溺れ死にます。

 

あかずきんは無事に家に帰り着き、両親と(赤ずきんの父親が登場することの珍しさを考えてみてください)幸せに暮らします。

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★      ★      ★

 

「コッコさん」シリーズでもそうですが、片山さんは「可愛くないのに可愛い」子どもを描く名手です。

この「あかずきん」もまた、まったく「美少女」ではありません。

膨らんだ鼻の孔、そばかすだらけの顔、強すぎる青い目の光……「可憐さ」というイメージからはかけ離れた「生命力の強靭さ」が漲っています。

だからこそあの凶悪残忍な「おおかみ」と渡り合い、その魔手から自力で逃れることに納得感を与えてくれます。

 

従来の「赤ずきん」がフェミニズム的な観点から批判されてきたのは、主人公が「か弱く、ちょっとバカな美少女」であり、狼に対して何もできず、最終的には男性である「狩人」の力によって救い出される受動的存在である点です。

けれど、この「あかずきん」にはそうした批判は何一つ当てはまりません。

 

その一方で反対側から「伝統ある民話を改編して骨抜きにするとは何事だ」という声も上がるかもしれません。

しかしながら前述した通り「赤ずきん」はもともと時代と共に姿を変えてきた物語です。

 

この「あかずきん」は樋口さんの独創、もしくは日本昔話の継ぎはぎであるように見えますが、実はペロー以前の民間口承「赤ずきん」(あとがきによれば「フランスのトゥーレーヌ地方の語り」)を元にした物語なのです。

ですから、斬新であるどころかむしろ「伝統」的にはこちらの方が起源が古いのです。

 

ものごとの起源をどこまでも遡って「純血」に辿り着こうとすると、往々にしてこういう現象が起こるものです。

繰り返しになりますが、昔話が時代と共に変化することは自然なことです。

そして古い時代の昔話を現代的な価値観で批判し、「ダメだ」と決めつけることも自由な精神とは言えません。

今に伝わる昔話には須らくそれぞれの時代の要請に応えてきた歴史があるのです。

 

絵本の真価を知りたいのなら、あれこれ考えずに、「自分の中の子ども」に訊けばいいのです。

おもしろいか、おもしろくないか」。

「彼ら」はけっして間違えませんから。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

おおかみというよりもはや怪獣度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「あかずきん

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