【絵本の紹介】「キスなんてだいきらい」【330冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今年2月に87歳で亡くなられた絵本作家、トミー・ウンゲラー(アンゲラー)さん。

彼の作る独創的な絵本作品の数々は、世界中で支持されました。

 

ウンゲラーさんの凄みは扱いづらい特殊な題材(犯罪者、異星人、ヘビ、タコ、人喰い鬼……)を次々に取り扱いながら、まったく失敗しないところでしょう。

同時に、大人がギョッとするような過激で辛辣な鋭い風刺性を持ち合わせているのに、それを絶妙なさりげなさで絵本の中に溶け込ませてしまっている点も彼ならではのセンス。

 

本来なら頭の固い大人たちが怒り出しそうな作品も、ウンゲラーさんの筆にかかれば何となく黙ってしまいます(本当に黙ってたかどうかは知りませんけどね)。

 

今回はウンゲラー作品の中でも個人的に最もお気に入りの一冊を紹介しましょう。

キスなんてだいきらい」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:矢川澄子

出版社:文化出版局

発行日:1974年3月20日

 

今度は不良が主人公。

「いたずらっこ」というレベルではなく、不良です。

それもカッコイイ不良。

ウンゲラーさんの題材選びが独特っていうのはこのへんです。

絵本で扱いづらい不良少年を持ってきて、喫煙シーンまで描いちゃう。

 

この主人公のねこのパイパーくん、年齢は不明です。

中学生くらいかもしれないけど、いたずらの内容が割と子どもっぽいから、もしかしたら小学校高学年かも。

「母親の愛情が煩わしく感じ始める思春期の少年」の物語なんですけど、登場人物のセリフがいちいちウィットに富んでいて、映画みたい。

これは一つには訳者の矢川さんの力によるものかもしれません。

 

パイパーのお母さんのポー奥さんは息子にべったりで、いつまでたっても坊や扱いするタイプの女性。

朝は息子をキスで起こします。

そんなお母さんが嫌でたまらないパイパー。

せっかく おとなぶってるのに すぐ じゃまして、こまらせるんだ」だそうです。

 

お父さんはもう今では絶滅種となった威厳ある家長タイプ。

妻と息子のいさかいを、一言で黙らせます。

 

そして後で息子と男同士の会話。

おれの おふくろも おれの おやじの おふくろも そんなふうだった。まあ、いいこに なってて やれよ

渋い。

 

さて、学校でもパイパーは有名な乱暴者。

けど成績は優秀。

ただの頭の悪い不良とは違うわけです。

 

休み時間に不良仲間のジェフと喧嘩になります。

このシーンがまた、ぬるくない。

ジェフの 左目は はれあがり、パイパーの 左耳は ちぎれかけ、どくどく ちが とまらない

ここまで徹底的。

 

そして、

ひでえ ざまだな。まあ、いっぷくしろよ

と、ジェフが葉巻とライターを取り出して仲直り。

 

パイパーはこれもまた濃いキャラクターの看護婦のクロットさんに耳を縫い付けられ、包帯でぐるぐる巻きにされます。

痛そう。

 

昼休み、息子をランチに連れ出そうと学校へやってきたポー奥さん。

息子のひどい姿を見て、息も止まらんばかりに動転し、キス責め。

かわいい かわいい ぼうや どうして そんな めに あったの? はやく おいしゃさまへ、びょういんへ!

 

仲間の前で恥をかかされ、パイパーは激怒します。

ひとまえで キスするなよ。キス。なんでも キス。いやなんだ。きらいなんだ

この騒動を聞いていたタクシーの運ちゃんが、

おふくろさんに あんなこと いうもんじゃない。はずかしいと おもえよ

そこでポー奥さんも怒りが湧いてきて、

そうよ。まったくだわ

と初めて息子にビンタします。

 

気まずい昼食の後、パイパーは学校からの帰り道で花屋に寄り、黄色いバラを買います。

そして家に帰って、もう何でもない様子で振る舞っている母親にバラを贈ります。

まあ きれい、びっくりしたわ。これ あたしに くれるの?

そうだよ。でも ありがとうの キスだけは ごめんだ

そこで二人ともにっこり。

 

★      ★      ★

 

「本当はお母さんが大好きなんだけど、うまく表現できないでいる息子」の物語、というような書評を見ますけど、それはちょっと違うような気がします。

パイパーは本気でお母さんから離れたがっています。

憎いわけじゃないし、本当は感謝しなければならないこともわかっている(頭はいいから)けど、それでもどうしても、母からの愛情を遠ざけたい。

 

これは別に特殊な感情ではなく、思春期の、特に男の子は多かれ少なかれ共感できる気持ちでしょう。

誰が悪いわけでもなく、少年が大人になるために通らざるを得ない道なのです。

 

早く大人になりたくて、気分はもう一人前の男で、仲間たちの中ではそう振る舞っているけれども、家庭ではそうはいきません。

そこではどうしても子どもとしての役割を与えられます。

その分裂に子どもの自我は堪えられないわけですが、かと言って、実際にはまだ大人の庇護下でしか生きられない現実も見えています。

結局彼に残された自由は反抗的な態度を取ることぐらいなのです。

 

「いいこに なってて やれよ」という父親の言葉のように振る舞えるのは、大人になってからです。

母親の呪縛(と感じているもの)から逃げ出して、そしてそんなものに囚われなくなってからもう一度戻ってきて、その時初めて母親と正常な関係が持てるのです。

 

母親に逆らえないのも、逆に反抗するのも、形は違えど「マザコン」です。

母親を一人の人間として客観的に見れるようになるまで、すべての男性はマザコンなのです。

 

しかし、最近では母と息子の関係性も時代と共に変化してきたような気もします。

たまにですが、母親と手をつないで買い物に行く高校生くらいの男の子を見かけるんですね。

いい悪いでなく、私だったら絶対できなかったと思います。

少年の成熟が遅くなったのか、それとも早くなったのか、興味深いところです。

 

うちの息子は現在のところ母親が大好きで(その割によくケンカしてますけど)、恥ずかしげもなくイチャイチャしてますけど、やがてはパイパーくんのようになるのでしょうか。

それとも、ずっと今のままでしょうか。

いずれにせよ、妻はポー奥さんとはまるで違う性格ですので、息子が離れてくれると喜ぶだけだと思いますが。


テキストばかり褒めましたけど、絵の方ももちろん楽しみがたくさんある作品です。

パイパーがトイレで読んでる漫画、朝食の席で自分が曲げたフォークを隠すパイパー、黒板の数字、町の人々……。

これらはテキストに登場しない部分で、絵を見なければわからないようになっています。

やっぱりウンゲラーさんは名手であるとため息が出ますね。

 

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推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

会話のセンス度:☆☆☆☆☆

 

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