【絵本の紹介】「たまご」【321冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

無限の解釈可能性を内包した絵本というものは数多くあります。

余分な表現を削っていく作業の末に、そうした作品が生まれます。

 

無意味なカット、冗長なテキストを切り捨てた末に、文そのものを失くし、物語の核だけを残した絵本。

それが今回紹介するガブリエル・バンサンさんの「たまご」(L’OEUF)です。

作・絵:ガブリエル・バンサン

出版社:ブックローン出版

発行日:1986年10月20日

 

前述した通り、この作品にはテキストが存在しません。

絵を読むことによってのみ物語に入っていくことができます。

 

同作者による同じ形式の絵本「アンジュール ある犬の物語」を以前に取り上げました。

 

≫絵本の紹介「アンジュール ある犬の物語」

 

あちらは鉛筆画、この「たまご」は木炭画という違いはありますが、どちらもテキストが無く、色が無く、そして音すら消し去ってしまったような絵本です。

そして、一応ストーリーが明確だった「アンジュール」に比べ、「たまご」は非常に謎に包まれた物語になっており、「難しい絵」が連続します。

注意深く読まなければ、そして注意深く読んでいるつもりでも、展開について行けなくなります。

 

海辺、あるいは砂漠、あるいは荒野のような広大な地に、ひとつの巨大なたまご。

一人の人間が発見し、たくさんの人を呼んできます。

やがてたまごを取り囲むようにビルや建物が建設され、たまごの外郭には階段やスロープが取り付けられ、頂上には旗がひるがえり、ロープウェーが開通し、まるでテーマパークのような賑わいを見せます。

が、嵐がやってきて、人間が作ったものはすべて破壊されます。

その後、巨大な猛禽が飛来し、人々は逃げ惑います。

巨鳥はたまごの親らしく、たまごを温めるような素振りを見せますが、やがて飛び去って行きます。

たまごは孵化し、雛が這い出してきます。

 

人間は戦車隊を出動させ、この雛を撃ち殺してしまいます。

恐れ、不安、罪悪感……様々に読み取れる虚ろな表情をした群衆。

死んだ雛は車で引きずられ、巨大な十字架に磔にされます。

 

そこへあの巨鳥が、今度は何羽も飛んできます。

巨鳥の群れは人間を襲うでもなく、それぞれたまごを産み落とし、人間に(そして読者に)意味深な鋭い眼差しを向けると、飛び去って行きます。

後にはいくつもの巨大なたまごだけが残ります。

 

★      ★      ★

 

モノクロの木炭画、そして意図された静寂。

どこか不安な気持ちを煽るような、不可解な物語です。

 

中盤まではまあ、わりとよくあるパターンとして読めるのですが、雛が孵ったところからラストシーンにかけては、こちらの予想を超えた展開が広がります。

 

たまごに群がる愚かな群衆、そして自然の代表たる巨鳥。

いわゆる「自然対人類」「高度文明社への警鐘」の物語として読んでいると、ラストで首をひねらざるを得なくなります。

 

何故なら、「愚かな人間ども」に対し、巨鳥は何も手出しをしないからです。

雛を殺された復讐をするわけでもなく、ただ本能に従って次々にたまごを産む巨鳥。

そのたまごからまた雛が孵ったら、今度は人々はどうするのでしょうか。

最後の巨鳥の鋭い視線には、試すような光も見えます。

 

何よりも違和感を覚えるのは、撃ち殺した雛を「磔刑」にするシーンです。

雛を恐怖心から射殺したとしても、わざわざ巨大な十字架まで用意して磔にする必然性が理解できません。

明らかに作者は何らかのメッセージを込めてこのカットを描いています。

 

我々日本人には少々馴染みが薄いとは言え、「磔刑」から連想されるものと言えば「ゴルゴダの丘」における聖人の磔です。

「供犠」の概念です。

 

これは本当に私の個人的な解釈ですが、「たまご」とは未来の人類意識の萌芽ではないかと思います。

私たちは現在の自分の思考方法の正しさを信じて疑いません。

しかし、ごく短い歴史を繙いてもすぐわかるように、時代が変われば考え方も常識も、何もかもが変化します。

 

まだ理解できない崇高な思想や科学を前にしたとき、人間は「たまご」の外郭のみを見て、未知なるものを自分たちにも理解の及ぶ「俗」のレベルに引きずり降ろそうとします。

「たまご」から「孵化したもの」は、それらの「現在の段階に留まろうとする」人々によって犠牲になります。

しかし、好む好まざるに係わらず、「磔」にされたものを見上げる人々の意識の中には、必ず何かが流れ込むのです。

「孵化したもの」は、いわばそのために供犠として捧げられるのです。

 

次々と生まれ、成長する前に死んでいく「雛」たちに、私たちは何を思うのでしょうか。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆(テキストなし)

解釈が分かれる度:☆☆☆☆☆

 

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