【絵本の紹介】「わたしいややねん」【312冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は障害というもの、そしてそれに関わること、私たちの社会の在り方について強烈なメッセージを投げかける絵本を紹介します。

わたしいややねん」です。

作:吉村敬子

絵:松下香住

出版社:偕成社

発行日:1980年10月

 

作者の吉村さんは幼い頃脳性小児まひと診断され、手足に障害を抱え、以後車いす生活をされている方です。

実際の自分の経験や思いを絵本とした作品ですが、「だからどう」という話ではなく、単純に一冊の絵本として非常にインパクトがあり、その実験的とも言える構成には唸らされます。

 

縦21横15程度の小さな絵本。

モノクロで精密に描かれた車いすの絵。

そしてストレートに心情を大阪弁で独白するシンプルなテキスト。

それらが組み合わさり、まるで車いすが語っているような印象を受けます。

 

わたし でかけるのん いややねん

みんな じろじろ見るから いややねん

わたし 宇宙人と ちがうでェ

くさいうんこも きいろいおしっこも でるでェ

なんで 見なあかんのん

先生が いわはった 「強い心を もちなさい 強くなりなさい」って

なにたべたら 強なれんねんやろ

徐々にアップになって迫ってくる車いすに押し潰されそうな気がします。

そしてそれは作者の叫びに押し潰されそうになるということでもあります。

 

そやけど なんで わたしが 強ならなあかんねんやろ―――か

 

★      ★      ★

 

私の息子は重度の近視で弱視の治療中であり、私自身は若い頃に患った突発性難聴によって左耳の聴力をほとんど失いました。

私たちはいわゆる障害者とは認定されていませんし、自分でも自分を障害者とは思っていません。

しかし、ほとんどの人が身体的・精神的に何らかの不自由があることは普通であり、大なり小なり他者の助けを借りて生活することは、さほど特殊な事情ではありません。

 

けれども、法律上は健常者と障害者の間にはラインが存在し、それは必要なことではありますが、同時に私たちの意識に入り込み、互いを分断します。

 

息子と出かけて、車いすの方が近くにいたりすると、息子は興味津々で近づいて行き、「車いすだ!」と大声で叫んだりします。

そんな時どう振る舞えばいいか迷ってしまうのは、私が精神的に未熟で不自由であるからです。

相手に失礼なような気もするし、制止すると息子に偏見を持たせてしまうかもしれないし……などと葛藤があるのは、結局のところ私が車いすの方を変に意識しているからです。

心の底から自由な人間なら、いちいちマニュアルを求めず、その時その時に適した振る舞いができると思うのです。

 

作者の吉村さんがあとがきで願っている「すべての人が、なんでもなく、ふつうに、快適なくらしができるような社会」を実現するためには、私たちひとりひとりが精神的に成長し、自由に解き放たれなければなりません。

人間がひとりひとり違うことを当たり前に受け止め、すべての人に敬意を持って接することができなければなりません。

その点において、日本はまだまだ均質的な価値観に支配されており、精神的に未熟だと感じます。

 

そして同時に、障害者が生活する上での物理的・精神的な支障を取り除くバリアフリー化などの対策も当然必要です。

個人的な意識と社会的な制度。

この二つを並行して考える必要があります。

 

そうでないと、「人間は平等であるべきと言いながら、障害者だけが優遇されているのはおかしい」などというグロテスクな思想が生まれてしまいます。

 

この絵本の絵を担当した松下さんは、吉村さんのサークル仲間であり、車いすを押して歩く友人だそうです。

絵がテキストと融合して雄弁に物語り、作品を見事に成功させていることを見れば、二人の関係がどういうものかはこちらに伝わってきます。

 

40年近く前の絵本になりますが、彼女たちの叫びは今の社会に届いていると言えるでしょうか。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

直球で響く度:☆☆☆☆☆

 

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