【絵本の紹介】「ねむりひめ」【311冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

新年度が始まりました。

気持ちも新たに仕事や子育てに取り組んでいきたいと思っています。

 

今回は誰もが知っているグリム童話から、フェリクス・ホフマンさんによる「ねむりひめ」を取り上げましょう。

原作:グリム童話

絵:フェリクス・ホフマン

訳:瀬田貞二

出版社:福音館書店

発行日:1963年10月1日

 

ホフマンさんはスイス生まれでドイツの美術学校を卒業、版画・壁画・ステンドグラス制作などでも高く評価されている方です。

絵本作品としてはグリム童話原作の作品を数多く手がけ、そのどれもが素晴らしい完成度を誇っています。

 

このブログでは以前に「おおかみと七ひきのこやぎ」「ながいかみのラプンツェル」を紹介しました。

 

≫絵本の紹介「おおかみと七ひきのこやぎ」

≫絵本の紹介「ながいかみのラプンツェル」

 

上記の記事中でも触れていますが、絵の美麗さは当然ながら、ホフマンさんの絵本作家としての優れた才能は構図の妙にあります。

各カットのアングル・テキストの配分・余白に至るまで一分の隙もなく計算され尽くしているのです。

 

特にこの「ねむりひめ」は作者の最高傑作と言ってもよく、翻訳の瀬田貞二先生はその著書「絵本論」で、この作品をほとんど手放しで激賞しています。

 

推奨年齢は4歳からと設定されてますが、テキストは結構多め。

子どもを望む王と妃の間についに女の子が生まれます。

喜んだ王はたくさんの人々を招いてお祝いをしようと計画します。

 

ところが都合により国に13人いる「うらないおんな」のうち一人だけは招待されませんでした。

お祝いの席で、招かれた占い女たちは姫に「よいこころ」「うつくしさ」といった運を授けます。

ところがそこへ、一人だけ招かれなかった占い女が姿を現し、姫に呪いをかけます。

それは姫が15になったら、「つむ」に刺されて死ぬという恐ろしいもの。

 

誰もがぎょっとする中、まだ贈り物をしていなかった占い女が、呪いを軽くします。

姫は死ぬのではなく、100年の間眠りにつくことになると言うのです。

 

その後、王は愛する娘を守るため、国じゅうのつむを燃やしてしまいます。

姫は美しく利口に成長し、15の年を迎えます。

 

ある日、王と妃が留守中に、姫は城にある古い塔の一室で、麻糸を紡いでいるおばあさんに会います。

興味を持って手を伸ばしたとたん、姫はつむに刺されて眠り込んでしまいます。

 

この眠りは城じゅうに広がり、帰ってきた王と妃を含め、城内のすべての人々がそのままの姿勢で眠ってしまいます。

城の外壁には茨が生い茂り、誰も中に入れなくなります。

いつしか姫は「ねむりひめ」と呼ばれるようになります。

色々な国の王子が噂を聞いて姫を助け出そうとしますが、すべて失敗します。

 

長い年月が過ぎ、一人の王子がねむりひめの噂を知り、彼女に会いにやってきます。

ちょうどその日が姫が呪われてから100年目に当たるため、王子は何の苦労もなく城内に入ることができ、眠っている姫を発見します。

王子が姫にキスをすると姫は目を覚まし、止まっていた時間が再び動き始めます。

姫と王子は結婚し、いつまでも幸せに暮らします。

 

★      ★      ★

 

前述した「絵本論」で、瀬田先生はこの作品を各場面ごとに実に詳細に分析・解説しています。

おそらくこれを超える「ねむりひめ」評はないでしょう。

ホフマンさんがいかに心を砕いてこの絵本を作っているかが深く理解できる名解説になっています。

 

幻想的で繊細なタッチ、表情豊かな人物。

各カットの構図は、読者の視線誘導までも考慮して練り込まれています。

例えば王子が姫のもとへ辿り着くクライマックスでは、左下から右上へと流れる絵を、テキストと共に追っていくことになります。

その際、複雑に絡まり合いながら伸びる茨のつたも実に効果的に描かれています。

 

止まった時間の描写も秀逸で、随所に描かれる猫や鳥もどこか象徴的で、無駄が一切ありません。

これは積み木を一段一段重ねて行くような慎重で注意深い作業だと思います。

 

さて、子どもに聞かせる物語としてはどうでしょう。

とても人気のある童話ですが、よく考えてみると妙なお話です。

 

壮大でドラマチックな展開の割に、クライマックスで王子は何の障害も苦労もなく姫の救出に成功します。

大人としては、王子にはもう少し苦難を乗り越えるストーリーが用意されるべきな気もします。

 

姫は不幸に見舞われますが、結局は100年という時間が全てを解決し、特に何をするわけでもなくハッピーエンドを迎えます。

つまり、この物語には戦いや努力といった能動的なものがほとんどなく、登場人物は運命に従って「あるべきところ」へ導かれるのです。

 

そこから読み取ると、これは人生における避けようのない幸不幸、カルマを描いた物語と言えそうです。

 

王子はちょうど100年目のその日に現れ、姫と巡り会います。

一見偶然のような出会いが、実はそれこそ紡がれた糸のように、因果に導かれているのかもしれないのです。

 

カルマ・因果律という考え方は、ともすれば人間に無力感を抱かせるものとして忌避されがちです。

けれども、本当に心から「運命」というものに向き合い、過去から未来へと繋がる糸の上で生きていることを感じる時、その考え方は人生を力強く生きるためのものとも成りうるのです。

 

子どもたちは、「どんな不幸や不運があろうとも、必ず最後は幸福になる」物語を欲します。

彼らは本能的に「この世界は美しく、素晴らしいところである」ことを信じているし、信じるべきだと感じているのです。

 

我々大人が、それを信じさせてやらないで何とするのでしょう。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

暗示的度:☆☆☆☆☆

 

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