【絵本の紹介】「さかな1ぴきなまのまま」【309冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

私の息子も5歳半。

幼稚園にも保育所にも通っていないし、同じ年ごろの子どもがいる近しい親戚もないので、「友だち」と呼べる相手はひとりもいません。

限りなく自己中心的であり、たまに公園なんかで他の子と遊ぶ形になっても、ほんの短い時間だけのことです。

一緒に遊ぶことは楽しい時もあるけれど、むしろ邪魔に思っていることのほうが多そうです。

 

果たしてこれで大丈夫なのか、とたまに考えもしますが、しかし「大丈夫か」とは何が「大丈夫か」なのかと問うてみると、自分でもくだらない心配をしてる気にもなります。

 

友だちなんか成長するうちに自然にできるものだし、できなかったからといってそれが寂しいかどうかは当人の問題です。

考えてみれば小学校に入ったところで、たかだか30人程度の、それも同じ年の人間ばかり集めた集団の中で、必ず友だちを作らなければならないというのもちょっと無理のある話です。

 

それなのに大人たちは躍起になって「友だちを作りましょう」「友だちは素晴らしいもの」「友だちの輪」なんてお節介を焼きたがります。

その結果、友だちがいないことは恥ずかしいことであり、異端であるというような、おかしな偏見が子どもたちに植え付けられます。

休み時間に一人でトイレに行けないような、わけのわからない友だち関係ができたりします。

 

自分の本当の欲求より先に、「友だちがいない」(と思われる)ことへの恐れから、とにかく友だちが欲しいと焦ったり。

まるで結婚しない若者へのプレッシャーみたいな状況が発生するわけです。

実に不自由な国です。

 

今回は「友だち」について考えさせられる佐野洋子さんの作品を紹介します。

タイトルが実に粋ですね。

さかな1ぴきなまのまま」。

作・絵:佐野洋子

出版社:フレーベル館

発行日:1978年12月

 

 

キャンバス地の凹凸を生かした絵。

ねこの表情が凄まじく、謎のタイトルと相まって、いったいどんな内容の本かと手に取らずにはいられません。

そして読んでみないとどんな絵本かさっぱりわかりません。

 

おばあさんと暮らす「げんきな おとこの ねこ」。

この設定、同じ佐野さんの作品「だってだってのおばあさん」と一緒ですが、かと言って同一世界ではなさそう。

作者は「猫とおばあさん」の組み合わせを好んでいるみたいです。

 

≫絵本の紹介「だってだってのおばあさん」

 

さて、このねこの男の子が、「ほんとの ともだち」を探しに行こうとするところから物語は始まります。

ほんとの」なんて言ってるあたり、このねこも自意識過剰でありながら主体的ではなく、いかにも思春期の不安定な動機で友人を求めているようです。

 

おばあさんはあまり感心せず、さりとて止めもせず、「きょうの よるは、 おまえの すきな さかなの しおやき」と言うだけ。

複雑なおばあさんの感情には何も気づかず、ねこは元気に出発します。

 

途中、地面に落ちている縄を見つけますが、それが縄にあらずへび。

ねこはへびが苦手らしく、ぞっとしてその場を立ち去ろうとしますが、このへびはやたら友好的かつ積極的。

とにかくへびを避けたいねこに、礼儀正しい態度のまま、どこまでもついてきます。

 

ちゃんとした」友だちを探しているねことしては、「ひもみたいな」へびは相応しい相手とは思えません。

仲良くなろうとする気配をぐいぐい出してくるへびを振り切って、やっと見つけた二匹の娘のねこに話しかけます。

ところが、勇気を出して話しかけたのに、ねこは笑われ、相手にもされません。

ひどく傷ついたねこに、いつの間にか追いついてきたへびがまた話しかけ、慰めます。

 

それでもねこは一人で歩き出そうとしますが、「なにか」が襲い掛かってきて慌てて逃げ出します。

へびのアドバイスに従い、木の上に上って「なにか」をやり過ごします。

少しずつねこはへびに対する嫌悪や偏見を和らげていきます。

なんとなく離れがたくなって、とうとうへびを家に連れて帰ります。

 

魚の塩焼きを準備していたおばあさんは「こんやは かえらないかと おもった」。

ねこはもじもじしながら、「さかな 一ぴきは やかなくて いいんだ」。

へびは魚は生のまま食べるのです。

 

そこでおばあさんは「さかな一ぴき なまね」。

と台所に戻ります。

 

★      ★      ★

 

ねこが漠然と思い描いていた「ともだち」とは、結局のところ自分の外的な評価や価値を上げてくれるような存在です。

完全に自立し、独立した人間同士としての関係を築くことができないのは、精神的に未熟だからです。

 

よくよく見渡せば、大人になってもいまだにそうした未熟な状態から羽化できないまま、満たされない関係に飢えている人が大勢います。

特に恋愛関係にその性質が表れています。

 

いつまでたっても「個」を扱いかねている社会で、「個」になり切れない大人たちが、子どもたちの友だち関係を心配するなんて百年早いと思うのです。

 

推奨年齢:4歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

「なにか」ってなんだよ度:☆☆☆☆☆

 

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