【絵本の紹介】「ゼラルダと人喰い鬼」【再UP】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

絵本界において一つの時代を担ってきた作家さんたちが次々と鬼籍に入られています。

かこさとしさん、ジョン・バーニンガムさんに続いて、異色の天才・トミー・ウンゲラーさんの訃報が届きました。

享年87歳。

 

このブログでも彼の作品を数々取り上げてきました。

彼の才能はもとより、権力者に対する鋭い風刺の目と、その反面子どもやマイノリティに対する限りない優しさが印象的なひとでした。

 

「すてきな3にんぐみ」「へびのクリクター」「月おとこ」など、たくさんのロングセラーを遺したウンゲラーさん。

哀悼の意を込めて、氏の独自性が最も強く表れている異色作「ゼラルダと人喰い鬼」を再UPします。

 

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今回紹介するのはトミー・ウンゲラーさんの「ゼラルダと人喰い鬼」です。

作・絵:トミー・ウンゲラー

訳:田村隆一・麻生九美

出版社:評論社

発行日:1977年9月10日

 

その独創性・表現力・物事の本質を見極める目の確かさ・色使いの妙・構成の見事さ……。

他の追随を許さぬ絵本作りの名手、ウンゲラーさん。

 

これまでにこのブログでも何回か彼の作品を取り上げてきました。

 

ウンゲラーさんの唯一無二性は、彼の題材選びにあります。

ちょっと絵本作品としては選びにくい主人公やテーマを掬い出し、鋭い風刺の目と、確かな構成力、画力によって実に鮮やかに仕上げるのがウンゲラーさんの凄いところ。

 

ユーモアを交えつつ、あまりにもさらりと描かれているので、うっかり見過ごしかねませんけど、これは相当難しい作業だと思います。

この「ゼラルダと人喰い鬼」は、そんな作品群の中でも特に異質な題材の絵本です。

 

あっさり説明してしまえば、「恐ろしい人喰い鬼が、純粋な少女の力によって改心する」という、王道的童話なのですが、最初のページの人喰い鬼の恐ろしさと言ったら、とてもとても改心しそうには見えません。

 

血の付いたナイフを手に笑う凄まじい形相。

朝ごはんに子どもを食べるのが、何よりも大好き」という残酷な怪物。

檻から子どもの手だけが見えるのも、一層恐怖を煽ります。

 

町の人々は人喰い鬼を恐れて、子どもたちを隠します。

腹を空かせた怪物の前を通りかかったのは、ゼラルダという料理の得意な少女。

 

これ幸いとゼラルダを取って食おうとした怪物ですが、足を滑らせて崖から滑落。

町から離れた森の開拓地に住むゼラルダは、人喰い鬼の噂など何も知りません。

怪我をし、空腹で動けない怪物を哀れに思い、得意の腕を振るってご馳走を食べさせてあげます。

 

初めて食べるご馳走の味に驚いた人喰い鬼は、ゼラルダを食べる気をなくし、自分のお城に誘います。

人喰い鬼の財力にあかせて、ゼラルダは次々とおいしい料理を作ります。

人喰い鬼は大喜びで、近所の人喰い鬼を招待します。

怪物たちはみんなゼラルダの料理に感激し、子どもを食べることを止めてしまいます。

そして月日が流れ、とうとう人喰い鬼はゼラルダと結婚。

子どもを授かり、末永く幸せに暮らすのでした。

 

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どうです、ラストの人喰い鬼の笑顔。

この鮮やかな転換は、「すてきな3にんぐみ」に通じるものがあります。

 

≫絵本の紹介「すてきな3にんぐみ」

 

しかし、よくよく考えてみれば、この人喰い鬼は改心したというわけではないのかもしれません。

最初から最後まで、彼の動機となっているのは「食欲」オンリーのように見えます。

 

まあ、町の子どもにお菓子を配ったりしてますし、文にない部分の怪物の心情は想像する他ありませんが。

そもそも、いくら子どもを食べることをやめたところで、それまで彼が数々の子どもを喰らった事実は変わりませんし、その罪はどうなるの? という疑問も残ります。

 

これは「すてきな3にんぐみ」も同様で、どろぼうたちは別に改心したわけではないのかもしれないし、最後に善行を施したからといって、それまでの罪が帳消しになるわけではないとも考えられます。

 

私たちはこれらの童話を「悪人が愛によって改心する」という定型に落とし込んで解釈したがるので、このラストにはどうしても釈然としない気分が残ります。

 

ウンゲラーさんはそれを承知の上で、上っ面の勧善懲悪を跳ね除けます。

自分と文化も感覚も異なる、理解を絶した「異邦人」に対し、己の「常識」や「正義」や「道徳」を持ち出してきても、ただ争いが起こるだけです。

そうした「異邦人」と共生する手段として、「食」という身体に根ざした欲求を持ってくるところが、この物語のリアリズムなのです。

 

そういう点を見逃して、「愛は偉大なり」的な読み込みをする大人に対する、ウンゲラーさんのとびっきりの「毒」が、最終ページに仕込まれています。

ゼラルダと人喰い鬼の間に生まれた子どもが、後ろ手に隠し持っているのは……。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

グルメ絵本度:☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「ゼラルダと人喰い鬼

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