2018.12.12 Wednesday
【絵本の紹介】「戦火のなかの子どもたち」【292冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
前回、いわさきちひろさんの展覧会のレビューを書きました。
≫【いわさきちひろ特別展】「生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。」に行ってきました。
そこで今回はいわさきさんが最後に完成させた作品「戦火のなかの子どもたち」を紹介したいと思います。
作・絵:岩崎ちひろ
出版社:岩崎書店
発行日:1973年9月10日
「子どもの幸せと平和」を願い続けたいわさきさん。
これはベトナム戦争の末期に描かれた絵本です。
「きょねんもおととしも そのまえのとしも ベトナムの子どもの頭のうえに ばくだんはかぎりなくふった」
「あたしたちの一生は ずーっと せんそうのなかだけだった」
自身も少女時代を太平洋戦争の中で過ごし、広島の原爆の絵本を描く丸木位里・俊夫婦とも交流が深かったいわさきさんは、ベトナムで行われている戦争を、他人事とは思えなかったのでしょう。
テキストは断片的で、ほとんど極限まで削られており、同時に鉛筆と墨で一見ラフに描かれた絵も、必要なもの以外は画面から省かれ、その文余白が大きく用いられています。
「母さんといっしょに もえていった ちいさなぼうや」
「あつい日。ひとり」
「雨がつめたくないかしら。おなかも すいてきたでしょうに」
「風? かあさん?」
残酷な描写はなく、悲惨さを強調することもなく、ことさらに同情を引こうとする気配もありません。
ただ、ここに描かれた子どもたちの姿は、読者ひとりひとりの胸の中にそっと入り込み、内側から私たちを見つめ続けるのです。
★ ★ ★
展覧会を見て気づくのは、いわさきさんの絵の変遷・進化です。
初期のはっきりしたデッサン画や油絵から、だんだんと淡い水彩画にシフトして、最終的には輪郭線すら消えてしまいます。
いわば「形のあるもの」から始まり、「形のないもの」に辿り着くのです。
色彩の滲みや掠れそのものが表現方法となり、彼女の絵の印象は「水」のように形を無くしていきます。
ぼうっと霞むような黒目がちな子どもたちは、心魂のみの存在のようです。
その印象はこの「戦火のなかの子どもたち」の前に仕上げられた至光社の「ぽちのきたうみ」で特に顕著で、いわさきさんの絵のひとつの到達点とも言えるでしょう。
しかし、今回においては、いわさきさんはその手法を採りませんでした。
墨と鉛筆で描かれた子どもたちには、彼女の絵にしては珍しく白目があります。
私の勝手な想像ですが、あまりにも高みに上った作者の心魂的表現では、戦争の身体的リアルが伝わらないことを懸念したのではないでしょうか。
すでに体調を崩されていたいわさきさんは、最後の力を振り絞るようにしてこの作品を完成させた1年後に他界します。
ベトナム戦争が終わっても、世界中で戦争は無くなりません。
いわさきさんの願いはいまだに叶えられていません。
それらは一つ残らず私たち大人が起こした戦争です。
子どもは何も悪くありません。
どうして私たちは戦争を止めることができないのでしょう。
どうして武器を作り続けるのでしょう。
どうして他国と手を取り合えないのでしょう。
その問いに、私たちはこの絵本の子どもたちの目を正面から見つめて、ごまかさずに答えることができるでしょうか。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
平和への祈り度:☆☆☆☆☆
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