【絵本の紹介】「クマよ」【278冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回はアラスカの雄大な自然に生きるクマ(グリズリー)を追いかけ続けた写真家・星野道夫さんによる写真絵本「クマよ」を紹介します。

文・写真:星野道夫

出版社:福音館書店

発行日:1999年10月31日(たくさんのふしぎ傑作集)

 

星野さんは1996年にTV番組の取材のため滞在していたロシアのカムチャッカ半島でヒグマの襲撃に遭い、亡くなりました。

この作品はその後、星野さんの遺稿やメモをもとに作られた最後の写真絵本です。

 

「写真」絵本とは何か、ということについては、このブログでも何度か触れました。

繰り返しになりますが、単に絵の代わりに写真が使われているという問題ではなく、私はそこに物語が読めるかどうかがポイントだと考えています。

 

そういう意味で、「クマよ」は突出した物語性を持つ傑作だと言えます。

私はもう、1ページ目からただごとじゃない衝撃を受けてしまいました。

いつか おまえに 会いたかった

 

この一文と、クマのアップだけで、作者の内奥から抑えようもなく湧き上がってくる想いが伝わり、圧倒されます。

テキストは全編通して、作者のクマに対する呼びかけで構成されています。

 

その文が素晴らしい。

写真家・探検家でありながら、随筆作品も発表されているのも頷けます。

魂を揺さぶるような詩です。

 

遠い 子どもの日 おまえは ものがたりの中にいた

ところが あるとき ふしぎな体験をした

町の中で ふと おまえの存在を 感じたんだ

 

気がついたんだ おれたちに 同じ時間が 流れていることに

おれも このまま 草原をかけ おまえの からだに ふれてみたい

けれども おれと おまえは はなれている

はるかな 星のように 遠く はなれている

アラスカの限りなく広がる美しい自然。

そこでの四季の移り変わりとクマたちをファインダー越しに追い続ける作者。

しかしいくらその姿を写真に捉えようとも、決して手の届かぬ存在への身をよじるような憧憬と渇望。

畏敬と畏怖。

 

冬の しずけさに 耳をすます

おまえの すがたは もう見えないが

雪の下に うずくまった いのちの 気配に 耳をすます

 

★      ★      ★

 

日本人にも馴染みの深いクマ。

他の動物に比べ、絵本での登場頻度も多く、その愛らしい姿からマスコットキャラクター化されることも飛び抜けて多いです。

 

その一方で、クマはペットにも家畜にもならず、人間とは一線を引き続けます。

日本でも、毎年クマに襲われて命を落とす人が出ます。

 

そんな近くて遠い野性への焦がれるような思いに突き動かされて、作者はシャッターを切り続けたのでしょう。

 

人間は思考力を手に入れ、自我意識を持ち、自由へと近づきます。

しかしそのことにより、自然から切り離されたような疎外感を感じずにはいられません。

 

人間よりも遥かに強く自然と結びつけられている野性動物を見るとき、その感情はさらに強く私たちを揺さぶります。

芸術家とは、そういう感性を人よりも遥かに強く持ち、そしてそれを外に表現せずにはいられないような人間です。

 

我々はそんな当たり前の事実を忘れ、写真家とは単に写真についての知識を持ち、撮影技術を持っただけの「商売人」のように考えていることがあります。

まあ、現代にはそういう写真家もいるかもしれませんが、少なくともこの作者が「芸術家」であったことは、この作品を読めば容易に理解できるはずです。

 

推奨年齢:10歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

クマへの憧憬度:☆☆☆☆☆

 

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