2018.10.22 Monday
【絵本の紹介】「しずくのぼうけん」【277冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回はポーランドのロングセラー科学絵本「しずくのぼうけん」を紹介します。
作:マリア・テルリコフスカ
絵:ボフダン・ブテンコ
訳:内田莉莎子
出版社:福音館書店
発行日:1969年8月10日
しずくから棒状の手足が伸びただけのシンプルなデザイン。
子どもが入って行きやすい絵です。
れっきとした科学絵本ではありますが、少しも難しいことは書いていません。
とにかく主人公のしずく(女性)の目まぐるしい冒険にワクワク・ドキドキ、そしてしずくの自由自在な変化が痛快です。
文章はやや長めですが、名翻訳者・内田莉莎子さんによるテンポのいい訳文で一気に読めます。
「ある すいようびの ことだった むらの おばさんの バケツから ぴしゃんと みずが ひとしずく とびだして ながい たびに でた ひとりぼっちで たびに でた」
こんな具合に5・7・5調の心地よいリズムが続くんですね。
泥水に混じったり、太陽に照らされて蒸発したり。
雲の上で雨粒になったしずくは、怖い黒雲に再び地面に戻されます。
そして今度は寒い夜に氷のかけらに変身。
小川に転げ落ちて水道管に入り、民家へ。
息をつく間もない展開が読者を引き付けて離しません。
何度も状態変化を繰り返し、どんな環境でも生き延びるしずく。
水は不滅なのです。
★ ★ ★
幼い子どもにとって、水はもっとも身近な自然観察の対象です。
水が蒸発して見えなくなるということを、この絵本は非常にわかりやすい物語の形式で教えてくれます。
そこから学べることは、単なる科学知識だけではありません。
目の前にある水は、見えなくなってもちゃんと存在しており、ずっと「旅」を続けているのだという、壮大な物語の想像力を受け取ることができるのです。
今、ここにある水は、いつか遠い異国を旅して辿り着いた「しずく」なのかもしれない。
消えてしまっても、見えなくても、必ずいつかは再び大地に戻ってくる。
大げさに思われるかもしれませんが、この科学的事実から、人間は「見えないものを見る」力、そして「輪廻転生」の概念をも受け取ることが可能なのです。
頭の固い大人たちは、「子どもには実証された科学知識だけを教えるべき」だと思い込みます。
しかし現実には、人間が生命力を得るのは、豊かなイメージの世界からなのです。
「水の不滅性」から、子どもはどれほど力強いイメージを受け取ることでしょう。
それこそが、彼らの長い人生においての真の礎となるのです。
正しい自然法則から、美しい想像の世界へ橋を架ける時、科学知識は初めて生命を吹き込まれます。
その崇高な架橋に成功したからこそ、この絵本は世界中で愛され続けているのです。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
しずくのネガティブ思考と立ち直りの早さ度:☆☆☆☆☆
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■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「200冊分の絵本の紹介記事一覧」
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