2018.10.04 Thursday
【絵本の紹介】「パンぼうや」【274冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
今回はロシアの民話絵本を紹介します。
マーシャ・ブラウンさんによる「パンぼうや」です。
作・絵:マーシャ・ブラウン
訳:おがわきよし
出版社:童話館
発行日:2014年12月20日
この作品は以前は「パンはころころ」という邦題で、冨山房より刊行されていました(翻訳は八木田宜子さん)。
絶版により入手困難になっていましたが、近年童話館より新たに発行されました。
先にあらすじを言ってしまうと、おじいさんがおばあさんに頼んで焼いてもらった丸いパンが逃げ出すというもの。
自分を食べようとする動物たちを次々に出し抜いて逃走を続けるパンでしたが、最後は狡猾なキツネのおだてに乗せられて、まんまと食べられてしまいます。
ロシア民話としては定番のようで、様々な作家が再話しており、日本で刊行されている作品も多数あります(瀬田貞二さんによる「おだんごパン」など)。
一作ごとにがらりと手法を変えて、そのお話に最も適した表現を試みるマーシャ・ブラウンさんが、今回も実にいい仕事をされています。
文章のリズムが非常に重要なお話で、登場人物たちのセリフはミュージカル風です。
それに合わせて、キャラクターの絵はみんな踊っているような動きを見せています。
パンぼうやが転がりながら外へ逃げ出すシーンの構図もよく計算されています。
読者は右から左へ、パンの動きを目で追うことができ、それを追いかけるおじいさんのポーズもリズムがあって滑稽です。
話が逸れますけど、こういう構図を日本式に左から右へ製本すると、まったくスピード感が失われ、作者の意図が破壊されてしまうことには注意を払う必要があります。
うさぎやおおかみ、くまがパンぼうやを見つけて食べようとしますが、そのたびにパンぼうやは自慢の歌声で彼らを攪乱し、素早く逃げ出します。
おおかみがパンぼうやを見失うカットなどは秀逸で、読者の目さえも欺きます。
パンぼうやの俊敏さがよく伝わるシーンです。
表紙からすでにその立ち位置を明確にしているきつねが、パンぼうやの歌を褒めちぎります。
調子に乗ったパンぼうやは、きつねのリクエストに応えて鼻の先、そして舌の先に飛び乗って何度も歌を披露。
最後は「パクン!」で、「おはなしは これで おしまい」。
★ ★ ★
これとよく似た話はイギリスやノルウェーなどにも残っています。
食べ物が逃げ出すというのは、日本ではあまり聞かないような気がします。
読み聞かせは意外に難しく、いかにしてパンぼうやのあの毎回微妙に違う歌をリズミカルに楽しく歌えるかがポイントになります。
訳者さんも頑張っているんですけど、長いんですよね、歌が。
原文だと、やっぱり歌いやすいようになってるんでしょうねえ。
貧しい中で粉箱の底をひっかいて作ったパンに逃げられてしまう老夫婦や、自由を求めて飛び出したのに、最後は策略によって食べられてしまうパンぼうやは、どちらもちょっと気の毒でもの悲しい。
でも、終わらせ方の見事さにより、そうしたところはさほど気にはなりません。
あ、食べ物が逃げ出す話、日本にもあったのを思い出しました。
最後は食べられてしまうところも一緒ですが、あちらは本当にもの悲しい。
歌ですけど。
推奨年齢:3歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
およげたいやきくん度:☆☆☆☆
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