【絵本の紹介】「ちいさな島」【265冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は1947年度コールデコット賞を受賞した「ちいさな島」を取り上げます。

作:ゴールデン・マクドナルド

絵:レナード・ワイスガード

訳:谷川俊太郎

出版社:童話館

発行日:1996年9月10日

 

作者のゴールデン・マクドナルドさんって誰?

と思ったら、カリスマ絵本原作者、マーガレット・ワイズ・ブラウン御大のペンネームのひとつでした。

 

ブラウンさんについては過去記事で何度か触れましたので、詳しくはそちらをご覧ください。

 

≫絵本の紹介「おやすみなさいおつきさま」

≫絵本の紹介「ぼくにげちゃうよ」

 

そして、絵師のレナード・ワイスガードさん。

ブラウンさんとの共作が最も多い作家さんではないでしょうか。

ブラウンさんの詩的な文章に、美しく印象的なイラストを描いた絵本を多数発表しています。

 

さて、この「ちいさな島」ですが、ちょっと変わった構成になっています。

前半は「ちいさな島」の自然や情景を、歌うように描写します。

言葉も絵も美しいですが、どちらかというと淡々とした写生で、詩のような絵本なのかな、と思わせます。

魚や野花、ロブスターやアザラシ、カワセミやカモメなど、島を取り巻く生き物たち。

 

しかし後半、いっぴきの子猫が家族(人間)と一緒に島にピクニックに来ると、それまでの写生風の記述は終わり、なんと「ちいさな島」と子猫が会話を始めます。

ちなみにこの猫だけはデフォルメされて描かれています。

 

子猫と島との会話は、どこか哲学的なテーマを含んでいます。

子猫は自分も小さな島のようなものかもしれないが、「ぼくは この おおきな世界につながってる」と、島との違いを挙げます。

 

しかし島は「わたしだって そうだ」と言います。

子猫は「いいや ちがうね」「水にうかんで、きみは じめんから きりはなされている」と反論します。

島は「さかなに きいてごらん」。

そこで子猫は魚を捕まえて、脅迫混じりに質問します。

魚は海の底でどんなふうにすべての地面が一つにつながっているかを語ります。

 

子猫は目を輝かせ、魚の言ったことを信じます。

 

子猫が帰った後、また本文は島の自然描写に戻ります。

そして最後に、印象的な一文で締めくくります。

 

★      ★      ★

 

自然賛歌的絵本ですが、同時に自己や生命についての哲学的命題も含んでいます。

 

子猫は「自分」と「世界」を切り離して考え、「足の裏」(あるいは毛皮)で世界と繋がっていると思っています。

それは自我が芽生え始めた子どもの素朴な認識です。

 

しかし一方に小さな島を一個の生命として対比させることにより、子猫の考える自分と世界との「境界線」は揺らぎます。

 

ここでは島が自我を持っているように描かれていますが、島の生命を形成するものは、作中に繰り返し登場するたくさんの生き物たちや、緑や、岩であると考えられます。

そうすると逆にまた、子猫を構成している毛皮や目や耳や尾、細胞のひとつひとつも、生命であると気づきます。

 

それらは子猫にとっては意思を持たないような存在でありながら、確かに自分の一部なのです。

子猫は自分が独立した存在であると同時に世界と繋がっているということを無邪気に信じていましたが、大きく考えれば、生命そのものには境界線がないとも言えます。

 

宗教的な話になってしまいますが、ここで重要なのは、こうした思考によって子猫(=子ども)の認識レベルのステージが上昇したということです。

子猫は島との対話を経て、確実に成長するのです。

 

それは別に「島が水に浮いているわけではない」という科学知識をひとつ覚えたというような次元の話ではありません。

「この世界は自分の見たまま・感じたままの範疇に収まっている」という子どもらしい素朴で傲慢な認識から脱却し、知性の射程を広げたということです。

 

子猫は魚の語ることを「信じる」ことによってその成長を成し遂げます。

それは盲信的態度ではなく、真実への「畏怖」と自分の無知を受け入れる「敬虔さ」です。

 

現代では宗教というのは敬遠されがちですが(無理もないとは思いますが)、子どもの成長に関して宗教が果たすべき役割とは、本来的には上記のような感情を育成することではないかという気がします。

 

科学は素晴らしいものだし、重要なものですが、科学知識だけでは「人間性」は達成されません。

絵本の持つ力や役割というのも、そのあたりにあるのではないでしょうか。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

考えさせられる度:☆☆☆☆☆

 

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