【絵本の紹介】「おとなになれなかった弟たちに……」【263冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

お盆が近づくと、戦争や原爆について考えることが増えます。

そしてあれほどの悲惨と慟哭が、月日を追うごとに記号化され、その深刻さを忘れ去られていくことに、大人として、親として、責任を感じずにはいられません。

 

私たちには、次の世代にも平和への祈りや想いを正しくバトンタッチする義務があります。

その手段として、戦争を直接には知らない私たちの言葉よりも、遥かに重さと深みのある芸術作品によるほうが、よりまっすぐに子どもたちの胸に突き刺さると思います。

 

今回は「おとなになれなかった弟たちに……」を紹介します。

作・絵:米倉斉加年

出版社:偕成社

発行日:1983年11月

 

2014年に亡くなった俳優の米倉斉加年さんが、自身の悲しい戦争体験を綴った絵本です。

絵も、米倉さんが描かれています。

 

教科書でこの作品に出会った人も多いでしょう。

かくいう私もその一人です。

このお話は強烈に心に残っており、大人になっても細部まで覚えていました。

 

印象的なのは、その語り口です。

作者は小学生の頃の経験を、小学生だった当時のままの目線で、余計な感情表現を一切用いずに、淡々と独白します。

 

それがかえって、少年の哀しみの深さを際立たせています。

「一生わすれません」という最後の一文。

戦争を、弟の死を、本当に一生忘れないで心に留め続けた米倉さんだからこそ、子どもの頃に感じたことをそのまま作品に成し得たのだと思います。

ひもじいひもじい少年時代。

食べるものがない辛さを体験した者は、そのことを生涯忘れないと言います。

 

産まれたばかりの作者の弟のヒロユキにとっては、母親のお乳が出ないので、ときどき配給される一缶のミルクだけが、大切な食べ物でした。

けれども、作者は弟の大切なミルクを盗み飲みしてしまいます。

ぼくにはそれがどんなに悪いことか、よくわかっていたのです

でもぼくは飲んでしまったのです

ぼくは弟がかわいくてかわいくてしかたがなかったのですが……それなのに飲んでしまいました

 

やがて空襲が激しくなってくると、母は疎開しようと考え、親戚に相談に行きます。

しかしそこで何も言わないうちから、うちには食べ物はない、と言われます。

母はすぐさま帰ろう、と言って、後ろを向きます。

そのときの顔を、ぼくはいまでもわすれません

強い顔でした。でも悲しい悲しい顔でした。ぼくはあんなに美しい顔を見たことはありません

 

疎開先で、作者はヒロユキをおんぶして、川へ遊びに行きますが、栄養失調のためヒロユキは死んでしまいます。

息子が死んでもずっと泣かなかった母は、ヒロユキをお棺に入れるとき、少し大きくなっていることに気づいて、初めて涙を流すのでした。

 

★      ★      ★

 

俳優としての米倉さんは、それこそ何百もの映画やドラマに出演していますが、無教養な私はそちらの方面には疎く、全然知りません。

ただ、夢野久作の小説などで見る米倉さんの挿絵には、強い印象を持っていました(それが教科書で見たこのお話の作者であるとは全然気が付きませんでした)。

 

本当に多才な人物だったと思います。

 

米倉さんは、弟が死んだのは自分のせいではないかと悩み続けたのでしょう。

あの時、ミルクを盗み飲みしなければ、あるいはヒロユキは死ななかったのではないか。

 

弟の死は、幼い少年の心に、一生消えることのない罪悪感を刻み付ける出来事だったのでしょう。

 

しかし、それでは少年の作者は本当に罪を犯したと言えるのか。

彼にひもじい思いをさせ、本来背負わなくてよかったはずの罪の意識を背負わせたものはなんだったのか。

 

米倉さんは「あとがき」にこう書きます。

私の弟が死んだ太平洋戦争は、日本がはじめた戦争なのです。そして朝鮮、韓国、中国、東南アジアの国々、南方諸島の人たちをどんなに苦しめたことでしょう。そのことを私たちは忘れてはならないと思います

 

昨今では、こうした言葉は軽んじられ、侮蔑の対象にすらなるかもしれません。

様々なところで「日本は悪くなかった」と主張する人たちが増えたからです。

 

しかしそれでは、ミルクを盗み飲みした少年は悪かったと言えるのでしょうか。

けれども、米倉さんはその「罪」を引き受け、一生罪とともに生きることを自らに課します。

その上で、戦争そのものの責任をも引き受けているのです。

 

平和へ至るための道は、「被害者」の立場を超えて、背負わなくていいかもしれない「責任」を、自ら引き受ける者によってしか拓かれない。

米倉さんが残したメッセージを、私たちは次の世代に伝えることができるでしょうか。

 

次第に、それは困難な作業になっていきつつあるような予感がするのです。

 

推奨年齢:小学校中級〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

作者の知性と優しさとマルチな才能度:☆☆☆☆☆

 

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