2016.11.02 Wednesday
絵本の紹介「ノンタンぶらんこのせて」
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
私自身が子ども時代に親しんだ絵本の数は、あまり多い方ではなかったように思います。
その中で思い出深いものをいくつか挙げるとすれば、「三びきのやぎのがらがらどん」「じごくのそうべえ」「てぶくろ」、それに今回紹介する「ノンタンぶらんこのせて」を第一作とする「ノンタンあそぼうよ」シリーズでしょうか。
それぞれの絵本から、いろいろなものを受け取りました。
「がらがらどん」からは勇ましい興奮を、「そうべえ」には笑いが止まらないユーモアを、「てぶくろ」では遠い幻想の調べを。
そしてこの「ノンタン」は、その中でも一番自分に近しいキャラクターとして、私の世界に存在しました。
元気な猫の男の子・ノンタンがぶらんこで遊んでいると、うさぎさん・ぶたさん・たぬきさん・くまさんらが次々とやってきます。
ところが、ノンタンは幼いエゴの塊。
ちっとも後の者に代わろうとせず、ぶらんこを独占してしまいます。
だんだんみんなの表情は険しくなっていき、とうとう怒りだします。
そこであわてて「10まで かぞえたら じゅんばん かわるよ」と、みんなを引きとめるノンタン。
が、そう言っておきながら実は3までしか数えられないというノンタン。
そこでみんなでいっしょに10まで数えてあげて、仲良く遊ぶ……という、とてもわかりやすいお話。
「ノンタン ノンタン ぶらんこ のせて」
「おまけの おまけの きしゃぽっぽ ぽーっと なったら かわりましょ」
といったフレーズは、どれも口ずさみやすいリズミカルなものばかりです。
絵本だけでなく、アニメや関連グッズも人気の「ノンタン」ですが、意外にも、児童文学界からはあまり評価されていないようです。
手法が漫画的だとか、絵やキャラクター造形に深みが感じられないとか、理由は様々あるようですが、批評家の方々は総じて「これはジャンクフードである」と言っているようです。
つまり、子どもたちに与えれば喜ぶが、栄養にはならない、というわけです。
しかし、これではあんまりノンタンが気の毒です。
私はただの素人で、芸術的な審美眼など持ち合わせてはいませんが、かつて「ノンタン」を友達としていた一人として、彼を擁護してみようと思います。
「子どもには良いものを」というのは、非の打ちどころのない、まことにごもっともな意見です。
ただ、ひとつだけ申し上げたいのですが、「子どもが喜ぶものが良い絵本とは限らない」というのは、いささか子どもを見下した見解ではないでしょうか。
そこには、子どもを不完全なもの、大人になる準備段階のもの、として位置づけ、大人が正しく導いてやらなければ立派に育たない、というPTA的子ども観が見えます。
しかし、絵本は誰のためのものでしょうか。
読者である子どもが喜ぶものが「良い絵本ではない」のだとしたら、一体、作家は誰に向かって作品を創っているのでしょう。
もちろん、古典名作絵本の素晴らしさはわかりますし、世の中には明らかに失敗している絵本、欠点の多い絵本、絵本をあまり理解しない親に媚びた絵本などが氾濫していることも認めます。
けれども、それら数多の絵本に最終的な評価を下す権利を持っているのは、子どもだけです。
たとえ一人でも気に入って手に取る子どもがいたならば、その絵本には存在価値があったということです。
どんなに歴史的にすぐれた評価をされている芸術作品といえども、すべての人間の感性に好まれるわけではないですし、子どもの数だけ絵本があったって構わないのです。
われわれ提供者の使命は、大人の目で良い絵本だけを選別して与えることでしょうか。
なるべく偏らない、様々な種類の絵本を用意して、子ども自身の選択肢をできる限り広げてやることではないでしょうか。
そうすれば、子どもは必ず偏見のない目で、自らが求める一冊を探し出すはずです。
仮に「ノンタン」がジャンクフードであったとしても、数多くの絵本に触れることのできる環境にいる子どもならば、そんなことは大した問題にはならないでしょう。
健全に育った子どもには、自らに取り込んだ「毒」を、ちゃんと浄化する能力が備わっているからです。
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ノンタンは大好きです。
単純だけど、深いと思います。
評価が低いとは、驚きました。