【絵本の紹介】「さっちゃんのまほうのて」【253冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは先天性四肢欠損という障害を抱えて生まれた少女を描いた感動作「さっちゃんのまほうのて」です。

作:田畑精一・先天性四肢障害児父母の会

絵:田畑精一

出版社:偕成社

発行日:1985年10月

 

生まれつき右手の指が無いという障害を抱える少女・さっちゃん。

絵本として非常に重く難しいテーマを、田畑さんが先天性四肢障害児父母の会の方々の協力を得て、渾身の筆で描き切った名作です。

 

さっちゃんのお母さんとお父さんの言葉は涙なくしては読めませんが、決して暗くはならず、元気なさっちゃんの明るい未来が想像できるラストは読者の胸にまっすぐ響くでしょう。

 

幼稚園のままごと遊びで、お母さん役を巡って喧嘩になってしまうさっちゃん。

怒った友達の一人が放った一言が、さっちゃんの胸をえぐります。

 

さっちゃんは おかあさんには なれないよ! だって、てのないおかあさんなんて へんだもん

怒ったさっちゃんは友達と大喧嘩の末、幼稚園を飛び出して家に帰ります。

そして、戸惑うお母さんに問いかけます。

 

おかあさん、さちこのては どうして みんなと ちがうの? どうして みんなみたいに ゆびが ないの? どうしてなの?

 

突き刺すような辛い質問に、お母さんは胸がいっぱいになりながらも、さっちゃんを抱きしめ、ごまかさずに真摯に答えます。

さっちゃんは「おなかのなかで けがをしてしまって」指だけがどうしてもできなかったこと。

その原因については、「まだ だれにも わからない」こと。

 

するとさっちゃんは、お母さんにとってはさらに辛い質問を放ちます。

しょうがくせいに なったら、さっちゃんのゆび、みんなみたいに はえてくる?

 

そうだったら、どれほどいいでしょう。

お母さんはどれほど「そうよ」と答えたいでしょう。

 

でも、それは言ってはならないことです。

お母さんははっきりと答えます。

さちこのてはね、しょうがくせいに なっても いまのままよ

でもね、さっちゃん。これが さちこの だいじな だいじなて なんだから。おかあさんのだいすきな さちこの かわいい かわいいて なんだから……

さっちゃんは泣き出します。

いやだ、いやだ、こんなて いやだ

 

それからしばらく、さっちゃんは幼稚園にも行かず、さみしそうに過ごします。

しかし、妊娠していたお母さんが弟を産んだ日、病院からの帰り道に、さっちゃんはお父さんと手をつないで言います。

さっちゃん、ゆびが なくても おかあさんに なれるかな

そこでお父さんは最高に素敵な返事。

 

さっちゃんは元気を取り戻し、友だちとも仲直りします。

そして、明日を夢見ながら眠りにつくのでした。

 

★      ★      ★

 

私は小学生の頃、授業でこの作品に出会いました。

もちろん心に残りましたが、しかし一方、先生からの「道徳観の押しつけ」に少々辟易した記憶も残っています。

 

障害や差別を取り扱うことは非常に難しいことです。

歪んだ優越感や差別意識は、子どもの世界の方がより容赦なく現れているように見えます。

 

しかし、だからといって子どもが差別的であるとは言えないと思います。

彼らは私たちが思う以上に大人の態度や行動を観察しており、それを無意識に模倣します。

 

子どもの世界は大人社会の縮図なのです。

つまり、こうした問題を扱う大人の側の欺瞞を、子どもは鋭く見抜いているのです。

 

ですから、本当の意味での教育は、完全に自由な精神を持った大人が行動で示すことでしか行えません。

もっともそれは遥かな遠い未来の理想でしょう。

 

この作品を読んで、子どもがそれぞれに何を思うかは各自の自由であり、いつそれが芽を吹くかも各自の資質によります。

私たち大人ができることは、想像力の種となる物語を、できる限り多くの良質な物語を与えることです。

 

さっちゃんを他人だと思わない心、それはあるいは自分だったかもしれないという想像力。

まずはその想像力を養うことが肝要です。

 

大人になってから改めてこの絵本を読み返した時、私は自然と息子が生まれる時のことを思い出しました。

何もいらない、とにかく健康な身体で生まれて欲しい。

それしか願わなかった時のことを思い返し、さっちゃんの両親の痛みが、強さが、初めて理解できました。

 

あの時私の心に撒かれた物語は、何十年を経て、やっと芽を吹いたのでしょう。

 

推奨年齢:6歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

ラストの清々しさ度:☆☆☆☆☆

 

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