【絵本の紹介】「またもりへ」【252冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「またもりへ」です。

作・絵:マリー・ホール・エッツ

訳:まさきるりこ

出版社:福音館書店

発行日:1969年3月1日

 

タイトルと表紙絵を見れば気づかれる方も多いでしょう。

これはあのマリー・ホール・エッツさんの代表作「もりのなか」の続編にあたる作品です。

 

≫絵本の紹介「もりのなか」

 

モノクロで変化のないアングル。

鬱蒼と茂る木々の描写がやけに心に残るところは、前作「もりのなか」と同様です。

 

ただ、続編とは言っても、この「またもりへ」(原題・ANOTHER DAY)は、前作ほどに謎めいた構造をしてはいません。

割とわかりやすいテーマを描いており、この2作品はシリーズでありながら別ジャンルの絵本であると思われます。

 

冒頭の献辞に「ラヴィニアのもりで いつもあそんでいた おとこのこ」という文があります。

ラヴィニアの森というのはエッツさんが病気の夫の最期を看取ったシカゴ郊外の森です。

これによって前作「もりのなか」の舞台もラヴィニアの森であることが推測されます。

 

主人公の男の子が森へ入っていくシーンから始まる点は「もりのなか」と同じです。

テキストにはありませんが、前回と同様の紙の帽子とラッパを身に付けています。

これは「森」という神秘と幻想の世界へ旅立つ際の装備であろうと解釈できます。

 

森では「どうぶつたちが、ぼくを まっていました

彼らはそれぞれの得意なことを披露しあい、誰が一番いいかを会議していたのでした。

居並ぶのはぞう、きりん、らいおん、二匹のさるとくま、かば、あひる、ねずみとへび、おうむ。

前作から引き続き登場している動物もいるし、今回は出てこない動物もいます。

これについては後で触れます。

 

さて、動物たちは交互に腕比べをします。

逆立ちしたり、ピーナッツを放って口で受け止めたり、大声を上げたり、素早く走り回ったり。

最後に男の子が逆立ちして鼻でピーナッツをつまもうとしましたが、おかしくなって笑ってしまいます。

するとぞうが、

これが、いちばん いい! ほかの だれにも、これは できないからねえ。とりも けものも、もりの どうぶつは、だれも わらえないのだもの

と言います。

 

動物たちは男の子に花輪をかぶせ、森の中を行進します。

やがてお父さんの声がして、動物たちは姿を消します。

そう、先日の記事でも登場したあの素敵なお父さんです。

 

≫「絵本に登場するお父さんたち」

 

今回もお父さんは男の子を日常へ連れ帰るのですが、またいい感じのセリフを残します。

おとうさんだって、ほかに なにも できなくても いいから、おまえのように わらってみたいよ

 

★      ★      ★

 

「もりのなか」で一際印象的だった、物言わぬコウノトリとうさぎが出てきません。

このうさぎは、エッツさんの知り合いで、彼女がいつも気にかけていた障害を持った男の子がモデルであろうと推測されています。

 

うさぎとコウノトリは、ただでさえ不思議な「もりのなか」をさらに謎めいたものにしていますが、今回彼らが登場しないことが、この「またもりへ」の「人間と笑い」というテーマをわかりやすくしています。

 

また、前回との比較として、最後のお父さんと男の子が去って行くシーンにねずみとへびが描かれており、男の子に贈られた花輪は消滅せずにお父さんの手に持たれています。

これらから、「もりのなか」では、動物たちは完全に男の子の空想世界の住人であったのに対し、「またもりへ」での動物たちとのやり取りはより現実世界に近いものとして描かれていると考えられます。

 

ところで、エッツさんと言えば絵本界の大御所だと私は認識していましたが、実は本国アメリカよりも日本でのほうが知名度が高いようです。

それは「こどものとも」の編集長を務めた松居直さんが、エッツさんの作品に惚れ込み、特に「もりのなか」を推しまくった影響が強いでしょう。

 

松居さんが日本絵本界に残した貢献は数知れませんが、エッツさんという稀代の作家を広く知らしめたことは、その業績の中でも大きいものだと思います。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

やっぱりお父さんが素敵度:☆☆☆☆☆

 

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