2018.03.12 Monday
【絵本の紹介】「ランパンパン」【228冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
海外の民話というものは、設定や道具立てが私たちから見ると変わっていて、非常にユニークに思えるものが多い一方で、普通の人々の暮らしや願い、情愛などは国境を越えて共感できるところがあります。
自分以外の国の生活を知り、親近感や理解を育む上で、たくさんの海外民話絵本を読む経験は大きいと思います。
今回はインドのお話。
「ランパンパン」です。
再話:マギー・ダフ
絵:ホセ・アルエゴ、アリアンヌ・ドウィ
訳:山口文生
出版社:評論社
発行日:1989年6月20日
簡単に内容をまとめてしまうと、「搾取される民」の代表存在である「クロドリ」が、己の大事なものを横暴な権力者に奪われ、それを取り戻すために戦うお話。
日本の昔話で言うと、「猿蟹合戦」によく似た話型の物語ですね。
道中で(けったいな)仲間を得る点も共通ですし。
さて、主人公のクロドリがとてもいい声で鳴いているのを聞いた王様が、これを捕まえて宮殿に連れて行こうとします。
が、捕まったのはクロドリの女房。
クロドリは怒り狂い、「どんなことをしてもつれもどす」ことを決意します。
クロドリは戦いのために装備を整えます。
「とがったとげの刀」
「カエルの皮のたて」
「クルミのからの兜」
そしてクルミのからの残りで作った「たたかいのたいこ」。
こう書くとRPGの初期装備みたいに頼りないですが、これらを身にまとったクロドリは滑稽ながらもどこか凛々しく、鋭い眼光に固い意志を感じさせます。
クロドリは太鼓を「ランパンパン、ランパンパン、ランパンパンパンパン」と打ち鳴らして行進を始めます。
途中、「ネコ」「アリのむれ」「木のえだ」「川」を味方につけます。
彼らはそれぞれ、王様の仕打ちを恨んでいるのです。
面白いのは、彼らが全部、クロドリの「耳のなか」に入ってしまうこと。
この荒唐無稽な展開を、絵の力で納得させます。
ついに王様の宮殿に辿り着いたクロドリは、門番に通されて王様に直談判します。
しかし、王様は女房を返してくれません。
逆にクロドリは掴まって、鶏小屋に放り込まれます。
しかし、夜中にクロドリは耳の中のネコを解き放ち、鶏小屋をめちゃめちゃにし、勇ましく太鼓を打ち鳴らします。
怒った王様は馬小屋や象の檻にクロドリを放り込むのですが、クロドリの仲間たちの活躍でこれらの試練を乗り越えます。
最後は川に部屋を水浸しにされて、王様はついに降参。
クロドリは女房を連れ帰り、そののちずっと幸せに暮らすのでした。
★ ★ ★
クロドリの様々な武装は、実際には使用されません。
あれは一種の象徴であり、「民衆の怒り」を表現したものです。
クロドリの装備の中で最も効果を発したものは、「ランパンパン」と打ち鳴らされる太鼓です。
あれは横暴な権力者に対する「抗議の声」「怒りの叫び」です。
ちっぽけなクロドリなど王様が恐れるはずはありませんが、彼はあの太鼓の音には我慢できなかったのです。
いつの時代も、独裁的な権力者が最も恐れ、疎ましく思うものは力なき民衆の「声」です。
つまり、クロドリの行進は「デモ」なのです。
古い民話には、時代を超えて貫かれている芯部分があるものです。
権力者は手を変え品を変え、この「声」を封殺しようとします。
それは時間が経つとはっきりすることもありますが、時代の只中にあっては幻惑させられてしまうことが多いものです。
けれども、あらゆる歴史が教えるものは、独裁者を倒し、人々の暮らしを変える流れは、路上の「声」から始まるのだという事実です。
よくよく見渡せば、まさに今の世の中にも、そうした光景が広がっているのです。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
夫婦愛度:☆☆☆☆☆
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