【絵本の紹介】「くんちゃんのはじめてのがっこう」【227冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

初めて小学校へ行った日のことを覚えていますか?

私は成熟の遅い子どもで、母親に連れられて教室に足を踏み入れた時も、なんだか夢うつつだった気がします。

 

残念ながら学校生活そのものを振り返っては、あまり楽しい思い出はありません。

生涯を通して尊敬できるような先生にも巡り会えませんでしたし、さほど有意義な経験も学習も得られなかったと思います。

 

それは学校がどうこうというより、私自身の幼さに起因した問題だったような気がします。

とにかくぼーっとした子どもだったのです。

見知らぬ同級生たちに囲まれ、机に座らされても、先生の話は何一つ耳に入ってこないし、周囲のすべてが夢の中の出来事に思えて、ただただ呆然と日々を送っていました。

 

そんな呆然生徒の私でも、初めて小学校に行った時の気持ちだけは覚えているのです。

不安と緊張、そして不思議な高揚感。

これは普遍的な感情なのでしょう。

 

今回はそんな誰しもが経験する繊細な感情を見事に掬い取った絵本「くんちゃんのはじめてのがっこう」を紹介します。

作・絵:ドロシー・マリノ

訳:間崎ルリ子

出版社:ペンギン社

発行日:1982年2月

 

作者のマリノさんはアメリカ・オレゴン州生まれで、働きながら絵の勉強を続け、子どもの本の挿絵の仕事から絵本づくりの道に至った方です。

ペン一本で描いたイラストはラフなようですが、登場人物の表情、動きなどが実に生き生きと伝わってきます。

そして何より、子どもの心の微細な動きをも逃さずに捉える描写力が素晴らしい。

 

この「こぐまのくんちゃん」を主人公にしたシリーズは、日本で翻訳されている数は多くはないものの、どれも人気の高い作品です。

初めて学校に行く日、くんちゃんはとても張り切って早起きします。

お母さんと学校へ行く道すがら、みつばちやこうもりやビーバーに、

ぼく、がっこうへ いくんだよ

きみも がっこうへ いく?

と尋ねて歩きます。

 

しかし、いざ学校に到着すると、くんちゃんはお母さんにも一緒にいてもらいたくて、お母さんのスカートの裾を掴んだりします。

でも、お母さんは帰ってしまい、くんちゃんは優しそうな先生に手を引かれて教室に。

 

小さな学校らしく、上級生も一緒の教室で、同時に授業を行っている様子。

ちなみに季節は秋です。

アメリカでは9月に新学期が始まるのです。

 

生徒の名前を呼んでは、読み書きや算数をさせる先生。

くんちゃんはどんどん不安になり、小さくなります。

そして、とうとう……

教室から逃げ出してしまいます。

くんちゃんの気持ちがよくわかるだけに、この展開にはハラハラさせられます。

 

けれども、ここで先生が驚いてくんちゃんを追いかけるかと思いきや、この先生の肝の据わり方が並大抵ではありません。

まるでくんちゃんの動きに気づいていないかのごとく、授業を続けるのです。

 

くんちゃんはこっそり窓から教室を覗きます。

どうやら1年生にはとても簡単な授業をしているようです。

 

先生はそれぞれの名前を黒板に書いて、自分の名前と同じ音で始まる言葉を尋ねています。

自分にもわかる質問に、くんちゃんは「ぼくも しってる」と呟きます。

 

そして自分の名前「くんちゃん」の「く」で始まる言葉を訊かれた時、くんちゃんは窓の外から

くま、くるみ、くまんばち!

先生はにっこり笑って、

はいってらっしゃい、くんちゃん。このいすに おかけなさい。あなたの すわる ばしょは ここですよ

 

★      ★      ★

 

我が家の息子が小学校に上がるのは2年後ですが、その時には私は人生で2度目の「はじめてのがっこう」を経験することになります。

今度は呆然としているわけにはいきません。

 

小学校について色々と調べていますが、この絵本のようにゆったりとした時間の流れる小学校は、今の日本にはまずないでしょう(少なくとも公立では)。

学力やいじめの問題、どんな先生がいるのか、周辺環境など、親の心配は尽きませんが、さりとていくら親が「いい学校だ」と思ったとしても、通うのは子どもです。

 

重要なのはその子自身の性質であり、それまでどんな環境で育ったかです。

 

もちろん我が子の通う学校についての情報をしっかりと把握していることは大事ですが、同時にこれまでと違って、ある程度我が子から距離を置いて成長を見守ることができなくてはならないと思います。

無関心も過干渉も、子どもの成長にとってはマイナス要素です。

 

こういうことを考えるとつくづく、「子育てに終わりはない」ことを実感します。

子育てというよりも、親自身の成長を止めてしまわないことが大切だと思います。

 

結局、幼児期のうちに「どんな学校へ行っても楽しくやっていける」ような能力を身に付けさせるのが最良のように思います。

私の場合、その手段はもちろん絵本の読み聞かせです。

 

さて、どうなりますかね。

不安と緊張、それに高揚感をもってその時を待っています。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆

先生の余裕と貫禄度:☆☆☆☆☆

 

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