2018.03.06 Tuesday
【絵本の紹介】「もりたろうさんのじどうしゃ」【226冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
高齢者にいかにして免許を返納してもらうか、という昨今の風潮に真っ向から逆らった(1969年の作品ですが)素敵な絵本を紹介します。
「もりたろうさんのじどうしゃ」です。
作:大石真
絵:北田卓史
出版社:ポプラ社
発行日:1969年6月
大石真さんと北田卓史さんの共作では、他に「チョコレート戦争」や「さとるのじてんしゃ」などがあります。
大石さんは同じ児童文学作家の寺村輝夫さんと親交が深く、寺村さんの才能を最初に見出したのも彼でした。
北田さんは可愛いけれどちょっと無機質な目をしたキャラクターイラストが特徴。
乗り物の出てくる作品が多いです。
郵便局に勤めるもりたろうさんは、毎日毎日徒歩で郵便を宅配しています。
今では考えられませんが。
いいお年のもりたろうさんにはなかなか辛いお仕事のようで、自動車での郵便配達を夢見ています。
60歳で定年になると、「これから じどうしゃを ならうぞ」。
もう仕事をしなくていいのに。
どうやら、自動車を運転すること自体に憧れていた様子。
奥さんは心配しますが、もりたろうさんは教習所に通い始めます。
苦労の末、ついに免許を取得。
早速中古車を買いに行きますが、どれも高くて手が出ません。
すると、一番隅っこに格安の「おんぼろの じどうしゃ」を見つけます。
もりたろうさんは自分でおんぼろじどうしゃを修理し、ペンキを塗り替え、綺麗に洗います。
ある日、息子夫婦と孫に会いに、もりたろうさんは自動車で町まで出かけることにします。
途中で怪我をした犬を道連れに、自動車は町に辿り着きます。
しかし、自動車の水を汲みにもりたろうさんが離れた隙に、二人組の銀行ギャングが逃げてきます。
無人のおんぼろ自動車を見て、これ幸いと乗り込むギャングたち。
ところが中にいた犬にかぶりつかれ、自動車ごと川にはまってしまいます。
ギャングたちはお縄となり、一件落着。
もりたろうさんは銀行員たちに感謝されますが、大切な自動車が廃車となってがっかり。
でも、次の朝・・・。
★ ★ ★
ロングセラー絵本には、いつ読んでも古さを感じさせない作品が多い一方、この「もりたろうさんのじどうしゃ」のように、はっきりと時代を感じさせる作品もあります。
それは単に古い型の自動車が登場するからではなく、自動車(機械)と人間の関わり方を描いているからだと思います。
おんぼろの中古車をもりたろうさんが大切に磨き上げるシーンは私も特にお気に入りですが、こういう風に愛車と情緒的に関わる男性は、昔に比べれば随分と減ったのではないでしょうか。
今時の車は、乗り手が自分でメンテナンスするような部分はほとんどありません。
自動車は商品であり、欠陥があればメーカーが修理するか、買い替えるかです。
そしてまた、そうやって消費サイクルが回るほうが、業界にとっても都合がいいようです。
ずっと同じ自動車を丁寧に大事に乗り続けると、かえって部品代やら修理費のほうが高くついたり。
でも、中古車バーゲンの片隅に、ろくに手入れもされずに放り出されていたおんぼろ自動車を買い取り、自らの手で大事に補修したもりたろうさんの嬉しそうな表情は素敵です。
北田さんがあとがきで書いているように、川に落としてしまったのは本当に残念です。
この絵本は人と車が情を通わせることのできた時代の名残りを感じさせ、それが大人の男にとってはある種のノスタルジィを呼び起こすのかもしれません。
古い絵本を色々と読み比べてみると、時代が変わっても普遍的なものと、時代と共に目まぐるしく変わっていくものの違いを見ることができます。
そして改めて、
「なにを あんなに あわてて いるのだろう」
というもりたろうさんのセリフが、やけに象徴的に聞こえるのです。
推奨年齢:4歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆
レトロ度:☆☆☆☆☆
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