【絵本の紹介】「つるにょうぼう」【217冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

久しぶりに昔話絵本を紹介しましょう。

つるにょうぼう」です。

再話:矢川澄子

絵:赤羽末吉

出版社:福音館書店

発行日:1979年10月25日

 

冬の定番としてなじみ深い昔話です。

昔話というものは地域によって様々な話型に分かれるものですが、この物語は大きく「鶴女房」verと「鶴の恩返し」verに分けられます。

 

どちらも怪我を負った一羽の鶴を主人公が助けるところは同じですが、「鶴の恩返し」では主人公が翁、「鶴女房」では若者となります。

その後、鶴が美しい娘に化けて訪ねてきて、自らの羽を抜いて機を織り、恩を返すのですが、最終的には主人公が「見てはいけない」という約束を破ってしまい、正体の知れた鶴は飛び去ってしまう……というのが、概ね共通したあらすじです。

 

両者の一番の違いは、「鶴女房」verではタイトル通り、主人公と鶴が結婚する異類婚姻譚である点でしょう。

悲恋的要素が加わることで、より切ないラストとなります。

 

今回取り上げる「つるにょうぼう」は、再話は「ぞうのババール」シリーズなどの翻訳も多数手がける矢川澄子さん、絵は安定の赤羽末吉さんが担当しております。

最後の鶴が飛び去って行くシーンは、赤羽さん渾身の見開きカットで描かれ、非常に印象深い美しさを放っています。

貧しい独身男「よ平」が、翼に矢を受けた鶴を介抱してやります。

赤羽さんは雪の絵にはなかなかこだわりがあるようです。

 

その夜、「品よく、美しい」むすめが、よ平の家を訪ねてきて「女房にしてくださいまし」。

普通ならどう考えても新手の結婚詐欺を疑うところですが、いつの時代も男は美人に弱いのか、はたまた鶴の魔力か、雪のせいか、よ平はあっさりむすめを家に入れます。

 

それからよ平は幸せな新婚生活を送りますが、貧乏は変わらず、二人が食うのもやっと。

そこでむすめは自分に機を織らせてくれるよう、よ平に言います。

ただし、「けして のぞき見なさいませんように」と妙な条件を出されます。

 

三日三晩かかって織り上げられた一反の布は、驚くばかりの美しさでした。

織物は町で高く売れました。

 

しかしそのお金も底をつき、むすめは「もう一どだけ」と機を織ります。

出来上がった織物はさらに美しい輝きを帯びていました。

しかし反対に、むすめはやつれた痛々しい風情となっています。

 

この織物のことを知ったとなりの男が、よ平にある提案を持ちかけます。

都のお大尽のところへ織物を持って行って売れば、もっと儲かるというのです。

 

この話を聞いたむすめは、

なんでそんなにお金がいります

ふたりして暮らせさえすれば、十分ですのに

 

この言葉に、この絵本の核があるように思います。

 

しかし結局むすめは機を織ることになります。

これが最後で、そしてやはりのぞき見をしないことを条件として。

しかし、よ平はついに好奇心に負けて禁忌を犯してしまいます。

そこで目にしたものは、血にまみれながら自分の羽を引き抜いて機にかける鶴の姿でした。

 

むすめは自分の正体がいつか助けられた鶴であることを明かし、知られた以上人間界には留まれないとして、出来上がった織物を残して飛び去ります。

どうぞ、末長く、おしあわせに

と言い残して。

 

★      ★      ★

 

「見てはいけない」という類型の物語は、世界中の昔話に登場します。

古くは聖書の中にもあります。

 

見てはいけないと言われると見たくなるのは人間の性。

真実に近づくことと、幸福になることは両立しないのでしょうか。

 

おそらくは、真実を知ろうとすれば、それに相応しい準備が必要なのでしょう。

つまり、単純な好奇心や、我欲に負けて真実に近づけば、人は何かを失うということなのかもしれません。

 

バッドエンドとまでは言わずとも、少なくともハッピーエンドとは呼べないような昔話はたくさんあります。

それらを単に「悲しいおはなし」と片付けてしまうのではなく、そこから様々な感情を呼び起こしたり、考えたり、美しさに触れたりすることが、昔話絵本を読む上で大切なことであり、読み聞かせる側もそこを意識することが大事です。

 

昔話を単に教訓的な話型に落とし込むようなことをしても、子どもがそこから学ぶことは表面的な薄っぺらい倫理観だけです。

そんなものよりも、この絵本のラストのページをじっと見ることの方が、よほど深い部分で情緒に働きかける力となるでしょう。

 

推奨年齢:5歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

最終シーンの美しさ度:☆☆☆☆☆

 

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