【絵本の紹介】「100まんびきのねこ」【199冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回は古典中の古典絵本を紹介しましょう。

100まんびきのねこ」です。

作・絵:ワンダ・ガアグ

訳:石井桃子

出版社:福音館書店

発行日:1961年1月1日

 

1928年にアメリカで出版されて以来、世界中で訳され、現在も出版され続けている絵本としては最も古い作品です。

モノクロの地味な印象の絵本ですが、なんかウネウネした緻密な絵、テキストの位置まで計算した構成、子どもが好むツボを押さえた繰り返しの文やストーリー展開など、特筆すべき点は多々あります。

 

しかし、作品そのものはもちろんですが、興味深いのは作者のガアグさん自身です。

 

彼女は1893年にアメリカのミネソタ州に画家の娘として生まれ、マージョリー・フラックさんと共にアメリカ絵本の礎を築いたと評されています。

初めて市民権を得た絵本作家と言われ、彼女の影響を受けた後進は数知れません。

 

しかし、彼女の青春は決して華やかなものではなく、むしろ苦悩と難渋に満ちていました。

15歳の時に父を亡くします。

7人きょうだいの長女であったガアグさんは、弟や妹の面倒を見ながら絵を描き続け、奨学金で美術学校へ通い、一方で母を助け、家庭を切り盛りします。

 

24歳の時、今度は母までが他界。

周囲は、まだ幼い下のきょうだい3人を孤児院に入れるよう勧めますが、ガアグさんは頑として拒否。

家を売り、絵を売り、6人の妹弟全員を高校卒業させます。

そんな大変な生活の中でも絵の勉強を続け、やがて彼女の絵は国際的に認められるようになっていくのです。

 

「ピーターラビット」の作者、ビアトリクス・ポターさんと並び、「働く女性」のモデルとして、その生涯に注目される絵本作家です。

 

さて、「100まんびきのねこ」の内容に入りましょう。

むかしむかし、あるところに

おじいさん」と「おばあさん」が住んでいました、という昔話の典型で始まります。

本当にこんな昔話があったのか、と思わせますが、これは完全にガアグさんの創作です。

 

これまたテンプレート的に子どもがいなくて寂しい思いをしている老夫婦は、せめて、

うちに、ねこが 一ぴき いたらねえ

と考え、そこでおじいさんがねこを1匹つかまえてこよう、と出かけます。

このシーンの構図も見事です。

「絵本作り」という点で、こうした技法は後の作家さんに大いに参考になったと思われます。

 

さて、おじいさんはとうとう「どこも ここも、ねこで いっぱいに なっている おか」に辿り着きます。

このあたりから、物語は見知った昔話的調和の世界を逸脱し、「ええ?」と驚くようなありえない超展開へとねじれて行きます。

 

丘には猫がいるわいるわ。

ひゃっぴきの ねこ、せんびきの ねこ、ひゃくまんびき、一おく 一ちょうひきの ねこ

しかも、どの猫も可愛くて選び難いと、おじいさんは全部の猫を連れて帰ってしまいます。

途中、1兆匹の猫は池の水を飲み尽くし、野原の草を食べ尽くしながら、家まで帰ってきます。

 

驚いたのはおばあさん。

そんなにたくさんの猫にご飯をやることはできない、ともっともなことを言います。

 

そこでどの猫を飼うか、猫たち自身に決めさせようとします。

ところが、自分が一番きれいだと思っている猫たちは大喧嘩を始め、物凄い騒ぎになってしまいます。

 

騒ぎが静まり、おじいさんとおばあさんが家から出てみると、あれほどいた猫たちがすっかりいなくなっています。

きっと、みんなで たべっこして しまったんですよ

おしいことを しましたねえ

と、サイコっぽいセリフを吐くおばあさん。

 

でも、一匹だけ、やせこけた猫が生き残っていました。

二人はその子猫を拾い、大事に育てます。

すると子猫はとてもきれいな猫に成長します。

 

★      ★      ★

 

ガアグさんの優れたストーリテラーとしての才覚は、6人もの妹弟たちに、しょっちゅう自作の物語を聞かせてやったことで磨かれたものだと思われます。

大人が読むと「ぎょっ」とするような後半の展開も、冗舌に過ぎるように思う繰り返し文も、子どもには大ウケします。

 

苦労の多い人生を、悲観することなく、やるべきことをやり続けたガアグさん。

彼女のしなやかな強さ、ありのままを見据える眼差し、そして家族を守る責任感。

絵本作家以前に、人間としてかなわない大きさを感じてしまいます。

 

そして彼女の原動力となっているのは、誰にも真似のできない、絵に対する情熱でしょう。

ガアグさんの絵がうねったように見えるのは、マグマのようにたぎる情念が表出しているのかもしれません。

 

さて、次回はいよいよ200冊目の絵本紹介になります。

私が息子に何千冊と読み聞かせた絵本の中でも、最も「しんどかった大賞」の名作を取り上げますよ。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆

おじいさんの優柔不断度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「100まんびきのねこ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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