2017.11.01 Wednesday
【絵本の紹介】「モチモチの木」【198冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
絵本紹介記事も、いよいよ200冊目が見えてきました。
ネタ切れを心配した時期もあったけど、取り上げたい絵本や作家さんはいくらでもいて、知れば知るほど奥の深い世界だと、今さらながら感じております。
さて、今回紹介するのは「モチモチの木」です。
作:斎藤隆介
絵:滝平二郎
出版社:岩崎書店
発行日:1971年11月20日
斎藤隆介さんと滝平二郎さんの名コンビが生み出した数ある作品の中でも、特に有名な絵本ですから、ほとんどの方がタイトルと表紙絵を見たことくらいはあるかと思います。
斎藤さんの作る、方言で語られる民話風物語は、土臭く重厚で、非常にわかりやすいまっすぐな主題に貫かれており、教科書でも取り上げられることが多く、戦後の児童文学に大きな影響を及ぼしました。
もちろん、私が子どもの頃にも、斎藤さんと滝平さんの作品を目にする機会はたくさんありました。
……ですが実を言うと、私がこの絵本をちゃんと読んだのは割と最近になってからなんです。
さらに言うと、他の斎藤・滝平両氏による作品のほとんども、子どもの頃は読んでなかったのです。
理由は、「なんか怖い」から。
あと、「暗くて悲しそう」。
これは滝平さんの切り絵の雰囲気によるものですが、東北の方言による文章にも、どこか重苦しさを感じて敬遠していたのかもしれません。
大人になってから読むと、子どもの頃想像していたのとは全然違って、どの作品も怖くないし、心を揺さぶられる感動があります。
この「モチモチの木」も、全体に黒っぽい基調のせいで悲しい印象を持ちやすいのですが、まったくのハッピーエンドです。
「じさま」と二人で暮らす5歳の「豆太」は、大変な臆病者。
小屋の前に立っている大きな「モチモチの木」が恐ろしくて、夜中にひとりで便所にも行けません。
毎回、じさまを起こしてついて行ってもらいます。
そのモチモチの木に、「シモ月二十日のウシミツ」に灯がともるのだと、じさまが教えます。
それはたった一人の勇気ある子どもにしか見ることができないと言われているが、じさまも、死んだ豆太の父親も見たのだそうです。
とてもきれいだから起きてて見てみろ、と、じさまは豆太に言うのですが、豆太はおっかなくてとても無理だと諦めてしまいます。
その夜中、じさまは突然の腹痛に苦しみます。
驚いた豆太は、じさまを助けたい一心で、お医者を呼びに一人で駆け出します。
裸足で霜の道を走り、足からは血が滲み、寒くて怖くて、豆太は泣きながら、それでも走ります。
大好きなじさまが死んでしまうことのほうが恐ろしかったからです。
ふもとの医者のところへ着くと、医者は豆太をおぶって小屋へ向かいます。
小屋に帰り着いたとき、豆太はモチモチの木に灯がともっているのを見ます。
それは木の後ろに月と星が出て、そこに雪が降ることで醸し出される、美しく幻想的な光景でした。
次の朝、すっかり回復したじさまは、豆太に言います。
「おまえは、山のかみさまの まつりを みたんだ」
「おまえは ひとりで よみちを いしゃさまよびに いけるほど ゆうきのある こどもだったんだからな」
「にんげん、やさしささえあれば、やらなきゃならねえことは、きっと やるもんだ」
★ ★ ★
方言に加えて「セッチン」とか、「半ミチ」とか、「ねんねこバンテン」とか、今ではなじみの薄い単語も出てくるので、どうしても読みづらく感じるかもしれません。
しかし、昔話とか地方民話とかの力というものは、そうした語り口の中にこそ包含されているのです。
私の場合は怖がって避けてしまいましたが、つまりは無視できないほどに強力な印象を放つ本だったということです。
斎藤さんが作品に込めるメッセージは、こうした民話形式を取るからこそ(そして言うまでもなく、滝平さんの画力があるからこそ)、子どもの内面にまで到達する力を持つのです。
「勇気」や「優しさ」や「自己犠牲」といった道徳を理解することが重要なのではありません。
大切なのは、子どもの内面に、豊かなイメージの世界を育むことです。
子どもが「自分には心がある」ことを感じる経験です。
子どものための物語の良否は、様々な形式を取ったしても、結局は内面に働きかける力があるかどうかで決まるのです。
……というわけで、私も(やっと)この作品の素晴らしさに気づいたわけですが、我が家の息子に読んであげようとすると拒否されました。
他の斎藤&滝平さん作品も同様。
理由は「なんか怖い」。
やっぱり、そうか……。
推奨年齢:7歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆
「キモ助」って、今だと悪口みたい度:☆☆☆☆☆
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