【絵本の紹介】「やっぱりおおかみ」【196冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

個性豊かな絵本作家たちの中でも、一際異彩を放つ佐々木マキさん。

作家・村上春樹氏が彼を「永遠の天才少年」と称し、自身の初めての小説のイラストを依頼したことでも知られています。

 

そんな佐々木マキさん、長新太さんや馬場のぼるさんと同じく、前身は漫画家。

「ガロ」という雑誌に、他の追随を許さぬほどに前衛的・実験的な作品を発表していました。

 

「コマとコマの間に関連性がない」漫画、それでいて全体を通して読むとひとつのまとまりが感じられる、詩のような音楽のような漫画は、「難解だ」「漫画ではない」と批判される一方、熱狂的なファンも獲得しました。

 

そんな佐々木さんが、「こどものとも」編集長の松居直さんの薦めによって初めて描いた絵本が、今回紹介する「やっぱりおおかみ」です。

作・絵:佐々木マキ

出版社:福音館書店

発行日:1977年4月1日(こどものとも傑作集)

 

以前から絵本の上質な印刷を羨ましく感じていた佐々木さんは、松居さんの依頼に応じます。

この真っ黒なシルエットおおかみは、佐々木さんが「ガロ」1968年8月号に掲載した「セブンティーン」や、同じく9月に発表した「まちのうま」に登場したキャラクターです。

 

松居さんが「このおおかみを主人公に、絵本が描けませんか」と提案したそうです。

そして絵本を作ったことのない佐々木さんに、松居さんは「こういう絵本があります」と、モーリス・センダックさんの「まよなかのだいどころ」を紹介しました。

 

コマ割りやフキダシなどのコミック・スタイルを取り入れた「まよなかのだいどころ」を読んで、こういうやり方もあるのなら、自分にも絵本が描けるかもしれないと、佐々木さんは創作を開始しました。

 

≫絵本の紹介「まよなかのだいどころ」

 

そして完成したのが、「やっぱりおおかみ」。

佐々木さんの個性が思い切り発揮された、それまでの絵本の枠組みを越えた作品でした。

その内容に「子どもらしくない」との声が(予想通り)多く寄せられたものの、子どもたちには好意を持って受け入れられたのでした。

 

いっぴきだけ いきのこって いた」子どものおおかみが、仲間を探して孤独に街をうろつく、という物語。

兎の町、豚の町、鹿の町などをさまようおおかみ。

 

どこへ行っても怖がられ、避けられます。

おおかみは、ひとこと「」と、フキダシで発します。

この「け」という言葉も、味わい深いものです。

強がり、諦め、侮蔑、寂しさ……様々な感情を含んでおり、同時に「け」という音でしかないとも取れます。

 

おれに にたこは いないかな

と彷徨い続け、

おれに にたこは いないんだ

と悟るおおかみの、壮絶とも言える孤独。

 

しかし、その認識は、むしろおおかみを「なんだかふしぎに ゆかいな きもち」にさせるのです。

飛んでいく気球を見ながら「」と呟くおおかみ。

この「」は今までの「」とはまた違った意味合いを感じさせます。

 

★      ★      ★

 

悩んだ先にある、これまでと違う景色。

確かに子ども向けとは言えないかもしれません。

 

でも、子どもも大人も、絵本の内容すべてを理解しなければならないわけではありません。

大切なのは心に何かが残ることです。

 

「自由」とひとは簡単に口にしますが、本当に精神的に自由なひとは、そういるわけではありません。

自由な表現を試みれば、それは大抵の場合理解されず、時には批難されたりします。

自由であることは、「個」になることを意味します。

 

やっぱり おれは おおかみだもんな

おおかみとして いきるしかないよ

 

というおおかみの言葉は、常識の枠を飛び越えるような作品を描き続けた佐々木さん自身の声なのかもしれません。

 

推奨年齢:3歳〜

読み聞かせ難易度:☆☆

うさぎの目が怖い度:☆☆☆☆☆

 

■今回紹介した絵本の購入はこちらからどうぞ→「やっぱりおおかみ

■これまでに紹介した絵本のまとめはこちら→「100冊分の絵本の紹介記事一覧

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