【絵本の紹介】「くまとやまねこ」【195冊目】

 

こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。

 

今回紹介するのは「くまとやまねこ」です。

作:湯本香樹実

絵:酒井駒子

出版社:河出書房新社

発行日:2008年4月30日

 

ラジオドラマなどの脚本も手掛ける小説家・湯本さんと、大人女子から圧倒的支持を集める絵本作家・酒井さんのコラボによる、大人のための感動絵本。

もちろん子どもが読んでもいいのですが、これはやっぱり大人向けだと思います。

 

大好きだった親友の「ことり」を亡くしてしまった「くま」の、再生の物語。

出版は10年近く前ですが、震災などを経た今、改めて多くの人の心に響く名作ではないでしょうか。

 

酒井さんは作品を発表するごとに、画力はもちろん、絵本作りそのものの技量を飛躍的に増していると感じます。

この「くまとやまねこ」では、もはや凄味まで伝わってきます。

あえてグレーの紙にモノクロ画。

ざらざらとした質感に、昏さや憂いを帯びた人物(動物ですが)の表情。

 

確立された酒井さんの独自世界と、湯本さんの繊細な物語と静謐な文章が見事に融合しています。

 

なかよしのことり」が死んでしまい、涙に暮れるくま。

彼は森の木で作った小箱に花を敷き詰め、小鳥をそこに入れます。

もしもきのうの朝にもどれるなら、ぼくはなにもいらないよ

くまの悲嘆は深くなるばかりです。

 

そしてくまは、どこへ行くにも小鳥を入れた箱を持って行くようになります。

森の動物たちは、箱の中身を尋ねますが、くまが中身を見せると、困った顔をして黙ってしまいます。

それから決まって、

くまくん、ことりはもうかえってこないんだ。つらいだろうけど、わすれなくちゃ

と言うのでした。

 

誰にも分かち合えない悲しみにますますくまは塞ぎ込み、自らの心に鍵をかけるように、家に閉じこもります。

 

ある日、久しぶりに窓を開けると、外は快晴。

草のにおいを運ぶ風に誘われるように、くまは外に出て行きます。

空には白い雲が浮かび、川はきらきらと光っていました。

 

土手へやってくると、見慣れないやまねこが昼寝をしています。

傍らにはぼろぼろのリュックサックと、「おかしなかたちの箱」。

 

くまはその箱の中身が見たくなり、やまねこに声をかけます。

長い間誰とも喋っていなかったので、くまの声はかすれています。

 

やまねこは起き上がり、くまの持っている小箱の中身を見せてくれたら、自分も見せてあげると言います。

くまは迷いながらも、箱を開けて小鳥を見せます。

するとしばらくじっと小鳥を見つめていたやまねこは顔を上げて、

きみは このことりと、ほんとうになかがよかったんだね。ことりがしんで、ずいぶんさびしい思いをしてるんだろうね

と言い、くまを驚かせます。

 

やまねこの持っていた箱はバイオリンケースでした。

きみとことりのために、一曲えんそうさせてくれよ

音楽を聴きながら、くまは目を閉じ、小鳥との思い出を次々に思い出します。

小鳥のクチバシの感触、羽のにおい、そうしたものまでありありと蘇らせます。

 

くまはなにもかも、ぜんぶ思いだしました

 

くまは小鳥を日の当たる場所に場所に埋葬します。

それからやまねこは、くまを旅に誘い、古いタンバリンを差し出します。

この汚れたタンバリンは、かつてやまねこの友達が叩いていたものだったのだろうか……と、くまはやまねこに聞いてみたくなりますが、その代わりに、

ぼく、れんしゅうするよ。おどりながら、タンバリンをたたけるようになりたいな

と言います。

 

ふたりは「くまとやまねこ音楽団」として世界中を巡業し、どこへ行っても大人気となります。

 

★      ★      ★

 

愛するひとを永久に失った哀しみは、その相手が大切であればあるほど、深刻なものとなります。

あらゆる気力を根こそぎ奪ってしまうほどに。

 

小鳥の死骸を持ち歩くくまは明らかに病的で、哀しみから立ち直るどころか、さらにその哀しみに沈潜して行くかのようです。

ですから、周囲の動物たちの言葉はくまを心配してのものだし、まっとうな意見と言えるでしょう。

 

しかし、正論が人を生かす力になるとは限らないのです。

いや、この時のくまには、どんな言葉も、本も、音楽も、届かなかったでしょう。

深く傷ついた人が、単純な言葉や出会いによっては癒されないことを、作者は知っています。

 

そこには、「時間」という要素がどうしても必要なのです。

 

くまが涙に暮れる長い時間を、きちんと描いているところが、この物語の丁寧なところです。

その時間があって初めて、くまの心を再生へと向かわせるもの―――美しい自然、そして音楽が響くのです。

 

くまは小鳥との日々を余すことなく思い出します。

そこで少しずつモノクロの絵に赤い色が灯り出します。

そして「なにもかも、ぜんぶ」思い出した時、初めてくまは小鳥の死を受け入れることができるのです。

このシーンにおける余白も実に効果的で、酒井さんの表現力に心を揺さぶられます。

 

悲しみの渦中にいる人に対し、気休めの言葉をかけず、適切な距離を保ちながら、見放さずにじっと立ち直るのを待つこと。

それができるのは強くて優しい人です。

 

森の動物たちは優しくはあっても、強くはなかったのです。

やまねこがくまの悲しみに寄り添えたのは、彼がおそらく過去に同じような悲しみを経験したからであり、そしてくまもやまねこの気持ちを知るがゆえに、あえて過去のことを聞こうとはしないのです。

 

悲しみを知ることで、人は強く、優しくなれるということを感じさせてくれる美しい絵本です。

 

推奨年齢:小学校高学年〜

読み聞かせ難易度:☆☆☆☆☆

泣かずに読み聞かせる難易度:☆☆☆☆☆

 

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