2017.10.19 Thursday
【絵本の紹介】「わすれられないおくりもの」【192冊目】
こんにちは、絵本専門店・えほにずむの店主です。
命、愛、死……秋になると自然とそんなテーマの絵本を選びたくなります。
今回紹介するのは「わすれられないおくりもの」です。
作・絵:スーザン・バーレイ
訳:小川仁央
出版社:評論社
発行日:1986年10月10日
私は幼い頃、死ぬことが恐ろしくて気が狂いそうな時期がありました。
「死んだらどうなるのか」
どんな大人に尋ねても、納得のいく答えは返ってきませんでした。
「死」をテーマにした絵本はたくさんありますが、この「わすれられないおくりもの」では、「死にゆくもの」の在り方と、「残されたもの」がその悲しみをどう乗り越えていくのかという二つの側面から「死」について物語っています。
物知りで親切で、誰からも慕われているアナグマ。
しかし彼も年を取り、死期が近いことを自覚していました。
アナグマは死ぬことを恐れてはいませんでしたが、残していく友だちのことを気にかけていました。
でも、その時はやってきます。
アナグマは夢の中で、長いトンネルを走っていました。
不自由だった体は軽くなり、自由になったと感じられます。
翌朝、集まってきた友だちは、アナグマが亡くなったことを知ります。
アナグマは彼らに向けた手紙を残していました。
「長いトンネルの むこうに行くよ さようなら」
みんなはやりきれない悲しみに沈みます。
中でもモグラの悲哀は深いものでした。
悲しみのうちに冬が来て、やがて春が来ると、仲間たちは互いにアナグマの思い出を語り合うようになります。
ハサミの使い方を教えてもらったこと。
スケートを教えてもらったこと。
ネクタイの結び方を教えてもらったこと。
パンの焼き方を教えてもらったこと。
誰の心にも、アナグマの知恵や優しさが、思い出として残っていました。
それはみんなの心を温かくし、悲しみを溶かしてくれました。
モグラは丘の上で、アナグマの残してくれたおくりものに対して、お礼を言うのでした。
★ ★ ★
「死んだらどうなるのか」
成長の過程で必ず子どもが発するこの問いに答えることは困難です。
しかし、質問の裏にある「望まれている答え」というものは実は誰しも同じではないかと思います。
それは即ち、「魂は不滅である」という回答です。
それさえ確信できれば、死はそう怖いものではなくなります。
ですが、ただ単に言葉で「魂は不滅である」と言われても、それを信じるのは難しいことです。
「一度も死んだことのない人間が、どうして『死んでも魂は残る』などと知っているのか」
子どもは論理的ですから、必ずこう考えます。
そして、求めるものは結局言葉では得られないことを知ります。
かつては「霊」や「魂」について、わりと素朴に信じられた時代があったのでしょう。
科学の発達とともに、そういう超感覚的な存在はリアルさを失ってしまいました。
時代が唯物的になったことを嘆く声もありますが、これは進化の結果ですから、否定すべきことではないと思います。
科学と思考が進化・発展した時代で、それでもなお、「魂の不滅性」をどう信じ、どう納得するのか。
単純な神仏論にすがらず、論理的思考を放棄せずに、「魂」について考え抜くこと。
それが現代に生きる人間の課題ではないでしょうか。
そのためには、一方に豊かな人生経験と、そしてもう一方に豊かな物語体験が必要です。
これらが両輪としてしっかり噛み合うことで、目には見えないものに対する認識が深まり、生きる上での軸となります。
おそらく、この「わすれられないおくりもの」のような物語は、子どもにとっては「悲しい話」であり、あまり好まれないと思います。
でも、物語は子どもの心に何かを残します。
そして成長のどこかで、ふと、「もう一度あの話が読みたい」と思う時が来ます。
読み返した時、以前とは違う何かが、心に根付きます。
その繰り返しによって、情緒は深みを増していくのです。
推奨年齢:6歳〜
読み聞かせ難易度:☆☆☆☆
アナグマの博識度:☆☆☆☆
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